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参照用 記事

構文付き変換手インスティチューション 3/n 実例:多項式

構文付き変換手インスティチューション 2/n 実例:モノイド」でモノイドに関する実例を出しました。この記事では別な実例、多項式に関わるインスティチューションを紹介します。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\cat}[1]{ \mathcal{#1} }
\newcommand{\op}{ \mathrm{op} }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\u}[1]{\underline{#1}}
%\newcommand{\o}[1]{\overline{#1}}
\newcommand{\twoto}{ \Rightarrow }
\newcommand{\id}{ \mathrm{id} }
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\mfr}[1]{ \mathfrak{#1} }
%\newcommand{\dimU}[2]{ {{#1}\!\updownarrow^{#2}} }
%\newcommand{\NFProd}[3]{ \mathop{_{#1} \!\underset{#2}{\times}\,\!_{#3} } }
`$

内容:

ハブ記事:

今回の例: 多項式可換環

以下は、「構文付き変換手インスティチューション 2/n 実例:モノイド」でも出した「構文付き変換手インスティチューションの全体像」の図です。ただし、$`J = J_\mrm{thy}`$ として、$`J_\mrm{sigm}`$ は省略しています。

$`\quad \xymatrix@C+1pc@R+1pc {
\cat{Sign} \ar@/^1pc/[r]^{F}
\ar@{}[r]|{\bot}
& \cat{Thy} \ar@/^1pc/[l]^{U} \ar[d]^{J}
\\
{}
& \cat{Amb}
} % transforial inst
`$

今回の例は、上記の一般論の図を次のように具体化します。

$`\quad \xymatrix@C+1pc@R+1pc {
{\bf Set} \ar@/^1pc/[r]^{\mrm{Poly}_K}
\ar@{}[r]|{\bot}
& { K\text{-}{\bf CRng} } \ar@/^1pc/[l]^{\mrm{UnderlSet}} \ar[d]^{\mrm{Id}_{K\text{-}{\bf CRng}}}
\\
{}
& {K\text{-}{\bf CRng} }
} % transforial inst
`$

素材は多項式です。多項式については次の記事で述べています。

上記の過去記事では、可換環 $`R`$ を係数域とする$`R`$-代数 $`A`$ を考えましたが、今回は、可換体 $`K`$ を係数域とする$`K`$-可換環〈相対可換環〉 $`(K, R, \varphi)`$ を考えます。

  • $`K\in |{\bf Field}|`$ : $`K`$ は体
  • $`R\in |{\bf CRng}|`$ : $`R`$ は可換環
  • $`\varphi: K \to R \In {\bf CRng}`$ : 可換環の準同型射、$`K`$-可換環の構造射

$`\varphi`$ を経由して、$`R`$ は $`K`$ の要素によるスカラー倍を持ちます。$`R`$ は $`K`$ 上のベクトル空間ですが、それ自身の掛け算(可換環の乗法)も持ちます。

$`K`$-可換環の圏を $`K\text{-}{\bf CRng}`$ とします。$`(K, R, \varphi)`$ から $`(K, S, \varphi')`$ への射は、次の図式を可換にする可換環の射 $`f`$ です。

$`\require{AMScd}
\quad \begin{CD}
R @>{f}>> S \\
@A{\varphi}AA @AA{\varphi'}A\\
K @= K
\end{CD}\\
\quad \text{commutative in }{\bf CRng}
`$

$`\mrm{Poly}_K, \mrm{UnderlSet}`$ は、自由多項式環の生成関手と忘却関手ですが、次節で述べます。

多項式の構文随伴系

今回の例の構文随伴系は次の形です。

$`\quad \xymatrix@C+1pc@R+1pc {
{\bf Set} \ar@/^1pc/[r]^{\mrm{Poly}_K}
\ar@{}[r]|{\bot}
& { K\text{-}{\bf CRng} } \ar@/^1pc/[l]^{\mrm{UnderlSet}}
} % adjunction
`$

$`\mrm{Poly}_K`$ は、$`K`$-係数の多項式環を生成しますが、「多項式環と台集合忘却関手」とは違い、一変数の多項式環とは限りません。多変数(無限個の変数かも知れない)の多項式環も考えます。

一変数のとき、$`K`$-係数多項式環は次のように定義できました(「多項式環と台集合忘却関手」参照)。

$`\quad \mrm{Map}_\mrm{finSupp}({\bf N}, K)`$

任意の変数集合 $`X`$ に対する$`K`$-係数多項式環は次のように定義します。

$`\quad \mrm{Poly}_K(X) := \mrm{Map}_\mrm{finSupp}(\mrm{Map}_\mrm{finSupp}(X, {\bf N}), K)`$

