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参照用 記事

イズベル双対性

バエズ〈John C. Baez〉が、イズベル双対性に関して3ページの短い解説を書いています。

バエズの論説でやや曖昧なところを補足する形で紹介します。イズベル双対性の意義や位置付けはバエズ論説を参照してください。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\mbf}[1]{\mathbf{#1}}
\newcommand{\o}[1]{\overline{#1}}
\newcommand{\id}{\mathrm{id}}
\newcommand{\op}{\mathrm{op}}
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\hyp}{ \text{-} }
\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
\newcommand{\pto} {\not\to }
\newcommand{\C} {\mathop{\diamond} }
\newcommand{\LIS} {\mathsf{LIsb} }
\newcommand{\RIS} {\mathsf{RIsb} }
`$

内容:

イズベル双対性とは

イズベル双対性〈Isbell duality〉とは、次の図式で表される随伴系〈随伴関手ペア〉のことです。
$`\quad \xymatrix@C+1.5pc{
{\cat{C}^\wedge} \ar@/^1pc/[r]^{\LIS}
\ar@{}[r]|{\bot}
&{\cat{C}^{\vee\op}} \ar@/^1pc/[l]^{\RIS}
}\\
\quad \In \mbf{CAT}
`$

ここで:

  • $`\cat{C}`$ は小さい
  • $`\cat{C}^\wedge`$ は、圏 $`\cat{C}`$ の前層圏〈前層達の圏〉 $`\cat{C}^\wedge := [\cat{C}^\op, \mbf{Set}]`$
  • $`\cat{C}^{\vee\op}`$ は、圏 $`\cat{C}`$ の反対余前層圏〈余前層達の圏の反対圏〉 $`\cat{C}^{\vee\op} := [\cat{C}, \mbf{Set}]^\op`$
  • $`\LIS`$ は左イズベル共役〈left Isbell conjugate〉と呼ばれる関手
  • $`\RIS`$ は右イズベル共役〈right Isbell conjugate〉と呼ばれる関手

イズベル双対性(と呼ばれる随伴系)は、小さい圏 $`\cat{C}`$ ごとにひとつずつ決まります。よって、イズベル双対性は、小さい圏でパラメトライズ〈インデキシング〉された随伴系の族です。

通常、左イズベル共役と右イズベル共役が区別されず、同じ記号(上付きアスタリスクとか)で表されます。バエズもそうしていますが、それだと随伴の記述がうまく出来ないので、随伴系の左関手を左イズベル共役、右関手を右イズベル共役と呼んで区別しました。

左イズベル共役 対象パート

イズベル共役の定義は短いものですが、その解釈はけっこう面倒です。まず、左イズベル共役(関手)の対象パートを記述します。

$`\text{For }F \in |\cat{C}^\wedge|\\
\quad \LIS(F) := \cat{C}^\wedge(F, よ^\wedge)
`$

ここで、$`よ^\wedge = よ^\wedge_\cat{C}`$ は米田埋め込みです。左イズベル共役 $`\LIS`$ の値(値もイズベル共役と呼ぶので注意)は、次の集合に属します。

$`\quad \LIS(F) = \cat{C}^\wedge(F, よ^\wedge) \in |\cat{C}^{\vee\op}|`$

対象に関しては反対圏は関係ないので、次でも同じです。

$`\quad \LIS(F) = \cat{C}^\wedge(F, よ^\wedge) \in |\cat{C}^{\vee}|`$

なぜこうなるのか? 順に見ていきましょう。

準備として、ポインティング関手の説明をします; $`\mbf{I}`$ を自明圏(単一の対象と恒等射だけの圏)として、任意の圏 $`\cat{X}`$ の任意の対象 $`A`$ を指定する〈ポイントする〉関手を
$`\quad \check{A} : \mbf{I} \to \cat{X} \In \mbf{CAT}`$
と、チェックマークを乗せて表します。

話を戻して、前層圏 $`\cat{C}^\wedge`$ は、(小さいとは限らないけど)局所小圏なので、ホム双関手は次のようです。

$`\quad \cat{C}^\wedge(\hyp, \hyp) : {\cat{C}^\wedge}^\op \times \cat{C}^\wedge \to \mbf{Set} \In \mbf{CAT}`$

