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参照用 記事

圏の離散化、切り捨て、次元調整


\newcommand{\Imp}{\Rightarrow }
\newcommand{\Iff}{\Leftrightarrow }
\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\In}{\text{ in } }
\require{color}
\newcommand{\Keyword}[1]{ \textcolor{green}{\text{#1}} }%
\newcommand{\For}{\Keyword{For }  }%
\newcommand{\Define}{\Keyword{Define }  }%
\newcommand{\When}{\Keyword{When }  }%
\newcommand{\Let}{\Keyword{Let }  }%
最近、プライベートに \cat{C}|_{\le k} という記法を使っていて具合がいいので、これについて説明します。

内容:

圏=n-圏

単に「圏」と言った場合でも、1-圏とは限らないn-圏を意味するとします。実際のところ、我々が5-圏や11-圏を扱う事態はないと思いますが、枠組みとしては任意の n を考えます。

小さいn-圏〈small n-categories〉の全体を n{\bf Cat} とします。必ずしも小さくないn-圏の全体は n{\bf CAT} です。今は、サイズのレベルは2レベルしか考えません*1。次は成立するとします。

  1. 0{\bf Cat} = {\bf Set},\, 1{\bf Cat} = {\bf Cat}
  2. 0{\bf CAT} = {\bf SET},\, 1{\bf CAT} = {\bf CAT}
  3. n{\bf Cat} \in |(n + 1){\bf CAT}|
  4. \cat{C}\in  |(n + 1){\bf CAT}| \Imp \forall A, B\in |\cat{C}|.\, \cat{C}(A, B) \in |n{\bf Cat}|

すべての圏の集合は次のように定義されます。


\quad  |\text{*}{\bf Cat}| := {\displaystyle \coprod_{n \in {\bf N}} |n{\bf Cat}}|\\
\quad  |\text{*}{\bf CAT}| := {\displaystyle \coprod_{n \in {\bf N}} |n{\bf CAT}}|

次が成立します。


\quad \cat{C} \text{ is-a-small-category}\\
\Iff \cat{C} \in |\text{*}{\bf Cat}|\\
\Iff \exists n\in {\bf N}.\, \cat{C} \in |n{\bf Cat}|\\
\:\\
\quad \cat{C} \text{ is-a-category}\\
\Iff \cat{C} \in |\text{*}{\bf CAT}|\\
\Iff \exists n\in {\bf N}.\, \cat{C} \in |n{\bf CAT}|

我々は小さい圏(圏=n-圏)を考察の対象物にします。必ずしも小さくない圏は環境として使います。

n-離散圏と圏の離散化

1以上の n に対して、n-離散圏〈n-discrete category〉とは、n-圏であって、n-射が恒等n-射だけである圏のことです。1-離散圏は通常の離散圏です。

任意の(n - 1)-圏に対して、恒等n-射だけを追加するとn-離散圏になります。この構成を離散化〈discretize(動詞) | discretization(名詞)〉と呼びます。圏 \cat{C} を離散化して得られた圏を \mrm{Disc}(\cat{C}) と書きましょう。離散化をk回繰り返す操作は \mrm{Disc}^k と書きます。\mrm{Disc}^k は次のような写像です。

\For k \in {\bf N}\\
\quad \mrm{Disc}^k : |\text{*}{\bf Cat}| \to |\text{*}{\bf Cat}| \In {\bf SET}

圏の次元に関しては次が成立します。

\For n, k \in {\bf N}\\
\For \cat{C} \in |\text{*}{\bf Cat}|\\
\quad \cat{C} \in |n{\bf Cat}| \Imp \mrm{Disc}^k(\cat{C}) \in |(n + k){\bf Cat}|

圏の切り捨て

1以上の n に対して、n-圏のn-射をすべて捨ててしまう操作を切り捨て〈truncation〉と呼びます。圏 \cat{C} に切り捨て操作をして得られた圏を \mrm{Trunc}(\cat{C}) と書きましょう。切り捨てをk回繰り返す操作は \mrm{Trunc}^k と書きます。\mrm{Trunc}^k は次のような写像です。0-圏(集合)には切り捨ては考えないことにします。

\For k \in {\bf N}\\
\quad \mrm{Trunc}^k : |({\text{*}\ge 1}){\bf Cat}| \to |\text{*}{\bf Cat}| \In {\bf SET}

圏の次元に関しては次が成立します。

\For k, n \in {\bf N}\\
\When n \ge 1 \land n \ge k \\
\For \cat{C} \in |\text{*}{\bf Cat}|\\
\quad \cat{C} \in |n{\bf Cat}| \Imp \mrm{Trunc}^k(\cat{C}) \in |(n - k){\bf Cat}|

