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参照用 記事

カローラ:: n次元のタイル

カローラ:: n次元のメッシュ」で、カローラ・アプローチの基本概念であるメッシュについて説明しました。引き続きこの記事でも、カローラ・アプローチの基本概念を説明します。それはn次元タイルと呼ぶ概念です。タイルは図形(位相空間)ではなくて、とある条件を満たす連続写像のことです。タイルにより、模様が描かれた矩形や、部屋割りされた直方体を定式化します。

記事内で使う文字の色については「文字の色の約束(再確認)」を参照してください。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mbf}[1]{\mathbf{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
%\newcommand{\msf}[1]{\mathsf{#1}}
%\newcommand{\mbb}[1]{\mathbb{#1}}
%\newcommand{\mcal}[1]{\mathcal{#1}}
%\newcommand{\msc}[1]{\mathscr{#1}}
\newcommand{\u}[1]{\underline{#1} }
\newcommand{\In}{\text{ in } }
%\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\Imp}{\Rightarrow }
\newcommand{\T}[1]{ \text{#1} }
%\newcommand{\op}{\mathrm{op} }
%\newcommand{\id}{\mathrm{id} }
%\newcommand{\dto}{\looparrowright} % dependent to
%\newcommand{\hto}{\rightsquigarrow} % hetero to
%\newcommand{\parto}{\supset\!\to}
%\newcommand{\twoto}{\Rightarrow}
%\newcommand{\Comp}[1]{\mathop{{\#}_{#1}} } % Composition
`$

内容:

ハブ記事:

メッシュについての補足

n次元のメッシュについては、「カローラ:: n次元のメッシュ // n次元メッシュ」で説明しました。

n次元のメッシュは、基本的にはCW複体と同様な構造を持つ位相空間ですが、強い有限性を持ち、フィルター付け〈filtration〉により次元が低いほうから順に組み立てていくことを想定しています。

$`X_{k - 1}`$ ができ上がっていて $`X_{k}`$ を作る工程では、k次元のセル〈k-dimensional cell〉を貼り付けていきます。貼り付けるk次元セルを $`A`$ とすると、$`A`$ は次のような性質・構造を持つ空間です。

  • $`A`$ はk次元の閉球体の部分集合である。
  • $`A`$ はk次元の開球体を含む。(k次元の“バルク”を持つ。)
  • $`A`$ の境界は、(k -1)次元の球面に含まれる。
  • $`A`$ の境界は、(k -1)以下の次元のメッシュ構造を持つ。

k次元セル $`A`$ の境界であるメッシュを $`\mrm{BdryMesh}(A)`$ とします。$`\mrm{BdryMesh}(A)`$ の次元を $`j`$($`j \le k - 1`$)とします。例えば $`j = 0`$ なら $`\mrm{BdryMesh}(A)`$ は境界内の有限個の点です。

$`X_{k - 1}`$ への $`A`$ の貼り付けは次のスパンを使います。このスパンが貼り合わせの糊代を定義します。

$`\quad \xymatrix{
{}
&{Y} \ar[dl] \ar[dr]
&{}
\\
{X_{k - 1}}
&{}
&{\mrm{BdryMesh(A)}}
}\\
\quad \In \mbf{Mesh}
`$

ここで、$`\mbf{Mesh}`$ はメッシュ達の圏ですが、次節で定義します。

スパンの左右の脚は、メッシュの準同型射としてモノ射です。位相空間のあいだの写像としては連続な埋め込み(後述の位相埋め込み)になります。つまり、$`Y`$ は $`X_{k - 1}`$ の部分メッシュとみなせ、$`\mrm{BdryMesh}(A)`$ の部分メッシュともみなせます。

次元が低いほうから順に組み立てていく手順は一意的ではありませんが、必ず存在します。例えば、以下の2次元メッシュを考えてみてください。

$`\quad \xymatrix{
{1\;\bullet} \ar@{-}[dr]_5 \ar@{.}[rr]
&{} \ar@{}[d]|{8}
&{\bullet\; 2} \ar@{-}[dl]^6
\\
{}
&{\bullet\; 3} \ar@{-}[d]_7
&{}
\\
{}
&{\bullet\; 4}
&{}
}
`$

8 の部分には、中身がある(2次元の“バルク”を持つ)三角形があります。次元の順に組み立てるなら、まず 1, 2, 3 の頂点を作ります。5, 6, 7 の辺を既存頂点に接着して追加します。8 の三角形は3つの頂点と2本の辺を持ちますが、ひとつの辺は欠けています(開いています)。既存の3つの頂点と2本の辺に、三角形の3つの頂点と2本の辺を接着して追加します。でき上がりが同じになる他の手順もあります。

