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参照用 記事

主バンドル:ツイスト構成とフレーム構成

ローレンス・ブリーン〈Lawrence Breen〉の次の論文の最初だけ眺めてみました。 %
\newcommand{\R}{ {\bf R} } % Real
\newcommand{\u}[1]{ \underline{#1} } % underline
\newcommand{\In}{ \text{ in } } %
\newcommand{\id}{ \mathrm{id} } %
\newcommand{\hyp}{ \text{-} } %
\newcommand{\Iff}{ \Leftrightarrow } %
\newcommand{\cat}[1]{ \mathcal{ #1 } } %
\newcommand{\grp}[1]{ \mathcal{ #1 } } %
\newcommand{\wh}[1]{ \widehat{ #1 } } %
%
\require{color}
\newcommand{\Keyword}[1]{\textcolor{green}{#1} }%
\newcommand{\For}{\Keyword{ \text{For } } }%
\newcommand{\Let}{\Keyword{ \text{Let } } }%
\newcommand{\Where}{ \Keyword{\text{Where } } }%

ブリーンは、主バンドル*1から同伴バンドルを作る構成法を一般的・抽象的なセッティングで定式化しています。すごく面白いアイディアだと思いますが、どんな状況でも適用できるわけじゃないです。適用可能性の条件が書いてないんですよね。そこで、適用可能性の条件を追加したうえで、ブリーンが述べているアイディア*2の概要を説明します。

内容:

言葉と書き方の約束

圏の名前は次のようにします。

M多様体とします*4M 上のバンドル〈ファイバーバンドル〉の圏を {\bf Bdl}[M] とします。2つのバンドル E = (\u{E}, M, \pi_E), F = (\u{F}, M, \pi_F) のあいだの射は、底空間を動かさない〈identity-on-base な〉バンドル射で、次の可換図式で示せます。下線の意味については「多様体とバンドルのボキャブラリ (1) 基本記法 // 構造と台構造、エラボレーション」を見てください。

\require{AMScd}
\begin{CD}
\u{E} @>f>> \u{F} \\
@V{\pi_E}VV @VV{\pi_F}V \\
M     @=    M
\end{CD}\\
\text{commutatieve in }{\bf Man}

今回話題にするのは、{\bf Bdl}[M] の部分圏(より正確な定義は後述)です。例えば、ベクトルバンドルの圏 {\bf VectBdl}[M] はそのような圏です。

一般的な圏 \cat{C} に対して、次の定義をします*5A, B \in |\cat{C}| として:

  • Iso_{\cat{C}}(A, B) := \{f\in \cat{C}(A, B) \mid f \text{ is-isomorphism} \}
  • Aut_{\cat{C}}(A) := (Iso_{\cat{C}}\, に群構造を入れた群)

 Aut_{\cat{C}}(A)\in |{\bf Grp}| となります。より正確に書けば:

  •  Aut_{\cat{C}}(A) = (\u{Aut_{\cat{C}}(A)}, \circ, \id_A)
  •  \u{Aut_{\cat{C}}(A)} = Iso_{\cat{C}}(A, A)

注意すべきは、 Aut_{\cat{C}}(A) は集合圏ベースの圏であり、圏 \cat{C} 内の群〈内部群 | 群対象〉ではない(正確には「とは限らない」)ことです。圏 \cat{C} 内の群対象を定義するには、\cat{C} が対角射と終射(の族)を持つ対称モノイド圏 \cat{C} = (\cat{C}, \otimes, I, \alpha, \lambda, \rho, \Delta, !)(記号の乱用)である必要があります。そのとき、\cat{C} 内の群対象とは次のような G です。

  • G = (\u{G}, m, e, s)
  • \u{G} \in |\cat{C}| : 台対象
  • m:\u{G}\otimes \u{G} \to \u{G} \In \cat{C} : 乗法
  • e:I \to \u{G} \In \cat{C} : 単位
  • s:\u{G} \to \u{G} \In \cat{C} : 逆元
  • これらが群の法則を満たす。