圏の次元調整

圏の次元を \mrm{dim}(\cat{C}) と書くことにします。


\quad \mrm{dim}(\cat{C}) = n \Iff \cat{C} \in |n{\bf Cat}|

任意の圏の次元を、指定された次元 m に調整〈adjust(動詞) | adjustment(名詞)〉する操作を \mrm{Adjust}_m と書きます。その定義は:

\For \cat{C} \in |\text{*}{\bf Cat}|\\
\Let n = \mrm{dim}(\cat{C})\\
\For m \in {\bf N}\\
\When m \le n \\
\quad \Define \mrm{Adjust}_m (\cat{C}) := \mrm{Trunc}^{n - m}(\cat{C})\\
\When m \gt n \\
\quad \Define \mrm{Adjust}_m (\cat{C}) := \mrm{Disc}^{m - n}(\cat{C})

\mrm{Adjust}_m (\cat{C}) を次のように略記します。

\For \cat{C} \in |\text{*}{\bf Cat}|\\
\For m \in {\bf N}\\
\Let \cat{C}|_{\le m} := \mrm{Adjust}_m (\cat{C})

必ずしも小さくない(サイズが大きな)圏に対してもこの記法を使います。例えば {\bf CAT}|_{\le 1},\, {\bf Set}|_{\le 2}

次元調整記法の使い方事例

次元を上げる例

{\bf Set} は1-圏ですが、{\bf Set}|_{\le 2} とすると2-圏になります。追加された2-射は、射のあいだの等式です。つまり、


\quad \alpha::f \Rightarrow g \In {\bf Set}|_{\le 2}\\
\Iff  \alpha:: f = g \text{ on } \mrm{Mor}({\bf Set})

ここで、\text{ on } \mrm{Mor}({\bf Set}) は集合(大きい集合) \mrm{Mor}({\bf Set}) 上の等式であることを示します。

2-圏 {\bf Set}|_{\le 2} のすべての2-射は可逆〈invertible〉です。2-射の性質と等式〈等値関係〉の性質との関係は:

  1. 恒等2-射 ←→ 等値関係の反射律
  2. 2-射の結合 ←→ 等値関係の推移律
  3. 2-射の逆 ←→ 等値関係の対称律

F:\cat{C} \to {\bf Set} \In {\bf CAT} が関手のとき、関手の次元も上げることができます。

\quad F|_{\le 2}:\cat{C}|_{\le 2} \to {\bf Set}|_{\le 2} \In 2{\bf CAT}

関手は射の等値関係を保つので、2-射を2-射に移します。次のように定義できます。

\For \alpha::f \Rightarrow g \In \cat{C}|_{\le 2}\\
\Define F|_{\le 2}(\alpha) := (F(f) = F(g) \text{ on } \mrm{Mor}({\bf Set}) )

次元を下げる例

{\bf Cat} は2-圏ですが、{\bf Cat}|_{\le 1} とすると1-圏になります。2-射(自然変換)はもはや考えません。

圏に対象集合を対応させる関手を \mrm{Obj} とすると、そのプロファイルは次のように書けます。


\quad \mrm{Obj}:{\bf Cat}|_{\le 1} \to {\bf Set} \In {\bf CAT}

関手 F に対する \mrm{Obj}(F) はその対象パートして定義できますが、自然変換 \alpha に対する \mrm{Obj}(\alpha) は意味不明なので、次元を落とした {\bf Cat}|_{\le 1} 上で \mrm{Obj} を定義するのは適切です。

高次元部分が不明な例

圏論的レンズ 4: テレオロジー圏」でテレオロジー圏という圏の種別〈ドクトリン〉を紹介しました。特定の定義(例えばライリーの定義)を採用すればテレオロジー圏が何であるかはハッキリします。しかし、テレオロジー圏のあいだの関手や自然変換について不明だとします。

こんなときは {\bf TeleCat}|_{\le 0} という記法で、テレオロジー圏の集合(大きい集合)を表します。この状況では、1-圏/2-圏としての {\bf TeleCat} が定義されてなくても {\bf TeleCat}|_{\le 0} を使っています。

対称モノイド圏からテレオロジー圏を作るオプティック構成を \mathbb{SymmMonOptic} とすると、そのプロファイルは次のように書けます。


\quad \mathbb{SymmMonOptic}: {\bf SymmMonCat}|_{\le 0} \to {\bf TeleCat}|_{\le 0} \In {\bf SET}

次元調整記法は、高次元部分を切り捨てる場合だけでなくて、高次元部分が不明なときも使っていいのです。\cat{C}|_{\le m} と書いたとき、m次元を超える射は使わないので、それが最初からなくても問題になりません。

*1:2レベルでは足りなくなることがありますが、今回は単純化のために2レベルとします。