$`X = {\bf 1}`$ を代入すると、一変数$`K`$-係数多項式環の定義が再現します。

多項式 $`p \in \mrm{Poly}_K(X)`$ の表示には、インデックス集合〈indexing set〉 $`J`$ と、$`J`$ でインデックスされたインデックス集合のファミリー $`(I_j)_{j\in J}`$ が必要です。これらのインデックス集合達を使って、$`p`$ は次のように書けます。

$`\quad (p\text{ の表示}) = \sum_{j\in J} p(e_j) \prod_{i\in I_j} {x_i}^{e_j(x_i)}`$

$`\prod_{i\in I_j} {x_i}^{e_j(x_i)}`$ が変数達の累乗の総積です。それに係数 $`p(e_j)`$ がくっついて単項式になります。$`j\in J`$ に渡って総和をとると多項式です。

集合としての $`\mrm{Poly}_K(X)`$ に、足し算と掛け算、そして $`K`$ の要素によるスカラー倍が定義できるので、$`K`$-可換環になります。変数集合(実体は単なる集合)のあいだの写像に対して多項式の変換も定義できるので、$`\mrm{Poly}_K(\hyp)`$ は次のような関手になります。

$`\quad \mrm{Poly}_K : {\bf Set} \to K\text{-}{\bf CRng} \In {\bf CAT}`$

$`\mrm{Poly}_K`$ の引数に空集合 $`\emptyset`$ を入れると:

$`\quad \mrm{Poly}_K(\emptyset) := \mrm{Map}_\mrm{finSupp}(\mrm{Map}_\mrm{finSupp}(\emptyset, {\bf N}), K)\\
\cong \mrm{Map}_\mrm{finSupp}( {\bf 1}, K) \\
\cong K
`$

となります。ここはハッキリと次のように約束しておきます。

$`\quad \mrm{Poly}_K(\emptyset) := K`$

構文随伴系の逆方向の関手 $`\mrm{UnderlSet}`$ は、$`K`$-可換環の台集合を対応させます。次の略記も使います。

$`\text{For }R \in |K\text{-}{\bf CRng}|\\
\quad \u{R} := \mrm{UnderlSet}(R)
`$

$`\mrm{Poly}_K`$ と $`\mrm{UnderlSet}`$ が随伴ペアを形成することは確認する必要がありますが、実際に随伴ペアです。この随伴系から、集合圏(指標の圏)の上にモナド(項生成モナド | 構文モナド)が誘導されます。このモナドを(記号の乱用で)次のように書きます。("UPoly" は、"Underlying set of Poolynomial ring" から。)

$`\quad (\mrm{UPoly}_K, \mu, \eta)\\
\text{Where}\\
\quad \mrm{UPoly}_K : {\bf Set} \to {\bf Set} \In {\bf CAT}\\
\quad \mu :: \mrm{UPoly}_K * \mrm{UPoly}_K \twoto \mrm{UPoly}_K \In {\bf CAT}\\
\quad \eta :: \mrm{ID}_{\bf Set} \twoto \mrm{UPoly}_K \In {\bf CAT}
`$

多項式の代入射

随伴系があればモナドが誘導されます。モナドがあればクライスリ圏を作れます。構文付き変換手インスティチューションの文脈では、構文モナド〈項生成モナド〉のクライスリ圏を代入の圏〈category of substitutions〉と呼びます(「構文付き変換手インスティチューション 2/n: 実例 // 一般論: 代入の圏」参照)。

多項式の構文付き変換手インスティチューションにおける代入射は($`{\bf Set}`$ 内で見れば)次の形をしています。

$`\quad p : X \to \mrm{UPoly}_K(Y) \In {\bf Set}`$

これは、$`X`$ の要素でインデックス付けられた、$`Y`$ を変数集合とする多項式の族となります。次のように書けます。

$`\quad p = (p_x)_{x \in X}\\
\text{Where}\\
\quad p_x \in \mrm{UPoly}_K(Y)
`$

$`X`$ が有限集合で、$`n`$ 個の要素を持つなら、代入射は次のように具体的に書き出せます。

$`\quad x_1 \mapsto \sum_{j\in J_1} p_1(e_j) \prod_{i\in I_{1, j} } {y_i}^{e_{1, j}(x_i)}\\
\quad x_2 \mapsto \sum_{j\in J_2} p_2(e_j) \prod_{i\in I_{2, j} } {y_i}^{e_{1, j}(x_i)}\\
\quad \cdots\\
\quad x_n \mapsto \sum_{j\in J_n} p_n(e_j) \prod_{i\in I_{n, j} } {y_i}^{e_{n, j}(x_i)}
`$

