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参照用 記事

2-コンテナ

コンテナ=1-コンテナ という概念の次元を1つ上げて2-コンテナを定義します。取り急ぎ。$`\newcommand{\s}[1]{\mathrm{s}{#1} }
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1} }
\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1} }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\hyp}{\text{-}}
`$

内容:

1-コンテナ

1-コンテナ〈1-container〉とは通常のコンテナのことです。コンテナとは集合族〈indexed family of sets〉の別名です。(インデックス付きの)集合族を単にファミリーとも呼ぶので、コンテナとファミリーは同義語です。

コンテナ $`F:I \to |{\bf Set}| \In {\bf SET}`$ があると、写像 $`f:E \to I \In {\bf Set}`$ が一意に決まります。$`f`$ の作り方は以下のとおり。

  • $`E := \sum_{i\in I} F(i) := \{(i, x) \in I\times \bigcup_{i\in I}F(i) \mid x\in F(i)\}`$
  • $`f(i, x) := i \:\text{ for }i\in I,\: x\in F(i)`$

任意の(全射であることも要求しない)写像 $`f:E \to I \In {\bf Set}`$ に対して、点ごとの逆像(逆写像ではない)を使ってコンテナ $`F`$ を作れます。

  • $`F(i) := f^{-1}(i) \text{ for }i\in I`$

$`F \leftrightarrow f`$ という1:1対応により、コンテナ(あるいはファミリー)は単なる写像のことだと思ってかまいません。ただし、写像を対象とする圏を考えます。写像のあいだの射を次のように定義します。

$`\varphi = (\varphi_\mrm{base}, \varphi_\mrm{total}) : (f:E \to I) \to (g:D \to J)`$ が写像のあいだの射だとは:

  1. $`\varphi_\mrm{base}: I \to J \In {\bf Set}`$
  2. $`\varphi_\mrm{total}: E \to D \In {\bf Set}`$
  3. 次の図式が可換になる。

$`\require{AMScd}
\begin{CD}
E @>{\varphi_\mrm{total}}>> D\\
@V{f}VV @VV{g}V\\
I @>{\varphi_\mrm{base}}>> J
\end{CD}\\
\text{commutative in }{\bf Set}
`$

コンテナ(またはファミリー)のあいだの射も、上記の定義をコンテナの言葉に翻訳して定義できます。

コンテナ(あるいはファミリー)と1:1対応があるという背景〈文脈〉のもとで、写像のことをバンドル〈bnndle〉またはファイバー付き集合〈{ibered | fibred} set〉と呼びます。ここでのバンドルは集合論的な意味であり、幾何学のファイバーバンドルのことではありません。

以下の名前で呼ばれる圏は、事実上すべて同じ圏です。歴史的経緯から、概念的にはひとつの圏に分野ごとの別名がたくさんあります。

  • $`{\bf Cont} = {\bf 1Cont}`$ : コンテナの圏
  • $`{\bf Fam}`$ : ファミリーの圏
  • $`{\bf Bun}`$ : バンドルの圏
  • $`{\bf FibSet}`$ : ファイバー付き集合の圏

多項式関手

コンテナ $`A:I \to |{\bf Set}| \In {\bf Set}`$ を $`(I, A_\bullet)`$ と書き表すことにします。黒丸は、引数〈argument〉の場所を示します。$`A_\bullet`$ なら、引数は下付き添字として渡します。他に、$`A(\bullet), A[\bullet], A\bullet, A^\bullet`$ などがあります。どんな引数渡し構文を使うかは好みの問題に過ぎません、議論の内実には何の関係もありません。

コンテナ $`(I, A_\bullet)`$ があると、集合圏の自己関手 $`P:{\bf Set}\to{\bf Set} \In {\bf CAT}`$ が決まります。$`P`$ の定義は以下のとおり。

  • $`P(X) := \sum_{i\in I} X^{A_i} \:\text{ for }X \in |{\bf Set}|`$
  • $`P(f) := (\sum_{i\in I} f^{A_i} : P(X) \to P(Y) \In {\bf Set}) \:\text{ for }f: X \to Y \In {\bf Set}`$

ここに出てきた $`f^{A_i}`$ は次のような写像です。

  • $`f^{A_i}(u) := u;f = f\circ u\;\in Y^{A_i} \:\text{ for } u \in X^{A_i}`$

$`P`$ が関手になることは定義を律儀に追いかけて確認できます。

関手 $`P`$ はコンテナ $`(I, A_\bullet)`$ から決まるので次のように書きます。

$`\quad P = \mrm{Poly}(\, (I, A_\bullet) \,) = \mrm{Poly}(I, A_\bullet)`$

$`\mrm{Poly}`$ はコンテナに関手を対応させますが、コンテナのあいだの射には自然変換を対応させることができます。つまり、次のような関手が定義できます。

