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参照用 記事

圏とトポスにおける方程式とその解

集合 $`X`$ 上の方程式が与えられたとき、その解集合(空集合でも $`X`$ 全体でも、なんであれ)は一意に決まると我々は信じています。しかし、トポスのなかで方程式を考えると、解集合(に相当する解対象)は一意に決まることは保証されません。これって、気持ち悪くないですか?トポスに包含射の概念があれば、方程式の解対象は一意に決まります。

“方程式の解”の圏論的な定式化はイコライザーですが、イコライザーには述語としてのイコールが登場しません。命題と真偽値を扱う論理から見た方程式(等式的論理式)は現れないのです。が、トポス内でイコライザーの定義をいじると、等値述語を絡ませることが出来ます。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\mbf}[1]{\mathbf{#1}}
%\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
%\newcommand{\ot}{\leftarrow }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
%\newcommand{\op}{\mathrm{op}}
\newcommand{\id}{\mathrm{id}}
%\newcommand{\u}[1]{\underline{#1}}
%\newcommand{\o}[1]{\overline{#1}}
\newcommand{\hyp}{ \text{-} }
%\newcommand{\Iff}{ \Leftrightarrow }
\newcommand{\Imp}{ \Rightarrow }
`$

内容:

方程式とその解対象

圏 $`\cat{C}`$ のなかで方程式を考えます。左辺と右辺が射 $`f, g`$ で与えられるとします。次のように図示できます。

$`\quad \xymatrix{
X \ar@/^/[r]^f \ar@/_/[r]_g
&Y
}\\
\quad \In \cat{C}
`$

この方程式の解対象は、以下の図の $`E`$ で与えられます。

$`\quad \xymatrix{
E \ar[r]^e
&X \ar@/^/[r]^f \ar@/_/[r]_g
&Y
}\\
\quad \text{commutative }\In \cat{C}\\
\quad \text{where }E = \mrm{lim}\, (f, g)
`$

対象 $`E`$ は、最初の図のペア $`(f, g)`$ の極限対象になっています。射 $`e`$ は、極限錐の射影成分です。極限対象(錐の頂点)から底面の対象に向かう射です。「射影」と呼ぶからといってエピ射とかの条件はありません。上の $`e`$ はモノ射です。

$`e`$ は $`(f, g)`$ のイコライザー〈等化射 | equalizer〉で、$`E`$ はイコライザーの域〈ドメイン〉です。イコライザーの域である対象(極限対象) $`E`$ もイコライザーと呼んでしまうことがあります。対象としてのイコライザーは極限(極限対象)なので、一意に決まることは保証できません。同型を除いて〈up-to-isoで〉一意的です。

方程式の解とは、左辺と右辺のペア $`(f, g)`$ に対するイコライザーだと言えます。解対象は $`E`$ で、解対象 $`E`$ の $`X`$ への埋め込みが $`e`$ です。イコライザーが一意ではないので、解対象も(存在しても)一意には決まりません。

包含射による一意性の獲得

包含構造を持つ圏については、以下の過去記事で述べています。

モノ包含的圏と充分モノ包含的圏は、上記二番目の記事で導入しています。

圏 $`\cat{C}`$ と部分圏 $`\cat{C}^\mrm{Incl} \subseteq \cat{C}`$ のペア $`(\cat{C}, \cat{C}^\mrm{Incl})`$ が充分モノ包含的圏〈adequate monic inclusive category〉であるとは:

  1. 部分圏 $`\cat{C}^\mrm{Incl}`$ は、とてもやせた(やせていて骨格的な)広い部分圏である。
  2. 部分圏 $`\cat{C}^\mrm{Incl}`$ の射は、$`\cat{C}`$ のモノ射である。
  3. $`\cat{C}`$ の任意のモノ射 $`m:X\to Y`$ は、同型射 $`X \to X'`$ と包含射($`\cat{C}^\mrm{Incl}`$ の射)$`X' \to Y`$ に一意的に分解〈factorization〉できる。

