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参照用 記事

多様体類似物とチャータブル圏 1:開包含

多様体ではないが、多様体と似たような扱いができるモノがあります。そのようなモノを、漠然と多様体類似物〈manifold-like object〉と呼ぶことにします。漠然とした概念“多様体類似物”に(ある程度は)ちゃんとした定義を与えよう、という話をします。

多様体類似物とは何か?」と考えるのではなくて、「多様体類似物の全体がなす圏はどんな構造・性質を持つか?」と考えます。具体例である4つの圏から、共通の構造・性質を抽出することにします。

この共通の構造・性質は、「どの対象にも十分なチャートが作れる〈存在する〉」ことなので、多様体類似物の圏が持つべき構造・性質は“チャータブル〈chartable〉”〈海図が作成可能である〉という言葉で表現できます。

この話もシリーズ記事になります -- その理由は「ベクトル空間上の複素密度 2/?」の冒頭を参照してください。シリーズ化による影響は「ベクトル空間上の複素密度 4: フレームとコフレームの相反性 // はじめに」に書いています。

この記事の最初の節でチャータブル圏の全体像を説明した後で、4つの事例を紹介し、さらに開包含(開包含射と開包含系)について説明します。

内容:

チャータブル圏の概要

多様体に関わる基本的な概念にチャートとアトラスがあります。チャートとアトラスは、次の記事で説明しています。

チャートは海図、アトラスは海図帳(地図帳)を意味します。上記過去記事にある球面を地球に例えた話から、言葉の由来は推し量れるでしょう。

多様体の圏において、チャートとアトラスをどのように使っているかを反省することにより、チャートとアトラスの概念を抽象化(公理化)することができます。「アトラスはチャートの集まり」なので、まずはチャートという概念の抽象的定式化が問題になります。

Mを多様体、UをMの開集合とすると、チャート〈chart〉は、M←U→B というスパンの形に書けます。ここで:

  1. スパンの左脚 M←U は、開集合UのMへの包含写像〈inclusion map〉
  2. Bは、ユークリッド空間Rnの開集合(n = dim(M))
  3. スパンの右脚 U→B は、なめらかな可逆写像

チャートの(スパンとしての)右足を x:U→B として、チャート全体も x で代表させることにします。つまり、x = (M←U→B), x:U→B という記号の乱用をします。

さて、チャートの適切な集まりがアトラス〈atlas〉でした(アトラスの詳細はいずれ)。x = (M←U→B), y = (M←V→C) が、同じアトラスに所属する2つのチャートだとします。U' = V' = U∩V, x' = x|U', y' = y|V', Im(x') = B', Im(y') = C' (縦棒は写像の域の制限、Imは写像の像)とすると、2つのチャート x' = (M←U'→B'), y' = (M←V'→C') ができます(下図、ラベルのない矢印は包含写像)。

\require{AMScd}
\newcommand{\incat}{\:\: \mbox{in}\:}%
\newcommand{\Comm}{\mbox{commutative}} %
%
\begin{CD}
M  @<<< U'    @>{x'}>> B'    @>>> {\bf R}^n \\
@|      @VVV           @VVV  @| \\
M  @<<< U     @>{x}>>  B     @>>> {\bf R}^n \\
\end{CD}\\
\:\\
\:\\
\begin{CD}
M  @<<< V'    @>{y}>>   C'  @>>>  {\bf R}^n \\
@|      @VVV            @VVV      @| \\
M  @<<< V     @>{y'}>>  C   @>>>  {\bf R}^n \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf NbMan}

写像(スパンの右足) x':U'→B' と y':V'→C' は域を共有し(U' = V')、どちらも可逆なことから、写像 t = (x')-1;y' が定義できます(下図)。このtは通常(xからyへの)座標変換〈coordinate transformation〉と呼ばれます。


\begin{CD}
U'   @=       V' \\
@V{x'}VV      @VV{y'}V \\
B'  @>{t}>>   C' \\
\end{CD} \\
\:\\
\Comm \incat {\bf NbMan}