$`\quad \mrm{Poly} : {\bf Cont} \to {\bf CAT}({\bf Set}, {\bf Set}) \In {\bf CAT}`$

$`{\bf CAT}({\bf Set}, {\bf Set})`$ は関手圏(自己ホム圏)で、$`[{\bf Set}, {\bf Set}]`$ とも書きます。

$`P = \mrm{Poly}(I, A_\bullet)`$ と書ける関手 $`P`$ を(厳密に)多項式関手〈strictly polynomial functor〉だと言います。この定義だとキツすぎて不便なので、圏 $`[{\bf Set}, {\bf Set}]`$ のなかで厳密な多項式関手と同型(関手の自然同型)である関手はやはり多項式関手と呼びます

多項式関手全体を対象の集合(大きい集合)とする、$`[{\bf Set}, {\bf Set}]`$ の充満部分圏を $`{\bf Poly}`$ と書きます。ホムセット $`{\bf Poly}(P, Q)`$ は、多項式関手のあいだの自然変換の集合です。プログラミングとの関係で言えば、$`{\bf Poly}`$ は1パラメータの総称型/総称関数を扱う舞台として適切です。個々の多項式関手に対して、その代数〈ランベック代数〉の圏、余代数の圏を作るのも面白いです。

用語の乱用で、コンテナ(あるいはファミリー)のことを多項式と呼ぶことがあります。逆に、多項式関手のことをコンテナ(あるいはファミリー)と呼ぶこともあります。そのへんはグチャグチャなのであしからず。

なお、以前書いた記事「圏論的コンテナ」では、この記事のコンテナをコンテナスキーマ、対応する多項式関手をコンテナ関手と区別していました。

2-コンテナ

コンテナの定義で出てくる集合〈0-圏〉を圏〈1-圏 | 2-集合〉に置き換えてみます。ほとんど単純な置き換えですが、シグマ型構成(集合の総和)の代わりにインデックス付き圏のグロタンディーク構成を使います。

2-コンテナ〈2-container〉とは次の形の2-関手だとします。

$`\quad \cat{A} :\cat{I}\!\uparrow_2 \to {\bf CAT} \In \mathbb{2CAT}`$

ここで、$`\cat{I}\!\uparrow_2`$ は、圏 $`\cat{I}`$ を2-離散2-圏(すべての2-射は恒等射)とみなした2-圏です。$`\cat{A}`$ は、とても大きい2-圏(ただし厳密2-圏)である $`{\bf CAT}`$ を余域とする2-関手なので、とても大きい2-圏も対象とする3-圏 $`\mathbb{2CAT}`$ の1-射になります。

話を単純化したいなら、次の定義にします。

$`\quad \cat{A} :\cat{I} \to {\bf CAT}\!\downarrow_1 \In \mathbb{CAT}`$

ここで、$`{\bf CAT}\!\downarrow_1`$ は、2-圏である $`{\bf CAT}`$ の2-射(自然変換)を捨てて1-圏にしたものです。$`\cat{A}`$ は、とても大きい1-圏である $`{\bf CAT}\!\downarrow_1`$ を余域とする1-関手(通常の関手)なので、とても大きい1-圏も対象とする2-圏 $`\mathbb{CAT}`$ の1-射になります。

$`\cat{I}`$ の代わりに $`\cat{I}^\mrm{op}`$ を考えると、$`\cat{A}`$ は反変2-関手または反変関手になります。したがって、2-コンテナはインデックス付き圏〈indexed category〉と同じことになります。反変・共変の違いは気にしないで、以下、2-コンテナとインデックス付き圏は同義語として扱います。

$`\mathbb{CAT}`$ の1-射とみなせる2-コンテナは厳密2-コンテナ〈strict 2-container〉 と呼ぶことにします。厳密ではない2-コンテナは、厳密ではない2-関手となりますが、ラクセイター(laxator、2-関手の構造を与える射)は可逆射であると仮定します -- このタイプの2-関手(擬関手と呼ばれることがある)を、僕はタイト2-関手と呼んでいます。

圏 $`\cat{I}`$ 上の厳密2-コンテナの圏を $`\mrm{s}2{\bf Cont}[\cat{I}]`$ 、厳密とは限らない(しかしタイトな)2-コンテナの2-圏を $`2{\bf Cont}[\cat{I}]`$ とします。

