この2つの記事のネタ元と答をバラします。次の論文です。
- 題名: Characteristic 1, entropy and the absolute point
- URL: http://www.alainconnes.org/docs/Jamifine.pdf
著者(共著)はアラン・コンヌ(Alain Connes)です。すごくえらい人には敬称が付けにくいので、原則「コンヌ」と記しますが、敬称を付けるときは「御大」ということで。
Characteristic 1, entropy and the absolute point について書きたいことはまだあるんですが、とりあえずはパズルの答を。
掛け算から足し算を作る方法は、上記論文に驚くほどバカ丁寧に書いてあります。予備知識を少なくしようと、大変な気の使いようです。が、おそらくTeXのマクロに埋め込まれている日付を直してないのでしょう、今年(2010年)の論文なのに、日付は1997年。そのへんはコンヌ御大、まったく気を使ってないようです。
アラズモガナかも知れないけど、以下にコンヌ&コンサニ論文の引き写しをします。原文と微妙に違っていますが、本質的な違いはありません。
まずはサクセッサの公理を再掲します。掛け算は「×」を省略して並べる(ときに空白をはさむ)だけ、xの逆数はx'と記しています。
- [sの公理1] sは全単射である。
- [sの公理2] s(0) = 1
- [sの公理3] s(x s(yx')) = x s(s(y)x')
このなかで、全単射性は引き算を作るときに必要なだけなので、「引き算いらね」として[sの公理1]を使うのはやめます。
以下、定義する足し算を A(x, y) と書きます。
- [Aの定義1] y = 0 のときは、A(x, y) := x
- [Aの定義2] y ≠ 0 のときは、A(x, y) := y s(xy')
y ≠ 0 ならば、y'(yの逆数)は存在するので、Aはwell-definedです。
上記のごとく定義したAに対して、次を示します。
- [結合律] A(A(x, y), z) = A(x, A(y, z))
- [単位律] A(x, 0) = x
- [可換律] A(x, y) = A(y, x)
- [分配律] x A(y, z) = A(xy, xz)
単位律
[Aの定義1]から即座に、A(x, 0) = x は出ます。特に、A(0, 0) = 0 です。可換律があれば、A(0, x) = A(x, 0) = x ですが、可換律がなくても、[Aの定義2]から、A(0, y) = y s(0 y') = y s(0) = y 1 = y となり、他の法則に頼らなくても次は成立します。
- A(x, 0) = A(0, x) = x
分配律
分配律は意外に簡単です。
z = 0 のケース:
x A(y, z)
= x A(y, 0)
// [Aの定義1]
= x y
A(xy, xz)
= A(xy, x 0)
// x 0 = 0
= A(xy, 0)
// [Aの定義1]
= xyよって、
x A(y, z) = A(xy, xz)
z ≠ 0 のケース:
x A(y, z)
// [Aの定義2]
= xz s(yz')
// yz' = x(yz')x' を使う
= xz s(xyz'x')
// z'x' = (xz)'
= (xz)s(xy(xz)')
// [Aの定義2]を逆向きにたどる
= A(xy, xz)
可換律
[sの公理3] s(x s(yx')) = x s(s(y)x') のyを0にすると:
- s(x s(0)) = x s(s(0) x')
[sの公理2] s(0) = 1 と使えば:
- s(x) = x s(x')
この公式を使って可換律を示します。y = 0 のときの A(y, x) = A(x, y) は単位律から自明です。単位律は可換律に依存してないので、ここで単位律を使ってもOK。
y ≠ 0 と仮定して:A(x, y)
// [Aの定義2]
= y s(xy')
// 上の公式
= y (xy')s((xy')')
// 結合律と (xy')' = x'y
= yxy' s(x'y)
// yxy' = xyy' = x と可換律
= x s(yx')
// [Aの定義2]
= A(y, x)
結合律
結合律が一番難しいです。まずは予備的な計算。
x ≠ 0 を仮定して:A(A(x, y), z)
// [可換律]
= A(A(y, x), z)
// [Aの定義2]
= A(x s(yx'), z)
// [Aの定義2]
= z s(x s(yx') z')
// z'の位置を変える
= z s(xz' s(yx'))
z ≠ 0 を仮定して:A(x, A(y, z))
// [可換律]
= A(A(y, z), x)
// [Aの定義2]
= A(z s(yz'), x)
// [Aの定義2]
= x s(z s(yz') x')
// zの位置を変える
= x s(s(yz') zx')
x, zがゼロになる特殊ケースは別に扱うことにして、x ≠ 0 and z ≠ 0 を仮定した上で次が示せればいいことになります。
- z s(xz' s(yx')) = x s(s(yz') zx')
[sの公理3]を記号を変えて再掲すると:
- s(X s(YX')) = X s(s(Y)X')
X := xz', Y := yz' と置くと、YX' = (yz')(xz')' = yz'zx' = yx' なので:
- s(xz' s(yx')) = xz' s(s(yz') zx')
この等式の両辺にzを掛ければ求める等式となります。特殊ケースは個別に確認してみてください。