このブログの更新は Twitterアカウント @m_hiyama で通知されます。
Follow @m_hiyama

メールでのご連絡は hiyama{at}chimaira{dot}org まで。

はじめてのメールはスパムと判定されることがあります。最初は、信頼されているドメインから差し障りのない文面を送っていただけると、スパムと判定されにくいと思います。

参照用 記事

キュリアの絵算

絵算したい人のためにオススメする3つのストリング図解説 (とオマケ)」において、ピエル-ルイ・キュリア(Pierre-Louis Curien)の "The Joy of String Diagrams"(http://hal.archives-ouvertes.fr/docs/00/69/71/15/PDF/csl-2008.pdf)について、「圏論がある程度わかったら、ストリング図入門の最初に読むのにいいと思います。」と言ったのですが、これは取り消します

最初に読むにはちょっと難しいです。10ページと短いのがいいかな、と思ったのですが、短すぎて説明が端折りまくりでした。序文で "Using graphical notations is undoubtedly joyful" (絵図を使うのは、まったくもって楽しいぜ)と書いてますが、その楽しい雰囲気とキュリアが工夫したところを伝えるのが目的で、丁寧な説明にはなってませんね。

「絵算したい人のためにオススメする3つのストリング図解説 (とオマケ)」のオマケとして紹介した次のテキストに詳しい説明があります。

第2章が"String Diagrams"です。第2章だけでも56ページあるので、あまりお手軽とは言えませんけど。

キュリアの方法(キュリアのオリジナルかどうかは分かりませんが)の特徴の1つは、自然変換の計算と射の計算を混ぜてしまうことです。最初は戸惑うのですが、慣れてしまうととても便利です。アイレンベルク/ムーア圏の構成などは、この方法で見通しが良くなります。

明示的なイコールノード(explicit equality node)の導入とか、別な圏の図を箱に閉じ込めて入れ子にする描き方とかもキュリアの工夫です(似たことは他の人もやってますが)。

ホム関手や前層の議論もストリング図で行なってますが、ここらへんは、テキスト記法を図に引き写した感じがして、図の威力が発揮されているかどうか疑問です。テキスト(記号)と絵図のハイブリッド方式でもっと工夫する余地がありそうです。

ところで、2次元の圏の交替律(interchange law)を、キュリアは「Godementの規則」*1と呼んでいるのですが、あんまり一般的じゃないような。むしろ、比喩で出している「エレベーター移動」が分かりやすく印象的でいいですね。「横に並んだ何基かのエレベーターの配置はどれもすべて同値だ」という主張になります。このエレベーター法則は、自然変換の“自然さ”の表現でもあります。

絵算には、標準も委員会もありません。だからみんなバラバラなんですが、一方で、それぞれが工夫をすることで進化するメリットもあります。色を使ったり、アニメーション化/3D化したり(サーフェイス図)、テキスト記法とのハイブリッドなど、まだまだバリエーションが出てくるでしょう。

Using graphical notations is undoubtedly joyful.

*1:[追記]Godementの発音は「グッドモン」に近いかな? → http://ja.forvo.com/search/Godement/ [/追記]