グロタンディーク構成

前節の2-コンテナの2-圏は、3-圏 $`\mathbb{2CAT}`$ のホム2-圏です。

$`\quad {\bf 2Cont}[\cat{I}] = \mathbb{2CAT}^\mrm{tight}(\cat{I}\!\uparrow_2, {\bf CAT}) \In \mathbb{2CAT}`$

2-コンテナ(厳密とは限らないインデックス付き圏)とファイバー付き圏〈fibred category〉は相互変換できて、それぞれの2-圏のあいだに“2-圏の同値”があります。

$`\quad {\bf 2Cont}[\cat{I}] \cong {\bf FibCAT}[\cat{I}] \In \mathbb{2CAT}`$

左から右への方向の対応を与えるのがグロタンディーク構成です。2-コンテナ $`(\cat{I}, \cat{A}_\bullet)`$ のグロタンディーク構成による平坦化圏を積分記号を使って表します。反変・共変の別は気にしてません。

$`\quad \int (\cat{I}, \cat{A}_\bullet) = \int_{\cat{I}} \cat{A}_\bullet = \int_{x \in_* \cat{I}} \cat{A}_x`$

$`x \in_* \cat{I}`$ は、$`x\in |\cat{I}|`$ または $`x \in \mrm{Mor}(\cat{I})`$ を表します。次の2-関手に拡張できるでしょう。

$`\quad \int (\cat{I}, \hyp) : {\bf 2Cont}[\cat{I}] \to {\bf CAT} \In \mathbb{2CAT}
`$

インデキシング圏(コンテナ用語ではシェイプの圏)$`\cat{I}`$ への射影 $`\pi`$ により、次のファイバー付き圏が得られます。

$`\quad (\pi : \int_{\cat{I}} \cat{A}_\bullet \to \cat{I}) \in |{\bf FibCAT}[\cat{I}]|`$

次の2-関手に拡張できるでしょう。

$`\quad (\pi :\int (\cat{I}, \hyp) \to \cat{I} ) : {\bf 2Cont}[\cat{I}] \to {\bf FibCAT}[\cat{I}]
\In \mathbb{2CAT}
`$

2-多項式関手

2-コンテナ $`(\cat{I}, \cat{A}_\bullet)`$ があるとき、それから2-関手を作れます。その2-関手を $`\mrm{2Poly}(\cat{I}, \cat{A}_\bullet)`$ とします。

$`\quad \mrm{2Poly}(\cat{I}, \cat{A}_\bullet) : {\bf CAT} \to {\bf FibCAT}[\cat{I}] \In \mathbb{2CAT}`$

$`{\bf CAT}`$ の対象(つまり圏)に対しては、2-多項式関手 $`\mrm{2Poly}(\cat{I}, \cat{A}_\bullet)`$ の値を次のように定義します。

$`\text{for }\cat{T} \in |{\bf CAT}|\\
\quad \mrm{2Poly}(\cat{I}, \cat{A}_\bullet)(\cat{T}) :=
(\pi : \int_{x\in_* \cat{I}} [A_x, \cat{T} ] \to \cat{I}) \;\in |{\bf FibCAT}[\cat{I}]|
`$

$`{\bf CAT}`$ は1-射(関手)、2-射(自然変換)も持つので、それらに対しても $`\mrm{2Poly}(\cat{I}, \cat{A}_\bullet)`$ の値を確定して、2-関手性を示す必要があります。実はまだ計算してないのですが、おそらく成立するでしょう。

さらには、次も成立すると期待しています。

$`\quad \mrm{2Poly} : {\bf 2Cont} \to [{\bf CAT}, {\bf FibCAT}]_2 \In \mathbb{2CAT}`$

ここで、$`[\text{-}, \text{-}]_2`$ は、$`\mathbb{2CAT}`$ のホム2-圏を対象(つまり2-圏)とみなした、$`\mathbb{2CAT}`$ の指数対象です。言っていることは、2-コンテナにその2-多項式関手を対応させる $`\mrm{2Poly}`$ が2-圏のあいだを結ぶ2-関手だろうということです。この主張を具体的に書き下すと、けっこうな量の命題群になります。

おわりに

1-コンテナの定義の0-圏〈1-集合〉を1-圏〈2-集合〉に置き換えてみるだけの試みですが、一般に次元を上げると確認と計算の量が矢鱈に増えます。一般的な場合はシンドいので、特殊ケースで確認するのがよさそうです。

インデキシング圏 $`\cat{I}`$ が指標の圏で、指標で自由生成される小さい圏が割り当てられている2-コンテナが当面調べたい事例です。