N = {0, 1, 2, 3, ...} に足し算を考えた可換モノイドは、一番お馴染みの代数系と言えるでしょう。Nは無限の長さ(大きさ)を持ちますが、この長さを2倍に引き伸ばして、その上で足し算を考えてみます。
まず、集合Nの2つ分の直和 N + N を作ります。分かりやすいように、オリジナルのNのコピーをN'とします。N' = {0', 1', 2', 3', ...} として、N∪N' を作ります。N∪N' = {0, 1, 2, 3, ..., 0', 1', 2', 3', ...} ですね。n∈N に対して、n'∈N が1対1に対応します。
N∪N' の上に、次のように足し算を定義します。
- n + m := n + m (今までの足し算)
- n' + m := n'
- n + m' := m'
- n' + m' := (n + m)'
実例を幾つかやってみると:
- 0' + 3 = 0'
- 100 + 2' = 2'
- 5' + 10' = 15'
定義から明らかに、N∪N' 上の「+」演算は可換です。0が単位元(中立元、零元)であることもすぐ分かります。
- 0 + n = n + 0 = n
- 0 + n' = n' + 0 = n'
あとは結合法則ですが、場合分けして調べれば確認できます。足し算する3つの項(summand)の場合を列挙すると:
- k, n, m
- k', n, m
- k, n', m
- k, n, m'
- k', n', m
- k, n', m'
- k', n, m'
- k', n', m'
ひとつだけ実際に計算してみると:
(k' + n') + m = (k + n)' + m = (k + n)' k' + (n' + m) = k' + n' = (k + n)'
他の場合も結合的であることが確認できます。
0'を∞と書いてみましょう。実際に、∞はどの自然数よりも大きいので無限大です。しかし、上には上がいて、∞のすぐ上に ∞ + 1 (1')が、その上に ∞ + 2 (2')が*1、と続きます。自然数が二階建てになっていて、普通の自然数が下々の数で、∞の上にアッパー階級の自然数達が続くわけです。
アッパーな自然数の最大の数(上限)として∞'を入れると、N∪N'∪{∞'} はω-総和可能な可換モノイドとなります。
この例は、普通の自然数より“長い”可換モノイドの例ですが、「「イチ、ニ、サン、イッパイ」の算数と分配代数」で出した例 {1, 2, 3, ∞} の足し算部分に0を加えると、“短い”可換モノイドができて、これもω-総和可能です。
*1:[追記]ここで使っている「+ 1」は、可換演算としてのプラスではなくて、次の数という意味です。誤解をまねく表現だったかも知れません。 [/追記]