「群の作用がナントカ -- おぼえられない」において、(脚注で)次のように書きました。
自然言語だと曖昧だし...[snip]...
実際、自然言語文が曖昧で free の意味を論理式に翻訳するのに苦労しました。
で、その曖昧な free の定義というのは、だいたい次のような自然言語表現です。$`\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1} }
\newcommand{\Imp}{\Rightarrow }
`$
- 任意の $`x\in X`$ に対して、$`g\cdot x = x`$ ならば $`g = I`$
記号の約束を次のようにします。
- $`G`$ : 群
- $`I`$ : 群の単位元
- $`X`$ : 集合
- $`\cdot`$ : 群の左作用
この記号を使って、僕は上記の文を次のように翻訳しました。
- $`\forall x\in X.\forall g\in G.(\, g\cdot x = x \Imp g = I\,)`$
それから、次のような論理式の変形をしました。
$`\text{Free action}\\
\quad \forall x \in X.\, \forall g\in G.(\, g\cdot x = x \Imp g = I \,)\\
\equiv \forall x \in X.\, \forall g\in G.(\, g \ne I \Imp g\cdot x \ne x \,)\\
\equiv \forall g\in G.\, \forall x \in X.(\, g \ne I \Imp g\cdot x \ne x \,)\\
\equiv \forall g\in G.(\, g \ne I \Imp \forall x \in X.(\, g\cdot x \ne x \,)\,)
`$
さて、先の自然言語表現の区切りの位置を変えてみます。
- 任意の $`x\in X`$ に対して、「$`g\cdot x = x`$ ならば $`g = I`$」
- 「任意の $`x\in X`$ に対して、$`g\cdot x = x`$」ならば「$`g = I`$」
二番目のほうならば、次のように翻訳できます。
- $`\forall g\in G.(\, (\forall x\in X. g\cdot x = x) \Imp g = I\,)`$
「群の作用がナントカ -- おぼえられない」でそうしたように、次のような $`\varphi`$ を定義します。
$`\quad \varphi : G \to \mrm{Aut}(X)\\
\quad \varphi := \lambda\, g\in G.(\, \lambda\,x\in X. g\cdot x \; \in \mrm{Aut}(X)\,)
`$
この $`\varphi`$ を使うと、上の論理式は次のように書き換えられます。
- $`\forall g \in G.(\, \varphi(g) = \mrm{id}_X \Imp g = I \,)`$
しかしこれは、群作用が effective であることの定義です。effective = free ではないだろうと思っていたのですが、free の定義として次の自然言語表現を見かけました。
- 任意の $`x\in X`$ を固定できるのは、単位元 $`I`$ だけである。
「任意の $`x\in X`$ を固定できる」写像とは恒等写像だから、この文は、次のようにも解釈できます。
- 恒等写像となれるのは、単位元 $`I`$ だけである。
言ってることは、$`\varphi(g) = \mrm{id}_X \Imp g = I`$ のように思えます。
んもう、どっちなんだよ? 文の係り受けの関係がよく分からんのよ。限量子の束縛スコープがハッキリした論理式で書いてくれよ。
[追記]
nLabの free action の項目、自然言語文は他と同じ文言ですね。($`e`$ は単位元として)$`\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1} }\newcommand{\Imp}{\Rightarrow }\newcommand{\hyp}{\text{-} }
`$
- ... is called free if for every $`x\in X`$, the equation $`g\cdot x = x`$ implies $`g = e`$
次の論理式もありました。
$`\quad \exists x\in X. g\cdot x = x \Imp g = e`$
これも、括弧の位置で意味が変わるんよね。外側に $`g\in G`$ に対する全称限量子があるとして:
- $`\forall g\in G.(\, (\exists x\in X.g\cdot x = x) \Imp g = e \,)`$
- $`\forall g\in G.\, \exists x\in X.(\, g\cdot x = x \Imp g = e \,)`$
一番目だと、「$`g\cdot \hyp`$ に不動点があるか?」を調べれば $`g = e`$ かどうかを判断できると言っています。ニ番目だと、$`g`$ ごとに適当な点 $`a\in X`$ があって、「その点 $`a`$ が $`g\cdot \hyp`$ の不動点かどうか?」を調べれば $`g = e`$ かどうかを判断できる、と。
二番目じゃないだろうから、一番目だとして内側の待遇をとると:
$`\quad \forall g\in G.(\, g \ne e \Imp \lnot (\exists x\in X.g\cdot x = x) \,)`$
ド・モルガンの法則で変形すると:
$`\quad \forall g\in G.(\, g \ne e \Imp (\forall x\in X.g\cdot x \ne x) \,)`$
やっぱり、
- 単位元以外の $`g \in G`$ に対して $`g\cdot \hyp`$ は不動点を持たない。
かな。