律子
モノイド圏において、結合律は等式で成立するとは限らず、次のような射で記述されます。
$`\quad \alpha_{A, B, C} : (A\otimes B)\otimes C \to A\otimes (B\otimes C)`$
“結合律をゆるくした法則”を与える射(の族)$`\alpha_{A, B,C}`$ を associator と呼びます。僕は、"associator" を「結合律子」という日本語にしています。同様に、単位律を与える射(の族)である "unitor" は「単位律子」です。
さらに、ナントカ律/法則のイコールを置き換える射を総称して僕は律子〈りつし〉と呼んでいます。
律/法則 | 律子 |
---|---|
結合律 | 結合律子〈associator〉 |
単位律 | 単位律子〈unitor〉 |
交替律 | 交替律子〈interchangor | tensorator〉 |
ニョロニョロ律 | ニョロニョロ律子〈snakeorator | snakerator | gigzagerator〉 |
律子について初めて書いたのは2016年の次の記事です。
最近だと、次の記事に説明があります。
律子の語尾は -or にするのがルールで、Yang-Baxterator〈ヤン/バクスター律子〉なんてのも見たことがあります。ネーミングルールはあるのですが、「法則〈律〉をゆるめるための射」に対する合意された総称はないようです。「律子」は僕がそう呼んでいるだけです。
laxator
「律子」に対応する英語名称がないか? とずっと探していたのですが、"laxator" が良さそうです。How to Pronounce Laxator で聞くと、カタカナ書きなら「ラクセイター」でしょう。
ラクセイターは、もともとはかなり狭い意味で使われている語です。例えば、ジョウ・モーラーの次のブログ記事、
あるいは、彼とクリスティナ・バジラコポウラウの論文、
- Title: Monoidal Grothendieck construction
- Authors: Joe Moeller, Christina Vasilakopoulou
- Submitted: 3 Sep 2018 (v1), 17 Aug 2021 (v4)
- Pages: 40p
- URL: https://arxiv.org/abs/1809.00727
で「ラクセイター」が使われています。ラックス・モノイド関手に付属する associator を laxator 、unitor を unit laxator と呼んでいます。
ラックス・モノイド関手に限らずに、「法則〈律〉をゆるめるための射」をナントカ・ラクセイターでいいだろう、と思います。「ゆるめるヤツ、弛緩させるヤツ」てな意味でしょうから。
緩化子
イコールで記述される法則は厳密法則〈strict law〉といいます。
- 厳密結合律: $`(A\otimes B)\otimes C =o A\otimes (B\otimes C)`$
- 積の厳密保存律: $`F(A)\otimes F(B) = F(A\otimes B)`$
これを緩化〈かんか | laxation | ラクセイション〉すると:
- ラックス結合律: $`\alpha_{A, B, C}: (A\otimes B)\otimes C \to A\otimes (B\otimes C)`$
- 積のラックス保存律: $`\nu_{A, B}: F(A)\otimes F(B) \to F(A\otimes B)`$
イコールを置き換えてる射が、それぞれのラクセイターです。
「ラクセイター」の漢字表記は「緩化子〈かんかし〉」かな。意味的には律子と同じなので:
- ラクセイター = 緩化子 = 律子
「等式的法則〈厳密法則〉を緩化したときに使われる緩化子」という意味で「律子」は使い続けると思います。結合律緩化子 = 結合律子 のように。
ラクセイターの向きを反対にした緩化もあります。
- 反ラックス結合律: $`{\alpha'}_{A, B, C}: A\otimes (B\otimes C) \to (A\otimes B)\otimes C`$
- 積の反ラックス保存律: $`{\nu'}_{A, B}: F(A\otimes B) \to F(A)\otimes F(B)`$
これらの反ラックス法則を与える緩化子は反緩化子です。ただし、どっちの方向を“正”にとるかは恣意的なので、緩化子と反緩化子の区別は相対的なものです。