米田埋め込み $`よ^\wedge = よ^\wedge_\cat{C}`$ は次のような関手でした。

$`\quad よ^\wedge : \cat{C} \to \cat{C}^\wedge \In \mbf{CAT}`$

よって、次のような可換図式を考えることが出来ます。

$`\quad \xymatrix@C+1pc{
\cat{C} \ar[r]^{ {\lambda_\cat{C}}^{-1} } \ar[d]_{?}
& {\mbf{I}\times \cat{C}} \ar[d]^{\check{F} \times よ^\wedge}
\\
\mbf{Set}
&{ {\cat{C}^\wedge}^\op \times \cat{C}^\wedge } \ar[l]^-{ \cat{C}^\wedge(\hyp, \hyp) }
}\\
\quad \text{commutative }\In \mbf{CAT}
`$

上図において:

  • $`\lambda_\cat{C} : \mbf{I}\times \cat{C} \to \cat{C}`$ は、デカルト圏 $`\mbf{CAT}`$ のデカルト積に関する左単位律子〈left unitor〉、$`{\lambda_\cat{C}}^{-1}`$ は逆。
  • $`F\in |\cat{C}^\wedge|`$ ならば、$`F\in |{\cat{C}^\wedge}^\op|`$ と考えてもよい。$`\check{F}`$ は、対象 $`F\in |{\cat{C}^\wedge}^\op|`$ のポインティング関手。
  • 疑問符のところにハマる射(テンプレート充填問題の解)が $`\LIS(F)`$ を与える。

$`\LIS(F)`$ は、関手の結合の図式順演算子記号を '$`*`$' として次のように書けます。

$`\quad \LIS(F) := {\lambda_\cat{C}}^{-1} * (\check{F}\times よ^\wedge) * \cat{C}^\wedge(\hyp, \hyp)`$

これは、次の(やや不正確だが)簡略な形で表現できます。

$`\quad \LIS(F) := \cat{C}^\wedge(F, よ^\wedge) \; : \cat{C} \to \mbf{Set}\In \mbf{CAT}`$

$`\LIS(F) : \cat{C} \to \mbf{Set}`$ なので、

$`\quad \LIS(F) \in |[\cat{C}, \mbf{Set}]|\\
\text{i.e.}\\
\quad \LIS(F) \in |[\cat{C}, \mbf{Set}]^\op|
`$

これで、前層 $`F`$ の左イズベル共役が、反対余前層圏の対象となることが分かりました。左イズベル共役関手の対象パートの定義は大丈夫〈well-defined〉です。

左イズベル共役 射パート

$`\alpha : F \to G\In \cat{C}^\wedge`$ あるいは同じことですが $`\alpha \in \cat{C}^\wedge(F, G)`$ とします。これは、2-圏 $`\mbf{CAT}`$ 内で考えれば次のことです。

$`\quad \alpha :: F \twoto G : \cat{C}^\op \to \mbf{Set}\In \mbf{CAT}`$

$`\LIS`$ の射パートを定義するとは、$`\alpha \in \cat{C}^\wedge(F, G)`$ に対する $`\LIS(\alpha)`$ を決めることです。対象に対する $`\LIS`$ の表式〈expression〉 $`\cat{C}^\wedge(F, よ^\wedge)`$ に、機械的に $`\alpha`$ を代入してみると:

$`\quad \LIS(\alpha) := \cat{C}^\wedge(\alpha, よ^\wedge)`$

これは解釈可能です。関手 $`よ^\wedge`$ は恒等自然変換とみなします。それを明示的に書くなら:

$`\quad \LIS(\alpha) := \cat{C}^\wedge(\alpha, \mrm{ID}_{よ^\wedge})`$

ホム双関手 $`\cat{C}^\wedge(\hyp, \hyp)`$ の第一引数(左引数)は反変引数なので、反対圏の射が入ります。反対圏の射には上線〈オーバーライン〉を引くことにして:

$`\quad \o{\alpha} : G \to F \In {\cat{C}^\wedge}^\op`$

第一引数の反変性を考慮してちゃんと書くと:

$`\quad \LIS(\alpha) := \cat{C}^\wedge(\o{\alpha}, \mrm{ID}_{よ^\wedge})`$

より正確にするなら、$`F, G, \alpha`$ にチェックマークを乗せるべきですが、それはいいとします。上記の右辺のプロファイルは次のようです。

$`\text{For }\alpha : F \to G \In \cat{C}^\wedge\\
\quad \cat{C}^\wedge(\o{\alpha}, \mrm{ID}_{よ^\wedge} ) ::
\cat{C}^\wedge({G}, よ^\wedge) \twoto
\cat{C}^\wedge({F}, よ^\wedge)\\
\qquad : \cat{C} \to \mbf{Set} \In \mbf{CAT}
`$