座標変換は、Rnの開集合のあいだの可逆写像ですが、ヤコビ行列が(すべての点で)可逆であることが要求されます*1

これまでのチャートの説明のなかで、次の概念が使われました。

  1. 開集合の多様体への包含写像
  2. ユークリッド空間の開集合
  3. ユークリッド空間の開集合のあいだの可逆写像で、ヤコビ行列が可逆であるもの

これらを一般化・抽象化するために、次の呼び名を使います。

  1. 開集合の多様体への包含写像を、開包含射〈open inclusion morphism〉(または単に開包含)〈open inclusion〉とも呼ぶ。
  2. ユークリッド空間の開集合を、ベーシック開対象〈basic open object〉とも呼ぶ。
  3. ヤコビ行列が可逆であるユークリッド空間の開集合のあいだの可逆写像を、ベーシックk開対象のあいだの遷移〈transition〉と呼ぶ。

多様体の圏とは限らない圏Cにおいて、「開包含射、ベーシック開対象、ベーシック開対象のあいだの遷移」の概念があれば、それをもとにしてチャートとアトラスを定義できます。開包含射の全体はC開包含系〈system of open inclusions〉、ベーシック開対象とそのあいだの遷移の全体はCベーシック系〈system of basics〉という形で定式化します。

適切な条件を満たす開包含系とベーシック系を備えた圏がチャータブル圏〈chartable category〉です。チャータブル圏の対象は多様体類似物と考えることができます。多様体に関する概念や手法の一部は、チャータブル圏においても適用できます。また、様々な圏をチャータブル圏として統一的に取り扱うことができます。

[追記]
上記の「チャータブル圏の対象は多様体類似物と考えることができます」は正確ではなかったので、補足説明を「多様体類似物とチャータブル圏 2:多様体構成の概要」に書きました。ただし、追加した記事には、まだ未確認のことが書いてあります。
[/追記]

多様体、バンドル、主等質空間、ベクトル空間

チャータブル圏の具体例として、次の4つの圏を考えます。

  1. 多様体の圏 = NbMan
  2. バンドル〈ファイバーバンドル〉の圏 = Bundle
  3. 主等質空間の圏 = PHSpace
  4. ベクトル空間の圏 = FdVect

それぞれの圏に対して、簡単な説明(必要なら定義)と注意事項を述べておきます。

多様体の圏(境界無し多様体の圏)

ここでの多様体は、なめらかな〈Cな〉多様体です。多様体のあいだの写像はなめらかな写像だけを考えます。単に多様体と言った場合は境界があってもいいとしますが、この記事では境界無し多様体〈manifold without boundary | no-boundary manifold〉を考えます。境界無しに限定するのは、単に話を簡単にしたいだけです。境界を許しても問題はありません(話が幾分複雑になる)。なめらかな境界無し多様体となめらかな写像の圏を NbMan とします(境界を許すなら Man)。

多様体多様体とみなした空集合)を入れるかどうかが問題になります。空多様体が必須のときもあれば、邪魔になることもあります。この記事の文脈では、「NbManに空多様体を入れるか?」は、どっちにしてもたいした影響はないので好きにしてください。入れておいたほうが後々便利かも。

バンドル〈ファイバーバンドル〉の圏

ファイバーバンドルのことを単にバンドルとも呼びます。M∈|NbMan| を固定したとき、M上のバンドルと、“Mを動かさないバンドル写像”を射とする圏をBdl[M]とします。“Mを動かさないバンドル写像”とは、次の図式を可換にする f:E→F です。


\begin{CD}
E           @>{f}>>   F \\
@V{\pi_E}VV          @VV{\pi_F}V \\
M           @=       M \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf NbMan}

Bdl[M] のMを変化させて(一般的な)バンドルの圏を作りますが、そのとき使われる構成法はグロタンディーク構成です。グロタンディーク構成については、次の記事を参照してください。

短く書く略記法に関しては次の記事(の一節)を参照:

グロタンディーク構成はやたらに出てくるので、色々な例を知りたいなら、検索結果のリストから記事をたどってみてください。

M \mapsto Bdl[M] という対応は、インデックス付き圏 Bdl[-]:NbManCAT contra に拡張できます('contra'は反変関手であることを示す目印です)。このインデックス付き圏にグロタンディーク構成を施して(一般的な)バンドルの圏を作ります。

