長めのCha話会の記録用メモ(1トピックのみ)。
内容:
アフィン空間の圏
圏の定義と、著名な幾つかの圏(例えば↓)については知っているものとします。
これらよりはやや知名度が落ちる圏としてアフィン空間の圏Affを紹介します。アフィン空間はベクトル空間と密接に関係するので、係数体〈スカラー体 | 基礎体〉の指定が必要ですが、ここでは係数体をRに固定します。
アフィン空間は、集合A(点の集合)とベクトル空間Vと、写像 d:A×A → V *1の組 (A, V, d) で、まずは次の条件(他の条件は後述)を満たすものです。
- a∈A を固定したとき、A∋ x d(x, a) ∈V は双射〈全単射〉になる。
d(x, a) = x - a と引き算の形に書くのが便利です。関数〈写像〉 λx∈A.(x - a) : A → V は双射なので逆 V → A があります。これは足し算 a + v の形に書くと便利です。一旦は止めて考えていた a も動かしてやると、(a, v) a + v は A×V → V という関数になります。
この足し算に関して次の条件を仮定します。
- ∀a∈A.( a + 0 = a )
- ∀a∈A. ∀v, w∈V.( a + (v + w) = (a + v) + w )
点とベクトルの足し算と、ベクトルとベクトルの足し算の両方に記号'+'をオーバーロードしているので注意してください。一時的に、点とベクトルの足し算を'▷'とでもすれば、
- ∀a∈A.( a ▷ 0 = a )
- ∀a∈A. ∀v, w∈V.( a ▷ (v + w) = (a ▷ v) ▷ w )
今まで述べた条件を満たす (A, V, d) がアフィン空間〈affine space〉です。
アフィン空間 (A, V, d), (B, W, d) (dはオーバーロード)のあいだの準同型写像は、点のあいだの写像 f:A → B とベクトルのあいだの線形写像 φ:V → W のペアで、次を満たすものです。
- ∀a, b∈A.( φ(d(b, a)) = d(f(b), f(a)) )
あるいは引き算で書けば:
- ∀a, b∈A.( φ(b - a) = f(b) - f(a) )
アフィン空間を対象として、そのあいだの準同型写像を射とする圏が構成できるので、それをAffとします。
群の主等質空間
アフィン空間の定義では、ベクトル空間のスカラー倍はなくてもいいので、ベクトル空間の代わりに単なる可換群でもかまいません。可換の仮定も実は不要なので、群Gが作用する集合Aに d:A×A → G があればアフィン空間と同様な構造を定義できます(dを引き算で書くのは適切じゃなくなるかも知れません)。
そのような構造は、群Gの主等質空間〈principal homogeneous space〉と呼びます。Aが単なる集合なら主等質集合が適切だと思いますが、あまりそう言わないので、「空間」を使っておきます。群の主等質空間については:
ベクトル空間の加法群に関する主等質空間が前節のアフィン空間です。群が非可換のときは、群作用が左か右かで事情がちょっと違うので注意してください。圏の名前を次のように約束します(標準的名前はないようです)。
- 左主等質空間の圏を LPrincHomog
- 右主等質空間の圏を RPrincHomog
測定の分類
とりあえず、測定を次のように定義しましょう; 測定対象物の集合Xと、測定値の集合Yがあるとき、関数 f:X → Y が測定〈measurement〉だと。
測定対象物の集合Xは、なんらかの圏Cの対象になっているとします。この条件は、特に制約にはなりません。極端なケースとして、対象がXだけで射がidXだけの圏をCと置けばいいので。ただし、Cは具象圏とします。つまり、Cの対象は集合に構造が載ったもので、射は適当な条件が付いた写像です。同様に、測定値の集合Yもなんらかの具象圏Dの対象になっているとします。C = D である必要はありません。
X∈C, Y∈D に対する測定 f:X → Y は、正確に書けば f:U(X) → U(Y) in Set です。ここで、Uは忘却関手です(Cの忘却関手とDの忘却関手を同じ'U'で表しています)。
ホムセット Set(U(X), U(Y)) が考えられるすべての測定の集合です。が、U(X) → U(Y) なら何でもいいってわけでもないでしょう。例えば、X, Y に足し算があれば、足し算を保存する測定(加法性を持つ測定)に限るとかするかも知れません。よって、Xに対する“Y値の測定”〈Y-valued measurement〉の全体 M(X, Y) は、
- M(X, Y) ⊆ Set(U(X), U(Y))
測定対象物の集合Xと測定値の集合Yを許容される範囲内で動かした総体は、プロ関手〈profunctor〉
- M:Cop×D → Set
と考えるといいかも知れません(たいしてよくないかも知らんが)。
個々の測定ではなくて、あらゆる測定の総体をMで表すとして、Mの定義には、観測値の集合達が所属する圏Dが関与しています。圏Dの対象達の特徴、あるいは圏Dの特徴が、測定Mの特徴として反映されるのは当然でしょう。
測定値(の集合)が持つ構造による分類は、次のように呼ぶのだそうです。
- 名義尺度
- 順序尺度
- 間隔尺度
- 比例尺度
これらのよく知られた(なのか?)分類は、たぶん、圏Dの取り方に対応しているでしょう。
- 名義尺度 -- D ⊆ Set としたとき。
- 順序尺度 -- D ⊆ Ord としたとき。
- 間隔尺度 -- D ⊆ Aff としたとき。
- 比例尺度 -- D ⊆ LPrincHomog または RPrincHomog としたとき。
比例尺度は、主等質空間の群として正実数の乗法群を取る場合が多いでしょう。
*1:正確に言えば、Vの台集合をU(V)として、d:A×A → U(V) in Set です。