昨日の記事「グロタンディーク流サイトについて調べてみた」の続きです。
内容:
色々な方法
集合Xがあるとき、Xに位相を載せる〈位相構造を与える〉標準的な方法は、開集合の集合 O⊆Pow(X) を特定することです。この方法が標準的ですが、他の方法もあります。閉包作用素や開核作用素で位相を定義することがあります。各点ごとに近傍系を与える方法もあります。一般性は損なわれますが、距離から位相を導くこともできます。色々な方法があるなかで、開集合の方法が利便性が高かったので、標準の地位を獲得したのでしょう。
集合ではなくて、圏に位相を載せる方法を考えてみましょう。何が標準的方法か、ハッキリとは分かりませんが、よく引用されるのは、グロタンディークによるグロタンディーク位相です。
別なやり方として、まず、圏C上の前層の圏 [Cop, Set] からトポスを作ってしまい、そのトポス上のオペレーターとして位相を導入する方法もあります。ローヴェア/ティアニー位相です。
ローヴェア/ティアニー位相とグロタンディーク位相の同値性が知られています。
前層トポスやグロタンディーク位相は、ふるい〈篩 | sieve〉の概念に基づいています。ふるいについては次の記事で扱っています。
ふるいを使わない、もっと単純な位相の定義はグロタンディーク・プレ位相です。グロタンディーク・プレ位相からグロタンディーク位相が決まります。
グロタンディーク位相/グロタンディーク・プレ位相の定義のなかで、引き戻し〈ファイバー積〉が使われています。引き戻しに依存しない定義は、被覆系〈coverage〉で与えられます。
現在のところ、集合に対する開集合のように、安定した標準的方法はないようです。いずれは、汎用性と使い勝手に優れた方法が標準として選ばれるのでしょう。今は、色々な可能性を試す時期なのかもしれません。
使いやすい方法
さてここで、汎用性はともかくとして、使い勝手がいい方法を紹介します。昨日の記事で触れた、圏Cとその部分圏Sのペアです。利便性を重視するので、Cにも条件を付けます。
- 任意の集合 I に対するCの対象の族 (Xi | i∈I) は、余極限(直和)を持つ。
Top、Man はこの条件を満たします*1。
Sは単元被覆系〈singleton coverage〉となる(すぐ下で説明)のですが、部分圏であることから次は成立しています。
- u, v in S で結合可能(cod(u) = dom(v))ならば、u;v in S
これは被覆の推移性を意味します。
Sが被覆系である条件は次のように書けます。
- u:U→X in S, f:Y→X in C のとき、v:V→Y in S と g:V→U in C が存在して次の図式を可換にする。
被覆、つまりSの射が十分にあることを保証するために、次の条件を付けます。
- fがCの同型射ならば、f in S 。
特に、恒等射 idX:X→X は被覆になります。したがって、どんな対象にも被覆が存在します。Sにより単元被覆系が定義されるので、Cov(X) という記法を使います。
- Cov(X) := {u:U→V in C| u in S}
S内でのファイバー積の存在は仮定します。
- u:U→X, v:V→X ならば uとvのファイバー積が存在し、Sに入る。
特に、自分とのファイバー積 u×Xu を u[2] のように書きます。u[3], u[4] なども同じです。u[k] は、被覆のナーブ〈nerve | 脈体〉の構成に使われます(今日は述べませんが)。
以上の条件〈公理〉を満たす (C, S) は使いやすい“位相”になります。その実例は:
開射の圏
前節で述べた (C, S) により、Cに位相を載せることはできます。しかし、従来からよく知られている“開集合”の概念が欲しいときもあります。開集合に相当するCの射を開射〈open morphism〉と呼ぶことにします。開射は、従来の概念との橋渡しであって、実際はなくてもいいものです。
開射の全体OはCの部分圏になります。次の条件を付けておきます。
- [開射の公理 1] 開射はモノ射である。(O⊆Mono(C))
開射は、被覆(Sの射)との関係性において定義されます。
- [開射の公理 2] 被覆 u:U→X と射 f:V→U があり、f;u : V→X がモノ射ならば f;u は開射である。
- [開射の公理 3] 開射の族 ui:Ui→X のコタプル [ui | i∈I] : Ui→X がエピ射ならば被覆になる。
被覆が、実は開被覆族であるとすれば、開射と被覆がお互いを規定しあう関係になります。
- [開射の公理 4] 任意の被覆 f:W→X に対して、開射の族 ui:Ui→X と同型 g:W→Ui が存在して、f = g;[ui | i∈I] となる。
以上の条件〈公理〉で、被覆は開射から構成されることになります。しかし、被覆がいつでも開射から構成されるわけではないし、重要なのは開射ではなくて被覆です。よって、開射の存在に拘ったり前提するのは良くないですが、従来型の(古典的)位相を扱う場合は、上記のように開射を仲立ちにすると分かりやすくなります。次の例では、開射が存在します。