  • Bundle := ∫Bdl/NbMan = {\displaystyle \int_{x \:\mbox{in}\:{\bf NbMan}}} {\bf Bdl}[x ]
主等質空間の圏

主等質空間は、過去に触れたことはありますが、ここで定義を最初から述べます。まず、位相もなめらかさも入らない主等質集合の定義から。

G = (G, *, e) が群で、Xは集合とします。α:G×X→X が次を満たすとき、G, X, α からなる構造を左主等質集合〈left principal homogeneous set〉と呼びます。

  1. For a, b∈G, x∈X,
    α(a*b, x) = α(a, α(b, x))
  2. For x∈X,
    α(e, x) = x
  3. For x, y∈X,
    α(a, x) = y となる a∈G が一意に存在する。

左主等質集合を (α:G\curvearrowrightX) と書きます。αが了解されているなら、単に (G\curvearrowrightX) とも略記します。

φ:G→H が群の準同型写像、f:X→Y が写像のとき、(φ, f) が (α:G\curvearrowrightX) から (β:H\curvearrowrightY) への左主等質集合の準同型写像〈homomorphism between left principal homogeneous sets〉だとは、次が成立することです。

  • For a∈G, x∈X,
    f(α(a, x)) = β(φ(a), f(x))

左主等質集合(群Gは固定しない)とその準同型写像は圏を形成します。その圏をLeftPHSet とします。同様にして、右主等質集合〈right principal homogeneous set〉の圏 RightPHSet も定義できます。

LeftPHSet, RightPHSet は、グロタンディーク構成を使っても定義できます。それについては:

主等質集合と同様な定義を、リー群Gと多様体Xに対して適用します。つまり、Gは多様体に群構造を載せたものであり、Xは多様体、α:G×X→X はなめらかな写像とします。こうして定義できる圏を、左主等質空間〈left principal homogeneous space〉の圏 LeftPHSpece右主等質空間〈right principal homogeneous space〉の圏 RightPHSpece とします。

ベクトル空間の圏(有限次元の実ベクトル空間の圏)

ベクトル空間は、R上に有限次元なものだけを考えます。そのようなベクトル空間と線形写像の圏は FdVectR とします。係数体〈基礎体 | スカラー体〉はRしか考えないので、省略して FdVect でも同じ意味だとします。

開包含系付き圏

開包含系については、「ヤコビ微分圏: 取り急ぎ概要と課題 // 開包含系」で述べていますが、改めてここで定義します。Cが圏で、Dが部分圏のとき、DC開包含系〈system of open inclusions〉だとは、次を満たすことです*2

  1. jがDの射なら、jはCのモノ射である。
  2. Dは、Cの広い部分圏*3である。
  3. Dはやせた圏(ホムセットが空集合か単元集合である圏)である。
  4. f:X→Y in C, j:B→Y in D のとき、jのfによる引き戻しとして、Dの射 i:A→X が存在する。

4番の条件に補足; 引き戻し*4は、一般には存在しても一意的ではありません。Dの射ではない引き戻しが在るかも知れませんが、Dのなかから引き戻しを選べることが4番の条件です。Dはやせた圏なので、D内の引き戻しは一意に決まります。

Cに、特定の開包含系Dを指定した構造 (C, D) を開包含{系}?付き圏〈category with {system of}? open inclusions〉と呼びます。ここで、「{…}?」は、「…」の部分を省略してもいいことを示します。(このテの記法の詳細は「用語のバリエーション記述のための正規表現」参照。)

開包含系付き圏をCで表すときは、その開包含系を OIncC と書くと約束します。つまり、記号の乱用で C = (C, OIncC) です。Cの射で、OIncCに入る射は開包含{射}?〈open inclusion {morphism}?〉と呼びます。