メッシュ達の圏

カローラ:: n次元のメッシュ // n次元メッシュ」で述べたように、メッシュの下部構造はフィルター付き空間です。位相空間の包含の無限列なので、$`(X_i)_{i\in \mbf{N}}`$ と書けます。次元が有限であることは決定的に重要です。

  • $`0 \le i \lt \mrm{dim}(X)`$ ならば、$`X_i \subset X_{i+1}`$ (真の包含)。
  • $`\mrm{dim}(X) \ge i `$ ならば、$`X_i = X_{i+1}`$ (イコール)。

このことから次が言えます。

  • $`0 \le i \lt \mrm{dim}(X)`$ ならば、$`X_i \setminus X_{i+1} \ne \emptyset`$ 。
  • $`\mrm{dim}(X) \le i `$ ならば、$`X_i \setminus X_{i+1} = \emptyset`$ 。

これに、前節で述べた「有限ステップで全体を組み立て可能である」という条件を付けます。組み立てのときに使える部品は、次元ごとのセル(メッシュ・セル)と呼ばれる簡単な図形です(前節参照)。

すべてのメッシュからなる大きな集合を考えることができます。メッシュのあいだの準同型射をどう定義するか? とりあえず、フィルター付き空間の準同型射(「カローラ:: n次元のメッシュ // 準同型射と圏」参照)をそのままメッシュのあいだの準同型射だとしましょう。対象と射が決まることにより、メッシュ達とそのあいだの準同型射達の圏 $`\mbf{Mesh}`$ が決まります。

$`\mbf{Mesh}`$ の定義から、フィルター付き空間 $`\mbf{FiltSp}`$ への忘却関手 $`U:\mbf{Mesh} \to \mbf{FiltSp}`$ があります。この忘却関手は定義より充満忠実になります。さらに、位相空間の圏 $`\mbf{Top}`$ への忘却関手 $`U:\mbf{Mesh} \to \mbf{Top}`$ も持ちます(忘却関手の名前は $`U`$ を使い回すことにします)。$`\mbf{Top}`$ への忘却関手は忠実ですが充満とは限りません。

忘却関手 $`U: \mbf{Mesh} \to \mbf{Top}`$ は、タイルという概念を考えるときに重要になります。

n次元タイル

低次元高次圏へのカローラ・アプローチ: はじめに // 絵図的タイル計算」において、タイルブロックという概念を直感的・比喩的に説明しました。

タイルは、模様が描かれた矩形です。ドミノ版やピクチャーパズルのピースが比喩的事例です。ブロックは、表面に模様が描かれ内部が部屋割りされた直方体です。3Dのピクチャーパズルがあれば、そのピースはブロックになります。1次元の場合だと、線分に模様として幾つかの点が描かれたものがタイルに相当します。

次元ごとの別な名前を考えたり使い分けるのはシンドイので、次元によらず「タイル」という言葉を使います。1次元のタイルは線分(閉区間)と点、2次元のタイルは矩形に模様、3次元のタイルは直方体に模様と部屋割りです。

n次元タイルで重要な点は、それが単なるn次元キューブではないことです。模様/部屋割りを持っていることです。n次元タイルは、模様/部屋割りを備えたn次元キューブです。

$`\mbf{I} := [0, 1]`$ と置いて、標準n次元キューブ〈canonical n-dimensional cube〉を $`\mbf{I}^n`$ とします。$`\mbf{I}^n`$ は単なる“四角い広がり”であり、模様/部屋割りを持っていません。模様/部屋割りは、次のような写像として定式化しましょう。

$`\quad f: X \to \mbf{I}^n \In \mbf{Top}`$

$`X`$ は、模様/部屋割りの形状を与える図形です。この $`X`$ としてメッシュを使います。正確に言えば、メッシュ $`X`$ の台位相空間 $`U(X)`$ ($`U`$ は忘却関手)です。連続写像 $`f`$ により、$`X`$ の形がグチャグチャにされては困るので、$`f`$ は位相埋め込み〈topological embedding〉だとします。

一般に、連続写像 $`f:X \to Y`$ が位相埋め込みだとは、$`f`$ が単射で、像 $`f(X)\subseteq Y`$ に相対位相を入れた空間と $`X`$ が同相であることです。つまり、域 $`X`$ は像 $`f(X)`$ と位相空間として同一視可能です。

n次元タイル〈n-dimensional tile〉の定義は、とあるメッシュ $`X`$ の台位相空間 $`U(X)`$ から標準n次元キューブ $`\mbf{I}^n`$ への位相埋め込み、ということになります。

