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参照用 記事

多様体類似物とチャータブル圏 2:多様体構成の概要

昨日の記事の最初の節「多様体類似物とチャータブル圏 1:開包含 // チャータブル圏の概要」において、「チャータブル圏の対象は多様体類似物と考えることができます」と書いたのですが、これは正確な言い方ではありませんでした。修正して、さらに補足説明を追加します。

チャータブル圏がそのまま“多様体類似物の圏”になるというよりは、「チャータブル圏が“多様体類似物の圏”を作る際の材料一式を提供する」というほうが正確です。そうなると、与えられた材料一式から実際に”多様体類似物の圏”を作る手順が必要になります。チャータブル圏から“多様体類似物の圏”を構成する手順を多様体構成〈manifold construction〉と呼ぶことにします。

呼び名を決めただけでは何もハッキリしないので、多様体構成のおおよその姿を述べます。実は詳細は詰めていません。おおよそであっても、事前に全体像があったほうが良いだろうと思うのです。多様体構成の実体は、“チャータブル圏の圏”の上のコモナドだろうと想定しています。確認不足なので「コモナドである」と断言できないのですが。

チャータブル圏の定義もまだちゃんと述べてないのですが、チャータブル圏〈chartable category〉とはだいたい、台となる圏Cに、3つの部分圏を指定した構造 (C, O, B, T) です。OCの開包含系なので、(C, O) は開包含系付き圏になります。開包含系付き圏については前回の「多様体類似物とチャータブル圏 1:開包含」で詳しく説明しました。Bは、ベーシック対象とベーシック射の圏、Tはベーシック対象と遷移の圏です。

通常の多様体で言えば、ベーシック対象とはユークリッド空間 Rn(n = 0, 1, 2, ...)のことです。ベーシック射とは、ユークリッド空間のあいだのなめらかな写像 f:RnRm のことです。したがって、部分圏B はホムセットの集まり C(Rn, Rm) (n, m = 0, 1, , ...)として記述できます(通常の多様体での話です)。

通常の多様体における、ベーシック対象のあいだの遷移は、なめらかな写像 t:RnRn で、写像として可逆でありヤコビ行列が(すべての点で)可逆なものです。n ≠ m ならば、T(Rn, Rm) = ∅ です(通常の多様体での話です)。

以上に述べた通常の多様体の場合を一般化・抽象化することにより、チャータブル圏 (C, O, B, T) が定義できます。チャータブル圏を(記号の乱用で) C = (C, OIncC, BasC, TranC) のようにも書きます。この記法だと、もうひとつのチャータブル圏を D = (D, OIncD, BasD, TranD) のように書けます。

C, D がチャータブル圏のとき、チャータブル構造を保つ関手 F:CD を考えましょう。とはいっても、「チャータブル構造を保つ関手」の定義が不明なんだけど(苦笑)、安直な定義ならすぐ思いつきます。安直な定義でいいのか? よく分かりません。それでも、暫定案として安直な定義から始めるのはアリでしょう。チャータブル圏のあいだの準同型としての関手がなにかしら定義できたとすれば、圏ChartableCATが決まります。個々のチャータブル圏だけではなくて、チャータブル圏の圏ChartableCATが考察対象になります。

適切なセットアップのもとで、チャータブル圏から多様体構成により“多様体類似物の圏”を作る操作は自己関手 Man:ChartableCATChartableCAT になります。チャータブル圏Cに対して Man(C) が、C上の多様体類似物(とそのあいだの準同型射)の圏です。Man(C) が再びチャータブル圏になるので、Manは自己関手として定式化されたのです。

Man(C)は、Cへの忘却関手を持つので、それを εC:Man(C)→C in ChartableCAT とします。また、Man(Man(C)) \cong C となるので、この圏同値を与える関手を δC:Man(C)→Man(Man(C)) とします。

僕の見通し(期待)は、(Man, δ, ε) がコモナドになるだろう、ということです。見通しなので、勘違いの可能性もありますが、そのときは仕切り直しです。

まず、δ, ε が自然変換である必要があるので、次の可換図式が必要です。

\require{AMScd}
\newcommand{\hyph}{\mbox{-}}%
\newcommand{\cat}[1]{{\mathcal {#1}}}%
\newcommand{\incat}{\:\: \mbox{in}\:}%
\newcommand{\Comm}{\mbox{commutative}} %
\newcommand{\For}{\mbox{For}\:\:} %
\newcommand{\BigCAT}{\mathbb{C}{\bf AT}} %
\newcommand{\ID}{\mbox{ID}} %
%
\For F:\cat{C} \to \cat{D} \incat {\bf ChartableCAT} \\
\begin{CD}
Man(\cat{C}) @>{\delta_{\cat{C}} }>> Man(Man(\cat{C})) \\
@V{Man(F)}VV                         @VV{Man(Man(F))}V \\
Man(\cat{D}) @>{\delta_{\cat{D}} }>> Man(Man(\cat{D})) \\
\end{CD} \\
\:\\
\Comm \incat {\bf ChartableCAT} \\
\:\\
\For F:\cat{C} \to \cat{D} \incat {\bf ChartableCAT} \\
\begin{CD}
Man(\cat{C}) @>{\epsilon_{\cat{C}} }>> \cat{C} \\
@V{Man(F)}VV                           @VV{F }V \\
Man(\cat{D}) @>{\epsilon_{\cat{D}} }>> \cat{D} \\
\end{CD} \\
\:\\
\Comm \incat {\bf ChartableCAT}

(Man, δ, ε) がコモナドであるとは、次の可換図式が存在することです。以下の図式のなかで、関手の結合、自然変換の横結合、関手と自然変換のヒゲ結合をすべて'*'で書いています(図式順です)。ID- は関手の恒等自然変換、[-, -] は関手圏です。


\begin{CD}
Man           @>{\delta}>>               Man\ast Man \\
@V{\delta}VV                             @VV{\delta \ast \ID_{Man}}V \\
Man\ast Man   @>{\ID_{Man}\ast \delta}>> Man\ast Man \ast Man \\
\end{CD} \\
\:\\
\Comm \incat [{\bf ChartableCAT}, {\bf ChartableCAT}] \\
\:\\
\begin{CD}
Man  @>{\delta}>>  Man\ast Man \\
@|                 @VV{\epsilon \ast \ID_{Man}}V \\
{}   @=            Man \\
\end{CD} \\
\:\\
\Comm \incat [{\bf ChartableCAT}, {\bf ChartableCAT}] \\
\:\\
\begin{CD}
Man  @>{\delta}>>  Man\ast Man \\
@|                 @VV{\ID_{Man}\ast \epsilon}V \\
{}   @=            Man \\
\end{CD} \\
\:\\
\Comm \incat [{\bf ChartableCAT}, {\bf ChartableCAT}] \\

(Man, δ, ε) がコモナドになると何が嬉しいかというと、余クライスリ圏が作れることです。圏ChartableCAT上に、コモナド (Man, δ, ε) から作られた余クライスリ圏は、もとの圏ChartableCATより、“多様体類似物の圏の圏”としてふさわしいものでしょう。“すべての多様体類似物”を考える舞台は、コモナド (Man, δ, ε) の余クライスリ圏だろう、と思います。