x-y-平面において、座標軸上の四点 $`(1, 0), (0, 1), (-1, 0), (0, -1)`$ を順に結んで閉じるとひし形(正方形)ができます。このひし形は、次のようにしても作り出せます; 二点 $`(1, 0), (0, 1)`$ を結ぶ線分は第一象限にあります。この線分を、x軸、y軸に対する線対称、原点に対する点対称でコピーして、それらのコピーを寄せ集めるとひし形。
ひし形のような対称性を持つ図形は、第一象限にある部分だけで決定されてしまう、と言えます。このことを、一般的な群作用のセットアップのもとで示してみます。今回は割と丁寧に書いています。$`
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`$
内容:
平面での例
次の4つの行列を考えます。
- $`\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 1\end{pmatrix}`$
- $`\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & -1\end{pmatrix}`$
- $`\begin{pmatrix}-1 & 0 \\ 0 & 1\end{pmatrix}`$
- $`\begin{pmatrix}-1 & 0 \\ 0 & -1\end{pmatrix}`$
これらは行列の掛け算により群を形成します。この群を $`\mrm{CRG}(2)`$ と名付けましょう。CRG は Canonical Reflectoin Group からです。この群の要素は鏡映〈reflection | mirror image〉変換だからです。座標軸に対する線対称変換と原点に対する点対称変換を集めた群が $`\mrm{CRG}(2)`$ です。
平面図形 $`A\subseteq \mbf{R}^2`$ が、$`\mrm{CRG}(2)`$-対称〈$`\mrm{CRG}(2)`$-{symmetric | symmetrical}〉だとは次のことです。
$`\quad \forall g\in \mrm{CRG}(2).\, gA = A`$
ここで、$`gA`$ の定義は:
$`\quad gA := \{y \in \mbf{R}^2 \mid \exists x\in A. gx = y\}`$
併置 $`gx`$ は行列 $`g`$ とベクトル $`x`$ の積です。
$`\mrm{CRG}(2)`$-対称な図形の例に円周 $`S^1`$ があります。
$`\quad S^1 := \{(x, y)\in \mbf{R}^2 \mid x^2 + y^2 = 1\}`$
冒頭で述べた“ひし形”(の境界線だけ)も$`\mrm{CRG}(2)`$-対称な図形です。
$`\quad \{(x, y)\in \mbf{R}^2 \mid |x| + |y| = 1\}`$
$`\mrm{CRG}(2)`$-対称な図形と第一象限(x, y-座標がともに非負の領域) $`\mbf{P}`$ 内の任意の図形は一対一対応します。$`A`$ を$`\mrm{CRG}(2)`$-対称な図形、$`B`$ を第一象限内の任意の図形として、一対一対応を与える写像は:
$`\quad A \mapsto A\cap \mbf{P}\\
\quad B \mapsto \bigcup_{g\in \mrm{CRG}(2)} g B
`$
以下で、このことをもっと一般的に述べましょう。
群作用
群作用については以下の過去記事を参照してください。
$`(G, X, \alpha)`$ は、左群作用とします。左にしたのは、行列とベクトルの掛け算の左右とあわせるためです(他意はない)。
$`\alpha`$ の中置演算子記号は $`\la`$ としましょう。$`\sim_\alpha`$ は、群作用が定義する $`X`$ 上の同値関係だとして、$`\sim_\alpha`$ による商集合を $`Y = X/\sim_\alpha`$ (軌道空間)とします。そして、$`\pi`$ は商集合への標準射影です。
$`\quad \pi : X \to Y`$
$`\pi`$ は全射なので、セクション(代表元の選択関数)が存在します。セクションをひとつ選んで $`s`$ とします。
$`\quad s : Y \to X\\
\quad \text{where } s;\pi = \mrm{id}_Y
`$
さらに、
$`\quad P := \mrm{Img}(s) \subseteq X`$
と置きます。$`\mrm{Img}(\hyp)`$ は、写像の像集合です。定義より、$`P \cong Y`$ 、$`P`$ は、商集合 $`Y`$ の $`X`$ 内の部分集合としての“実現”です。商集合は抽象的でわかりにくいですが、部分集合はより具体的です。