同じことを次のようにも書けます。

$`\text{For }\alpha : F \to G \In \cat{C}^\wedge\\
\quad \cat{C}^\wedge(\o{\alpha}, \mrm{ID}_{よ^\wedge} ) :
\cat{C}^\wedge({G}, よ^\wedge) \to
\cat{C}^\wedge({F}, よ^\wedge) \In [\cat{C}, \mbf{Set}]
`$

$`\alpha`$ をラムダ変数にすれば、ラムダ記法による関数が得られます。

$`\quad
\lambda\, \alpha \in \cat{C}^\wedge(F, G).\\
\qquad \cat{C}^\wedge(\o{\alpha}, \mrm{ID}_{よ^\wedge} ) \;
\in [\cat{C}, \mbf{Set}](\cat{C}^\wedge({G}, よ^\wedge), \cat{C}^\wedge({G}, よ^\wedge))
`$

$`[\cat{C}, \mbf{Set}]`$ を $`\cat{C}^\vee`$ に、$`\cat{C}^\wedge({\hyp}, よ^\wedge)`$ を $`\LIS(\hyp)`$ に置き換えれば:

$`\quad
\lambda\, \alpha \in \cat{C}^\wedge(F, G).\\
\qquad \cat{C}^\wedge(\o{\alpha}, \mrm{ID}_{よ^\wedge} ) \;
\in \cat{C}^\vee( \LIS(G), \LIS(F))
`$

ラムダ記法で定義されたこの関数は、関手 $`\LIS`$ のホムパートを与えます。

$`\quad
\LIS_{F, G} : \cat{C}^\wedge(F, G) \to \cat{C}^\vee( \LIS(G), \LIS(F))
`$

ホムパートを寄せ集めて関手になることは確認が必要ですが、頑張って確認できたとすると、$`\LIS`$ は反変関手となります。よって、次の三種の表現が可能です。以下の「ほんとの反変関手」「ニセ反変関手」については、「イイカゲンとインチキを悔い改めるためのコスト」を見てください。

  1. $`\LIS`$ は、圏 $`\cat{C}^\wedge`$ から $`\cat{C}^\vee`$ へのほんとの反変関手
  2. $`\LIS`$ は、圏 $`{\cat{C}^\wedge}^\op`$ から $`\cat{C}^\vee`$ への共変関手(ニセ反変関手)
  3. $`\LIS`$ は、圏 $`{\cat{C}^\wedge}`$ から $`{\cat{C}^\vee}^\op`$ への共変関手(ニセ反変関手)

ここでは三番目の表現を採用して:

$`\quad \LIS : \cat{C}^\wedge \to \cat{C}^{\vee\op} \In \mbf{CAT}`$

これで、イズベル双対性〈随伴系〉のかたわれ(左関手)が得られました。

右イズベル共役

右イズベル共役 $`\RIS`$ は、次の表式で記述されます。

$`\quad \RIS(\hyp) := \cat{C}^{\vee\op}(よ^{\vee\op}, \hyp)`$

この表式のハイフン(無名変数)の部分に、対象である関手と射である自然変換を入れて、正確な解釈を試みます。やり方は、左イズベル共役の場合と同じです。

前々節、前節と同様にゴニョゴニョすれば、次の関手が得られます。

$`\quad \RIS : \cat{C}^{\vee\op} \to \cat{C}^\wedge \In \mbf{CAT}`$

イズベル双対性〈随伴系〉の右関手です。

そしてそれから

イズベル双対性を形成する左イズベル共役と右イズベル共役の定義は(概略ですが)しました。しかし、2つの関手が随伴関手ペアであることを示すには、自然なホムセット同型を構成する必要があります。

$`\text{For }F\in |\cat{C}^\wedge|, G\in |\cat{C}^{\vee\op}|\\
\quad \Phi_{F, G} : \cat{C}^{\vee\op}(\LIS(F), G) \overset{\cong}{\to} \cat{C}^\vee(F, \RIS(G)) \In \mbf{Set}
`$

なかなかにめんどくさいです。

イズベル双対性は、それ自身で様々な事例と応用を持ちますが、関手/プロ関手のコンパニオン/コンジョイントと関係付けられないか? と考えています。