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参照用 記事

前層の一般化: 述語、ファミリー、モナド、インデックス付き圏を統合

nLabの2-前層〈2-presheaf〉の項目 https://ncatlab.org/nlab/show/2-presheaf を見ると、2-前層はインデックス付き圏〈indexed category〉の別名のようです。インデックス付き圏の定義 https://ncatlab.org/nlab/show/indexed+category を参照すると、2-圏である $`{\bf Cat}`$ を余域とする反変2-関手を2-前層と呼んでいます。ということは、単なる前層は1-前層ということになります。

1-前層と2-前層の定義に倣って、n-前層は、n-圏である $`(n - 1){\bf Cat}`$ を余域とするn-関手だとすればいいでしょう。ここで、関手が反変であるか共変であるかは気にしないことにします。余前層と呼ばれている共変関手も“前層の仲間”として取り扱います。

n-前層の概念と、圏の次元調整を組み合わせて、m-圏上のk-調整済みn-前層〈k-adjusted n-presheaf over m-category〉のk-圏を定義しましょう。それは、次のように書けます。$`\newcommand{\dimU}[2]{{#1}\!\updownarrow^{#2}}
\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\op}{\mathrm{op}}
`$

$`\quad k{\bf CAT}(\dimU{\cat{D}}{k}, \dimU{(n - 1){\bf Cat}}{k}) \:\text{ for some }\cat{D} \in |m{\bf Cat}|`$

一般に、$`n{\bf Cat}`$ は、小さいn-圏を対象とする(n + 1)-圏です。$`n{\bf CAT}`$ は、必ずしも小さくないn-圏を対象とする(n + 1)-圏です。n = -1 のときも意味を持ちます。

  • $`(-1){\bf Cat} = {\bf B} = \{\mrm{True}, \mrm{False} \}`$ : 真偽値の二元集合
  • $`0{\bf Cat} = {\bf Set}`$ : 集合の圏
  • $`1{\bf Cat} = {\bf Cat}`$ : 圏の2-圏
  • $`2{\bf Cat}`$ : 2-圏の3-圏

$`(-1){\bf Cat} = {\bf B}`$ は奇妙な感じがするでしょう。とりあえず、便宜上の約束だと思えばいいです。

m-圏上のk-調整済みn-前層には、3つの数 $`m, n, k`$ が出てきますが、これらは次のような整数だとします。

$`\quad 0 \le m \le n,\; 0 \le k \le n`$

最初にmを決めて、次にnを決め、最後にkを選ぶことにしましょう。以下のケースを扱います。

  1. m = 0, n = 0, k = 0
  2. m = 0, n = 1, k = 1
  3. m = 0, n = 2, k = 2
  4. m = 1, n = 1, k = 1
  5. m = 1, n = 2, k = 1
  6. m = 1, n = 2, k = 2
1. 述語の集合

$`A`$ を集合〈0-圏〉とします。$`A`$ 上の0-調整済み0-前層は次のようになります。

$`\quad 0{\bf CAT}(\dimU{ A }{0}, \dimU{(0 - 1){\bf Cat}}{0}) \\
= {\bf SET}(A, {\bf B})\\
= {\bf Set}(A, {\bf B})
`$

これは、集合 $`A`$ 上の述語(真偽値を値とする関数)の集合です。

2. ファミリーの圏

$`A`$ を集合〈0-圏〉とします。$`A`$ 上の1-調整済み1-前層は次のようになります。

$`\quad 1{\bf CAT}(\dimU{ A }{1}, \dimU{(1 - 1){\bf Cat}}{1}) \\
= {\bf CAT}(\dimU{ A }{1}, {\bf Set})\\
= {\bf CAT}(\mrm{Disc}^1(A), {\bf Set})
`$

ここで、$`\mrm{Disc}^1(A)`$ は、集合 $`A`$ から作った離散1-圏です。「すべての圏は無限次元圏である」という見方をするなら $`\dimU{ A }{1}`$ は単に名目上の次元をセットし直しただけのものです(「圏の次元調整」参照)。

