最近、プライベートに という記法を使っていて具合がいいので、これについて説明します。
内容:
圏=n-圏
単に「圏」と言った場合でも、1-圏とは限らないn-圏を意味するとします。実際のところ、我々が5-圏や11-圏を扱う事態はないと思いますが、枠組みとしては任意の n を考えます。
小さいn-圏〈small n-categories〉の全体を とします。必ずしも小さくないn-圏の全体は です。今は、サイズのレベルは2レベルしか考えません*1。次は成立するとします。
すべての圏の集合は次のように定義されます。
次が成立します。
我々は小さい圏(圏=n-圏)を考察の対象物にします。必ずしも小さくない圏は環境として使います。
n-離散圏と圏の離散化
1以上の n に対して、n-離散圏〈n-discrete category〉とは、n-圏であって、n-射が恒等n-射だけである圏のことです。1-離散圏は通常の離散圏です。
任意の(n - 1)-圏に対して、恒等n-射だけを追加するとn-離散圏になります。この構成を離散化〈discretize(動詞) | discretization(名詞)〉と呼びます。圏 を離散化して得られた圏を と書きましょう。離散化をk回繰り返す操作は と書きます。 は次のような写像です。
圏の次元に関しては次が成立します。
圏の切り捨て
1以上の n に対して、n-圏のn-射をすべて捨ててしまう操作を切り捨て〈truncation〉と呼びます。圏 に切り捨て操作をして得られた圏を と書きましょう。切り捨てをk回繰り返す操作は と書きます。 は次のような写像です。0-圏(集合)には切り捨ては考えないことにします。
圏の次元に関しては次が成立します。
圏の次元調整
圏の次元を と書くことにします。
任意の圏の次元を、指定された次元 m に調整〈adjust(動詞) | adjustment(名詞)〉する操作を と書きます。その定義は:
を次のように略記します。
必ずしも小さくない(サイズが大きな)圏に対してもこの記法を使います。例えば 。
次元調整記法の使い方事例
次元を上げる例
は1-圏ですが、 とすると2-圏になります。追加された2-射は、射のあいだの等式です。つまり、
ここで、 は集合(大きい集合) 上の等式であることを示します。
2-圏 のすべての2-射は可逆〈invertible〉です。2-射の性質と等式〈等値関係〉の性質との関係は:
- 恒等2-射 ←→ 等値関係の反射律
- 2-射の結合 ←→ 等値関係の推移律
- 2-射の逆 ←→ 等値関係の対称律
が関手のとき、関手の次元も上げることができます。
関手は射の等値関係を保つので、2-射を2-射に移します。次のように定義できます。
次元を下げる例
は2-圏ですが、 とすると1-圏になります。2-射(自然変換)はもはや考えません。
圏に対象集合を対応させる関手を とすると、そのプロファイルは次のように書けます。
関手 に対する はその対象パートして定義できますが、自然変換 に対する は意味不明なので、次元を落とした 上で を定義するのは適切です。
高次元部分が不明な例
「圏論的レンズ 4: テレオロジー圏」でテレオロジー圏という圏の種別〈ドクトリン〉を紹介しました。特定の定義(例えばライリーの定義)を採用すればテレオロジー圏が何であるかはハッキリします。しかし、テレオロジー圏のあいだの関手や自然変換について不明だとします。
こんなときは という記法で、テレオロジー圏の集合(大きい集合)を表します。この状況では、1-圏/2-圏としての が定義されてなくても を使っています。
対称モノイド圏からテレオロジー圏を作るオプティック構成を とすると、そのプロファイルは次のように書けます。
次元調整記法は、高次元部分を切り捨てる場合だけでなくて、高次元部分が不明なときも使っていいのです。 と書いたとき、m次元を超える射は使わないので、それが最初からなくても問題になりません。