充分モノ包含的圏 $`\cat{C}`$ のモノ射からなる広い部分圏を $`\cat{C}^\mrm{Mono}`$ と書くことにします。オーバー圏(「オーバー圏、アンダー圏」参照) $`\cat{C}^\mrm{Mono}/A`$ からオーバー圏 $`\cat{C}^\mrm{Incl}/A`$ への関手を規準的〈canonical〉に定義できます。

$`(m:X \to A)\in |\cat{C}^\mrm{Mono}/A|`$ に対して、充分モノ包含的圏の三番目の条件である一意分解による包含射 $`(m':X' \to A) \in |\cat{C}^\mrm{Incl}/A|`$ を対応させます。射に対しても“適切な方法”で対応を作ります。こうして作った関手を $`\mrm{Incl}_A`$ とします。

$`\quad \mrm{Incl}_A : (\cat{C}^\mrm{Mono}/A) \to (\cat{C}^\mrm{Incl}/A) \In \mbf{CAT}`$

圏の対象達を同型関係で割った(商集合を作った)集合を $`\mrm{IsoClass}(\hyp)`$ とします。任意の関手が同型関係を保存することから、以下の関手が誘導されます。

$`\quad \mrm{IsoClass}(\mrm{Incl}_A) : \mrm{IsoClass}(\cat{C}^\mrm{Mono}/A) \to \mrm{IsoClass}(\cat{C}^\mrm{Incl}/A) \In \mbf{SET}`$

モノ射達の(オーバー圏 $`\cat{C}^\mrm{Mono}/A`$ における)同型類を部分対象〈subobject〉と呼び、以下のように書きます。

$`\quad \mrm{Sub}(A) := \mrm{IsoClass}(\cat{C}^\mrm{Mono}/A) = |\cat{C}^\mrm{Mono}/A|/\cong`$

少しゴニョゴニョすると、次の同型が分かります。

$`\quad \mrm{Sub}(A) \cong |\cat{C}^\mrm{Incl}/A| \In \mbf{SET}`$

左側の集合の要素である部分対象は同型同値類ですが、右側の集合の要素である包含射は特定のひとつの包含射です。部分対象(という同値類)の代わりに包含射を使うと、up-to-isoの一意性が完全な一意性になります。

前節の“方程式の解=イコライザー” $`E \overset{e}{\to} X`$ はモノ射なので $`\mrm{Incl}_X`$ を適用すると、包含射 $`E' \overset{e'}{\to} X`$ が得られます。これは、方程式(の左辺・右辺) $`(f, g)`$ に対して完全に一意的です。方程式に対して解対象は一意的に決まる状況が獲得できました。

トポスにおける外延内包対応

$`\cat{C}`$ はトポスとして、部分対象分類子〈subobject classifier〉を $`\mbf{1}\overset{\mbf{t}}{\to}\Omega`$ とします。$`\cat{C}`$ を外部から見ると、次の同型が成立しています。

$`\text{For }A \in |\cat{C}|\\
\quad \mrm{Sub}(A) \cong \cat{C}(A, \Omega)`$

これは、部分対象(同型同値類)と述語($`\Omega`$ への射)の一対一対応です。部分対象は外延、述語は内包なので、外延内包対応〈extension-intension correspondence〉と言えるでしょう。

この同型を与えているモトは、以下のプルバック四角形です。

$`\quad \xymatrix{
X \ar[r]^{!_X} \ar[d]_m
\ar@{}[dr]|{\text{p.b.}}
&\mbf{1} \ar[d]^{\mbf{t} }
\\
A \ar[r]_p
&\Omega
}\\
\quad \In \cat{C}
`$

$`m \longleftrightarrow p`$ と対応しているのですが、 ほんとの一対一対応とするには、$`m`$ の同値類を取って $`[m] \longleftrightarrow p`$ とする必要があります。

$`\cat{C}`$ に充分モノ包含構造が載っていて、$`\cat{C}`$ は充分モノ包含的圏でもあるとします。すると、$`\mrm{Sub}(A)`$ とは別に、部分対象達の集合を包含射により定義できます。

