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参照用 記事

非全域関手と非自然変換

圏論的モダリティ:圏上の非自然な構造達」への追記ですが、別エントリーにします。圏論的モダリティ(categorical modality)を定義するために、非自然変換(non-natural transformation)という概念を導入しました。この非自然変換の定義をここで詳しく述べます。

まず、部分的に定義された関手をpartial functorと呼ぶのですが、partial functorの訳語で悩みます。

partial = non-total なので「非全域」という言葉を使うことにします。ここでの「非全域」は「全域ではない」という意味ではありません。「必ずしも全域とは限らない」です。「非可換」というよく使う言葉も「必ずしも可換とは限らない」の意味なので、「非」のよくある用法だと思います。「非自然」も同様な解釈をします。

  • 全域関手は非全域関手の特別なもの。
  • 可換環は非可換環の特別なもの。
  • 自然変換は非自然変換の特別なもの。

よろしいでしょうか。

念のため、非全域関手をホムセット中心のスタイルで定義しておきます。Fが関手のとき、その対象部分(object part)をFobj、射部分(morphism part)をFmorとします。非全域関手では、FobjもFmorも非全域(部分的)になります。Fが非全域関手であることを詳しく言うと:

  1. C, D は圏とする。
  2. Fobj:|C|→|D| は非全域写像(部分写像)である。
  3. A, B∈|C| がFobjの定義域に入るとき、FmorA,B:C(A, B)→D(Fobj(A), Fobj(B)) が定義されるが、これも非全域写像である(必ずしも全域である必要がない)。
  4. A∈|C| がFobjの定義域に入っているなら、idAはFmorA,Aの定義域に入っている。
  5. 通常の関手と同様に、射の結合と恒等射を保存する。

対象Aに対するF(A)も、射fに対するF(f)も、定義されないことがあっても別にいい、ということです。定義されている範囲内で考えれば通常の関手と同じ扱いができます。

F, G:CD が非全域関手とします。α:|C|→Mor(D) という非全域写像が、FからGへの非自然変換だとは次のことです。

  • αA が定義されているなら、F(A)もG(A)も定義されている。
  • dom(αA) = F(A)、codA) = G(A) である。

α::F⇒G と書くと、自然変換と区別が付かないので、α::F ?⇒ G とでも書けばいいかな。非全域関手であることも明示するなら、α::F ?⇒ G:C⊃→D とか。

Cの射 f:A→B in C が、非自然変換αと整合する(consistent, compatible)とは、次の図式が可換になることです。(図式内のα_AはαAのこと。)

F(A) -(α_A)→G(A)
|            |
F(f)          G(f)
↓            ↓
F(B) -(α_B)→G(B)

この可換図式が意味を持つには次の前提が必要です:

  • AもBも、αの定義域に入っている。
  • fはFA,Bの定義域にも、GA,Bの定義域にも入っている。


非全域関手や非自然変換のような変なものをなぜ考えるのでしょう? その答は「使うから」「役に立つから」です。

セリンガーの論文で非自然な構造(対角構造)を見たとき、僕も違和感を感じました。しかし、「非自然変換に整合する射」という形で既存の概念がエレガントに再定式化されるのです。特に役に立つのは、2つの非自然変換から構成される余可換コモノイド・モダリティです。余可換コモノイド・モダリティの事例はそのうち述べるつもりです。