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参照用 記事

可換環の種別と分類基準

とあるテキスト(書籍)の代数(分野)に関する記述で、幾つかの種類の可換環が登場するのですが、分類の基準がよく分からない。なので、ちょっと伺ってみたり調べたりしてみました。分類された各クラスに所属する/所属しない可換環の実例や、クラスの相互関係などは考えが及んでません。聞きかじりや俄仕込みの浅知恵な記述が多いです。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
`$

内容:

分類基準

イチを持つ可換環しか考えないので、単に「環」と言ったらイチを持つ可換環です。整域〈integral domain〉と体〈field〉はよく知られているので、その定義は前提します。

環を分類〈クラス分け〉するとき、どういう手段・基準で分類するのか? ざっと見た感じでは次のような基準がありそうです。

  1. どんなイデアルをどのくらい持つか?
  2. 要素またはイデアルの因子分解がうまくできるか?
  3. 方程式の解があるか?
  4. その他

単数群

まず、環の可逆元がどのくらいあるか? を見てみます。これは、方程式 $`xy = 1`$ の解があるか? と捉えれば「方程式の解」で分類しているとみなせます(「その他」の分類基準としてもいいけど)。

環の可逆元を単数〈unit | 単元〉と呼ぶようです。僕は使ったことない言葉だし、単位元と紛らわしいなぁ、と思いますけど、整数論あたりの伝統らしいので従います。環 $`A`$ の単数の全体は群をなします。それを単数群〈group of units〉と呼び、 $`A^\times`$ と書きます。ここでは、$`\mrm{UnitGrp}(A)`$ とも書くことにします。

$`{\bf Z} \hookrightarrow {\bf Q}`$ の例で考えると、$`{\bf Q}`$ の単数(ゼロ以外)の逆像が単数になるわけではないので、引き戻しで単数は保存されません。が、前送りでは単数が保存されます。$`f :A \to B`$ が環の準同型射のとき、$`a b = 1`$ から $`f(a)f(b) = 1`$ が出ますから。

よって、$`\mrm{UnitGrp}(\hyp)`$ は、環〈可換環〉の圏 $`{\bf CRng}`$ から可換群〈アーベル群〉の圏 $`{\bf Ab}`$ への共変関手になります。与えられた環の単数群を求める問題と、与えられた可換群を単数群とする環があるか/あるならどのくらいあるか? という問題はすぐに思い浮かびます。思い浮かぶだけで、それ以上わかんないけど。

とりあえず知ってる環の単数群を見ると:

  • $`\mrm{UnitGrp}({\bf Z}) = \{1, -1\}`$
  • $`\mrm{UnitGrp}({\bf Q}) = {\bf Q}_{\ne 0} = \{x\in {\bf Q} \mid x \ne 0\}`$
  • $`\mrm{UnitGrp}({\bf Z}[\sqrt{-1}]) = \{\pm 1, \pm \sqrt{-1}\}`$
  • $`\mrm{UnitGrp}({\bf Z}_2) = \{ 1\}`$
  • $`\mrm{UnitGrp}({\bf R}[x]) = {\bf R}_{\ne 0}`$
  • $`\mrm{UnitGrp}({\bf Q}[\sqrt{2}]) = \{ \pm(1 + \sqrt{2})^n \mid n \in {\bf Z}\}`$ だそうです。

ゼロ環 $`{\bf 0}`$ の単数群はどうなるんでしょう? 普通 $`0`$ の逆元はないけど、ゼロ環では $`0 = 1`$ なので、

  • $`\mrm{UnitGrp}({\bf 0}) = \{ 0\} = \{ 1\}`$

でいいじゃないでしょうか。そうならば、共変関手 $`\mrm{UintGrp}`$ は終対象を終対象に移します。でも、始対象が始対象(終対象と同じ)に行くわけじゃないですね。

単数群が分類の基準に使われているかというと、そうでもないようです。
$`\quad \mrm{UnitGrp}(A) = A^\times = A_{\ne 0}`$
なら、$`A`$ は体だとは言えますけど。

イデアル

次のように約束します。

  • $`\mrm{Ideal}(A)`$ : $`A`$ のすべてのイデアルの集合
  • $`\mrm{MaxIdeal}(A)`$ : $`A`$ のすべての極大イデアルの集合
  • $`\mrm{PrimeIdeal}(A)`$ : $`A`$ のすべての素イデアルの集合
  • $`\mrm{PrincIdeal}(A)`$ : $`A`$ のすべての主イデアル〈単項イデアル〉の集合