群の法則は可換図式で書けます。例えば、m(x, s(x)) = e は次の可換図式になります。セミコロンは、射の図式順結合記号です。


\begin{CD}
\u{G}               @>{\Delta_{\u{G}}}>>   \u{G}\otimes\u{G} \\
@V{!_{\u{G}}; e}VV                         @VV{\id_{\u{G}} \otimes s}V \\
\u{G}               @<{m}<<                \u{G}\otimes \u{G}
\end{CD}\\
\text{commutative in }{\cat{C}}

 Aut_{\cat{C}}(A) は集合圏内に居る群({\bf Grp} の対象)で、(多くの場合は) \cat{C} の外部に存在する群です。適切なメカニズムで、 Aut_{\cat{C}}(A) の内部版が作れたとき、それを内部オート群〈internal aut-group〉と呼び、小文字で aut_{\cat{C}}(A) と書きます。iso_{\cat{C}}(A, B) も同様で、これは内部アイソ対象〈internal iso-object〉です。

ブリーンの構成法*6は、内部オート群と内部アイソ対象を使っているのですが、そのことがハッキリとは書いてないようです。

群バンドル

ここでは、“群”として通常の群({\bf Grp} の対象)ではなくて、圏 {\bf Bdl}[M] 内の群対象〈内部群〉を考えます。記法がちょっと面倒になりますが、群対象〈内部群〉を \grp{G} と書いて、群対象の台対象〈台バンドル〉を G とします。G \in |{\bf Bdl}[M]| です。以下のように書けます。ここで、Grp(\cat{C}) は圏 \cat{C} 内の群対象〈内部群〉の圏です。\times_M はバンドルのファイバー積、{\bf 1}_M は一点ファイバーの自明バンドルです。

  1. \grp{G} = (\u{\grp{G}}, m, e, s) \In |Grp({\bf Bdl}[M])|
  2. \u{\grp{G}} = G \in |{\bf Bdl}[M]|
  3.  G = (\u{G}, M, \pi_G) \in  |{\bf Bdl}[M]|
  4.  m:G \times_M G \to G \In {\bf Bdl}[M]
  5.  e:{\bf 1}_M \to G \In {\bf Bdl}[M]
  6.  s:G \to G \In {\bf Bdl}[M]

これらの素材〈stuff | constituent〉が群の公理を満たすことは可換図式で書けます。前節の例と同じ法則の、今のセッティングにおける可換図式は次のようです。


\begin{CD}
\u{\grp{G}}               @>{\Delta_{\u{\grp{G}}}}>>   \u{\grp{G}}\times_M\u{\grp{G}} \\
@V{!_{\u{\grp{G}}}; e}VV                         @VV{\id_{\u{\grp{G}}} \otimes s}V \\
\u{\grp{G}}               @<{m}<<                \u{\grp{G}}\times_M \u{\grp{G}}
\end{CD}\\
\text{commutative in }{\bf Bdl[M] }

次の三者は別物ですが、記号の乱用によりあまり区別しないことがあります。

  1. \grp{G}\in |Grp({\bf Bdl}[M])|
  2. \u{\grp{G}} = G \in |{\bf Bdl}[M]|
  3.  \u{G} \in |{\bf Man}|

{\bf Bdl}[M] 内の群対象〈内部群〉を、(M 上の)群バンドル〈bundle of groups〉と呼びます。

群バンドルは、通常の群 H を直積して作った自明バンドル \pi_1: M\times H \to M と大差ないので言及されないことが多いのですが、単なる群より群バンドルを使ったほうが統一的な記述ができます。なお、群バンドルを単に「群」と呼んでしまうこともあります。

群作用付きバンドル

ここから先では、記号の乱用を使って、群バンドルを G = (G, m, e, s) のように書きます。さらに、G = (G, M, \pi) という乱用もするので、G は“群バンドル/群バンドルの台バンドル/台バンドルの全空間”の3つの意味で使われます。(g, g')\in G\times_M G に対して m(g, g) =: g g',\, s(g) =: g^{-1} のように略記します。

バンドル A\in {\bf Bdl}[M] に対する群バンドル G右作用〈right action〉とは次のような射です('ra'でひとつの記号です)。

  • ra:A \times_M G \to A \In {\bf Bdl}[M]

これは右作用の公理を満たします。要素と等式を使って書けば:

  1.  ra(a, g  g') = ra( ra(a, g), g') \text{ for }(a, g, g')\in A\times_M G \times_M G
  2.  ra(a, e) = a \text{ for } a\in A

ra(a, g) =: a\cdot g という略記を使えば:

  1.  a\cdot( g  g') = (a \cdot g)\cdot g' \text{ for }(a, g, g')\in A\times_M G \times_M G
  2.  a\cdot e = a \text{ for } a\in A

もちろん、法則は可換図式でも書けます。一番目の法則なら:

\xymatrix {
  {} %1
  &{(A\times_M G) \times_M G } %2
      \ar[dl]_-{ra \times_M \id_G }
      \ar[rr]^-{\alpha_{A, G, G} }
  &{} %3
  &{A\times_M (G \times_M G) } %4
        \ar[dr]^-{\id_G  \times_M m }
  &{} %5
\\
  {A\times_M G} %1
    \ar[drr]_{ra }
  &{} %2
  &{} %3
  &{} %4
  &{A\times_M G } %5
      \ar[dll]^{ra}
\\
  {} %1
  &{} %2
  &{A} %3
  &{} %4
  &{} %5
}\\
\text{commutative in }{\bf Bdl}[M]

二番目の法則はもっと簡単です。

右作用を持つバンドルを A = (A, G, ra_A) (記号の乱用)と書き、右作用付きバンドル〈bundle with right G-action〉と呼びます。2つの右作用付きバンドル A = (A, G, ra_A), B = (B, G, ra_B) のあいだの射 f:A \to B は次の図式を可換にするものとして定義します。


\begin{CD}
 A\times_M G  @>{f \times_M \id_G}>> B\times_M G \\
 @V{ ra_A }VV                        @VV{ra_B}V \\
 A            @>{f}>>                B
\end{CD}\\
\text{commutatiev in }{\bf Bdl}[M]

群バンドル G による右作用付きバンドルとそのあいだの射からなる圏を G\hyp{\bf RActBdl}[M] とします。

G-左作用付きバンドルの圏 G\hyp{\bf LActBdl}[M] も同様に定義できます。

右作用付きバンドルと左作用付きバンドルの縮約積

ブリーンの構成の秀逸なところは、縮約積〈contracted product〉という操作を基本に据えていることでしょう。ここでは、縮約積の特殊な場合だけを扱います。

GM 上の群バンドルとします(i.e. G \in |Grp({\bf Bdl}[M])|)。 G-右作用付きバンドルの圏と G-左作用付きバンドルの圏の直積圏からの、(G に関する)縮約積〈conracted product〉という双関手〈二項関手〉を定義します。

  • ContProd^G:G\hyp{\bf RActBdl}[M] \times G\hyp{\bf LActBdl}[M] \to {\bf Bdl}[M]

A \in |G\hyp{\bf RActBdl}[M]|, B\in |G\hyp{\bf LActBdl}[M]| に対して、まずは集合としての ContProd^G(A, B) を定義します。


ContProd^G(A, B) := (A\times_M B)/ \sim \\
\text{where}\\
\quad (a\cdot g, b) \sim (a, g\cdot b)\text{ for some }g\in G

以下、ブリーンがそうしているように、 ContProd^G(A, B) =: A\wedge^G B と略記します。

A\wedge^G B に位相を入れるのは比較的簡単です。が、さらに多様体、バンドルになることを示す必要があります。そしてさらに (\hyp \wedge^G \hyp ) = ContProd^G(\hyp, \hyp) が双関手であることも示すとなると、けっこうな手間です。詳細は割愛しますが、結果的に (\hyp \wedge^G \hyp ) は双関手になります(ハイフンについては「多様体とバンドルのボキャブラリ (1) 基本記法 // ラムダ記法と簡略ラムダ記法」参照)。

今の設定では、(\hyp \wedge^G \hyp ) はモノイド積ではありません。また、縮約積の結果である A\wedge^G B にはもはやG-作用はありません。単なるバンドルです。

