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参照用 記事

@名古屋からスペースハイブのプレTQFTへ

量子と古典の物理と幾何@名古屋」の関連ネタですが、当日にしゃべった内容は前提せずに書きます。割と直感的な方法で2次元TQFT(Topological Quantum Field Theory)のオモチャを構成できそうだよ、ってこと。

内容:

  1. だいたいTQFT
  2. ゾンビとハイブ
  3. スペースハイブとスペースゾンビ
  4. 計算的解釈とプレTQFT
  5. フロベニウス代数によるプレTQFT関手のエンコード

だいたいTQFT

なんやかんや -- after 量子と古典の物理と幾何@名古屋」において:

ネタ元(つうか、間接的なネタ元)がFHK論文であるので、2次元TQFT(Topological Quantum Field Theory)を多少は意識しています。しかし、ハイブの形状を平面領域(と同相な図形)から境界を許す2次元コンパクト多様体に一般化して、その上のTQFTモドキを作ろうと思うと、意外と面倒です。

その後少し調べたり考えたりしたら、2次元TQFTっぽく仕立てることは出来そうです。もちろん、手間は増えますが、さほどのことでもない気がします。

TQFTとは言ってもアティヤ(Atiyah)の公理そのままではありませんが、「だいたいTQFT」とは言える関手は構成できそう。TQFT関手(と呼んでしまう)の定義域であるコボルディズム圏はちゃんと定義します(今はしないけど)。このコボルディズム圏は、3-射まで持つという意味で3-圏ですが、モノイド積も持つので、単対象の4-圏とも言えます。

TQFT関手が値を取る圏は関係圏Relを想定しますが、Relに固定せずある程度一般的なセッティングで考えます。Rel以外に関手の余域となる圏(値を取る圏)の具体例としては、有限次元ヒルベルト空間の圏FdHilbがあります。

ゾンビとハイブ

なんやかんや -- after 量子と古典の物理と幾何@名古屋」に現れる用語「ゾンビ」「ハイブ」などは、実際に研究会に参加した方以外には意味不明でしょう。このような概念・用語を採用した背景には、強いエモーショナルな動機があります。しかし、エモーションをすべて捨て去れば、「ゾンビ」は実在するゾンビ(実在しねーか?)である必要はありません。ネズミでもゴキブリでも自走するロボットオモチャでもかまいません。なにかしら動くモノならいいのです。そのような動くモノを象徴的に「ゾンビ」と呼びます。テクニカルタームですから、語源の詮索はやめましょう。

ハイブは三角形の部屋からなる建物(実験施設)です。ハイブを構成する建材(ユニット)はただ一種で、ドア付き壁パネルです。三角部屋は3枚のドア付き壁パネルで囲まれた空間です。別な言い方をすると、三角部屋の三方にはドアがあります。このドアは一方通行です。部屋のドア付き壁が外壁になっている場合があります。その場合は、ドアはハイブへの入口ドア、またはハイブからの出口ドアとなります。

ハイブへの入口ドアが付いた壁パネルの連なりを入口側外壁、ハイブからの出口ドアが付いた壁パネルの連なりを出口側外壁と呼びます。

ハイブの部屋割りレイアウトは、2次元の図面で表現できます。この図面のこともハイブと呼びます。部屋は三角なので、ハイブの建築面(2次元領域)を三角形に分割した図になります。また、ドアが一方通行なので、ドアの方向も図面に書き込んでおきます。三角形分割と各ドアの方向が、ハイブの設計情報の全てです。

ゾンビとハイブがどう関係するかというと、何個体(「人」か「匹」か分からないので「個体」)かのゾンビがハイブの外にいる状態から、ゾンビをハイブの入口ドアから突入させて、ハイブ内部を走り回らせる実験を繰り返すのです。この実験(の一回の試行)をゾンビランと呼びます。

ハイブの部屋割りレイアウト(ドアの方向指定を含む)を適切に制約すると、入ったゾンビは必ずハイブの外に出てきます。ゾンビラン開始から十分な時間がたてば、出てきたゾンビの個体数は最初と同じで、行方不明のゾンビは出ないはずです。

スペースハイブとスペースゾンビ

前節の説明では、ハイブは平面内の敷地に建造(建ぺい率は気にしないでいいです)することを想定します。床や天井は平らな平面の一部であるる形状です。地表面に建造する前提ではこの制約を逃れるのは難しいので、宇宙空間にハイブを浮かべることにします。宇宙に浮かんだハイブをスペースハイブと呼ぶことにします。

スペースハイブは任意の“向き付け可能でなめらかな2次元コンパクト多様体”(以下「曲面」と呼ぶ)の形状をしています。三角部屋を3次元空間として実現するなら、曲面Mに厚みを付けた M×[0, h] の形です。ここで実数hは床から天井までの高さ。部屋割りレイアウトは、曲面の三角形分割で、ドアの向きは“壁=辺への法線ベクトル”*1で指定できるので、スペースハイブの設計情報はやはり2次元で済みます。なので、以下、厚み(部屋の高さ)は考えないで、曲面として考えます

スペースハイブでゾンビラン実験をするには、ゾンビ達も宇宙空間で活動可能である必要があります。スペースゾンビですね*2

地上でのハイブとゾンビランと同様に、スペースハイブ(のレイアウト/ドア方向)に制約を付けて、スペースゾンビを使ったゾンビランを繰り返して結果を集計すると、スペースハイブの圏SHiveから関係圏Relへの関手を作れます。

