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参照用 記事

確率概念はホンットに難しい

まだ村上和雄さんネタを引っ張りますが、どうも村上さんは次のような発言をしていらっしゃるらしい(孫引きです)。

ヒトのゲノム(全遺伝子情報)は、わずか四つの塩基で構成され、この塩基のペアが約三十億個連なっている。塩基の配列が偶然のものとするなら、私たち一人一人は、四の三十億乗分の一という奇跡的な確率で生まれてきたことになる。

当然にさんざんに突っこまれているわけですが、ここで「奇跡的な確率」なんて言ってしまうのは、やっぱり迂闊です。事実は「塩基配列の組み合わせ総数が巨大な数だ」というだけのこと; ビット列だってそれ相応の長さなら「組み合わせ総数が巨大な数」になるわけで、その上に公平な確率測度を定義すれば、任意の1つの組み合わせが生じる確率はすごく小さな値になります。

よく引き合いに出される話だけど、サイコロを5回ふって、1ばっかり出たらそれは「奇跡的」な気分がしますが、3, 6, 1, 3, 4 って目が出るのも同様に「奇跡的」。1がやたらに出るような細工がしてあれば、1, 1, 1, 1, 1 のほうが 3, 6, 1, 3, 4 より出やすく、珍しくないものでしょう。

村上さんだって確率に対するひととおりの知識はお持ちのはずです。定義を知っていてもなお、確率概念を正確に運用するのはどうも至難のワザのような気がします。

例えば、『量子ファイナンス工学入門』は(って、この例を出すのは余りにも不適切ではあるけれど)、確率微分方程式がどうのこうのと論じている本ですが、確率に関しては次のような驚くべき記述があります(P.184)。

結論を言えば、ヒストリカル・データを信じて取引をすることはおすすめできない。なぜなら、過去のデータが分かっていても、明日の株価予想が当たる確率は50%、外れる確率も50%である。当たるか、当たらないか分からない、つまり外れる確率が50%もある賭けに大事なお金を使うことについては慎重な判断を下すべきであろう。

これはもう、せきしろさんの確率計算と同じではないか。

かわいい子とルノアールで出会い恋が生まれる確率 = 12.5%:
かわいい子が来る確率は来るか来ないかだから50%、その子がつまずく[檜山注:隣の席に座ろうとして転ぶ]確率は同様に50%、そして恋が生まれる確率も、生まれるか生まれないかで50%、よって1/8となり、12.5%となる。


高安さんは「確率・統計の教育をもっと」と提案なさっていましたが、金融派生商品といった矮小な文脈ではなくて、“世界を認識するときの視線”として必要な気もするなあ。

と、えらそうなことをいう僕も確率・統計の落ちこぼれだけどさ。