前節に登場した4つの圏を、すべて開包含系付き圏にします。それぞれに、開包含系を指定します。

多様体の圏の開包含系

多様体の圏NbManに開包含系 OIncNbMan を定義して、開包含系付き圏 NbMan = (NbMan, OIncNbMan) にします。

OIncNbManの射、つまり開包含を特定します; Mが多様体NbManの対象)で、A⊆M を開集合だとします。包含写像 i:A→M が一意に決まります。Mの開集合Aは多様体なので、i:A→M はNbManの射です。この形の射を開包含とします。開包含の全体をOIncNbManとしましょう。こうして決めた部分圏OIncNbManが、先の開包含系の条件〈公理〉を満たすことを確認する必要があります。それらの条件は:

  1. OIncNbManの射はモノ射である。
  2. OIncNbManは、NbManの広い部分圏である。
  3. OIncNbManは、やせた圏である。
  4. f:N→N in NbMan, j:B→N in OIncNbMan のとき、jのfによる引き戻しとして、OIncNbManの射 i:A→M が存在する。

1,2,3番の条件は容易に確認できます*5。4番目を見ていきます。

与えられた f:M→N in NbMan, j:B→N in OIncMan に対して次の可換図式を考えます。ここで、f!B は、f|f-1(B) (fの、逆像集合 f-1(B) への制限)に対して、さらに余域をBに制限した写像です*6。f!B の余域はBであり、f!B;j = f|f-1(B) = i;f が成立します(下図)。


\begin{CD}
f^{-1}(B) @>{f!^B}>>  B \\
@V{i}VV               @VV{j}V \\
M         @>{f}>>     N \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf NbMan}

開集合Bの逆像は開集合なので、図のiが開包含になっているのは明らかです。これが引き戻し図になっていること(普遍性)を示す*7には、以下の形の任意の可換図式をとります。


\begin{CD}
C       @>{g}>> B \\
@V{h}VV         @VV{j}V \\
M       @>{f}>> N \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf NbMan}

この図に対して、k;f!B = g, k;i = h を満たす k:C→f-1(B) を定義します*8。今の時点ではまだ定義ができてないので、kに疑問符を前置しています。(このブログでは、斜め矢印や曲がった矢印が描けないので、可換性の一部を等式「k;i = h」で補足しています。不格好で申し訳ない。適宜レイアウトし直して解釈してください。)


\begin{CD}
C          @>{g}> >    B \\
@V{\mbox{?}\,k}VV      @| \\
f^{-1}(B)  @>{f!^B}>>  B \\
@V{i}VV                @VV{j}V \\
M          @>{f}>>     N \\
\end{CD} \\
k;i = h \\
\Comm \incat {\bf NbMan}

p∈C に対して、f(h(p)) = j(g(p)) ですが、jは包含写像なので、f(h(p)) = g(p), g(p)∈B 。このことから、h(p)∈f-1(B) 、つまり、h(C)⊆f-1(B) が分かります。hの余域をf-1(B)に制限することが出来るので、k := h|f-1(B) = (hの余域をf-1(B)に制限した写像) と定義します。

k;f!B = g, k;i = h はすぐ分かります。逆に、k;f!B = g, k;i = h であるためには、今定義したk以外にあり得ないことも分かります。というのも、k':C→f-1(B) が、図式の可換性から ∀p∈C.( k'(p) = i(h(p)) ) を満たすので、必然的に k' = h|f-1(B) = k となるからです。

以上により4番目の条件が示され、開集合の包含写像達がNbManの開包含系であることが確認できました。

[補足]
今の議論のなかで、M, N が多様体であることは何も使っていません。M, N を単なる位相空間としても、同じ議論が通用します。つまり、位相空間(と連続写像)の圏に、開包含系が定義できるのです。

多様体の圏を定義する際に、開包含系を備えた位相空間の圏から出発して、その部分圏(より正確には具象圏)となるように定義したほうが自然です。今回は、「先に多様体の圏NbManありき」としているので、多様体の圏に対して開包含系を定義する形になっています。

次節も同様な話で、バンドルの圏に対して開包含系を定義する際に、ファイバーバンドルの性質は特に使っていません。例えば、位相空間のあいだの連続全射を対象とする圏で議論しても同じことです。
[/補足]

バンドルの圏の開包含系

Bundleを、開包含系付き圏 Bundle = (Bundle, OIncBundle) にするために、OIncBundle = (開包含の部分圏) を定義します。

