インデックス付き圏(indexed category)の話をしても全くウケないのは承知でもう一回。
さらにもう1回か2回か。一人くらい(内海さん)にはウケるかもしれないので^^;
「インデックス付き圏の3つの例」で挙げた3つの例のなかで、図式の例とインスティチューションの例は、具体例とは言いながら完全に圏を1つ固定した話ではなくて、圏の類を話題にしているので後回し。ベクトル空間の例に対してグロタンディーク構成(平坦化)を具体的に作ってみます。
以下では、グロタンディーク構成で作った圏を「平坦化(した/された)圏」と呼ぶことにします。正確に言えば、インデックス付き圏(indexed category)のグロタンディーク構成からファイブレーションを忘れた圏(ファイバーバンドルで言えば全空間)が平坦化圏です。
スカラー体Kごとに、その体上のベクトル空間と線形写像の圏Vect[K]を考えると、インデックス付き圏となるのでした。このインデックス付き圏を平坦化した圏をVectと表すことにします。積分記号∫を使って、∫Vect[K] dK のように書くこともあるようです。「なるほど、これはうまい記法だ!」と思いますが、今日は使いません。
スカラー体KとK上のベクトル空間Vの組 (K, V) をすべて考えます。これで対象の集合(サイズは大きい!)ができます。記号を乱用して、V = (K, V) のようにも書きます。いま定義した対象は、スカラー体(係数体)を特定しないで「適当な体上のベクトル空間」という一般的な概念を定式化したものになっています。
次は射を考えます。実2次元ベクトル空間 (R, R2) と複素2次元ベクトル空間 (C, C2) を例とします。通常は、(R, R2) → (C, C2) という線形写像を考えることはありません。なぜなら、スカラー体が異なるベクトル空間のあいだの写像に線形性(スカラー倍がスカラー倍に写る)という性質が定義できないからです。
そこで、実数体Rと複素数体Cを、標準埋め込み i:R→C により繋ぎます。この埋め込みから、関手 i*:Vect[C]→Vect[R] が定義できます。関手i*を使えば、複素ベクトル空間/線形写像を実ベクトル空間/線形写像だとみなすことができます。
i*(C, C2) = (R, R4) となります。(R, R2) → (C, C2) という線形写像とは、Vect[R]内の(R, R2) → i*(C, C2) のことだと定義するなら、それは (R, R2)→(R, R4) である実線形写像です。つまり、4行2列の実行列ですね。
体Rと体Cのあいだには埋め込みがあったので、スカラー体が異なっていても線形写像(と無理に呼んだ射)が定義できました。例えば,3元体F3 = Z/3Z とRを考えると、この2つの体のあいだを連絡する埋め込み(圏Fieldの射)はありません。したがって、どんなに無理をしようが、F3上のベクトル空間とR上のベクトル空間のあいだの“線形写像”は定義できません。
というわけで、スカラー体ごとにベクトル空間の圏が“生えていた”状況から、スカラー体を特定しない「ベクトル空間一般の圏」が構成できたのです。スカラー体が異なるベクトル空間のあいだの線形写像は、体の拡大/制限を使って定義しました。これはグロタンディーク構成の例です。