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丹原プロ関手の二重圏、いやっ三重圏?

ヒューズ・アローと丹原プロ関手」では早とちりをやらかしてしまいました。丹原プロ関手を2-射〈二重射〉とする二重圏の(特別な形の)モノイドがヒューズ・アローになるかと思ったんですが、それは違うようです(追記の節「追記: 誤認と間違い」参照)。$`\newcommand{\dblcat}[1]{\mathbb{#1}}\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}`$

丹原プロ関手を2-射〈二重射〉とする二重圏が構成可能なことは、確認はしてないまでも(今のところ)間違いだとは思っていません。二重圏のなかでモノイドを考えるのも一般論なので問題はありません。

が、そうやって作った二重圏内のモノイドがヒューズ・アローなのか? これはどうも違うようです。$`\dblcat{Tamb}`$ 内のモノイドが実現できたとしても、それはヒューズ・アローとは違うナニカです。

ヒューズ・アローではないとして、それじゃ、ソレはいったん何なの? と。

それ以前に、「クダンの二重圏 $`\dblcat{Tamb}`$ が構成可能か?」も、未確認事項で課題です。$`\dblcat{Tamb}`$ が確実な存在になれば、そのなかでモノイドを作るのは(ソレが正体不明でも)手順としてはオーケイです。

二重圏 $`\dblcat{Tamb}`$ を考える際のひとつの指導原理は、次のようなアナロジーです。

  • 可換環 ←→ 対称モノイド圏
  • (可換とは限らない)環 ←→ モノイド圏
  • 加群 ←→ 加群圏〈アクテゴリー〉
  • 双加群 ←→ 双加群圏〈双アクテゴリー〉

二重圏の2-射〈二重射〉が何であるかは置いといて、代数学の意味での双加群が作る二重圏のフレーム(境界となる四辺形)は次のようになります。

$`\quad \xymatrix{
R \ar@{-->}[r]^M \ar[d]_{f}
& S \ar[d]^{g}
\\
R' \ar@{-->}[r]_{M'}
& S'
}`$

ここで、$`R, S, R', S'`$ は環で、$`f, g`$ は環のあいだの射、$`M, M'`$ は双加群〈両側加群〉です。この図の縦方向(二重圏のタイト方向)の結合は単なる射の結合です。横方向の結合は、双加群のテンソル積で与えられます。

$`\quad \xymatrix{
R \ar@{-->}[r]^M
& S \ar@{-->}[r]^N
& T
}`$

上の図で、$`M`$ は $`(R, S)`$-双加群、$`N`$ は $`(S, T)`$-双加群です。特に、$`M`$ は $`S`$-右加群で、$`N`$ は $`S`$-左加群です。共通の係数環 $`S`$ 上でのテンソル積 $`M\otimes_S N`$ が定義可能です。これに、$`R`$-左加群構造と$`T`$-右加群加群をアタッチすれば、$`(R,T)`$-双加群としての“$`M`$ と $`N`$ のテンソル積”が作れます。

双加群のテンソル積を作る手順は、圏論化〈categorification〉できるようです。以下の論文の p47, 4.4.3. Definition. にある“アクテゴリーのテンソル積”は、代数学の定義をなぞっています。

  • [CG22-23]
  • Title: Actegories for the Working Amthematician
  • Authors: Matteo Capucci, Bruno Gavranović
  • Submitted: 30 Mar 2022 (v1), 11 Dec 2023 (v2)
  • Pages: 92p
  • URL: https://arxiv.org/abs/2203.16351

テンソル積の定義は、線形代数の「双線形写像の線形化を与えるベクトル空間がテンソル積空間」という発想の延長線上だと言えます。しかし、2-圏のなかでの極限〈スード極限〉を使ったりしなくてはいけないので、議論は複雑化しています。だいぶシンドイ。

さて、2-射のフレームが分かったとして、2-射そのものは何でしょう。上記の代数学とのアナロジーだと、双加群構造を保つ関手となるでしょうが、「ヒューズ・アローと丹原プロ関手」ではテンソル強度を持つプロ関手にしています。これは、ブレイスウェイト/ロマン〈Dylan Braithwaite, Mario Román〉の論文(「ヒューズ・アローと丹原プロ関手」の[BR23-])にそう書いてあったし、(勘違いだったけど)ヒューズ・アローを実現するならテンソル強度は必須だと思っていたからです。