E = (E, M, πE) をバンドル〈ファイバーバンドル〉とします。A⊆M は底空間の開集合とします。E|A := π-1(A) とすると、E|A は全空間Eの開集合になります。E|A = (E|A, A, πE|A) (記号の乱用)と置くと、これはファイバーバンドルになります。次の可換図式が成立します。(図内の "commutative in NbMan" はミスではありません多様体の圏における可換図式が、バンドルの圏の射 f:E|A→E と同値な存在物なのです。混乱しがちなのは、NbMan内の可換図式の一部と、Bundleの射が、記号の乱用で区別し難いからです。)


\begin{CD}
E|_A             @>{i}>>      E \\
@V{\pi_{E|_A}}VV              @VV{\pi_E}V \\
A                @>{i}>>      M \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf NbMan}

ここで、全空間Eへの包含写像と底空間Mへの包含写像に同じ文字 i を使っています。i:E|A→E はバンドルの準同型写像〈バンドル射〉になるので、圏Bundleの射です。この形の射を開包含とします。開包含の全体をOIncBundleとします。部分圏OIncNbManが開包含系となる条件〈公理〉で、当たり前でないのは次の命題だけでしょう。

  • f:E→F in Bundle, j:F|B→F in OIncBundle のとき、jのfによる引き戻しとして、OIncBundleの射 i:E|A→E が存在する。

このことを示しましょう。「ベクトルバンドル射の逆写像: 記法の整理をかねて // ベクトルバンドル」で導入した記法を使って、f:E→F の底空間/底写像を |f|:|E|→|F| とも書きます。バンドルの射影は添字無しで単にπと書き、開包含を表す記号 i, j は適宜オーバーロードします。

与えられたバンドルの開包含 j:F|B→F と任意のバンドル射 f:E→F に対して、次の可換図式の疑問符部分を埋めることを考えます。


\begin{CD}
\mbox{?} @>\mbox{?}>>  F|_B \\
@V\mbox{?}VV           @VV{j}V \\
E        @>{f}>>       F \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf Bundle}

次のようにして埋めます。


\begin{CD}
E|_A     @>{f!^B}>>    F|_B \\
@V{i}VV                @VV{j}V \\
E        @>{f}>>       F \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf Bundle}

ここで、開集合 B⊆|F| に対して、A := |f|-1(B) として、i:E|A→E は下図のごとき自然な包含です。この図式は、i:E|A→E in Bundle とみなせます。


\begin{CD}
E|_A            @>{i}>>  E \\
@V{\pi}VV                @VV{\pi}V \\
A = |f|^{-1}(B) @>{i}>>  |E| \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf NbMan}

次に、f!B:E|A→F|B in Bundle の作り方を説明しましょう; まず、前節で説明した方法で、底空間のあいだの写像 |f|!B を作ります。


\begin{CD}
 A = |f|^{-1}(B) @>{|f|!^B}>>  B  \\
 @V{i}VV                       @VV{j}V \\
 |E|             @>{|f|}>>     |F| \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf NbMan}

この |f|!B は、j, f に対して一意に決まります。|f|!B に対して、次の可換図式を考えます(疑問符部分は未定)。


\begin{CD}
E|_A   @>{\mbox{?}}>> F|_B \\
@V{\pi}VV             @VV{\pi}V \\
A      @>{|f|!^B}>>   B  \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf NbMan}

この疑問符部分は、f:E→F の制限として簡単に定義できるので、それを f!B前節と同じ記法をオーバーロード)とすると、次の可換図式が得られます。


\begin{CD}
E|_A   @>{f!^B}>>    F|_B \\
@V{\pi}VV            @VV{\pi}V \\
A      @>{|f|!^B}>>  B  \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf NbMan}

この図式が定義するバンドル射を f!B = (f!B, |f|!B) in Bundle と(またしても記号の乱用で)書くことにする*9と、この節の最初に挙げた可換図式が次のように埋めることができました。

\newcommand{\Q}{\mbox{?}}
\begin{CD}
\Q = E|_A     @>{\Q = (f!^B, |f|!^B)}>>    F|_B \\
@V{\Q = i}VV                               @VV{j}V \\
E             @>{f}>>                      F \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf Bundle}

