昨日に引き続き、セミナーで受けた質問で一般的なものを; 「三段論法とは何ですか?」に答えておきます。
内容:
アリストテレスがやっていたヤツ
「三段論法」という言葉は、割とよく耳にしますが、数理論理学のテクニカルタームとしては定義されてないと思います。ローカルに定義する人がいるかも知れませんが、広く合意された定義はないでしょう。国語辞典に載っている言葉(日常語、非専門語)として解釈したほうが無難です。
言語運用状況の統計的証拠はありませんが、「三段論法」の用法で多そうなのは、アリストテレスがやっていた論理の手法を指す場合だと思います。僕は歴史に疎いので、古代ギリシアの論理はよく知りませんが、「大前提/小前提/結論」という形式があるので「三段」と呼ぶんじゃないかと想像します。でも、英語(もとはギリシャ語)だと"syllogism"〈シロジズム〉で、特に「三」の意味はないようです。
モーダスポネンス
次のような推論の形式をモーダスポネンス〈modus ponens | MP〉といいます。モーダスポネンスはラテン語みたい。
A A⇒B ----------MP B
モーダスポネンスをシーケントで書くなら:
- A, A⇒B → B
このモーダスポネンスを三段論法と呼ぶこともあるようです。アリストテレスのシロジズムにもモーダスポネンスのような論法はあるので、モーダスポネンスがアリストテレスとまったく無関係とは言いにくく、モーダスポネンスを三段論法と呼んでも別にいいんじゃないかな、と思います。
あるいはまた、次のような推論を三段論法と思っている人もいるかも知れません。
A⇒B B⇒C ------------- A⇒C
これは、モーダスポネンスから導くことができます。自然演繹風の証明図(セミナーでは、証明図ではなくて推論図と呼んでます*1)で描くなら:
#1 --- A A⇒B ---------MP B B⇒C --------------MP C -------#1 A⇒C
ここで、二箇所に'#1'と書いてあるのは、仮定のAを消して含意の前件に持ってきたことを示します -- カリー化とかラムダ抽象に相当する*2操作です。
上記の証明(推論)の仮定と結論だけをシーケントで書けば:
- A⇒B, B⇒C → A⇒C
これも、A, B, C という三つの命題が出てくるから三段論法なのかもね。
カット
論理式のリストを、Γ, Δ などのギリシャ文字大文字で表すことにして、シーケント計算における次の規則(セミナーではシーケントの推論規則を基本リーズニングと呼んでます*3)をカット〈cut〉といいます*4。
Γ → A A, Δ → B ======================Cut Γ, Δ → B
先に出てきた自然演繹風証明図と区別するため、横棒は二本棒にしています。
カットが部分的な結合〈partial composition〉であることは見て取れると思いますが、通常の結合があれば、カット=部分結合は導くことができます。
☆ ======== Γ → A Δ → Δ =====================Prod Γ, Δ → A, Δ A, Δ → B ===================================Comp Γ, Δ → B
ここでは、ゲンツェンのLKシーケントとは違って、右辺のカンマも連言の意味です。Prodは、左辺どうし/右辺どうしをそのまま連接する操作で、Compは順次結合する操作です。ProdやCompについてより詳しいこと、あるいはもっとグラフィカルな表現については:
えーとそれで、カット〈部分結合〉のことも三段論法と呼ぶことがあります。
結局、「三段論法」という言葉は大変に曖昧です。もともとが曖昧なんだから、どんな意味で使おうが目くじらは立てませんが、曖昧性を避けたいなら使わないのが吉です。