主バンドルとツイスト

G-作用付きバンドル (P, G, ra_P) が次の条件を満たすとき、G-主バンドル〈right G-principal bundle〉と呼びます。

  • \langle\pi_1, ra\rangle :P\times_M G \to P \times_M P が可逆である。

\langle\pi_1, ra\rangle\Delta;(\pi_1 \times_M ra) とも書けます。この射の逆射 \langle\pi_1, ra\rangle^{-1}: P \times_M P \to P\times_M G の第二成分 \langle\pi_1, ra\rangle^{-1};\pi_2 を次のように書きます。

  • P\times_M P \ni (p, q) \mapsto p\backslash q \in G

p\backslash q の意味は「点 p を 点 q へと移動させる唯一の群元」です。定義から次が成立します。

  • p\cdot (p\backslash q) = q

G-主バンドル〈leftt G-principal bundle〉も同様に定義できます。左作用のときは、次の記法になります。

  • P\times_M P \ni (p, q) \mapsto q/p \in G
  •  (q/p)\cdot p = q

G-主バンドルの圏と左G-主バンドルの圏が定義できます。次の書き方をします。

  • G\hyp{\bf RPrinBdl}[M] \subseteq G\hyp{\bf RActBdl}[M]
  • G\hyp{\bf LPrinBdl}[M] \subseteq G\hyp{\bf LActBdl}[M]

主バンドルとの縮約積を特別扱いして、主バンドルによるツイスト〈twist | twisting〉と呼びます。ツイストの左右をどう呼び分けるかは悩みますが、右作用付きバンドルと左主バンドルの縮約積を右ツイスト〈right twist〉、左作用付きバンドルと右主バンドルの縮約積を左ツイスト〈right twist〉とします。

  • RTw^G = ConcProd^G : G\hyp{\bf RActBdl}[M] \times G\hyp{\bf LPrinBdl}[M] \to {\bf Bdl}[M]
  • LTw^G = ConcProd^G : G\hyp{\bf RPrinBdl}[M] \times G\hyp{\bf LActBdl}[M] \to {\bf Bdl}[M]

次の略記を採用します(これもブリーンの記法)。

  •  RTw^G(A, P) =: A^P = A \wedge^G P
  •  LTw^G(Q, B) =: {^Q B} = Q \wedge^G B

双関手〈二項関手 | 2引数関手〉RTw^G, LTw^Gツイスト構成〈twist construction〉とも呼びます。2つの変項〈引数〉の片方を固定した関手も同じくツイスト構成と呼びます。右二項ツイスト構成から作られる単行関手は次の2つです。

  •  (\hyp)^P : G\hyp{\bf RActBdl}[M] \to {\bf Bdl}[M]
  •  A^{(\hyp)} : G\hyp{\bf LPrinBdl}[M] \to {\bf Bdl}[M]

ツイスト構成は、主バンドルから同伴バンドルを作る操作の一般化になっています。

内部化可能なバンドル圏

前節の関手  A^{(\hyp)} : G\hyp{\bf LPrinBdl}[M] \to {\bf Bdl}[M] の逆  {\bf Bdl}[M] \to G\hyp{\bf LPrinBdl}[M] は存在するでしょうか? 一般には逆は期待できません。逆が構成できるような状況設定をします。

 {\bf Bdl}[M] の“適切な”部分圏 \cat{B} を考えます。この圏は単なる部分圏より複雑な構造を持っています。それは次のような構造です。

  • \cat{B} {\bf Bdl}[M]-豊饒圏〈豊穣圏 | enriched category〉である。豊饒圏としてのホム対象を hom_{\cat{B}}(\hyp, \hyp) と書く。豊饒圏としての結合と恒等は comp^{\cat{B}}_{\hyp, \hyp, \hyp}\quad id^{\cat{B}}_\hyp と書く。
  • |\cat{B}| \subseteq |{\bf Bdl}[M]|

A, B\in |\cat{B}| \subseteq {\bf Bdl}[M] に対して、hom_{\cat{B}}(A, B) \in |{\bf Bdl}[M]| となります。\cat{B} は豊饒圏であり、通常の圏ではありませんが、次のホムセット定義により通常の圏とみなせます。

  • Hom_{\cat{B}}(A, B) := {\bf Bdl}[M]({\bf 1}_M, hom_{\cat{B}}(A, B))