残るは、埋まった図式が引き戻しとしての普遍性を持つかどうかです。バンドル射 g:G→F|B, h:G→E を含む可換図式を任意にとります。


\begin{CD}
G     @>{g}>>    F|_B \\
@V{h}VV          @VV{j}V \\
E     @>{f}>>    F \\
\end{CD}\\
\:\\
\Comm \incat {\bf Bundle}

この図に対して、k;f!B = g, k;i = h を満たすバンドル射 k:G→E|A を定義しましょう(下図)。


\begin{CD}
G        @>{g}>>       F|_B \\
@V{\mbox{?}\,k}VV      @| \\
E|_A     @>{f!^B}>>    F|_B \\
@V{i}VV                @VV{j}V \\
E        @>{f}>>       F \\
\end{CD} \\
k;i = h \\
\Comm \incat {\bf Bundle}

kの構成は、バンドルの全空間のあいだの写像としてのkを、前節と同様にして作ります。

  1. h(G)⊆E|A (E|A = f-1(F|B))を示す。h(G)はGの像集合で、E|A = f-1(F|B) はバンドルの全空間です。
  2. k := h|E|A として k:G→E|A を定義する。kは、hの余域をE|Aに制限した写像です。
  3. kが上の図の可換性を満たすことを示す(作り方からほぼ自明)
  4. kと同じ性質を持つ k':G→E|A を考えると、k' = h|E|A = k となるので、kが一意であることを示す。
  5. kがバンドル射であることを示す(バンドル射の制限はバンドル射になるので、ほぼ自明)。

kの構成には、ファイバーバンドルの性質(局所自明性)を特に使っていません。このことについては、前節の補足説明を参照してください。補足説明にあるように、バンドルの代わりに連続全射写像を対象とする圏から出発して、条件を付け加えてバンドルの圏を定義できます。

主等質空間の圏の開包含系

主等質空間の圏 LeftPHSpace, RightPHSpace における開包含は、恒等射のことだとします。開包含からなる部分圏は、広い離散部分圏〈{broad | wide} discrete subcategory〉になります。

広い離散部分圏が次の性質=開包含系の公理を満たすのは明らかでしょう。

  1. 広い離散部分圏の射=恒等射は、モノ射である。
  2. 広い離散部分圏は、広い部分圏である。
  3. 広い離散部分圏は、やせた圏である。
  4. 任意の射 f:X→Y と j = idY:Y→Y に対して、i = idX:X→X は、jのfによる引き戻しになっている。
ベクトル空間の圏の開包含系

ベクトル空間の圏FdVectにおける開包含も、恒等射のことだとします。

それから

チャータブル圏の定義には、開包含系だけでなくて、ベーシック開対象と遷移(ベーシック開対象のあいだの特定された可逆射)の概念が必要です。次は、ベーシック開対象/遷移を説明する予定です。開包含とベーシック開対象/遷移があれば、チャートを定義できます。

*1:x \mapsto x3 : RR は可逆ですが“ヤコビ行列=微分係数”が0で非可逆になります。

*2:開包含系と似た概念として、開射を持つ圏があります。「ビッグサイトから巨大サイトへ // 開射を持つ圏」に書いてあります。

*3:親の圏と同じ対象類を持つ部分圏は、広い部分圏({broad | wide} category)といいます。広い部分圏の話は「包含付き圏:対象を集合っぽく扱うために」とか「骨格的な圏と圏の骨格」にあります。

*4:「引き戻し」という言葉には、様々な意味があります。ここでは、四角形の引き戻し図式の意味と、通常、左縦矢印で描かれる射の2つの意味で使っています。

*5:3番は、集合論圏論の関係に影響される微妙な命題ですが、この命題が成立するように集合論圏論の関係を設定することにします。

*6:域の制限を f|A、余域の制限を f|B と書くと、f!B := (f|f-1(B))|B

*7:普遍性を示すとは、極限または余極限であることを示すことです。

*8:kは、錐の圏における、終対象への唯一の射です。

*9:この書き方で、|f!B| = |f|!B が成立します。