というわけで、クダンの二重圏の2-射は丹原プロ関手だとしましょう。ところが、丹原プロ関手はプロ関手なので、(テンソル強度と協調する)自然変換で繋ぐことができます。丹原プロ関手の両端の双加群圏は、“双加群圏射〈bimodule category homomorphism〉”とでも呼べる関手で繋ぐことができます。となると、以下のような四角形を作れるのではないか?

$`\quad \xymatrix{
\cat{C} \ar[r]^{\tau} \ar[d]_H
\ar@{}[dr]|{\Phi\,\Downarrow\:}
& \cat{C'} \ar[d]^{H'}
\\
\cat{D} \ar[r]_{\rho}
& \cat{D'}
}`$

ここで、$`\cat{C}, \cat{C'}, \cat{D}, \cat{D'}`$ は双加群圏、$`H, H'`$ は双加群圏射を与える関手、$`\tau, \rho`$ は丹原プロ関手、$`\Phi`$ は丹原プロ関手のあいだの自然変換です。

双加群圏の構造やテンソル強度などの付加的構造がくっついてはいますが、圏/関手/プロ関手/自然変換による四角形はお馴染みとも言えます。

上の図の上から下の方向は、二重圏が作る2次元平面とは“直交”しています。第三の方向ですね。仮にトランス方向〈trans direction〉と呼んでおきましょう。すると、タイト方向、プロ方向、トランス方向を持つ3次元的な構造が出現することになります。

3次元の圏類似代数系のなかに、0-射、1-射、2-射、3射で構成される六面体を考えることができます。以下の図で、左から右がタイト方向、破線矢印の斜め方向がプロ方向、上から下がタイト方向です。

$`\quad \xymatrix{
%1
{}
& \cat{N} \ar[rrr] \ar[dd]
\ar@{}[drr]|{\tau\,\Longrightarrow\:}
& {}
& {}
& \cat{N'} \ar[dd]
\\%2
\cat{M} \ar@{-->}[ur]^{\cat{C}} \ar[rrr] \ar[dd]
\ar@{}[dr]|{\:\Downarrow\,H}
& {}
& {}
& \cat{M'} \ar@{-->}[ur]_{\cat{C'}} \ar[dd]
\ar@{}[dr]|{\:\Downarrow\,H'}
& {}
\\%3
{}
& \cat{Q} \ar[rrr]
\ar@{}[drr]|{\rho\,\Longrightarrow\:}
& {}
& {}
& \cat{Q'}
\\%4
\cat{P} \ar@{-->}[ur]^{\cat{D}} \ar[rrr]
& {}
& {}
& \cat{P'} \ar@{-->}[ur]_{\cat{D'}}
& {}
}
`$

この六面体の構成素は次のようです。

  • 0-射: モノイド圏、六面体の8個の頂点
  • タイト1-射: モノイド関手、左から右へのラベルがない矢印
  • プロ1-射: 双加群圏、破線矢印
  • トランス1-射: モノイド関手、上から下へのラベルがない矢印
  • タイト-プロ2-射 : 丹原プロ関手、左から右への二重矢印
  • タイト-トランス2-射 : モノイド圏、モノイド関手、モノイド自然変換のクインテット、ラベルがない前面、背面の四角形
  • プロ-トランス2-射 : 双加群射を与える関手、上から下への二重矢印
  • 3-射: 丹原プロ関手のあいだの自然変換、明示的には描いてない

クインテットについては「2-圏からのクインテット構成で二重圏」を参照してください。

いまのところ僕の妄想ですが; このような3次元の圏類似代数系(三重圏?)が構成できれば、モノイド積、モノイド作用、テンソル強度を含む計算が自由にできる計算体系が手に入ります。既存の2次元の圏類似代数系を、3次元の構造の中に埋め込むことができるでしょう。

しかし、3次元の構造はだいぶ複雑で、見ただけで(食べる前から)おなかいっぱいだなぁ~。