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参照用 記事

メイヤー代数/メイヤー加群の定義を仕切り直す

現状を書きだしてみると、それが考えるキッカケになったりしますね。

双モノイドは、そのままではクライスリ構成とあまり相性がよくないようです。

と言いながら、メイヤー代数の定義のなかには双モノイド構造が含まれています。双モノイドの構造を採用することにより、次の問題が生じています。

メイヤー代数は、AとMが緊密に関係した構造です。この結び付きがどうも強すぎるときがあります。



メイヤー加群も係数域としてメイヤー代数を使っているので、メイヤー代数の制限を引きずっています。

僕が双モノイド構造にこだわったのは、ある種の「予測可能性」を確保するためだったんですが、

情報が部分的だったり、時間的な遅れがあったり、完全な制御が無理だったり、分散して大規模だったり、という状況の記述には向きません。

多くの状況で強い「予測可能性」は期待できないのですね。ゆるい法則性はあるが、確実な予測は無理、ってことです。

であるなら、双モノイド構造を捨ててしまいましょうか。以前のメイヤー代数/メイヤー加群の定義から、双モノイド構造を取り除いてみることにします。以前のメイヤー代数/メイヤー加群の定義は、次のエントリーに書いてあります。

上記の記事「メイヤー代数/メイヤー加群の圏」では、次のような記法を使っています。

  1. 対象M
  2. 単位 e:I→M
  3. 乗法 m:M×M→M
  4. 対象V
  5. 余単位 !:V→I
  6. 余乗法 Δ:V→V×V

ここでは、自己関手の圏でのメイヤー的な代数系を主に考えるので、射はギリシャ小文字を使うことにします。

  1. 対象M
  2. 単位 η:I→M
  3. 乗法 μ:M×M→M
  4. 対象V
  5. 余単位 ε:V→I
  6. 余乗法 δ:V→V×V

M = (M, η, μ) がモノイド、V = (V, ε, δ) が余モノイド、さらに β:MV→VM があって、とある条件(ベックの分配法則の公理群)を満たせば、(M, V, β) は両モノイド構造を持ちます。この設定で、メイヤー加群(改訂版)を定義します。

対象Aがあって、

  • α:AM→A がモノイドM上の加群となる。
  • γ:A→AV が余モノイドV上の余加群となる。

このとき、(A, α, γ) を、(M, V, β) 上のメイヤー加群(修正した定義)と呼ぶことにします。次の点が以前とは変わっています。

  • 係数域は単なる両モノイドである。したがって、モノイドMと余モノイドVは「ほとんど関係がない」。
  • 同じ台対象A加群と余加群の構造が載っているが、この2つの構造も「ほとんど関係がない」。
  • MとVのあいだには入れ替え(スワップ)βがあるが、AとM、AとVを入れ替える手段は与えられてない。

これは、双モノイド構造を持つ場合に比べると極端に弱い定義になっています。以前、弱すぎることに不安を感じて双モノイド構造が入れたわけですが、それは強すぎたので、とりあえず弱い定義を基礎にして、必要な性質を後から追加しようという方針に変更。

メイヤー加群の定義で、A = V、γ = δとすると、加群の作用 α:VM→V を備えた両モノイドの構造になります。これは以前のメイヤー代数と比べて次の点が弱くなっています。

  • Mはモノイドだが、余モノイド構造は持ってない。
  • 双モノイド法則(双代数法則)は定義も要求もされない。

Mを双モノイド構造を要求する以前のメイヤー代数は、メイヤー双代数と呼び替えることにします。形容詞「メイヤー」が付いているのは、メイヤー先生の「Command-Query分離の原則」を前提にしているからで、次の点を注意しておきます。

  1. メイヤー加群は、モノイドMがCommandとして作用する状態空間だが、Vに値を持つQueryとしてのV-余加群構造も持つ。
  2. メイヤー双代数は、双代数(双モノイド)Mだけではなく、双代数M上の加群構造を持つ余モノイドVも含まれる。

Commandを表現するモノイド/加群とQueryを表現する余モノイド/余加群の構造が一緒になっている、ということです。ただし、Commandの作用がQueryにどう影響するかを予測できることが保証されてません(予測するための法則が与えられてないので)。メイヤー双代数では、CommandによるQueryへの影響が完全に計算できるようになっています。メイヤー双代数でモデル化できる状況では、計算による予測が通用するので、非常に扱いやすくなります。

現実的に必要な構造は、CommandによるQueryへの影響が「ある程度は計算できる」ようなものでしょう。この「ある程度は計算できる」の塩梅がよく分かってないのです。

集合圏のようなデカルト閉圏なら、reachableとかobservable(またはdistinguishable)という性質が定義できて、これが「ある程度は計算できる」を表現しています。しかし、自己関手圏のようなモノイド積が非対称で、モノイド閉性が全然期待できないような所で、何をどうしたらいいかは謎です。