関手や自然変換の高次元バージョンとして変換手〈transfor | トランスフォー〉があります。関手、自然変換、その他の“変換のようなもの”を一律に扱う方針を示した点で、変換手は意義があったと思います。が、新しい言葉としての「変換手」は要らないだろうと思います。
内容:
n-圏
n-圏〈n-category〉とは、対象(0-射)と射(1-射)以外に、2-射、3-射、… n-射までの構成素を持つ圏類似物です。通常の圏は1-圏となります。n-圏の全体からなる圏をn-Catと書きましょう。n-Cat自体は、単なる圏ではなくて(n+1)-圏となります。
実際にn-Catを構成するのは大変です。まず、サイズの問題があります。通常の圏は1-圏だったので、その全体は 1-Cat = Cat になります。Catを小さい圏の全体とすれば、集合圏Setは1-Catの対象にはなれません。議論をスムーズに進めるには、次のような系列が欲しいのです。(X ∈0 Y は、X∈|Y| を意味します。)
- Set = 0-Cat ∈0 1-Cat ∈0 2-Cat ∈0 3-Cat …
こういう系列を作れるか? 認めるか? は議論のあるところです。
n-圏は、n種類の結合演算を持ちます。演算が満たすべき法則(結合法則など)があります。これらの法則の“弱さ”のバリエーションがたくさんあります。nが増えるとバリエーションは膨大になります。バリエーションをひとつ固定しても、法則を記述することがとても大変。
そういった頭が痛い問題があるのですが、ここでは、詳細は曖昧なままにn-Catというナニカがあるのだ、と前提します。そして、n-Catは、我々が欲しいと思う良い性質を持っていると楽観的に仮定します。
n-関手、n-自然変換、(n, k)-変換手
C, D をn-圏とします。つまり、C, D ∈0 n-Cat です。このとき、n-圏Cからn-圏Dへの関手 F:C→D を定義できます。通常の圏の場合より面倒ですが、通常の関手と類似の概念としてn-圏のあいだの関手も定義できます。同様に、F, G:C→D が2つの関手のとき、自然変換 α::F⇒G:C→D も、通常の自然変換の類似として定義できます。
n-圏のあいだの関手はn-関手〈n-functor〉と呼びます。n-関手のあいだの自然変換はn-自然変換〈n-natural transformation〉です。関手においても、様々な“弱さ”があるので、n-関手もバリエーションがあります。それについては、次の記事を参照してください。
n-圏はn-Catの対象(0-射)、n-関手はn-Catの射(1-射)、n-自然変換はn-Catの2-射になります。この調子で、n-Catの3-射、4-射、… を定義していくことができます。4-射までは名前が付いています。
- n-Catの3-射 = n-変更〈n-modification〉
- n-Catの4-射 = n-摂動〈n-perturbation〉
しかし、名前をずっと付け続けられるわけではないので、これらを総称する呼び名として変換手〈transfor〉が定義されました。"natural transformation"の"trans"と、"functor"の"or"をくっつけた造語だそうです。
関手や自然変換などはすべて変換手に統合できます。
- n-関手 = (n, 0)-変換手
- n-自然変換 = (n, 1)-変換手
- n-変更 = (n, 2)-変換手
- n-摂動 = (n, 3)-変換手
- (n, 3)-変換手
- …
(n, k)-関手
変換手という概念と言葉をしばらく使ってみたのですが、どうも使いにくい。その主たる原因は番号付けがズレてるせいです。
- n-Catの1-射 = (n, 0)-変換手
- n-Catの2-射 = (n, 1)-変換手
- n-Catの3-射 = (n, 2)-変換手
- n-Catの4-射 = (n, 3)-変換手
番号を合わせるには、次の言葉を使えばよさそうです。
- n-Catの1-射 = (n, 1)-関手
- n-Catの2-射 = (n, 2)-関手
- n-Catの3-射 = (n, 3)-関手
- n-Catの4-射 = (n, 4)-関手
n-Catの対象は0-射なので、(n, 0)-関手ということになります。
変換手という新しい言葉を導入せずに、今までと同じ「関手」を使い、番号を付けて次元を識別するわけです。ただし、番号(次元)は二つ必要です、対象である圏の次元nと、n-Catにおける射の次元kです。単に「n-関手」といったら、それは (n, 1)-関手です。
二つの番号で識別された「関手」を使うと、だいぶスッキリします。
追記(2019-08-28): 検索の問題があるか
「関手」を拡大解釈すれば、「変関手」という言葉は要らないし、そのほうが便利な気がします。が、検索容易性(ググられビリティ)からは問題が生じるかも。
「関手」、"functor"と検索すると、通常の関手(1-圏のあいだの1-関手)に関する情報が圧倒的にたくさん引っかかるでしょう。高次圏の文脈で一般化した関手を検索したい場合は、高次圏に特化した言葉があったほうが便利ですね。
実際僕は、"transfor"で検索して、通常の関手に限らない“変換のようなもの”について調べますし。
特化した用語を作ると、用語が増えてしまう弊害があるけど、検索を精密化するときは役に立つわけです。ウーム。これはねー、トレードオフだからなー、両立はしないなー。