最近の2回、バタニン・ツリーの記事を書きました。
これは、今年の5月頃の話題の蒸し返しです。
バタニン・ツリーに関連してよく出てくるキーワードを幾つか選んでみます。
- 球体集合
- ペースティング図
- ペースティングスキーム
- 高次圏/無限圏
- 指標
- コンピュータッド
この記事では、これらのキーワードのなかで特に球体集合についてザッと紹介します。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\mbf}[1]{\mathbf{#1}}
\newcommand{\mfk}[1]{\mathfrak{#1}}
%\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\In}{ \text{ in } }
%\newcommand{\On}{ \text{ on } }
%\newcommand{\id}{\mathrm{id} }
\newcommand{\op}{\mathrm{op} }
%\newcommand{\Iff}{\Leftrightarrow }
\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
\newcommand{\T}[1]{\text{#1} }
%\newcommand{\EL}{\varepsilon} % Empty List
%\newcommand{\Cons}{\mathop{\blacktriangleright} }
%\newcommand{\Snoc}{\mathop{\blacktriangleleft} }
%\newcommand{\Apnd}{\mathop{\#} }
%\newcommand{\BCons}{\mathop{\|\!\blacktriangleright} }
\newcommand{\dimU}[2]{ {{#1}\!\updownarrow^{#2}} }
\newcommand{\NFSum}[3]{ \mathop{^{#1} \!\overset{#2}{+}\,\!^{#3} } }
`$
内容:
球体集合
球体集合は、「指標の話: 形状の記述と形状付き集合 // 形状付き集合」で述べた形状付き集合〈shaped set〉の一種です。形状付き集合とは、形状スキーマ〈shape schema〉という(役割り名の)圏から集合圏への関手です。
一般論の説明には、「圏論で使う「図式」と「形状」// 記法の一案」で述べた記法を使うことにします。$`\mfk{s}`$ を形状スキーマ(という役割りを持つ)圏として、共変関手 $`X:\mfk{s} \to \mbf{Set}`$ を次のように呼びます(すべて同義語)。
- $`\mfk{s}`$-形状付き集合〈$`\mfk{s}`$-shaped set〉
- $`\mfk{s}`$-形状の集合
- $`\mfk{s}`$-形集合
- $`\mfk{s}`$-集合〈$`\mfk{s}`$-set〉
$`\mfk{s}`$-集合の圏〈category of $`\mfk{s}`$-sets 〉とは、関手圏〈余前層の圏〉$`[\mfk{s}, \mbf{Set}]`$ です。関手圏〈余前層の圏〉を、次のようにも書きます。
$`\quad \mfk{s}\T{-}\mbf{Set} := [\mfk{s}, \mbf{Set}] = \mbf{Set}^{\mfk{s}} = \mbf{CAT}(\mfk{s}, \mbf{Set})`$
これは、スピヴァック達が使用しているハイフン記法です(「指標の話: 形状の記述と形状付き集合 // 形状付き集合」参照)。ハイフン記法で表される圏の対象は共変関手であることに注意してください。
具体的な圏 $`\mbf{G}`$ を以下のように定義します。
- $`|\mbf{G}| = \mbf{N}`$
- $`i \in \mbf{N}`$ ごとに、生成射 $`s_i, t_i : i + 1 \to i`$
- $`s_i, t_i`$ 達で生成された自由圏に次の関係を入れる。
- $`s_{i + 1}; s_i = t_{n+1}; s_i`$
- $`s_{i + 1}; t_i = t_{n+1}; t_i`$
圏 $`\mbf{G}`$ を逆行球体圏〈inverse globe category〉と呼びます。逆行球体圏は、後で出てくる順行球体圏〈direct globe category〉の反対圏です。逆行球体圏も順行球体圏もどちらも球体圏と呼ぶのが普通で、混乱の原因になっています(次々節で説明)。