$`\mrm{Ideal}(\hyp)`$ と $`\mrm{PrimeIdeal}(\hyp)`$ は反変関手に仕立てられるます。が、別に関手じゃなくても分類基準には使えるので、極大イデアル/単項イデアルも環を特徴付ける“量”になります。

$`\mrm{Ideal}(A)`$ には、ゼロイデアルも $`A`$ 自身も含まれます。$`\{0\} = A`$ なら、$`A = {\bf 0}`$ です。ゼロ環 $`{\bf 0}`$ は、$`\mrm{Ideal}(A)`$ が単元集合であることで特徴付けられます。ゼロイデアルと $`A`$ 以外のイデアルがなければ $`A`$ は体なので、体は、$`\mrm{Ideal}(A)`$ がニ元集合であることで特徴付けられます。ん? ゼロ環 $`{\bf 0}`$ って体? いや違うよね。体の定義では $`A_{\ne 0}`$ が群になる必要があるけど、$`{\bf 0}_{\ne 0} = \emptyset`$ は群じゃないから。

体のゼロイデアルは極大イデアルなのかな? $`K/(0) = K`$ で、イデアル による剰余環が体になるから、定義からは極大イデアルですね。$`{\bf 0}/(0) = {\bf 0}`$ で、$`{\bf 0}`$ は体でないとすると、ゼロ環のゼロイデアルは極大イデアルじゃないことになります。

  • ゼロ環は、ひとつのイデアルを持つ。極大イデアルは持たない。体ではない。
  • 体は、ふたつイデアルを持つ。極大イデアル(ゼロイデアル)をひとつ持つ。

僕は、「素イデアルが極大イデアルしかない環」のクラスに名前が付いてると思ったのですが、そうでもないようです。“環の{クルル}?次元”という量で特徴付けて、1次元の整域〈integral domain of {Krull}? dimension 1〉という概念はあるそうです。

1次元の環では、素イデアルの真の減少列〈チェーン〉の長さが1以下なので、$`\mathfrak{p}_0`$ か $`\mathfrak{p}_0 \supsetneq \mathfrak{p}_1`$ という列しか存在しません。$`A`$ が1次元の整域の場合なら、ゼロイデアル $`(0)`$ は素イデアルなので、素イデアルの真の減少列は $`(0)`$ か $`\mathfrak{p} \supsetneq (0)`$ です。もし、$`\mathfrak{p}`$ が極大イデアルでないなら、$`\mathfrak{p}`$ より大きい極大イデアルが取れて*1、もっと長い列を作れます。次元1であることからそれは起きないので、結局、素イデアルは必ず極大イデアルです。

$`A`$ が0次元の整域〈integral domain of {Krull}? dimension 0〉ならば、$`(0)`$ が唯一の素イデアルであり、それは極大イデアルでもあるので、$`A`$ は体です。

$`\mrm{Ideal}(A) = \mrm{PrincIdeal}(A)`$ である整域のクラスには名前が付いていて、単項イデアル整域〈principal ideal domain | PID〉ですね。環 $`A`$ の要素 $`a`$ で生成されるイデアルを単に $`(a)`$ と書く習慣のようで、大変に紛らわしいと思ったけど、とても便利でもあるので使います。

$`A \ni a \mapsto (a) \in \mrm{Ideal}(A)`$ という写像がありますが、これが全射なら単項イデアル整域です。単項イデアル整域 $`A`$ のイデアル $`I\in \mrm{Ideal}(A)`$ に対して、$`(a) = I`$ である $`a\in A`$ が一意に決まるわけじゃないですが、$`(a) = (b)`$ なら、単数 $`u \in A^\times`$ により
$`\quad b = ua`$
と書けます。

つまり、単項イデアル整域の台集合(同じく $`A`$ と書く)を、単数群 $`A^\times`$ の群作用で割った軌道空間〈orbid space〉*2が、$`\mrm{Ideal}(A)`$ と同型になります。

$`\quad A \text{ は PID} \iff A/A^\times \cong \mrm{Ideal}(A)`$

因子分解

ゼロ・単数以外の要素がうまいこと因子分解できる整域達は一意分解整域〈unique factorization domain | UFD〉というクラスを形成します。“うまいこと因子分解”の意味は:

