ここのところ3日間、圏論的宇宙〈categorical universe | category theoretic universe〉について書きました。
初回のタイトルに「ファンタジー」が入っているくらいに、ボヤッとした話です。天文学的宇宙の話が、楽しいけど実際にこの目で確認できないのと同じような感じですね。今回もボヤッとした仮説について述べます。ある次元の宇宙(のスライス)が、1次元高い対象になるだろう、という仮説です
内容:
原理?
(-2)以上のすべての整数nに渡って、すべてのn-圏を寄せ集めた総体が圏論的宇宙です。圏論的宇宙には、圏論的実体(対象、射、圏、関手、自然変換、etc.)が一切合切〈いっさいがっさい〉入っています。圏論的宇宙と個々のn-圏の構造を探るための指導原理に反転原理を使いました。
反転原理は、「原理」とは呼んでいますが実際には仮説です。「圏論的宇宙と反転原理と次元付きの記法」では「経験則」と書いています。
これ[反転原理]は、単一のn-圏の構造は、圏論的宇宙の構造を反転させた姿をしているようだ、という経験則です。
反転原理は、経験則 -- 観測された事実らしきものです。何でそうなるかの説明はできません。いつか、もっと基本的な事実から証明されるかも知れないし、「そういうものなんだ」と受け入れるしかないのかも知れません。反転原理が実際は成立してない可能性だってあります。
とはいえ、反転原理を主張する命題は、そこそこ厳密な形で述べることができるでしょう。これから述べる対象化原理は、主張の定式化も曖昧です。真偽のほどはともかくとして、厳密な定式化が出来たらそれで大したもんだ、という感じです。
対象化原理
「対象化」は"objectification"(動詞なら"objectify")のつもりです。対象化とは、ナニカを圏論の意味での対象〈objet〉にすることです。ナニカは、宇宙のひとつの階層です。
対象化原理の一番分かりやすい例は、「次元(-1)の階層全体を次元0の対象にする」ところです。出来上がる対象が0次元対象なので、0-対象化と呼びましょう。
次元(-1)の階層全体とは、(-1)-Catのことです。(-1)次元の対象が真偽値(TrueまたはFalse)だったので、(-1)-Cat = {True, False} です。{True, False}は二元の集合なので、明らかに集合圏の対象です。集合圏は0-Catでした。この事実は、次のように書けます。
- 0-対象化: (-1)-Cat ∈ |0-Cat|
今出てきた次元(-1)と0を、他の整数に置き換えると、それらが全体として対象化原理〈objectification principle〉になります。
(-1)-対象化は次の形です。
- (-1)-対象化: (-2)-Cat ∈ |(-1)-Cat|
(-2)-Catは「無」を表す記号*だったので、
- (-1)-対象化: * ∈ |(-1)-Cat|
これは、*をTrueとみなして、True∈{True, False} のことだと解釈できます。([追記]Falseだとみなすほうが自然なようです。[/追記])
(-1)-対象化、0-対象化のケースにおいて、対象化で出来た対象はTrueとBoolです。真偽値のなかの真、集合圏のなかのブール集合は特別な役割をになっています。なんというか、基準や規範を与える特別な対象、そんな感じです。
正次元の対象化原理
さて、正の次元に対する 1-対象化, 2-対象化, … を考えてみます。とりあえずは、形式的に次元を代入してみます。
- 1-対象化: 0-Cat ∈ |1-Cat|
- 2-対象化: 1-Cat ∈ |2-Cat|
0-Catは集合圏Setで、1-Catは通常の圏の圏Catですから、
- 1-対象化: Set ∈ |Cat|
- 2-対象化: Cat ∈ |2-Cat|
うーん、頭が痛いことになりました。僕は、圏のサイズの問題をいつも避けて通っているのですが、ここでは避けられないなー。Setは巨大な圏なのですが、そのSetをひとつの対象として含むCat? 普通はCatは小さい圏の圏です。CatにSetを入れることは出来ません。
考え方はたぶん2つあるでしょう。
- Setは巨大だが、それのアバター〈化身〉である小さな圏setがあり、set∈|Cat| である。
- Catは、Setより“もっと巨大”な2-圏なので、Setをそのまま対象として格納できる。
どっちにしても難しいな。集合論で反映原理というのがありますが、状況は少し似てるのかもしれません(よく知らんけど)。(n-1)-Cat ∈ |n-Cat| と書くときの後ろめたさを幾分かは緩和するために、対象化で得られた対象を小文字だけで書いて (n-1)-cat ∈ |n-Cat| とします。
- 0-対象化: (-1)-cat = bool として、bool∈|Set|
- 1-対象化: 0-cat = set として、set∈|Cat|
- 2-対象化: 1-cat = cat として、cat∈|2-Cat|
対象化と論理
集合圏におけるブール集合(bool∈|Set|)、圏の圏における集合圏(set∈|Cat|)はなんか似てるところがあります。先に「基準や規範を与える特別な対象」と言いましたが、bool, setはその点で共通しているのです。
任意の集合Sに対して、1-ホム集合Set(S, bool)をとると、それは集合S上の述語の集合になります。Set(S, bool)は外部ホム(集合圏の外から見たホム)ですが、集合圏では内部ホムを作れます。内部ホムは、[S, bool]とかboolSとか書きます。
次元を上げて、任意の圏Cに対して、1-ホム圏Cat(Cop, set)をとると、それは圏C上の前層の圏になります。Catでも内部ホムを作れて、[Cop, set](あるいはsetCop)が内部的な前層の圏です。
述語と前層はなんか似ていて、前層(あるいは層)の理論が述語論理の圏化のように思えます。ニ項の述語は関係ですが、関係の全体は [S×T, bool] in Set と書けます。次元を上げた類似物はプロ関手〈profunctor〉です。[C×Dop, set] in Cat です。プロ関手が関係の類似物であることはしばしば指摘されます。
述語と関係(二項述語)の理論(つまり論理)を前層とプロ関手の理論に系統的に“持ち上げる”方法があるのかもしれません。あるいは、次元によらない共通の枠組みがあるのかもしれません。
とまー、ほぼ「わかんない」のですが、圏論的な宇宙がのっぺらぼうではなくて、階層や階層をまたいだ構造を持つだろう、とは予測できます。そして、断片的な状況証拠からもある程度の知見が得られると思います。