逆行球体圏の定義に出てくる関係は、次のように呼ばれます。
- 球体{関係{式}? | 恒等式 | 方程式 | 法則}〈globular {relation | equation | law}〉
球体集合の圏〈category of globular sets〉とは、$`\mbf{G}`$-形状付き集合の圏 $`\mbf{G}\T{-}\mbf{Set}`$ のことです。別な書き方をすると:
$`\quad \mbf{G}\T{-}\mbf{Set} = [\mbf{G}, \mbf{Set}] = \mbf{Set}^{\mbf{G}} = \mbf{CAT}(\mbf{G}, \mbf{Set})`$
球体集合の圏は、集合圏への共変関手〈共変図式〉の圏です。共変関手の圏は余前層の圏ともいいます。先に“球体集合の圏”を定義したので、圏 $`\mbf{G}\T{-}\mbf{Set}`$ の対象が球体集合〈globular set〉だ、ということになります。
球体集合 $`X: \mbf{G}\to \mbf{Set}`$ に関して、次の用語を使います。
- 集合 $`X_n = X(n)`$ の要素を$`n`$次元の球体セル〈globular cell of dimension n〉
- 写像 $`X(s_n) : X_{n+1} \to X_n`$ をソース写像〈source map〉
- 写像 $`X(t_n) : X_{n+1} \to X_n`$ をターゲット写像〈target map〉
- ソース写像とターゲット写像を総称して面写像〈face map〉
$`n`$次元の球体セルは、短く$`n`$-セル〈$`n`$-cell 〉とも呼びます。
ソース写像とターゲット写像 $`X(s_n), X(t_n)`$ を、しばしば単に $`s_n, t_n`$ とも書くので注意してください。
略記や記号の乱用で区別しにくいかも知れませんが、以下のモノは別物です。
- 逆行球体圏の対象 $`n\in |\mbf{G}|`$
- 共変関手 $`X`$ の値である集合 $`X_n = X(n) \in |\mbf{Set}|`$
- $`n`$-セル $`c \in X_n`$
以下のモノも別物です。
- 逆行球体圏の射 $`s_n, t_n`$
- 共変関手 $`X`$ の値である写像 $`X(s_n), X(t_n)`$
球体関係式は、逆行球体圏の定義の一部ですが、共変関手 $`X`$ に関しては、関手であることから集合圏で以下の等式が成立します。
- $`X(s_{i + 1}); X(s_i) = X(t_{n+1}); X(s_i) \In \mbf{Set}`$
- $`X(s_{i + 1}); X(t_i) = X(t_{n+1}); X(t_i) \In \mbf{Set}`$
これら集合圏の等式も球体関係式と呼びますが、逆行球体圏 $`\mbf{G}`$ における等式と、集合圏 $`\mbf{Set}`$ における等式は別な等式です。
$`i \ge 2`$ に対して $`X_i = \emptyset`$ である球体集合 $`X`$ は、次の構成素だけで決まります。
- $`X_0 \in |\mbf{Set}|`$
- $`X_1 \in |\mbf{Set}|`$
- $`X(s_0) : X_1 \to X_0 \In \mbf{Set}`$
- $`X(t_0) : X_1 \to X_0 \In \mbf{Set}`$
この $`X`$ は有向グラフです。逆に言うと、球体集合は、有向グラフの多次元への一般化です。
次の図は、ドット、アロー、ダブルアローで描いた球体集合 $`X`$ の一例です。
$`\quad \xymatrix@C+1pc{
A
\ar@/^1.2pc/[r]^{f}_{\alpha\,\Downarrow}
\ar[r]|{f'}
\ar@/_1.2pc/[r]^{\beta\, \Uparrow}_{f''}
&B
&C
\ar[l]^{g}
&D
\ar@(ul, ur)[0,0]^h
}`$
$`A, B, C, D`$ は0-セル、$`f, f', f'', g, h`$ は1-セル、$`\alpha, \beta`$ は2-セルです。球体集合が圏〈高次圏〉の構造を持てば、「セル」よりはむしろ「射」と呼ぶことになるでしょう。
