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参照用 記事

多項式関手とその表現図

集合圏における多項式関手の定義に、次の図式(多項式関手の表現図〈representing diagram〉)が登場します。

$`\quad\xymatrix{
I
&
B \ar[l]_{s} \ar[r]^{p}
&
A \ar[r]^{t}
&
J
}\text{ in }{\bf Set}`$

なんでこれが多項式関手の定義なんだ? と思います。$`\newcommand{\hyp}{\text{-} }\newcommand{\In}{\text{ in } }`$

まず、$`J`$ は、連立した多項式関手達をインデックスするためのインデックス集合〈indexing set〉です。つまり、次のようになります。

$`\quad P = (P_j \mid j\in J)`$

$`J = \{1, 2, 3\}`$ ならば、

$`\quad P = (P_1, P_2, P_3)`$

あるいは縦に並べて、

$`\quad P = \begin{pmatrix}P_1 \\ P_2 \\ P_3 \end{pmatrix}`$

$`j\in J`$ を固定すると、ひとつの成分多項式の定義になります。

$`I`$ は多変数の変数達をインデックスするためのインデックス集合です。変数〈不定元〉は $`(X_i \mid i \in I)`$ として列挙できます。$`I = \{1, 2, 3, 4\}`$ なら、変数は4つで $`(X_1, X_2, X_3, X_4)`$ です。

なんらかの集合 $`K`$ と写像 $`\varphi : K \to I`$ があると、$`K`$ に沿って $`X_{\varphi(k)}`$ 達を並べて掛け算すると次の“$`K`$次”の単項式ができます。

$`\quad \prod_{k\in K} X_{\varphi(k)}`$

例えば、$`\varphi : \{1, 2, 3, 4, 5\} \to \{1, 2, 3, 4\}`$ が、

$`\quad \varphi = (\varphi(1), \varphi(2), \varphi(3), \varphi(4), \varphi(5) ) = (2, 4, 2, 1, 1)`$

ならば、

$`\quad \prod_{k\in K} X_{\varphi(k)} = X_2 X_4 X_2 X_1 X_1`$

$`j\in J`$ に対する成分多項式は次のようになります。

$`\quad \sum_{a\in A_j} \prod_{b \in B_a} X_{s(b)}\\
\text{where}\\
\quad A_j = t^{-1}(j)\\
\quad B_a = p^{-1}(a)
`$

$`A_j`$ に沿って単項式達を足し合わせます。$`a\in A_j`$ に対する単項式の構成法(変数達の掛け合わせ方)は写像 $`s|_{B_a}`$ で与えられます。

結局、連立の多変数多項式関手は次のように書けます。

$`\quad P = (\sum_{a\in A_j} \prod_{b \in B_a} X_{s(b)} \mid j\in J)`$

変数達 $`(X_i \mid i \in I)`$ に具体値を与えることは、集合族〈ファミリー〉 $`\alpha : I \to |{\bf Set}|`$ を具体的に決めることです。集合族 $`\alpha`$ に対して各 $`P_j`$ の値を計算すると、$`J`$ でインデックスされた集合族が得られます。この対応により、次の写像が定義できます。

$`\quad P_\mathrm{obj} : |{\bf Fam}[I]| \to |{\bf Fam}[J]| \In {\bf SET}`$

ここで、$`{\bf Fam}[\hyp]`$ はインデックス集合を固定したファミリー〈集合族〉の圏です。

ファミリー〈集合族〉のあいだの射 $`\Phi`$ に対して、$`P(\Phi)`$ を定義可能で、関手性を示せるので、$`P`$ は次のような関手になります。

$`\quad P : {\bf Fam}[I] \to {\bf Fam}[J] \In {\bf CAT}`$

インデックス集合を固定したファミリー〈集合族〉の圏は、集合圏のオーバー圏〈スライス圏〉と同じなので、次のようにも書けます。

$`\quad P : {\bf Set}_{/I} \to {\bf Set}_{/J} \In {\bf CAT}`$

冒頭に出した表現図は、確かに連立多変数多項式関手を定義するわけです。$`I, J`$ がともに単元集合なら、単一の一変数多項式関手になります。