  • $`x\in A, x \ne 0, x\not\in A^\times`$ とする。
  • $`x = a_1 \cdots a_n`$ と書ける。
  • 因子達 $`a_1, \cdots, a_n`$ は $`A`$ の既約元。
  • この分解は、“本質的に一意的”。

$`a\in A`$ が既約元〈irreducible {element}?〉は、$`a\in A, a \ne 0, a\not\in A^\times`$ であって、次を満たすことです。

$`\quad \lnot \exists b, c \in A.(
a = bc \;\land\;
b \not\in A^\times \;\land\;
c \not\in A^\times)
`$

“本質的に一意的”とは、掛け算の順番を入れ替えたり単数を掛けたりしたものは同じ因子分解とみなせば一意的、という意味です。

なんか記述が煩雑でめんどくさい。既約元に単数を掛けたモノも既約元ですが、単数を掛ける分の違いは無視したいので、前節と同様に単数群作用で割ることにします。$`\mrm{Irred}(A)`$ を $`A`$ の既約元の集合として、軌道空間
$`\quad \mrm{Irred}(A)/A^\times`$
を考えます。

$`{\bf N}^{(\mrm{Irred}(A)/A^\times)}`$ は、軌道空間の要素(同値類)から自由生成された自由モノイドとします。これは、$`\mrm{Irred}(A)/A^\times`$ の要素に自然数係数で一次結合を作った全体です。$`{\bf N}^{(\mrm{Irred}(A)/A^\times)}`$ の要素は次の加法的な形に書けます。

$`\quad m_1 \mathfrak{a}_1 + \cdots + m_k \mathfrak{a}_k \:\text{ for some }\mathfrak{a}_1, \cdots \mathfrak{a}_k \in \mrm{Irred}(A)/A^\times`$

同値類 $`\mathfrak{a}_i`$ の代表元を $`a_i \in A`$ とすると、上記の加法的な形式は、次の乗法的な因子分解に対応します。

$`\quad a_1^{m_1} \cdots a_k^{m_k}`$

加法的な形式のほうは、掛け算の順番を入れ替えたり単数を掛けたりの余計な自由度を落としているので扱いやすいです。例えば、加法的なゼロは、単数達に対応します。

さてところで、既約元と素元は違うようです。環 $`A`$ の素元は、イデアル $`A/(p)`$ が素イデアルになるような $`p\in A`$ と定義されます。「割り切る」を表す記号 '$`\mid`$' を使った次の定義でも同じです。

$`\quad \forall x, y\in A.(\,p \mid xy \Rightarrow (p \mid x) \lor (p\mid y)\,)`$

Wikpedia項目「既約元」に、既約元だが素元ではない例として $`{\bf Z}[\sqrt{-5}]`$ における $`3`$ が出ています。

しかし、一意分解整域の定義に素元を使っている例もあり、素元分解整域という言葉もあります。ウーン? なんでしょ。既約元と素元が一致する状況下で一意分解整域の概念を使うってことでしょうか?

それはともかく、環 $`A`$ の素元の全体を $`\mrm{Prime}(A)`$ とします。前節と同様な加法的自由モノイド $`{\bf N}^{(\mrm{Prime}(A)/A^\times)}`$ を作ります。このモノイドの要素は、$`A`$ の要素の素元分解の余計な自由度を落としたバージョンです。

$`A`$ が単項イデアル整域の場合、次の同型があります。

$`\quad \mrm{PrimeIdeal}(A) \cong \mrm{Prime}(A)/A^\times`$

したがって、素元分解の余計な自由度を落としたバージョン、あるいは“本質的な素元分解”の全体は次の加法的自由モノイドにエンコードされます。

$`\quad {\bf N}^{(\mrm{PrimeIdeal}(A) )}`$

さらに、素イデアルと極大イデアルが一致するような整域ならば、“本質的な素元分解”の表示に次が使えます。

$`\quad {\bf N}^{(\mrm{MaxIdeal}(A) )}`$

ここまでは、要素の因子分解の本質的情報をイデアルの集合上に転移する話でしたが、要素の因子分解が必ずしもうまくいかない場合は、最初からイデアルの集合を舞台にする方法が考えられます。要素ではなくてイデアルで素因子分解がうまくできる整域をデデキント整域〈Dedekind domain〉というようです。

