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参照用 記事

プッシュアウトによる半グラフ接合の定義

半グラフに関わる諸概念 // 半グラフの接合」において、マッチャー(「半グラフに関わる諸概念 // マッチャー」参照)を使った半グラフの接合の定義を与えました。もっとカッコイイ定義を思いつきました。$`\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\In}{\text{ in } }
\newcommand{\Glue}[3]{ \mathop{ \overset{#2}{_{#1} +_{#3}}} }
`$

$`\alpha, \beta`$ を半グラフとして、マッチャー $`m`$ による接合〈grafting〉は、

$`\quad \alpha \odot_m \beta`$

と書きました。「半グラフに関わる諸概念 // マッチャー」において、マッチャー〈matcher〉の定義を三種類与えました。そのなかのひとつは、左右の脚が単射であるスパンです。

$`\require{AMScd}
\quad \begin{CD}
\mrm{Tail}(\alpha) @<{l}<< I @>{r}>> \mrm{Tail}(\beta)
\end{CD}
`$

スパンとしてのマッチャーの情報を完全に書き込むと、半グラフの接合は次のように書けます。

$`\quad \alpha \,\mathop{ \overset{I}{_l \odot_m}} \beta`$

$`I = \emptyset`$ のときは直和になるので、接合は足し算の一般化だと思って、次の記法でもいいでしょう。

$`\quad \alpha \,\Glue{l}{I}{r} \beta`$

マッチャーにはスパンを使うとして、スパンの胴〈ボディ〉$`I`$ を単なる集合から半グラフ $`\gamma`$ にして、スパンの左右の脚も半グラフ射に変更します。するとマッチャーは次の形になります。

$`\quad
\begin{CD}
\gamma @>{r}>> \beta \\
@V{l}VV @.\\
\alpha @. {}
\end{CD}\\
\quad \In {\bf SemiGraphC}
`$

この形の図式に余極限があれば、その余極限対象を $`\alpha`$ と $`\beta`$ の接合と定義します。スパンの余極限はプッシュアウトというので、プッシュアウトによる接合の定義になります。

$`\quad
\begin{CD}
\gamma @>{r}>> \beta \\
@V{l}VV @VVV\\
\alpha @>>> {\alpha \,\Glue{l}{I}{r} \beta}
\end{CD}\\
\quad \text{pushout} \In {\bf SemiGraphC}
`$

接合を行うとき、マッチャーの左右の脚は埋め込みの場合が多いでしょう。埋め込みによる接合は貼り合わせ〈gluing〉とも呼びます。特に、エタール埋め込み〈etale embedding〉(次の段落参照)を使うと、$`\alpha, \beta`$ の構造を壊さずにきれいに貼り合わせができます。スパンの脚であるエタール埋め込みは“糊しろ”を与えます。

エタール埋め込みは、頂点のあいだの写像が単射であるエタール射です。半グラフのエタール射については「半グラフのあいだのエタール射」を参照してください。

特別な場合として、$`\alpha, \beta`$ がボリソフ/マニン半グラフの一点コンパクト化(「半グラフに関わる諸概念 // 半グラフの一点コンパクト化と一点削除」参照))だとします。$`\alpha`$ の任意の頂点を $`v`$ とします。$`v`$ の近傍カローラ(「半グラフのあいだのエタール射 // 半グラフのあいだのエタール射〉参照)と、$`\beta`$ の無限遠点 $`\infty`$ の近傍カローラが同型だとします。

このとき、近傍カローラの包含写像(当然にエタール埋め込み) $`l`$ とエタール埋め込み $`r`$ により次のスパンが構成できます。

$`\quad
\begin{CD}
\mrm{NbC}_\alpha(v) @>{r}>> \beta \\
@V{l}VV @.\\
\alpha @.
\end{CD}\\
\quad \In {\bf SemiGraphC}
`$

このスパン〈マッチャー〉の余極限対象を特にグラフ挿入〈graph insertion〉と呼びます。グラフ挿入は、半グラフ $`\alpha`$ の頂点 $`v`$ を半グラフ $`\beta`$ で置き換える操作になります。$`\beta`$ の無限遠点 $`\infty`$ は $`\beta`$ 全体を代表する便宜上の頂点です。

[追記]
上の定義だと、$`\alpha`$ の頂点 $`v`$ と $`\beta`$ の無限遠点 $`\infty`$ は同一視されますが、その同一視された頂点が結果の半グラフに残ってしまいます。具体的に構成されるグラフ挿入では、この頂点は残ってません。余分な頂点を取り除く操作が必要です。その話はまたいずれ。
[/追記]

挿入点である $`v`$ も明示して書くと、グラフ挿入(の結果)は次のように書けます。

$`\quad (\alpha, v) \Glue{l}{\gamma}{r} \beta \text{ where }\gamma := \mrm{NbC}_\alpha(v)`$

上記のことを次のように表現します。

  • $`(\alpha, v) \Glue{l}{\gamma}{r} \beta`$ is an insertion of $`\beta`$ into $`\alpha`$ at $`v`$ along $`r`$.
  • $`(\alpha, v) \Glue{l}{\gamma}{r} \beta`$ は、$`\alpha`$ への、$`r`$ に沿った、頂点 $`v`$ における $`\beta`$ のグラフ挿入である。

グラフ挿入は余極限なので、一意的に決まるわけではありません。しかし up-to-iso では一意に決まるので、グリフレベルでは確定した演算になります(グリフについては「半グラフに関わる諸概念 // 半グラフのグリフ〈抽象形状〉の可換モノイド」参照)。