Hom_{\cat{B}}(A, B) は集合であり、豊饒圏の構造を使って通常の圏構造(次の結合と恒等)を構成できます。

  • Comp^{\cat{B}}_{A, B, C}: Hom_{\cat{B}}(A, B)\times Hom_{\cat{B}}(B, C) \to Hom_{\cat{B}}(A, C) \In {\bf Set}
  • Id^{\cat{B}}_{A}: {\bf 1} \to Hom_{\cat{B}}(A, A) \In {\bf Set}

以上で、圏 \cat{B} は豊饒圏でもあり通常の圏でもあるとみなすことができます。しかし、これだけだと親の圏 {\bf Bdl}[M] との関係がハッキリしません。\cat{B}{\bf Bdl}[M] の部分圏とみなす系統的な方法が必要です。それが関手 J: \cat{B} \to {\bf Bdl}[M] で与えられるとします。次の条件を課します。

  • J は対象に対しては恒等である〈identity-on-object〉。
  • ホムセットごとの写像 J_{A, B}:Hom_{\cat{B}}(A, B) \to {\bf Bdl}[M](A, B) \In {\bf Set}単射である。

Hom_{\cat{B}}(A, B) は、定義からバンドルのセクションの集合です。よって、J_{A, B} は次のような写像でもあります。

  • J_{A, B}:\Gamma_M(hom_{\cat{B}}(A, B) ) \to {\bf Bdl}[M](A, B) \In {\bf Set}

J により {\bf Bld}[M] に埋め込まれた像圏はホントの部分圏です。この部分圏を単に \cat{B} と書きます。

  • \cat{B}(A, B) := J_{A,B}(Hom_{\cat{B}}(A, B)) \subseteq {\bf Bdl}[M](A, B)

以上に述べたような構造を持つ圏 \cat{B}内部化可能なバンドル圏〈internalizable {bundle cateogry | category of bundles}〉と呼ぶことにします。

内部化可能なバンドル圏 \cat{B} の実例としては、ベクトルバンドルの圏 \cat{B} = {\bf VectBdl}[M] があります。内部化可能なバンドル圏のホムセットには3種類があります

  1. 内部ホムセット=ホムバンドル: hom_{\cat{B}}(A,B) \in |{\bf Bdl}[M]|
  2. セクションの集合: \Gamma_M(hom_{\cat{B}}(A,B)) = Hom_{\cat{B}}(A, B)
  3. 通常のホムセット: \cat{B}(A, B) = J_{A, B}( \Gamma_M(hom_{\cat{B}}(A,B)) ) \subseteq {\bf Bdl}[M](A, B)

ベクトルバンドルの場合にこれらの違いを考えてみるといいと思います。

フレーム構成

前節冒頭で言った、ツイスト構成の逆について考えます。\cat{B} \subseteq {\bf Bdl}[M] を内部化可能なバンドル圏とします。\cat{B} をさらにその部分圏に制限すると、ツイスト構成の逆を構成できます。逆構成をフレーム構成と呼びます。フレーム構成は、ベクトルバンドルの場合にはよく知られた構成法です。

A, B\in |\cat{B}| が同型なバンドルのとき、ホムバンドル hom_{\cat{B}}(A, B) の部分バンドルとして iso_{\cat{B}}(A, B) \subseteq hom_{\cat{B}}(A, B) が取り出せるとします。特に、iso_{\cat{B}}(A, A) というバンドルを台対象〈underlying object〉とする群を構成できます。群の構成には、豊饒圏としての \cat{B} の内部結合や内部恒等を使います。出来上がった内部群を aut_{\cat{B}}(A) \in |Grp({\bf Bdl}[M])| と書きます。これが内部オート群〈internal aut-group〉です。

さて、T\in |\cat{B}| をひとつ任意に選んで固定します。 A \cong_{\mathrm{loc}} T の意味を次のように定義します。


\quad A \cong_{\mathrm{loc}} T \\ 
:\Iff \\
\quad \forall x\in M. \exists U\in Open(M).\\
\qquad x\in U \land (A|_U \cong T|_U \In \cat{B})