一般に、関手 F:SHiveRel はたくさんありますが、そのなかで「スペースハイブの内部構造(内部の部屋割りとドアの向き)に依存しない」ものを探すのが、宇宙空間でのハイブ&ゾンビ問題です。内部構造と言っているのは、外から観測可能な外壁(入口側外壁と出口側外壁)構造には依存してもいい、いやむしろ、積極的に依存させるからです。

ちなみに、単なる動くモノとしてのゾンビを使ったゾンビランからは、内部構造非依存な関手は作れません。内部構造に依存してしまうのです。ゾンビに荷電(符号、極性)を持たせて、ドアでの通過個体数を正負の整数としてカウントすると内部構造非依存な関手になります。ハイブの境界分割状況とハイブ全体の位相にだけ依存するので、ある種の不変量が作れます -- この事実を示すのがハイブ&ゾンビ問題の動機です。

計算的解釈とプレTQFT

曲面上に三角形分割を与えて、その三角形分割に基いて関手を構成するのは、FHK(Fukuma-Hosono-Kawai)スタイルのTQFT構成(「なんやかんや -- after 量子と古典の物理と幾何@名古屋」に挙げた参考文献を参照)に類似ですが、ゾンビランによる構成ではTQFT構成と異なる点があります。

TQFT構成では、曲面内部(境界ではない部分)の三角形分割に依存しないだけでなく、境界での区間分割(1次元の単体分割)にも依存しない関手を作ります。スペースハイブでは、境界(外壁)での区間分割には依存して、境界区間分割を固定したときに内部三角形分割に依存しない関手を探します。

どうしてこうするかと言うと、ハイブ&ゾンビ問題は計算的解釈をしているからです。つまり、境界(外壁=入口側外壁と出口側外壁)は外部から観測可能で、入力・出力のインターフェイスを与えていると考えます。内部の部屋割りレイアウト(ドア方向指定を含む)は、計算機構を実装するアルゴリズムと考えます。アルゴリズムフローチャート(=双対グラフ=ストリング図)で表現されます。内部構造=アルゴリズムの変更は“リファクタリング”です。「リファクタリングによって計算セマンティクスが影響されてはいけない」というテーゼは、リスコフの置換原理みたいなものです。

FHKスタイルのTQFT構成でも、第1段階では境界区間分割に依存する関手を構成します。その後で境界区間分割にも依存しないように細工します。境界区間分割に依存/内部三角形分割には依存しない関手は、TQFT関手の手前まで来ている関手なのです。なので、プレTQFT関手と呼ぶことにします。

スペースハイブとゾンビランを計算的に解釈することは、スペースハイブの圏SHive上のプレTQFT関手を求めることです。

フロベニウス代数によるプレTQFT関手のエンコード

スペースハイブの圏SHive、またはSHiveと圏同値なストリング図の圏は、up-to-isoで有限生成です。有限個の生成射と生成射のあいだの関係を表す射(これも一種の生成射)で圏全体の構造を記述可能です。これを利用すると、SHiveからモノイド圏Cへの関手 F:SHiveC は有限(高次)グラフΣ(指標とも呼ぶ)からCへの写像で表現できます。

指標ΣからCへの写像(指標Σが生成する自由圏からの関手に拡張可能)とは、C内のΣ代数です。Fがスペースハイブの内部構造(部屋割りレイアウト)に依存しないという制約は、Σ代数の代数法則を規定して、Σ代数はフロベニウス代数(の変種)になります。つまり、プレTQFT関手はフロベニウス代数でエンコード(パラメトライズ)されます。

ラウダ/ファイファー(Aaron D. Lauda, Hendryk Pfeiffer)の2次元開閉TQFT(open-closed Topological Quantum Field Theories、「なんやかんや -- after 量子と古典の物理と幾何@名古屋」に挙げた参考文献を参照)では、2次元コボルディズムの境界に色(black or non-black color)という概念を導入しています。色付き境界を導入すると、ドアのない外壁パネルを使うことが許されて、ハイブ形状がより自由になるし、フロベニウス代数の単位/余単位の問題も解決しそうです。

色付き境界の導入には、曲面に境界だけでなく角〈かど〉も許すことになります。角付き多様体を使ったTQFTは拡張TQFT(Extended TQFT)と呼ぶので、我々の関手はプレ拡張TQFT関手と呼べるでしょう。

プレ拡張TQFT関手が値を取る圏Cは、単なるモノイド圏だと味気ないので、条件を付けたほうがいいでしょう。例えば、ダガー・コンパクト閉・対称モノイド圏とか(名前が長い!)。強い条件を付ければ、一般性を失いますが、その分細かい議論が出来ます。

まとめると、スペースハイブの圏SHiveを2次元コボルディズム圏としてチャンと定義すれば、その上のC値プレ拡張TQFT関手は、モノイド圏C内のフロベニウス代数(の変種)と1:1対応するだろう、ということです。

この筋書きはたぶん間違ってないと思いますが、細部を述べるかどうかは、僕の気分と気力次第で、なんとも言えません。もし詳細を書くことがあるなら、この記事からリンクを追加します。

*1:法線と言ってますが、直交概念は必要ないです。辺上の一点で、辺に沿っていない接ベクトルを指定すればOK。曲面全体に向き(orientation)があるなら、法線ベクトルは辺の向き(direction)で代替できます。

*2:スペース・ゾンビ』という映画作品がありますが、舞台は宇宙ではなくて農園のようです。