$`A\in \mrm{Pow}(X)`$ が $`G`$-対称〈$`G`$-{symmetric | symmetrical} 〉であることは、前節の $`\mrm{CRG}(2)`$ の場合と同様に定義します。$`G`$-対称な部分集合達の集合を $`\mrm{Pow}(X)^G`$ とします。
ちなみに、$`\mrm{Pow}(X)^G`$ の要素は、$`G`$ の作用を $`\mrm{Pow}(X)`$ に持ち上げた作用を考えた場合に、$`G`$ のすべての要素〈群元〉に対する不動点になっています。
何を言いたいのか
最初の節で述べた平面図形の例は、群作用が次の状況でした。
- $`G = \mrm{CRG}(2)`$
- $`X = \mbf{R}^2`$
- $`\alpha = (\la) = \text{行列とベクトルの掛け算}`$
- $`P = \text{第一象限}`$
平面図形に関して成立していた次の命題を一般化したいのです。
- $`\mrm{CRG}(2)`$-対称な平面図形と、第一象限内の任意の図形は一対一対応する。
一般化した命題は次の形にまります。
$`\quad \mrm{Pow}(X)^G \cong \mrm{Pow}(P)`$
補題を2つ
補題(1)
まず、次を示します。
- $`G`$-対称な部分集合 $`A \in \mrm{Pow}(X)^G`$ の任意の要素 $`x\in A`$ は、適当な $`g\in G`$ と $`y\in (A\cap P)`$ を使って $`x = g\la y`$ と書ける。
要素の話をしているので、$`A \ne \emptyset`$ は暗に仮定しています。$`A`$ が空であっても、命題が偽になるわけでもないです。
$`x\in A`$ に対して、$`y := s(\pi(x))`$ と置きます。$`\pi, s, P`$ の定義から $`y\in P`$ は言えます。また、定義から $`x \sim_\alpha y`$ なので、適当な $`g\in G`$ があって、$`x = g\la y`$ と書けます。
$`y = g^{-1}\la x`$ と書けて、$`x\in A`$ なので、$`A`$ の $`G`$-対称性から $`y\in A`$ 、つまり、$`y`$ は $`y\in (A\cap P)`$ も満たす要素です。
補題(2)
どんな $`g\in G`$ に対しても、次の条件がすべて同時に成立することはありません。
- $`x, y \in P`$
- $`x \ne y`$
- $`g\la x = y`$
このことを示します。
$`x`$ が $`g`$ の不動点の場合 $`g\la x = x`$ です。このとき、二番は $`x \ne x`$ となり絶対に(一番とは無関係に)成立しません。
$`x`$ が $`g`$ の不動点でないなら $`g\la x \ne x`$ です。したがって、二番と三番は同時に成立しています。一番が成立するかどうかが問題になります。一番も成立している(全部同時に成立している)と仮定して矛盾を導きましょう。
三番 $`g\la x = y`$ から $`x \sim_\alpha y`$ が言えます。$`x`$ と $`y`$ は同じ同値類に属するので、$`\pi(x) = \pi(y)`$ が成立します。セクション $`s`$ を適用すれば:
$`\quad s(\pi(x) ) = s(\pi(y) )`$
一番 $`x, y\in P`$ のもとでは、($`P \cong Y\text{ by }\pi, s`$ なので)次が成立します。
- $`\quad s(\pi(x) ) = x`$
- $`\quad s(\pi(y) ) = y`$
これから、$`x = y`$ が出ますが、二番 $`x \ne y`$ と矛盾します。
今示したことは次のように書けます。
$`\quad \lnot (\text{一番} \land \text{二番} \land \text{三番})`$
論理ANDの結合性・可換性とド・モルガンの法則により
$`\quad \lnot (\text{一番} \land \text{三番}) \lor \lnot \text{二番}`$
古典論理の含意の定義から
$`\quad (\text{一番} \land \text{三番}) \Imp \lnot \text{二番}`$
中身を展開して書き下すと:
$`\quad (x, y\in P \land g\la x = y) \Imp x = y`$
$`g, x, y`$ は任意だった(特に条件が付いてなかった)ので、
$`\quad \forall g\in G.\forall x, y\in X.\left( (x, y\in P \land g\la x = y) \Imp x = y \right)`$
形を変えてみると:
$`\quad \forall g\in G.\forall x, y\in P.\left( g\la x = y \Imp x = y \right)`$
あるいは:
$`\quad \forall x, y\in P.\forall g\in G.\left( g\la x = y \Imp x = y \right)`$
2つの写像の定義と同型性
以下で、2つの写像の片方である $`g`$ と、群 $`G`$ の要素 $`g`$ に、同じ記号 $`g`$ を使ってしまい、完全にコンフリクト〈かち合い〉してます。
書いてる本人は、無意識に「写像の $`g`$ 」と「群元の $`g`$」を心のなかで区別していて、なんの違和感もなくコンフリクトに気づくこともなかったんです。
修正はせずに、名前・記号のコンフリクトがいかに容易に生じるかのサンプルとしてそのまま残しておきます。(「修正するのめんどくさい」の別な言い方。)
練習問題として、出現する $`g`$ が「写像の $`g`$ 」か「群元の $`g`$」を識別してみてください。僕がなんの違和感もなかったくらいですから、文脈から識別できるはずです。
[/追記]
次のような写像 $`f, g`$ を定義します。
$`\quad f: \mrm{Pow}(X)^G \to \mrm{Pow}(P)\\
\quad g: \mrm{Pow}(P) \to \mrm{Pow}(X)^G
`$
定義は、平面図形の場合と同じです。
$`\text{For } A\in \mrm{Pow}(X)^G\\
\quad f(A) := A \cap P
`$
$`\text{For } B\in \mrm{Pow}(P)\\
\quad g(B) := \bigcup_{g\in G} g\la B
`$
ここで、$`g\la B`$ は、
$`\quad g\la B := \{y\in X \mid \exists x\in B.\, g\la x = y \}`$
示したいことは、$`f, g`$ が互いに逆で、同型 $`\mrm{Pow}(X)^G \cong \mrm{Pow}(P)`$ を与えることです。このことは次のように書けます。
$`\quad \forall A\in \mrm{Pow}(X)^G.\, g(f(A)) = A\\
\quad \forall B\in \mrm{Pow}(P).\, f(g(B)) = B
`$
もっとブレークダウンすれば:
- $`g(f(A)) \subseteq A`$
- $`A \subseteq g(f(A))`$
- $`f(g(B)) \subseteq B`$
- $`B \subseteq f(g(B))`$
$`g`$ のコンフリクト問題: なんで“なんの違和感もなかった”のか? これは、$`f,g`$ という写像のペアと、$`g`$ という群元が出現するスコープ/レベルがまったく違うので、'$`g`$' という文字としては同じでも、まったく別物の名前と認識していたからでしょう。
群作用 $`(G, X, \alpha)`$ が与えられている状況では、写像 $`f, g`$ は一意に決定します。つまり、$`f, g`$ は比較的に外側のスコープ/レベルに居る定数名です。それに対して、$`g\in G`$ の $`g`$ は狭いスコープの変数、しかも多くは束縛変数として登場します。束縛変数は(好ましくはありませんが)外側の自由変数(変数だが通常「定数」と呼ぶ)と同名でもかまいません。
$`f, g`$ とはまったく違った文字、例えば $`\Phi,\Psi`$ とか使えば良かったと反省してますが、行きがかり上「そんなこともあるでしょ」と言いわけしておきます。
[/さらに追記]
同型性の証明
前節最後の4つの命題を順に証明していきましょう。$`A\in \mrm{Pow}(X)^G`$ と $`B\in \mrm{Pow}(P)`$ は仮定してます。
一番: $`g(f(A)) \subseteq A`$
$`f, g`$ の定義に基づいて展開すると、一番の命題は次です。
$`\quad \bigcup_{g\in G}\left( g\la(A\cap P) \right) \subseteq A`$
$`y\in \bigcup_{g\in G}\left( g\la(A\cap P) \right)`$ であることは、適当な $`g\in G, x\in (A\cap P)`$ により $`y = g\la x`$ と書けることです。$`A`$ は $`G`$-対称な部分集合だったので、$`x\in A`$ ならば $`g\la x \in A`$ なので、次は成立します。
$`\quad y\in \bigcup_{g\in G}\left( g\la(A\cap P) \right) \Imp y \in A`$
これが示すべきことでした。
二番: $`A \subseteq g(f(A))`$
$`f, g`$ の定義に基づいて展開すると:
$`\quad A \subseteq \bigcup_{g\in G}\left( g\la(A\cap P) \right)`$
要素に関する命題は:
$`\quad x\in A \Imp x\in \bigcup_{g\in G}\left( g\la(A\cap P) \right)`$
この命題は補題(1)です。補題(1)は既に示しています。
三番: $`f(g(B)) \subseteq B`$
$`f, g`$ の定義に基づいて展開すると、三番の命題は次です。
$`\quad \left( (\bigcup_{g\in G} B)\cap P \right) \subseteq B`$
要素に関する命題は:
$`\quad y\in \left( (\bigcup_{g\in G} B)\cap P \right) \Imp y \in B`$
$`y\in \left( (\bigcup_{g\in G} B)\cap P \right)`$ は次を意味します。
- $`y\in P`$
- 適当な $`g\in G`$ と $`x\in B`$ により $`y = g\la x`$ と書ける。
$`y\in P`$ に対して適当な $`g, x`$ を選んではいるのですが、選び方がどうであれ、次が言えてます。
- $`x \in P`$ ($`x\in B`$ と $`B\subseteq P`$ より)
- $`y \in P`$
- $`g \in G`$
- $`y = g\la x`$
補題(2)から、$`x = y`$ が出ます。$`x\in B`$ なので、当然ながら($`x = y`$ だから) $`y \in B`$ です。
つまり、$`y\in \left( (\bigcup_{g\in G} B)\cap P \right)`$ から $`y \in B`$ が出ます。これで、目的の命題は示せました。
四番: $`B \subseteq f(g(B))`$
$`f, g`$ の定義に基づいて展開すると:
$`\quad B \subseteq \left( (\bigcup_{g\in G} B)\cap P \right)`$
$`B \subseteq P`$ だったことと、$`B \subseteq (\bigcup_{g\in G} B)`$ を思い出せば、この命題は言えます。
応用: CRG(n) の作用
冒頭と最初の節の平面の例を、次元 n に一般化します。
$`\mbf{S} = \{1, -1\}`$ として、普通の掛け算により群とみなします。単位元は $`1`$ です。
$`\quad \mbf{S} = (\mbf{S}, \cdot, 1)\; \in |\mbf{Grp}|`$
群 $`\mbf{S}`$ の $`n`$ 個のコピーを直積に組んだ直積群 $`\mbf{S}^n`$ を考えます。群 $`\mbf{S}^n`$ の要素は、$`1`$ か $`-1`$ を $`n`$ 個並べた列です。
$`\vec{\sigma}\in \mbf{S}^n`$ に対して、$`\mrm{diag}(\vec{\sigma})`$ は対角成分が
$`\quad \vec{\sigma} =(\sigma_1, \cdots, \sigma_n)`$
である $`n`$ 次対角行列とします。
写像 $`\mrm{diag} : \mbf{S}^n \to \mrm{GL}(n)`$ は、群の準同型写像になります。$`\mrm{GL}(n)`$ は、$`n`$ 次正則行列の群です。$`\mrm{diag}`$ は単射なので、群 $`\mbf{S}^n`$ を行列群の部分群と同一視して、それを $`\mrm{CRG}(n)`$ と書きます。これは $`\mrm{CRG(2)}`$ の一般化です。
平面の場合と同様に考えて、群 $`\mrm{CRG}(n)`$ は $`n`$ 次元ユークリッド空間 $`\mbf{R}^n`$ に左作用します。このセットアップでも、すべての座標〈成分〉が非負である領域 $`(\mbf{R}_{\ge 0} )^n`$ は、一般論の $`P`$ の役割を演じます。
高次元の第一象限である $`(\mbf{R}_{\ge 0} )^n`$ の任意の部分集合と、$`\mrm{CRG}(n)`$-対称な部分集合は一対一対応します。その特別な例として、(n -1)次元の標準単体と、絶対値の総和ノルムのノルム球面が対応します。
$`\quad \Delta^{n-1} \longleftrightarrow \{x\in \mbf{R}^n \mid |x_1| + \cdots + |x_n| = 1 \}\\
\quad \text{where }\Delta^{n-1} := \{x\in (\mbf{R}_{\ge 0})^n \mid x_1 + \cdots + x_n = 1 \}
`$