ここ数日の僕のブームはスピヴァックの関手的データモデルです。
スピヴァックのホームページ http://math.mit.edu/~dspivak/ からたどれる彼の論文を、チラホラ斜め読み/拾い読みしているのですが、圏論のネタとしてもちょっと面白そうな記述があります。そのひとつが、関手 D:C→Set からファイブレーションを作る話。
「ベキ集合ファイブレーション」にも書きましたが、集合を離散圏とみなせば、関手 D:C→Set は、D:C→Cat だと考えていいので、インデックス付き圏に対するグロタンディーク構成が適用できて、その結果が要素の圏(category of elements)です。関手Dの要素の圏を el(D) と書いて、それに伴うファイブレーションを el(D)→C とします。
スピヴァックは、el(D)→C が「ある“普遍的な”ファイブレーションのDによる引き戻し」で得られることを注意しています。これは、上記のnLab記事にも書いてある事実の引用にすぎないですけどね。ここで出てきた“普遍的な”ファイブレーションとは、Set●→Set という形のものです。以下にこのファイブレーションを説明します。
Xが集合で x∈X のとき、組 (X, x) を付点集合(pointed set; 点付き集合)と呼びます。(X, x) と (Y, y) を付点集合とするとき、写像 f:X→Y で f(x) = y であるものを付点集合の準同型だとします。すると、付点集合を対象、付点集合の準同型写像を射とする圏ができます。これをSet●とします。Set●は、Maybeモナドのクライスリ圏であると同時にアイレンベルク/ムーア圏だったりもします。
付点集合 (X, x) を、台集合(underlying set)X上の構造だと考えて、基点xを忘れる忘却関手をUとします。
- U((X, x) in Set●) = (X in Set)
- U(f:(X x)→(Y, y) in Set●) = (f:X→Y in Set)
U:Set●→Set は、矢印の向き(反変/共変)の調整をするとファイブレーションとみなせます。任意の関手 D:C→Set に対して、次の図式が引き戻し図式になる、という事実があります。
el(D) ---> Set・ | | | | v D v C -----> Set
さて、そうすると、一般的なインデックス付き圏 F:C→Cat に関しても同じような事実が成立しているといいな、と思います。なんらかのファイブレーション X→Cat があって、次の図式が引き戻しになるのです。Gr(F) は、インデックス付き圏Fのグロタンディーク平坦化だとします。
Gr(F) ---> X | | | | v F v C -----> Cat
なんか成立しそう、ひょっとしてよく知られた事実か? と思うのですが、面倒なのでこれ以上追求はしてません。
謎の圏Xを作るヒントになりそうなことは、Set● がアンダー圏 1/Set となっていることです。
圏Cとその対象Aに対して、F(A) := A/C と定義すると、Fは C→Cat という反変関手となるので、インデックス付き圏を定義します。0, 1 をそれぞれCの始対象、終対象(それがある)として、自明な射 0→1 に対するFの像 F(1)→F(0) は、1/C→0/C となります。ここで(大きさの議論は気にしないことにして)、C := Set と置くと、Set●→Set のファイブレーションと同値(より強く同型)となります。
以上で使った 0, 1 などを、もっと次元が高い図形に置き換えれば、謎の圏Xが構成できるんじゃないのかなー。確信はないけどさ (^^; 。