$`\quad \widehat{\mrm{Sub}}(A) := |\cat{C}^\mrm{Incl}/A|`$

次の同型は同様に成立します。

$`\quad \widehat{\mrm{Sub}}(A) \cong \cat{C}(A, \Omega)`$

$`{\mrm{Sub}}(A)`$ と $`\widehat{\mrm{Sub}}(A)`$ の違いは、$`|\cat{C}^\mrm{Mono}/A|`$ の商集合を使うか部分集合を使うのかの違いです。充分モノ包含構造が、商集合 $`{\mrm{Sub}}(A)`$ の代表元をうまく選び出すメカニズムを与えています。

トポスに余分な構造を入れたくないという意見もあるでしょうが、$`\widehat{\mrm{Sub}}(\hyp)`$ が商集合を使ってない点はメリットとも言えます。集合圏と事情が同じで、集合圏の直感をよりストレートに適用できます。

等値述語と射の等式

2-射としての射の等式(任意の圏を等式により2-圏とみなす)は、射が等しいか否かの記述しか出来ません。イコライザーならば、射の等しさの程度を部分対象を尺度として計ることが出来ます。

以下はイコライザーの図とします。

$`\quad \xymatrix{
E \ar[r]^e
&X \ar@/^/[r]^f \ar@/_/[r]_g
&Y
}\\
\quad \text{equalizer }\In \cat{C}
`$

イコライザーの定義より、$`e;f = e;g`$ ですが、この射を(ここだけの一時的記法で)$`f\wedge g`$ とします。($`f\wedge g`$ は極限の射影成分の一本です。)

$`\quad f\wedge g : E \to Y \In \cat{C}`$

$`e:E \to X`$ はイコライザーだとして、デカルト圏 $`\cat{C}`$ のなかで次のプルバック四角形が得られます。$`\langle \hyp, \hyp\rangle`$ はデカルト・ペアリングです。

$`\quad \xymatrix{
E \ar[r]^{f\wedge g} \ar[d]_e
\ar@{}[dr]|{\text{p.b.}}
&Y \ar[d]^{\langle \id_Y, \id_Y\rangle}
\\
X \ar[r]_{\langle f, g\rangle}
&{Y^2}
}\\
\quad \In \cat{C}
`$

これはイコライザーの別な特徴づけを与えます。$`\langle \id_Y, \id_Y\rangle`$ の $`\langle f, g\rangle`$ によるファイバー引き戻しがイコライザーです。

ここからは、$`\cat{C}`$ はトポスとします。$`\langle \id_Y, \id_Y\rangle`$ は対角埋め込み〈対角射〉なので、$`\Delta_Y`$ と書くことにします。対角射 $`\Delta_Y`$ がモノ射なのは分かるので、対応する述語を $`\delta_Y`$ と書くと、次のプルバック四角形が得られます。

$`\quad \xymatrix{
Y \ar[r]^{!_Y} \ar[d]_{\Delta_Y}
\ar@{}[dr]|{\text{p.b.}}
&{\mbf{1} } \ar[d]^{\mbf{t} }
\\
{Y^2} \ar[r]_{\delta_Y}
&\Omega
}\\
\quad \In \cat{C}
`$

プルバック四角形を結合してもプルバック四角形なので、先の2つのプルバック四角形を結合して以下のプルバック四角形が得られます。

$`\quad \xymatrix{
E \ar[r]^{!_Y} \ar[d]_{e}
\ar@{}[dr]|{\text{p.b.}}
&{\mbf{1} } \ar[d]^{\mbf{t} }
\\
X \ar[r]_{\langle f, g\rangle ; \delta_Y}
&\Omega
}\\
\quad \In \cat{C}
`$

これは、イコライザーの持って回った定義になっています。直接的簡潔な定義ではありませんが、その代わり、論理的な意味がハッキリ分かります。$`\langle f, g\rangle ; \delta_Y`$ は、等値述語(イコール記号相当)である $`\delta_Y`$ を使った方程式の記述です。方程式を表す射と真 $`\mbf{t}`$ とのプルバックを取ることは、方程式がどの程度真であるかを表す解対象を求めることです。

持って回った定義のほうが、等式的論理式〈equational formula〉としての方程式とその解という概念を忠実に表現している気がします。直接的簡潔な定義でも、持って回った定義でも、同じイコライザーを定義しているところがミソですね。