$`Y = \emptyset`$ のときは:

$`\quad p : X \to \mrm{UPoly}_K(\emptyset) \cong \u{K} \In {\bf Set}`$ (アンダーラインは台集合です)

したがって、次の同型があります。(一般論での名称 '$`\cat{Subst}`$' を今回の特定事例の場合(固有名)にも一時的に流用します。)

$`\quad \cat{Subst}(X, \emptyset) \cong \mrm{Map}(X, \u{K}) \In {\bf Set}`$

$`X`$ が有限集合で、$`n`$ 個の要素を持つなら:

$`\quad \cat{Subst}(X, \emptyset) \cong \u{K}^n \In {\bf Set}`$

$`\emptyset`$ によって表現される反変関手〈前層〉 $`\cat{Subst}(\hyp, \emptyset)`$ は、多項式写像の標準的な表現を与えます。

$`\text{For }p : X \to Y \In \cat{Subst}\\
\quad \cat{Subst}(p, \emptyset) : \cat{Subst}(Y, \emptyset) \to \cat{Subst}(X, \emptyset) \In {\bf Set}
`$

多項式代入の圏

前節で一時的に $`\cat{Subst}`$ と書いていた代入の圏(実体は項生成モナドのクライスリ圏)を $`{\bf Poly}_K`$ と書くことにします。$`K`$ を固定した状況では、確定したひとつの圏になるので、太字の名前(固有名)にします。構文随伴系の項生成モナド(の台自己関手)である $`\mrm{UPoly}_K`$ とは次の関係があります。

$`\quad {\bf Poly}_K({\bf 1}, X) \cong \mrm{UPoly}_K(X) \In {\bf Set}`$

これは定義から明らかです。

$`\quad {\bf Poly}_K({\bf 1}, X)\\
= \mrm{Map}({\bf 1}, \mrm{UPoly}_K(X) )\\
\cong \mrm{UPoly}_K(X)\\
\quad \In {\bf Set}
`$

$`\mrm{UPoly}_K(X)`$ は(忘却関手をかましているので)単なる集合ですが、忘却した$`K`$-可換環の構造を思い出すと、次の同型になります。

$`\quad {\bf Poly}_K({\bf 1}, X) \cong \mrm{Poly}_K(X) \In K\text{-}{\bf CRng}`$

前節で述べたことから、次の同型もあります。($`{\bf 0}`$ は空集合 $`\emptyset`$ の別表記です。)

$`\quad {\bf Poly}_K(X, {\bf 0}) \cong \u{K}^X = \mrm{Map}(X, \u{K}) \In {\bf Set}`$

$`p:X \to Y \In {\bf Poly}_K`$ から誘導される $`{\bf Poly}_K(\hyp, p)`$ を $`p_*`$ と略記し、$`{\bf Poly}(p, \hyp)`$ を $`p^*`$ と略記することにします。特に次が重要です。

$`\quad p_*: {\bf Poly}({\bf 1}, X) \to {\bf Poly}({\bf 1}, Y) \In {\bf Set}\\
\quad p^*: {\bf Poly}(Y, {\bf 0}) \to {\bf Poly}(X, {\bf 0}) \In {\bf Set}
`$

先に述べた同型から、次のようにみなせます。

$`\quad p_*: \mrm{UPoly}_K(X) \to \mrm{UPoly}_K(Y)\In {\bf Set}\\
\quad p^*: \u{K}^Y \to \u{K}^{X} \In {\bf Set}
`$

多項式代入射 $`p`$ を $`p_*`$ と解釈すれば、$`X`$-変数の多項式を$`Y`$-変数の多項式へと(変数変換により)前送りします。一方、多項式代入射 $`p`$ を $`p^*`$ と解釈すれば、$`Y`$-タプルを$`X`$-タプルへと(値の計算により)引き戻します。

$`p`$ を $`p^*`$ と解釈するなら、集合〈指標) $`X, Y`$ はタプル空間の座標軸(の名前)の集合と解釈できます。例えば、$`{\bf Poly}_K(X, {\bf 0})\cong \u{K}^X`$ は、$`X`$ の要素 $`x`$ 達でラベルされた座標軸達で“張られる”空間です。$`X`$-タプルはその空間の点です。したがって、$`p^*`$ は点を点に移す〈写す〉幾何的写像としての解釈です。

