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参照用 記事

随伴に関する注意事項

最近のモナド論の概観と注意事項 1/2」より:

タイトルに「1/2」を付けているので、もう一回続きを書く予定でいます(たぶん来年だろうが)。次回は、モナド論の中心的なトピックとか、事前に知っておくとよさそうな予備知識とか、誤解・勘違いしそうな所について書きます。

2/2は来年ですが、注意事項のひとつを取り出して今年最後の記事にします。

内容:

随伴系の方向

圏論の随伴をちゃんと抑えよう」より:

上下左右をきちんと区別しないと話がワヤクチャになる典型的な例に、随伴〈adjoint, adjunction〉の定義があります。僕も「どっちが右だっけ?」「域だっけ、余域だっけ?」「εって、単位? それとも余単位?」とか、ねんじゅう迷っています。

随伴系には、さまざまな“方向”が出てきます。随伴系自体が方向を持つ(持たせたい)のですが、その基準は特になく、著者・場面ごとにバラバラです。ホントに頭が痛いわ!

随伴系の書き方」で、次のような随伴系の書き方を紹介しました。(http://www.tac.mta.ca/tac/volumes/29/31/29-31.pdf

このまま採用するのは難しいので:

ただし、逆ターンスタイルにη, εを埋め込んだ記号を使うのは難しいので、代替案としては次のようかな。

  • (η, ε): F -| G :DC

僕が出したこの書き方 (η, ε): F -| G :DC とほぼ同じ書き方をしている例を見つけました。(http://www.cs.cornell.edu/courses/cs6117/2018sp/Lectures/Adjunctions.pdf

今出した例では、随伴系の方向は、ペアの右の関手と同じ方向にしています。しかし、誰でもいつでもそうするとは限りません。「随伴系の書き方」で反対方向を採用する例も出しました。(http://www.math.uchicago.edu/~may/VIGRE/VIGRE2007/REUPapers/FINALAPP/Anderson.pdf

最近のモナド論の概観と注意事項 1/2」で紹介した"バスケス-マルケス 2015"(https://arxiv.org/abs/1510.04724)では、次のような注意書きがあります("of"が抜けているようなので追加)。左の関手に合わせています。

We take the direction of an adjunction as the direction of its corresponding left adjoint functor

しかし、同じ論文内でも場合により反対方向にしています。この「場合により」を判断するのがけっこう大変です。

随伴系の方向も明示するために、次の書き方に変更します。

  • (η, ε: F -| G, F:CD)
  • (η, ε: F -| G, G:DC)

一番目は、Fと同じ方向を随伴系の方向として、二番目は、Gと同じ方向を随伴系の方向とします。

随伴に関わる曖昧な言葉と明確化

「随伴」「左(または右)随伴」「左(または右)随伴を持つ」のような言葉は、安易に使うのは危険なようです。次のような言葉で代替したほうがよいでしょう。

  1. 随伴系〈adjunction | adjoint system〉
  2. 随伴系の左(または右)関手〈left/right functor of an {adjunction | adjoint system}〉
  3. 左(または右)パートナー〈left/right partner〉
  4. 左(または右)可随伴〈left/right adjointable〉
  5. 左(または右)随伴付き〈with left/right adjoint〉

随伴系は、前節で述べた記法で、(η, ε: F -| G, F:CD) と書けます。これは、随伴系の構成素〈constituents〉を並べたもので、法則として2つのニョロニョロ等式〈{snake | zigzag | zig-zag | triangle | triangular} {equation | identity | relation}〉を満たします。

随伴系 X = (η, ε: F -| G, F:CD) の構成素であるFをXの左関手、GをXの右関手と呼ぶことにします。これは、先に随伴系Xがあるときの呼び名です。

随伴系 X = (η, ε: F -| G, F:CD) が与えられている前提で、FはGの左パートナーであり、GはFの右パートナーになります。「パートナー」は、与えられた随伴系のなかにおける、構成素のあいだの相互関係を意味しています。(「圏論の随伴をちゃんと抑えよう // 左と右を忘れるんだが」も参照。)

関手 F:CD右可随伴とは、Fを左関手とする随伴系が存在することです。これは、関手Fの性質として、随伴系の存在を主張しているだけで、特定の随伴系を指定しているわけではありません。左可随伴も同様です。

関手 F:CD右随伴付きとは、Fに対して特定の随伴系が指定されており、その随伴系のなかでFが左関手となっていることです。「右パートナー付き」のほうが適切だと思いますが、「右随伴」という言葉は残しました。左随伴付きも同様です。

最初から随伴系が与えられているのか? それとも関手が与えられて随伴系を探す話なのか? それが曖昧だと問題意識を把握できないので、今述べたような区別を意識したほうがいいでしょう。

構造か命題か

F -| G という記法は安定しているので安心して使えます。しかし、これが何を意味するかは文脈により変わります。

「F -| G」、あるいは「随伴ペア F, G」が、随伴系 (η, ε: F -| G, F:CD) または (η, ε: F -| G, G:DC) の略記として使われることがあります。随伴系は構成素と法則からなる構造なので、この場合「F -| G」は構造を意味します。

一方で、「F -| G」が命題を簡潔に表現するために使われることがあります。その意味は次のようです(3つは同値な命題です)。

  • Fを左関手、Gを右関手とするような随伴系が存在する(あるいは構成可能である)。
  • Fは右可随伴である。
  • Gは左可随伴である。

構造はモノ、命題はコトですから、別なんですが、同じ記号を使って表現されることがあるので注意が必要です。