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参照用 記事

超フィルター(ultrafilter)って何なんだ: 点? 確率測度?

僕は超フィルター(ultrafilter)とは点のことだと思っていました。それはそれで間違いではないでしょうが、超フィルターは確率測度だって話もあるんですよね。

内容:

ブール代数とベキ等可換環の対応から見るフィルター

フィルターは、束論で出てくる概念です。Lを束だとして、Lの空でない部分集合Fがフィルターだとは:

  1. x∈F、x≦y ならば、y∈F (上方に閉じている)
  2. x, y∈F ならば、(x∧y)∈F (ミート演算に関して閉じている)

「x≦y ⇔ x∨y = y」と「任意のzに対して x ≦ x∨z」を利用すると、上方に閉じていることは:

  • x∈F ならば、任意のzに対して (x∨z)∈F

普通の感覚とは逆ですが、∨を掛け算、∧を足し算と思うと、フィルターの定義は:

  1. x∈F ならば、任意のzに対して (x・z)∈F
  2. x, y∈F ならば、(x + y)∈F

これは、可換環イデアルの定義と同じです。特に、束Lがブール代数のとき、束のフィルターはベキ等可換環イデアルに対応します。(束だけの議論としても、フィルターの双対をイデアルと呼びます。)この対応関係を使うと、ブール代数古典論理)に関する議論はベキ等可換環の上の代数幾何に翻訳できます。この話は次のエントリーで書きました。

上記の翻訳で、次のように対応します。

  1. フィルター ←→ イデアル
  2. 超フィルター(極大フィルター) ←→ 極大イデアル
  3. ストーン空間 ←→ スペクトル

超フィルターと極大フィルターは同義語です。ベキ等可換環では、極大イデアルと素イデアルは同じものです。よって、「超フィルターの空間=スペクトル(素イデアルの空間)」となります。

適当な位相を入れた「超フィルターの空間」はストーン空間と呼ばれ、このときの適当な位相がスペクトルのザリスキー位相でした。ストーン空間=スペクトルは、コンパクト空間になりますが、これが論理のコンパクト性定理に対応します。このことは次の記事を参照してください。

集合の上の超フィルターと超フィルター拡張

ブール代数Aが、特に集合Xのベキ集合の代数のときを考えてみましょう。A = Pow(X) です。ブール代数A(あるいはベキ等可換環A)のストーン空間(あるいはスペクトル)は、もとの集合Xを基本的には再現します。「基本的には」とは言ったのは、ときに再現以上のことをするからです。

集合Xの要素aに対して、Xの部分集合の集合 {Y∈Pow(X) | a∈Y} は超フィルター(極大フィルター)になります。この形の超フィルターを主超フィルター(principal ultrafilter)と呼びます。Xの要素aに対して、a^ := {Y∈Pow(X) | a∈Y} と定義すると、a |→ a^ という対応は、X→Spec(A) という写像となります。a≠b ならば a^≠b^ となるので、(-)^:X→Spec(A) は単射です。

Xは単なる集合だったのですが、離散位相を入れて位相空間と考えます。(-)^:X→Spec(A) は位相の意味でも射(つまり連続写像)となるので、空間Xは空間Spec(A)に連続に埋め込めます。

Xが有限集合のときは、Spec(A) = Spec(Pow(X)) からXは完全に再現できます。しかし、Xが無限のときは (-)^:X→Spec(A) が同型射とはなりません。無限な離散空間Xはコンパクトではないし、Spec(A) はコンパクト性定理からコンパクトなので同相ではあり得ません。実際には、Spec(A) は非コンパクトな離散空間Xのストーン/チェック・コンパクト化(の類似物)になっているようです*1

Xが無限のとき、Spec(A) = Spec(Pow(X)) はXを含みますが、コンパクト化により、もともとXにはなかった点も持っています。つまり、Spec(A) はXの拡張になっています。Xの拡張とみなした Spec(A) をXの超フィルター拡張とも呼びます。手段として超フィルターを使った拡張だからですね(ベタな呼び名)。

主超フィルターを使って、空間Xはその超フィルター拡張に埋め込まれています。もともとXにあった点(主超フィルター)は、素性がハッキリした標準的な点ですが、超フィルター拡張には非標準な、あるいは超準な点も含まれます(Xが無限なら)。超準な点は、コンパクト化により追加された“理想境界”に含まれるので、理想的な点とも言えます -- 「あったらいいな」の点ですね。

超準解析とかは、上記のような非標準で理想的な点をうまく使う方法なんでしょうが、僕はこれ以上のことは知りません。

確率測度としての超フィルター

今まで述べたのは、「点としての超フィルター」です。僕が持っている超フィルターのイメージは点であり、それしかありませんでした。しかし、トム・レンスター(Tom Leinster)の記事 "Where Do Ultrafilters Come From?" に、超フィルターの確率測度としての解釈が書いてあってちょっとビックリしました。

集合X上の確率測度とは、Xの部分集合の族E上で定義されて、実数区間[0, 1]に値を取る写像μです。μは次の性質を満たします。

  1. A⊆X、A∈E ならば、0≦ μ(A) ≦1 (確率は0から1のあいだ)
  2. X∈E で、μ(X) = 1 (全事象の確率は1)
  3. 0∈E で、μ(0) = 0 (空事象の確率は0)
  4. Ai(i = 0, 1, ...)が互いに交わらない加算個の集合で、Ai∈E ならば、μ(∪i = 0, 1, ...Ai) = Σi = 0, 1, ...Ai (背反事象の和の法則)

超フィルターを確率測度と見なすには、上の定義そのままだとキビシイので次のように少し変更します。

  1. A⊆X ならば、μ(A) = 0 または μ(A) = 1 (確率は0か1のどちらか)
  2. μ(X) = 1 (全事象の確率は1)
  3. μ(0) = 0 (空事象の確率は0)
  4. Ai(i = 0, 1, ..., n)が互いに交わらない有限個の集合ならば、μ(∪i = 0, 1, ..., nAi) = Σi = 0, 1, ..., nAi (有限個の背反事象の和の法則)

Xの任意の部分集合が可測集合になります。どんな集合A(A⊆X)にも確率μ(A)が定義されますが、その値は0か1です。つまり、(ほとんど)確実に起こるか(ほとんど)確実に起きないかの二択です。加法性(和の法則)は有限個の場合しか保証しません。随分と奇妙な確率測度だなー、と思うのですが、それでも確率の雰囲気は残しています。

超フィルターFは、F⊆Pow(X) だったの、Fの特性関数χは χ:Pow(X)→{0, 1} という形になります。その定義は:

  • A∈F ならば χ(A) = 1
  • A∈F でないならば χ(A) = 0

超フィルターの特性関数χが、実は確率測度になります。Fが超フィルターであることから、χ(X) = 1、χ(0) = 0 は自明です。問題は有限加法性ですが、これは、超フィルターの分割条件(partition condition)から出ます。分割条件とは:

  • Y1, ..., Yn が互いに交わらない有限個の集合で、Y1∪ ... ∪Yn = X ならば、どれかただひとつのYiがFに属する。

分割条件は、主超フィルターならば自明ですが、一般の超フィルターでも成立します*2

超フィルターに対応する確率測度をベースにして、どんな確率論が展開できるのか僕はよく分かりません。しかし、点概念と確率測度概念、あるいは幾何空間と確率空間は、なにかしらの繋がりがあることの状況証拠であるとは思います。

*1:僕はよく分かってません。

*2:主超フィルター以外の超フィルターの例を作るのは難しいですが。