モデル集合関手

今扱っている多項式のインスティチューションの例では、セオリーの圏とアンビエントは同一で、どちらも $`K\text{-}{\bf CRng}`$ です。$`K\text{-}{\bf CRng}`$ は2-圏ではなくて1-圏なので、そのホム空間は1-圏ではなくて0-圏〈集合〉です。モデル圏関手〈category-of-models functor〉は、モデル集合関手〈set-of-models functor〉と呼んだほうがいいでしょう*1

通常のモデル空間(圏となる)より次元が下がって集合〈0-圏〉になりますが、指標にモデル空間を対応させる関手の定義は同じです。

$`\text{For } X \in |{\bf Set}|\\
\text{For } R \in |K\text{-}{\bf CRng}|\\
\quad \mrm{Model}(X, R) := K\text{-}{\bf CRng}(\mrm{Poly}_K(X), R)`$

$`\mrm{Model}(X, R)`$ は、指標(実体は集合)$`X`$ の$`R`$-値のモデル達の集合です。記号の乱用で、$`R = (K, \varphi, R)`$ と略記しています。特別な指標に対するモデル集合を見ておくと:

$`\quad \mrm{Model}({\bf 0}, R) = K\text{-}{\bf CRng}(\mrm{Poly}_K({\bf 0}), R) = K\text{-}{\bf CRng}(K, R)\\
\quad \mrm{Model}({\bf 1}, R) = K\text{-}{\bf CRng}(\mrm{Poly}_K({\bf 1}), R) \cong K\text{-}{\bf CRng}(K[x], R)
`$

ここで、$`K[x]`$ はひとつの変数〈不定元〉$`x`$ から生成された$`K`$-係数一変数多項式環を表す略記です。

前節の代入の圏のホムセット $`{\bf Poly}_K(X, {\bf 0})`$ は“点の空間”を与えます。モデル集合 $`\mrm{Model}(X, R)`$ もやはり“点の空間”を(別な方法で)与えます。「モデルは点である」と考えてよいのです。事情を説明しましょう。

$`\mrm{Model}(X, R)`$ の要素を $`\mfr{a}`$ のようなちょっと変わったフォント(フラクトゥール体)で書くことにします。定義より、$`\mfr{a}`$ は次を満たします。

$`\text{For }f, g\in \mrm{Poly}_K(X)\\
\text{For }r \in K\\
\quad \mfr{a}(f + g) = \mfr{a}(f)+ \mfr{a}(g)\\
\quad \mfr{a}(f\cdot g) = \mfr{a}(f) \cdot \mfr{a}(g)\\
\quad \mfr{a}(rf) = r\mfr{a}(f)
`$

関数と引数の役割りを交換します。$`\mfr{a}(f)`$ は、実は $`f(\mfr{a})`$ のことだと思います。次のような“記号の乱用”をするわけです。

$`\quad \mfr{a}(f) = \mrm{ev}_\mfr{a}(f) = f(\mfr{a})`$

すると、先の$`K`$-可換環準同型射の法則は、点 $`\mfr{a}`$ における評価〈evaluation〉の法則になります。

$`\text{For }f, g\in \mrm{Poly}_K(X)\\
\text{For }r \in K\\
\quad (f + g)(\mfr{a}) = f(\mfr{a}) + g(\mfr{a})\\
\quad (f\cdot g)(\mfr{a}) = f(\mfr{a}) \cdot g(\mfr{a})\\
\quad (rf)(\mfr{a}) = r(f(\mfr{a}))
`$

$`\mrm{Poly}_K(X)`$ の要素は関数で、$`\mrm{Model}(X, R)`$ の要素は“$`R`$ に値をとる点”(むしろ、“$`R`$ に値をとらせる点”)とみなせます。$`K`$ に値をとる〈とらせる〉点の拡張になっています。

前節で定義した“空間の点” $`a\in {\bf Poly}_K(X, {\bf 0})`$ と、この節で定義した“空間の点” はどんな関係があるでしょう? $`a`$ は次のようでした。

$`\quad a: X \to {\bf 0} \In {\bf Poly}_K\\
\text{i.e.}\\
\quad a: X \to \mrm{UPoly}_K(X) \In {\bf Set}
`$

