計算や証明で場合分けをすることがあります。場合分けされた命題があったとき、それぞれのケースとなる命題達を論理ORして解釈すべきか? それとも論理ANDして解釈すべきか? どっちでしょう。
「場合分けなんだから、そりゃ論理ORでしょ」と答える人が多そうです。「場合分けは論理OR」とカタクナに信じているとマズい場面もあります*1。
この記事で出てくる変数はすべて実数の変数だとします。例えば、 という変数が出てきたら、 だと仮定します。
場合分けを使う例として、絶対値関数 の定義を挙げましょう。
- のとき:
- のとき:
これは、実数が非負(正またはゼロ)の場合と、負の場合の2つのケースに場合分けして定義しています。
次に、実数に関する命題について考えてみましょう。
出てくる変数は実数だと約束しているので、 です。また、特定の実数について述べているわけではなくて、すべての〈任意の〉実数に関することですから、次のように書くのが正確です。
この命題が正しいことを納得してもらうために、次のように説明すればいいでしょう。
- もし実数 が正かゼロだったら、二乗して正かゼロになるよね。
- もし実数 が負だったら、マイナスかけるマイナスがプラスになるから、二乗して正になるよね。
- 結局、どんな実数 でも二乗すれば正かゼロになるだろ。
ここでも場合分けが使われています。どんな実数でも非負か負だからということで、次の2つのケースを考えます。
この2つのケースは論理OR(記号 )してイイですが、論理AND(記号 )するとダメです。
- はイイ
- はダメ
“イイ/ダメ”とは、論理OR/論理ANDで結合した後の命題が“真/偽”であることです。しかし、変数 が自由に値を代入可能な状態では、代入した値で真偽が変わってしまうので、次のように書くのが正確です。
- はイイ
- はダメ
ここまでの話では「場合分けは論理OR」はそのとおりです。
非負か負の2つのケースに分けて、それぞれに対して「二乗してどうなるか」を述べると:
「場合分けは論理OR」だとすると、
- 2つのケースを論理ORで結合してイイ
- 2つのケースを論理ANDで結合してはダメ
ほんとでしょうか?
- はダメ?
ダメじゃないですよね。
場合分けのケースと言ったとき、実数全体を2つの部分集合に分割する話と、分割したそれぞれの部分集合上で命題を考える話があります。後者の意味で場合分けした各命題が正しいなら、それらを論理ANDで結合しても正しいので問題ありません。
「場合分けは論理OR」というキャッチフレーズから、場合分けして得られた各ケースの条件付き命題が正しくても、それらを(論理ORはいいけど)論理ANDしてはダメだと思いこんでいるとしたら、それは誤解です。
*1:ふとしたキッカケから、以前「場合分けは論理OR」で困った経験を思い出してこの記事を書きました。