$`{\bf CAT}(\mrm{Disc}^1(A), {\bf Set})`$ は、関手と自然変換からなる圏ですが、集合 $`A`$ をインデックス集合〈{indexing | index} set〉とするファミリー〈インデックス付けられた集合族〉とそのあいだの射の圏とみなせます。

3. モナドの2-圏

単元集合 $`{\bf 1}`$ に対して、$`{\bf 1}`$ 上の2-調整済み2-前層は次のようになります。

$`\quad 2{\bf CAT}(\dimU{\bf 1 }{2}, \dimU{(2 - 1){\bf Cat}}{2}) \\
= 2{\bf CAT}(\dimU{\bf 1 }{2}, {\bf Cat})\\
= 2{\bf CAT}(\mrm{Disc}^2(\mrm{Disc}^1({\bf 1}) ), {\bf Cat})
`$

ここで、$`\mrm{Disc}^2(\mrm{Disc}^1({\bf 1}))`$ は、単一の対象と恒等1-射、恒等2射だけからなる自明な離散2-圏です。この自明な2-圏を $`{\bf 1}^{(2)}`$ と書くと少しスッキリします。

$`\quad 2{\bf CAT}({\bf 1}^{(2)}, {\bf Cat})`$

この2-圏は、小さな圏を基礎圏とするモナド達の2-圏になります。そのことは、「モナドはモノイドだが、モノイドじゃない」と、そこから参照されている「モナド論をヒントに圏論をする(弱2-圏の割と詳しい説明付き) // 自明な2-圏からのラックス2-関手」に書いてあります。

単元集合を一般の集合 $`A`$ にすると、モナドのファミリー〈インデックス付けられたモナド族〉とそのあいだの射/2-射の2-圏になります。

4. 前層の圏

$`\cat{C}`$ を圏〈1-圏〉とします。$`\cat{C}`$ 上の1-調整済み1-前層は次のようになります。

$`\quad 1{\bf CAT}(\dimU{ \cat{C} }{1}, \dimU{(1 - 1){\bf Cat}}{1}) \\
= {\bf CAT}( \cat{C}, {\bf Set})
`$

これは、共変関手の関手圏なので余前層の圏ですが、関手が反変であるか共変であるかは気にしないなら、前層の圏です。

5. 厳密インデックス付き圏の圏

$`\cat{C}`$ を圏〈1-圏〉とします。$`\cat{C}`$ 上の1-調整済み2-前層は次のようになります。

$`\quad 1{\bf CAT}(\dimU{ \cat{C} }{1}, \dimU{(2 - 1){\bf Cat}}{1}) \\
= {\bf CAT}( \cat{C}, \dimU{\bf Cat}{1})
`$

これは、反変・共変の違いを除けば、インデックス付き圏の定義そのものです。余域である $`{\bf Cat}`$ から2-射を捨てているので、この場合のインデックス付き圏は1-関手となり、厳密な〈等式的な〉関手性を持ちます。

6. ラックス・インデックス付き圏の2-圏

$`\cat{C}`$ を圏〈1-圏〉とします。$`\cat{C}`$ 上の2-調整済み2-前層は次のようになります。

$`\quad 2{\bf CAT}(\dimU{ \cat{C} }{2}, \dimU{(2 - 1){\bf Cat}}{2}) \\
= 2{\bf CAT}( \dimU{ \cat{C} }{2}, {\bf Cat})
`$

これもインデックス付き圏の定義ですが、弱いバージョンです。この場合のインデックス付き圏はラックス2-関手となり、ラックスな関手性を持ちます。


よく知られた構造とその集まり(集合、圏、2-圏)が、k-調整済みn-前層のk-圏として定義できました。これらの定義をベースとして、さらに共通性が見いだせるかも知れません。