構文随伴系 $`\mrm{Poly}_K \dashv \mrm{UnderlSet}`$ のホムセット同型を使うと、$`a`$ から次の$`K`$-可換環準同型射が得られます。

$`\quad a' : \mrm{Poly}_K(X) \to K \In K\text{-}{\bf CRng}`$

ところで、$`\mfr{a}`$ は次のようでした。

$`\quad \mfr{a} : \mrm{Poly}_K(X) \to R \In K\text{-}{\bf CRng}`$

$`a'`$ と $`\mfr{a}`$ の形は似てますね。$`K`$-可換環 $`R`$ の構造射 $`\varphi : K \to R \In {\bf CRng}`$ を使って結びつければいいでしょう。$`\mfr{a}`$ を次のように定義します。

$`\quad \mfr{a} := a' ; \varphi : \mrm{Poly}_K(X) \to R \In K\text{-}{\bf CRng}`$

$`a\mapsto \mfr{a}`$ が“空間の点”から“空間の点”への写像を与えます。

$`\quad {\bf Poly}_K(X, {\bf 0}) \to \mrm{Model}(X, R) \In {\bf Set}`$

$`K`$-成分の$`X`$-タプルとして定義された点 $`a`$ は、多項式関数空間の$`R`$-値準同型射としての点 $`\mfr{a}`$ としても解釈できます。

モデルは点である」というキャッチフレーズは、ほんとのモデル、つまりモデル論の意味でのモデルに対しても通用します。次の18年以上前の記事を見てください。

多項式方程式

構文付き変換手インスティチューション 2/n 実例:モノイド」の最初の例は、生成元だけを持つ自由モノイドですが、ニ番目の例では生成元と等式的関係によりモノイド指標を定義しています。今回の多項式の例では、変数の集合が生成元の集合ですが、等式的関係を入れたらどうなるでしょうか?

多項式のインスティチューションにおいては、変数の集合 $`X`$ 上の等式的関係とは、連立の多項式方程式です。1個の方程式は2個の多項式を用いて $`p_1 = p_2`$ と書けますが、多項式の引き算が出来るので $`p_1 - p_2 = 0`$ と書けます。結局、1個の多項式 $`p`$ だけで $`p = 0`$ と書けます。したがって、多項式方程式は1個の多項式で表現できて、連立多項式方程式は多項式の集合で表現できます。

多項式方程式を備えた指標は $`(X, E)`$ の形に書けます。ここで、$`E \subseteq \mrm{Poly}_K(X)`$ です。指標 $`(X, E)`$ と指標 $`(Y, F)`$ のあいだの指標射は、変数の集合のあいだの写像 $`\varphi :X \to Y \In {\bf Set}`$ で、方程式の集合に関して次を満たすものです。

$`\quad \varphi_*(E) \subseteq F`$

$`\varphi_*`$ は、$`\varphi`$ を方程式の集合のあいだの写像へと“持ち上げた”ものです。持ち上げは、うまいこと作ります。

これで、多項式方程式が付いた指標〈変数集合〉の圏 $`{\bf PolyEqSet}`$ が定義できます。指標の圏を拡張したので、構文随伴系も次の形に拡張する必要があります。

$`\quad \xymatrix@C+1pc@R+1pc {
{\bf PolyEqSet} \ar@/^1pc/[r]^{\mrm{PolyQuo}_K}
\ar@{}[r]|{\bot}
& { K\text{-}{\bf CRng} } \ar@/^1pc/[l]^{\mrm{UnderlSet}}
} % adjunction
`$

$`\mrm{PolyQuo}( (X, E))`$ は、変数集合 $`X`$ から自由生成した$`K`$-係数$`X`$-変数の多項式環 $`\mrm{Poly}_K(X)`$ を、イデアル $`(E)`$ で割った剰余環 $`\mrm{Poly}_K(X)/(E)`$ です。

このような定義により、多項式方程式のインスティチューション(正確には構文付き変換手インスティチューション)が構成できます。多項式方程式のインスティチューションを詳しく調べるには、可換環論や代数幾何っぽい道具が必要そうなので、このへんでやめておきます。


前回も同じことを言ったけど、構文付き変換手インスティチューションの事例は、まだ色々あります。ローヴェアの代数セオリーやスピヴァックの関手データモデルも構文付き変換手インスティチューションの枠組みで記述できます。たぶん、まだ実例の紹介を続けるでしょう。

*1:「圏」をn-圏(n = 0, 1, 2, …)と解釈するなら「モデル圏」でもいいのですが、一般に、「圏」は1-圏と解釈するのが普通なので。