$`\quad X_0 =\{A, B, C, D\}`$
$`\quad X_1 =\{f, f', f'', g, h\}`$
$`\quad X_2 =\{\alpha, \beta \}`$
面写像(ソース写像とターゲット写像)は以下のようです。記号の乱用で、面写像を $`s_i, t_i\:(i = 0, 1)`$ と書きます。
$`\quad s_0 = \{f \mapsto A, f' \mapsto A, f'' \mapsto A, g\mapsto C, h\mapsto D\}`$
$`\quad t_0 = \{f \mapsto B, f' \mapsto B, f'' \mapsto B, g\mapsto B, h\mapsto D\}`$
$`\quad s_1 = \{\alpha \mapsto f, \beta \mapsto f''\}`$
$`\quad t_1 = \{\alpha \mapsto f', \beta \mapsto f'\}`$
図を描かずに球体集合を表すには指標〈signature〉の構文が便利です。指標の名前は、球体集合の名前と同じにしています。
$`\T{signature } X \: \{\\
\quad \T{0-cell }A, B, C, D\\
\quad \T{1-cell }f, f', f'' : A\to B\\
\quad \T{1-cell }g : C\to B\\
\quad \T{1-cell }h : D\to D\\
\quad \T{2-cell } \alpha :: f \twoto f'\\
\quad \T{2-cell } \beta :: f'' \twoto f'\\
\}
`$
組み合わせ幾何
球体集合に関して、「球体」「球面」「円板」「境界」のような幾何的用語が使われます。それは、我々が球体集合に対して何かしらの図形的なイメージを持つからでしょう。実際前節のように、球体集合を絵で描きますし。
球体集合を“ほんとの図形”だとみなすこともできます。“ほんとの図形”とは位相空間のことです。球体集合の圏 $`\mbf{G}\T{-}\mbf{Set}`$ から位相空間(と連続写像)の圏 $`\mbf{Top}`$ への関手が作れます。
$`\quad \mrm{Geom} : \mbf{G}\T{-}\mbf{Set} \to \mbf{Top}\In \mbf{CAT}`$
関手 $`\mrm{Geom}`$ は幾何{的}?実現〈geometric realization〉と呼ばれ、我々が直感的にいだいている“ほんとの図形”を構成します。球体集合 $`X`$ の幾何実現 $`\mrm{Geom}(X) \in |\mbf{Top}|`$ は、とある点集合を台〈carrier | underlying set〉とする位相空間です。
というわけで、球体集合は位相空間としての側面を確かに持つのですが、通常は、台となる点集合は考えません。n次元の球体セルは、単に集合 $`X_n`$ の要素として取り扱います。その要素が点集合を持つとは考えません。n-セルを単なるアトミックな要素だとみなして、点集合や位相空間を捨て去った“幾何学”を組み合わせ幾何〈combinatorial geometry〉と呼ぶことにします。
組み合わせ幾何では位相的方法*1は使いません。組み合わせ的・代数的な方法を使います。グラフ理論は、1次元までの組み合わせ図形を扱う組み合わせ幾何だと言えます。球体集合の理論は、有向グラフの高次元への一般化である組み合わせ図形を扱う組み合わせ幾何です。
組み合わせ幾何では、建前として幾何実現は使わないのですが、気持ちの上では幾何実現のイメージを持っています。絵を描いて説明したり考えたりしているのがその証拠です。インフォーマルには幾何実現に頼っていると言えます。
そもそも、圏論的には単なる関手を球体集合と呼んでいる時点で、「球体」のような幾何的イメージをインフォーマルには前提しているのです(本音と建前の違い)。形状付き集合には、球体集合以外に“単体集合”、“方体集合”、“演算体集合〈opetopic set〉”などがあります。これらの形状付き集合の形状スキーマはそれぞれ、単体圏〈simplex category〉、方体圏〈cube category〉、演算体圏〈opetope category〉です。
nLabの用語法に従えば、形状スキーマは“高次構造の幾何形状達の圏”です。現時点では、用語法が整理されてないことは、次のnLabエントリーのタイトルのバラツキからも察せられるでしょう。