つまり、AT は局所的には〈locally〉同型だということです。大域的に同型とは限りません。

新しい圏 T\hyp Iso(\cat{B}) \subseteq \cat{B} を、T と局所同型なバンドル A \cong_{\mathrm{loc}} T だけを対象として、同型射だけを射とする部分圏として定義します。適当な群バンドル〈内部群〉 G を選ぶと、T\hyp Iso(\cat{B}) \to G\hyp{\bf LPrinBdl}[M] を構成できます。

まず、G := aut_{\cat{B}}(T) とします。今までの議論から、G は群バンドル〈内部群 | 群対象〉です。よって、G\hyp{\bf LPrinBdl}[M] は定義できます。次に、関手 Frame:T\hyp Iso(\cat{B}) \to G\hyp{\bf LPrinBdl}[M] を定義することにします。

対象 A\in |\cat{B}| に対しては、

  • Frame(A) := (iso_{\cat{B}}(T, A), G, la)

と定義します。laG = aut_{\cat{B}}(A) による左作用ですが、それは  comp^{\cat{B}}_{T,A,A} を逆順にしたもの(反図式順内部結合)で定義します。豊饒圏と内部群の議論から、これが実際に左作用になることがわかります。さらに頑張ると主バンドルであることも分かります。

f:A \to B \In T\hyp Iso(\cat{B}) に対する Frame(f) = f_*: Frame(A) \to Frame(B) は次の図式のように定義します。

\xymatrix{
  {A} \ar[r]^{f}
  &{B}
\\
  {T} \ar@{=}[r]
    \ar[u]^{Frame(A)\ni e}
  &{T}
    \ar[u]_{f_*(e) \in Frame(B)}
}

これは台対象〈バンドル〉のあいだの写像しか定義してませんが、G = aut_{\cat{B}}(A) による左作用とうまく協調することも分かるので、Frame(f) = f_* は主バンドルのあいだの射を定義します。T\hyp Iso(\cat{B})G\hyp{\bf PrinBdl}[M] も亜群(すべての射が可逆である圏)なので、Frame(f) = f_* は亜群のあいだの関手となります。この関手 Frame:T\hyp Iso(\cat{B}) \to G\hyp{\bf PrinBdl}[M]フレーム構成〈frame construction〉です。

フレーム構成の実例としては、\cat{B} = {\bf VectBdl}[M] として、T = (\pi_1 : M\times {\bf R}^k \to M) と、自明ベクトルバンドルを選んだときが典型的です。このときの群〈内部群 | 群バンドル〉は G \cong \grp{GL}(k) = (\pi_1: M\times GL(k) \to M) となります。よって、フレーム構成は次のようです。

  • Frame: Iso({\bf VectBdl}[M]_{rank = k}) \to \grp{GL}(k)\hyp{\bf PrincBdl}[M]

ここで、Iso({\bf VectBdl}[M]_{rank = k}) は、ランク(ファイバー次元)が k であるベクトルバンドルを対象として、ベクトルバンドル同型射を射とする亜群です。

おわりに

ブリーンの方法のアイディアはこんな感じです。詳細は省略しましたが、ブリーン自身の記述は結果しか書いてないので、それよりは丁寧だと思います。もっとも、ここで述べた内容はブリーンの記述にとっては前説・助走に過ぎず、主双バンドル〈principal bibundle〉(あるいは双トルソル〈bitorsor〉)が第1節の主題です。

主双バンドルというものを考えると、縮約積はより一般的に定義できます。主バンドルの理論は、主双バンドルと縮約積を使って書くとスッキリします。が、今日はここまで。

*1:ブリーンはトルソル〈torsor〉と呼んでいます。

*2:ブリーン自身のアイディアかどうかは不明です。

*3:境界や角〈corner〉の有る無しは気にしていません。

*4:ブリーンの枠組みは一般的なので、多様体に制限する必要は実はないです。

*5:ローマン体で \mathrm{Iso}_{\cat{C}}, \mathrm{Aut}_{\cat{C}} と書いたほうがいいでしょうが、面倒なのでデフォルトフォントのままです。

*6:ブリーンのオリジナルかどうかは問わないことにして「ブリーンの‥‥」と呼びます。