デデキント整域 $`A`$ では、ゼロでも $`A`$ でもないイデアル $`X \in \mrm{Ideal}(A)`$ が次の形の素因子分解を持ちます。

$`\quad X = P_1^{m_1} \cdots P_k^{m_k} \:\text{ for some }P_1, \cdots, P_k \in \mrm{PrimeIdeal}(A)
`$

こうなると、掛けたり足したりする対象物が要素からイデアルに変容しています。

方程式の解

多項式方程式の解がいつも存在している代数系だと、代数的閉体〈algebraically closed field〉が有名ですね。$`K`$ は体だとして、$`K`$-係数の1次以上の多項式方程式の解が $`K`$ 内にあるなら $`K`$ は代数的閉体です。

代数的閉体 $`K`$ を係数域とする多項式環 $`K[x]`$ は、ゼロでも単数(0次多項式)でもない要素(多項式)が1次式に因子分解できます。$`\mrm{PrimeIdeal}(K[x])`$ は $`K`$ と同型になるので、多項式環 $`K[x]`$ における“本質的な素元分解”は $`{\bf N}^{(K)}`$ の要素で表示できます。

$`A \subseteq B`$ が環の拡大、あるいは相対環とするとき、$`b\in B`$ が $`A`$ 上に整〈integral over $`A`$〉であるとは、$`b`$ が $`A`$-係数のモニック多項式の根(方程式の解)になっていることです。$`B`$ のすべての要素〈元〉が $`A`$ 上に整ならば、(環として)$`A`$ 上に整〈integral over $`A`$〉とか $`A\subseteq B`$ は整拡大〈integral extension〉と呼ぶようです。整拡大は、$`A`$-係数の多項式方程式の解により(それだけにより) $`B`$ を作っていることになります。

さて、整閉整域〈integrally closed domain〉という環のクラスがあります。環の拡大(相対環) $`A\subseteq B`$ が整閉という概念と、単一の環(整域)がそれ自体で整閉という概念があって、(僕には)ややこしい感じがします。

まず、$`A\subseteq B`$ があるとき、$`B`$ の元〈要素〉で $`A`$ 上に整であるものをすべて集めて作った $`B`$ の部分環(そうなる)を、$`A`$ の $`B`$ における整閉包〈integral closure〉と呼ぶ、と。仮に(正式な記法は知らない)$`A`$ の $`B`$ における整閉包を $`\bar{A}_B`$ とすると、$`A \subseteq \bar{A}_B`$ なのですが、ちょうど $`A = \bar{A}_B`$ となるときは、 $`A`$ は $`B`$ において整閉〈integrally closed〉であるといいます。

上記の“整閉”は、相対的な(2つの環が関わる)概念です。単一の整域 $`A`$ を取ってきたとき、それが整閉整域だとは、$`A`$ の分数体 $`K`$ を作って、$`A`$ が $`K`$ において(相対的に)整閉なことです。結局、相対的な概念に訴えてますが、$`K`$ は $`A`$ だけから作れるので、$`A`$ 以外の環を引き合いには出してない、その意味で単独な環に関わる性質ってことです。

整閉整域というクラスは、一意分解整域やデデキント整域を含むということなので、興味ある環のクラスとしては“広め”なのかも知れません。とはいえ、環のなかでは特殊な部類の整域達のサブクラスなので、“広め”に実質的な意味がわるわけでもないですが(雰囲気ね)。

分類されたクラス

とりあえず、以下の“環のクラス”の定義だけは挙げました。

  • 1次元の整域 : イデアルによる特徴付け
  • 0次元の整域 : イデアルによる特徴付け
  • 単項イデアル整域 : イデアルによる特徴付け
  • 一意分解整域 : 因子分解による特徴付け
  • 素元分解整域 : 因子分解による特徴付け
  • デデキント整域 : 因子分解による特徴付け
  • 代数的閉体 : 方程式の解による特徴付け
  • 整閉整域 : 方程式の解による特徴付け

「その他」の分類基準でも重要なものがあるでしょうが、とりあえず「イデアル」「因子分解」「方程式の解」が分類基準になっていることは分かりました。(各クラスに所属する環の実例やクラス相互の関係が分かってないと実感はわかないけど‥)

*1:every proper ideal contained in maximal ideal.

*2:特に位相があるわけではないので、軌道集合のほうがいいでしょうが、語呂がいいので「空間」使います。