形状付き集合(実体は単なる関手)を共変とするか反変とするかの恣意的選択も用語法・記法を混乱させています(次節で説明)。
共変か反変か(混乱の原因)
形状付き集合は、圏論の一般論で言えば単なる関手に過ぎません。
一般論 | 暗黙に図形的イメージ |
---|---|
関手 | 形状付き集合 |
関手の域圏 | 形状スキーマ |
関手の余域圏 | 集合圏に固定 |
関手には共変関手と反変関手があります。形状付き集合を共変関手とするか? それとも反変関手とするか? 別にどっちでもかまいません。どっちでもかまわないので、人により選択がバラバラ(恣意的、偶発的)です。どっちが多数派かと言えば、おそらく反変関手が多数派です。
この記事の今までの話では、球体集合 $`X:\mbf{G}\to \mbf{Set}`$ は共変関手〈共変図式〉でした。ここから先、反変関手の場合も考えます。
圏 $`\mbf{G}`$ の反対圏を $`\mbf{g}`$ とします。次の関係があります。
- $`\mbf{g} = \mbf{G}^\op`$
- $`\mbf{G} = \mbf{g}^\op`$
- $`|\mbf{G}| = |\mbf{g}|`$
- $`\mrm{Mor}(\mbf{G}) = \mrm{Mor}(\mbf{g})`$
射の向き以外は $`\mbf{G}`$ と $`\mbf{g}`$ は同じです。ですから、「まー、区別しなくてもいいだろう」となるのですが、これが混乱の原因です。こんがらかります。
次は事実です。
- $`\mbf{G}`$ と $`\mbf{g}`$ は同じ圏ではない。違うモノとして区別する必要がある。
- 集合としては $`\mrm{Mor}(\mbf{G}) = \mrm{Mor}(\mbf{g})`$ だが、射の向き(域と余域の指定)まで考えると、$`\mbf{G}`$ の射と $`\mbf{g}`$ の射は区別すべきである。
- 集合として $`|\mbf{G}| = |\mbf{g}|`$ であるし、対象は向きを持たないので、$`\mbf{G}`$ の対象と $`\mbf{g}`$ の対象を区別する必要はない。が、「異なる圏の対象だから」という理由で区別してもよい。
ここでは、$`\mbf{G}`$ の対象と $`\mbf{g}`$ の対象は区別せず(自然数になる)、$`\mbf{G}`$ の射と $`\mbf{g}`$ の射はラテン文字とギリシャ文字で区別します。
- $`s_i, t_i : i + 1 \to i \In \mbf{G}`$
- $`\sigma_i, \tau_i : i \to i + 1 \In \mbf{g}`$
形状スキーマ($`\mbf{G}, \mbf{g}`$ は形状付き集合の形状スキーマ)の射は「アロー」と呼び、集合圏の射は「写像」と呼んで区別することにします。形状スキーマのアローと対応する写像の呼び名は:
- $`s_i, t_i`$ は、ソースアロー、ターゲットアローと呼ぶ。総称して面アロー。
- $`\sigma_i, \tau_i`$ は、余ソースアロー〈cosource arrow〉、余ターゲットアロー〈cotarget arrow〉と呼ぶ。総称して余面アロー〈coface arrow〉。
- 共変球体集合 $`X`$ に対して、$`X(s_i), X(t_i)`$ は、ソース写像、ターゲット写像と呼ぶ。総称して面写像。
- 反変球体集合 $`Y`$ に対して、$`Y(\sigma_i), Y(\tau_i)`$ も、ソース写像、ターゲット写像と呼ぶ。総称して面写像。
- $`\mbf{G}`$ の定義に使われる面アローのあいだの関係式は球体関係式
- $`\mbf{g}`$ の定義に使われる余面アローの関係式は余球体関係式〈coglobular relation〉
- 共変球体集合でも反変球体集合でも、面写像のあいだの関係式(写像のあいだの等式)は球体関係式
上記は、球体集合が共変か反変かで区別した用語ですが、区別されないこともよくあります。例えば、ソースアロー $`s_i`$ と余ソースアロー $`\sigma_i`$ とソース写像 $`X(s_i), Y(\sigma_i)`$ が区別されない呼び名や記法が使われることがあります。