圏 $`\mbf{Top}`$ の部分圏として、射を位相埋め込みに制限した圏を $`\mbf{TopEmb}`$ とします。圏 $`\mbf{TopEmb}`$ を使うと、n次元タイルは次のように書けます。

$`\T{For }X \in |\mbf{Mesh}|\\
\quad f: U(X) \to \mbf{I}^n \In \mbf{TopEmb}
`$

位相埋め込みの条件があるので、$`\mbf{I}^n`$ の模様/部屋割りとして使えるメッシュはn次元以下です。なので、n次元タイルの条件として、$`\mrm{dim}(X) \le n`$ を最初から付けておいてもいいでしょう。ここでは、$`\mrm{dim}(X) \le n`$ の条件を課すことにします。

3次元タイル(ブロック)の例を挙げましょう。現実世界のサイコロを抽象的にモデリングするタイルです。

  • メッシュ $`X`$ は、21個の点からなる0次元メッシュとする。
  • $`f: U(X) \to \mbf{I}^3`$ は、立方体 $`\mbf{I}^3`$ の6つの面にそれぞれ、1個、2個、3個、4個、5個、6個 の点を埋め込む写像。

これは抽象的モデリングなので、現実世界の詳細は捨てています。

  • 長さや角度は無視しているので、「立方体」「直方体」「六面体」の違いは無い。
  • 実際のサイコロの目は幾何的な点ではないが、点とみなす。
  • サイコロの 1 の目には赤い色が付いているが、色の概念は捨てる。

別な3次元タイルの例として、「カローラ:: n次元のメッシュ // メッシュの実例」で出した直方体の表面を表す2次元メッシュを $`X`$ とします。$`f: U(X) \to \mbf{I}^3`$ は、メッシュの2次元セルをそのまま $`\mbf{I}^3`$ の表面(境界)として埋め込む写像です。

もっと単純な3次元タイルの例もあります。$`X`$ をただ一点からなる0次元メッシュとして、$`f: U(X) \to \mbf{I}^3`$ は、一点を3次元キューブの内部に埋め込む写像とします。これも3次元タイルになります。

空集合を(-1)次元メッシュと認めるならば、空集合からの唯一の写像 $`\emptyset \to \mbf{I}^3`$ も3次元タイルを定義します。これは、模様/部屋割りが何もないタイルです。(-1)次元メッシュは認めたほうが整合性があるので、今後は(-1)次元メッシュも考えに入れます。

扱いやすいタイル

1次元タイルの場合、線分に乗った有限個の点なので、すべてのタイルを列挙することができます。しかし、2次元タイルになると、普通の意味で列挙することは不可能です。2次元・3次元の低次元でさえ、タイル達があまりに多種多様で、その全貌を把握することは事実上不可能です。

我々の目的は、タイルによって圏類似構造〈category-like structure〉の射を表現して、タイル計算(「低次元高次圏へのカローラ・アプローチ: はじめに // 絵図的タイル計算」)によって結合〈composition〉の計算をすることです。この目的のためにすべてのタイルが必要なわけではありません。

目的にとって必要十分なタイル達のクラスを定義するには次の作業が必要です。

  1. すべてのタイルのなかから“扱いやすいタイル”を選び出す。
  2. 事実上同じタイルを同一視するために、適切な同値関係を定義する。

扱いやすいタイルのなかで、原子的〈atomic〉/原始的〈primitive〉なモノがカローラ〈corolla〉です。扱いやすいタイルはすべて、カローラから組み立てられるとしたいのです。

低次元高次圏へのカローラ・アプローチ: はじめに // はじめにのはじめに」にて:

「カローラとはなんぞや?」にすぐに答えようとするのはどうも得策ではなく、“周辺部”から固めていくしかないでしょう。したがって、カローラ・アプローチが説明できたとしても、カローラの正式な定義がなかなか出てこないことになるでしょう。

なぜ、カローラの正式な定義がすぐには出来そうにないかというと、その前に“扱いやすいタイル”を選び出したり、適切な同値関係を設定したりする作業があるからです。3次元以下の低次元の場合に、「カローラとはこんなもんだろう」という漠然としたイメージはあるのですが、それを正確に形式的に書き下すのが(僕には)難しいのです。一般次元のカローラを純組み合わせ的〈purely combinatorial〉に記述するのは、そうそう手が届く気がしません。

