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参照用 記事

ジェイコブ・ルーリー : 同時代の天才

[追記 date="2012-05-28"] Jacobを「ヤコブ」と書いたのですが、下に貼ってある二番目のビデオの冒頭で、「ジェイコブ」(に近い音)と発音してますね。なので、ヤコブをジェイコブに変えました。[/追記]

ヤコブジェイコブ・ルーリー(Jacob Lurie)はアメリカの若い数学者です。今の時代に生きていて、歴史に残るであろう天才の一人ではないかと思います。現在進行中のルーリーのプロジェクトがうまくいかなかったときは、歴史的に高い評価を受けない可能性もありますが、ルーリーの方法が成果を出せば、新時代を築いた人とみなされるのではないでしょうか。

ルーリーの書いたものを読んでも、僕には千分の一も万分の一も理解できないのですが、それでも、なにか尋常ならざるものを感じました -- 2007年に、出版前だったルーリーの著作 highertopoi.pdf をたまたまチョビッと眺めたときです。並はずれた才能と猛烈なエネルギーを兼ね備えた青年なんだろう、と想像はできました。

2007年2月のメモ編の記事「21世紀のスーパースター(かも知れない)Jacob Lurie」より:

僕がかすかにわかるところだけでも、とにかく独特の感性とアイディアに充ち満ちている。ナンデモ屋みたいだが、たぶん大きなビジョンを持っているのだろう。もうスゲー、ヤバイね、彼は。

ルーリーは1977年12月生まれなので、このとき29歳だったんですね。演歌の天才・氷川きよしが同年生まれです。なので(?)、「Jacob Lurie ファンクラブ」には写真を並べて貼ってあります。↓は(たぶん二十代前半の)ルーリーの写真、アイドル風。

当時(2007年)は、それほど情報がなかったので、うんと有名というわけではなかったようです。が、2009年(31歳)にはハーバードの教授になってます。今ではWikipediaエントリーもあります

26歳でハーバードの教授になった人(Noam Elkies)もいるようで、最年少とかではないですが、それにしても若い教授ですよね。バレンタインデー*1の教室でのちょっとしたイベントの動画があります。

ルーリーは、特定の問題を追求しているというよりは、道具立てや枠組みを全部書き換えようとしているようです(たぶん)。卑近な(適切かどうかはアヤシイ)例え話を使うと; 特定場面で役に立つアプリケーションを提供するのではなくて、OSやフレームワークを作っている感じかなぁ。こういう基盤というものは、使う人が増えて、その上に具体的な応用が出てこないと成功したとは言えません。冒頭で、「ルーリーの方法が成果を出せば」と条件付きで書いたのはそういう事情です。「あんなもの役に立たないのでは」という意見も目にしたことがあるので、現時点で成功しているとは判断できないでしょう。

僕がルーリーに興味を惹かれるのは、同じ人類とは思えない突出した知的存在に対する好奇心が大部分ですが、ごくわずかでもルーリーのプロジェクトのオコボレにあずかれるのではないか、という期待感もあります。

↑は、ルーリーによる拡張TQFT(Topological Quantum Field Theory)の講義です。かつて、マーク・ホプキンスが、"The Quantum Field Theory - Computer Science" 対応について指摘しているのですが、その背景は“オートマトンの圏に形式言語の圏を対応させる関手”がTQFT関手とよく似ているからだと思えます。

TQFT関手(定義はアティヤ)まで抽象化すると、幾何や物理とオートマトンの類似性がやっと見えてきます。しかし、現状のTQFT関手は一般性・抽象度が足りないし、オートマトンに適用するのに好都合とも言えません。(場の理論オートマトンのように)ある程度離れた分野を繋ぐには、抽象度が高くて、しかもパワフルな道具が必要です。

ヤコブジェイコブ・ルーリーが開発中の道具立てが(本人はたぶん考えてないでしょうが)オートマトンなどの計算モデルの分析にも使えるのではないかと、妄想したりするのです。

*1:女性が男性に、ということではないみたいですね。状況がいまいち分からないけど、「先生に感謝」ってことかしらね。