圏 $`\mbf{G}`$ もその反対圏 $`\mbf{g}`$ も、どちらも球体集合の形状スキーマ(関手の域圏のこと)ですが、圏の種別としては(自明な次元関数を添えて)リーディ圏になります(「圏論で使う「図式」と「形状」 // リーディ圏」参照)。圏 $`\mbf{G}`$ を逆行球体圏と呼んだのは、リーディ圏として逆行リーディ圏だからです。一方、反対圏である $`\mbf{g}`$ は順行リーディ圏なので順行球体圏〈direct globe category〉です。ただし、逆行球体圏と順行球体圏を区別することはほとんどなく、区別なしに球体圏〈globe category〉と呼びます。
反対圏と反変関手の定義はバカみたいに簡単ですが、実際に「反対」「反変」が出てくるとこんがらかります。これはけっこう深刻な問題で、以下の過去記事で対策を議論しています。
- 層化ストリング図 // 裏返し反変関手 -- rev記法を導入
- 反対圏/反変関手と、2-圏のストリング図 -- プラスマイナス記法を導入
- 反対圏と反変関手はややこしい 右肩の op(...) 記法を導入、上矢印記法も導入したが、後でオーバーライン記法に置き換えた。
- 状態遷移系としての前層・余前層・プロ関手 -- オーバーライン記法を導入
米田埋め込みとプレックス
球体集合の定義を反変関手とするほうが多数派なのは、おそらく米田埋め込みのセッティングが反変関手だからでしょう。圏 $`\mbf{g}`$ の米田埋め込みは次の形です。
$`{^\mbf{g}よ} : \mbf{g} \to [\mbf{g}^\op , \mbf{Set}] \In \mbf{CAT}`$
$`\mbf{g}`$ の米田埋め込み $`{^\mbf{g}よ}`$ は共変関手です。順行球体圏 $`\mbf{g}`$ 反変関手〈前層〉の圏 $`[\mbf{g}^\op , \mbf{Set}]`$ に共変的に埋め込めるのです。
順行球体圏の対象(つまり自然数) $`i\in |\mbf{g}|`$ に対して、米田埋め込みの像〈値〉は:
$`\quad {^\mbf{g}よ}^i \in |[\mbf{g}^\op , \mbf{Set}]|\\
\text{i.e. } {^\mbf{g}よ}^i \in |\mbf{G}\T{-}\mbf{Set}| \\
\text{i.e. } {^\mbf{g}よ}^i : \mbf{g}^\op \to \mbf{Set} \In \mbf{CAT}
`$
この $`{^\mbf{g}よ}^i`$ を、$`i\T{-}\mbf{g}`$-プレックス〈$`i\T{-}\mbf{g}`$-plex〉と呼びます。$`\mbf{g}`$ が了解されているなら、単に$`i`$-プレックス〈$`i`$-plex〉と呼びます(「指標の話: 形状の記述と形状付き集合」参照)。プレックスは、順行球体圏に対して定義された言葉なので、逆行球体圏 $`\mbf{G}`$ に対しては $`i\T{-}\mbf{G}`$-余プレックス〈$`i\T{-}\mbf{G}`$-coplex〉と呼ぶべきかも知れません。が、そこまで呼び分けてはいないようです。
「バタニン・ツリーの参考資料/参考文献」で紹介している論文では、プレックスを円板〈disk〉と呼ぶのが多数派です。プレックスを球体〈globe〉と呼ぶ例も見ましたが、誤解が生じそうで好ましくないと思います。
球体集合の$`i`$-プレックス〈$`i`$-円板〉は球体集合の$`i`$-セルとは別な概念です。$`i`$-プレックスはそれ自体が立派な球体集合(関手)ですが、$`i`$-セルは球体集合の“関手としての値である集合”の要素に過ぎません。関手とその値、値である集合とその要素はまったくの別物ですから区別しましょう。
おわりに
モノイドは、集合を土台〈carrier | underlying thing〉として、その上に演算と法則を載せて定義される代数系です。同様に1-圏は、有向グラフを土台として、その上に演算と法則を載せて定義される代数系です。高次圏も同様に定義したいとき、土台になるのが球体集合です。高次圏(無限圏も含める)は、球体集合を土台として、その上に演算と法則を載せて定義される代数系なのです。
集合は0次元の球体集合であり、有向グラフは1次元の球体集合です。1-圏論に対する集合論とグラフ理論に相当する基礎理論が、高次圏に対する球体集合の理論なのです。球体以外の形状をベースとするアプローチもありますが、球体が一番単純な形状なので、構成しやすい/計算しやすいというメリットがあります。
*1:多様体や距離空間の方法も、広い意味では位相的方法だとします。