カローラとは、たぶんこんなもの

前節で述べた漠然としたイメージを伝える例を3つあげましょう。いずれも2次元タイルであり、模様の形状は1次元メッシュにより与えられます。

説明のために、2次元キューブの4つの辺を以下のように名付けておきます。

$`\quad \xymatrix{
{\cdot} \ar@{-}[d]_{\T{left side edge}} \ar@{-}[r]^{\T{top edge}}
&{\cdot} \ar@{-}[d]^{\T{right side edge}}
\\
{\cdot} \ar@{-}[r]_{\T{bottom edge}}
&{\cdot}
}`$

日本語では:

  • top edge = 上底
  • bottom edge = 下底
  • left side edge = 左側辺
  • right side edge = 右側辺

次に3つの1次元メッシュを挙げます。

例 1:
$`\quad \xymatrix{
{\bullet} \ar@{-}[d]
\\
{\bullet}\ar@{-}[d]
\\
{\bullet}
}`$

例 2:
$`\quad \xymatrix{
{\bullet} \ar@{-}[dr]
&{}
&{\bullet}\ar@{-}[dl]
\\
{}
&{\bullet}\ar@{-}[d]
&{}
\\
{}
&{\bullet}
&{}
}`$

例 3:
$`\quad \xymatrix{
{}
&{\bullet} \ar@{-}[d]
&{}
\\
{\bullet} \ar@{-}[r]
&{\bullet} \ar@{-}[d] \ar@{-}[r]
&{\bullet}
\\
{}
&{\bullet}
&{}
}`$

それぞれを、“象形文字”で $`\T{I}`$、$`\T{Y}`$、$`\T{十}`$ と表すことにします。$`\T{I}`$、$`\T{Y}`$、$`\T{十}`$ を域とするタイルを定義します。

$`\quad s: U(\T{I}) \to \mbf{I}^2 \In \mbf{Top}`$
$`\quad m: U(\T{Y}) \to \mbf{I}^2 \In \mbf{Top}`$
$`\quad d: U(\T{十}) \to \mbf{I}^2 \In \mbf{Top}`$

$`s, m, d`$ はそれぞれ simple, multi, double を意図しています。位相埋め込み $`s, m, d`$ を正確な記述ではなくて日本語で説明します。$`\T{I}`$、$`\T{Y}`$、$`\T{十}`$ の「中心の頂点」という言い方、矩形や辺の「内部」という言い方は通じると思うので、これらの言葉を使います。

  • $`s`$ は、中心の頂点を矩形の内部に写し〈マップし〉、上の頂点を上底の内部に、下の頂点を下底の内部に写す。
  • $`m`$ は、中心の頂点を矩形の内部に写し、上の2つの頂点を上底の内部に、下の頂点を下底の内部に写す。
  • $`d`$ は、中心の頂点を矩形の内部に写し、上の頂点を上底の内部に、下の頂点を下底の内部に、左の頂点を左側辺の内部に、右の頂点を右側辺の内部に写す。

$`s, m, d`$ の詳細が必要ないのは、なんらかの同値関係のもとで考えているからで、写像として異なっていても、同値関係により同一視されるのです。

さて、$`s`$ は普通の1-圏の射の絵図的表現に使えます。左右方向の連接〈concatenation | juxtaposition〉を許すなら、モノイド圏の射と解釈できます。$`m`$ は複圏〈オペラッド〉の射〈複射〉の絵図的表現に使えます。$`d`$ は二重圏の2-射〈二重射〉の絵図的表現に使えます。

$`s, m, d`$ というタイル、それらの域〈ドメイン〉となっている $`\T{I}, \T{Y}, \T{十}`$ というメッシュは、カローラの実例です。

という具合に、低次元のカローラの実例を挙げることはできます。が、一般的な定義を形式的に書き下せるところには至ってないのです。しかし、一般的定義がなくてもできることはあります。例えば、2次元カローラに限定しても、厳密モノイド圏、厳密2-圏、複圏〈オペラッド〉、厳密二重圏などの記述と計算にカローラが使えます。

おわりに

低次元高次圏へのカローラ・アプローチ: はじめに // はじめにのおわりに」をコピーして、この記事の「おわりに」に代えます。

シリーズ記事をポンポン連投することは出来そうにないですが、折りに触れてカローラ・アプローチの記事は投稿するつもりです。次のネタはおそらく:

  • 2次元タイル計算と、それにより表現できる具体的な圏類似構造
  • ポリモノイド圏とそのシーケント計算のカローラによる表現