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参照用 記事

群の作用がナントカ -- おぼえられない

「群の作用がナントカ(形容詞)」という文言にたまに出会います。毎回意味を調べるのですが、憶えられない。毎回忘れる。

https://mathworld.wolfram.com/ で調べてみます。$`\newcommand{\Imp}{ \Rightarrow }\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}`$

記号を次のように約束します。

  • $`G`$ : 群
  • $`I`$ : 群の単位元
  • $`X`$ : 集合
  • $`\cdot`$ : 群の左作用

自然言語だと曖昧だし*1比較しにくいので、すべて論理式で書きます。

$`\text{Free}\\
\quad \forall x \in X.\, \forall g\in G.(\, g\cdot x = x \Imp g = I \,)\\
\text{Effective}\\
\quad \lnot \exists g \in G.(\, g \ne I \land (\forall x\in X.\, g\cdot x = x)\,)\\
\text{Faithful}\\
\quad \lnot \exists g \in G.(\, g \ne I\land (\forall x \in X.\, g\cdot x = x)\,)\\
\text{Transitive}\\
\quad \forall x, y \in X.\, \exists g \in G.\, g\cdot x = y
`$

効果的〈effective〉と忠実〈faithful〉は同義語だったのか。まだ、分かりにくいので、論理式を変形します。

$`\text{Free}\\
\quad \forall x \in X.\, \forall g\in G.(\, g\cdot x = x \Imp g = I \,)\\
\equiv \forall x \in X.\, \forall g\in G.(\, g \ne I \Imp g\cdot x \ne x \,)\\
\equiv \forall g\in G.\, \forall x \in X.(\, g \ne I \Imp g\cdot x \ne x \,)\\
\equiv \forall g\in G.(\, g \ne I \Imp \forall x \in X.(\, g\cdot x \ne x \,)\,)
`$

群元($`G`$ の要素)$`g`$ を $`\lambda\,x\in X. g\cdot x`$ という自己写像に移す〈写す〉写像を $`\varphi`$ とします。$`\mrm{Aut}(X)`$ は集合 $`X`$ の自己同型〈automorphism〉達の群です。

$`\quad \varphi : G \to \mrm{Aut}(X)\\
\quad \varphi := \lambda\, g\in G.(\, \lambda\,x\in X. g\cdot x \; \in \mrm{Aut}(X)\,)
`$

この $`\varphi`$ を使うと:

$`\text{Effective}\\
\quad \lnot \exists g \in G.(\, g \ne I \land (\forall x\in X.\, g\cdot x = x)\,)\\
\equiv \forall g \in G.(\, (\forall x\in X.\, g\cdot x = x) \Imp g = I \,)\\
\equiv \forall g \in G.(\, \varphi(g) = \mrm{id}_X \Imp g = I \,)
`$

これでも、憶えられる気がしない。ダジャレで英単語を覚えるサイトに、

権力を恐れて → おそれて → オーソレテ → authority (オーソリティー): 権力、権威、当局

なんてのがありますが、憶えられないときはダジャレやコジツケを使うしかないなー。

群作用〈group action〉の「自由」は、自由生成の「自由」とは意味・用法が違うのが憶えられない原因(僕にとっては)。"fixed-point free" という言葉の "free" は「~ が無い」の意味で「不動点が無い」こと。群作用の "free" は "fixed-point free" のことだと考えましょう、コジツケとしてですが*2。群作用が不動点無しだとすれば、次が成立します。

$`\quad \forall g\in G.(\, g \ne I \Imp (\lnot \exists x\in X.\, g\cdot x = x ) \,)`$

単位元の作用が不動点有り(つうか、不動点ばっかり)なのは致し方ないので、「単位元じゃなければ」という条件を付けています。少し変形すれば、これは自由作用の定義と同じです。

次に、忠実=効果的な群作用の否定は:

$`\quad \exists g \in G.\, g \ne I\land \varphi(g) = \mrm{id}_X`$

単位元じゃないのに、何もしない作用(恒等射)に潰れてしまう群元($`G`$ の要素)があるわけです。実際は、単位元以外は何らかの効果(もたらす変化)があるのだから効果的。「効果的」の同義語がなんかあったと憶えていれば、たぶん「忠実」に出会ったとき「効果的のことだ」と思い出すでしょう。

推移的 -- うーん、関係の推移性〈transitivity〉とちょっと雰囲気が似てるけど、それだけのヒントでは定義が思い出せない。"transitive" の "trans" が "transport"〈輸送〉と似てるから、実は(ウソだけど)"transportable"〈輸送可能〉だとします。群作用を移動手段だと考えると、適切な群元 $`g`$ に乗って“どこからどこにでも”移動(または輸送)できる、というわけ。

*1:実際、自然言語文が曖昧で free の意味を論理式に翻訳するのに苦労しました。

*2:後で https://en.wikipedia.org/wiki/Group_action を見たら free (or semiregular or fixed-point free) と書いてあったので、実はコジツケじゃなかった。