最近の証明支援系/プログラミング言語では、通常の型システムの上位に宇宙システム(ソートシステムともいう)を備えたものがあります。2023年の記事「最近の型理論: 宇宙と世界、そして銀河」の冒頭を引用すると:
Lean(最新版はLean 4)は強力な型システムを備えた汎用プログラミング言語です。そればかりではなくて、証明支援系としての機能も同一の型システムをベースにして実現しています。AgdaやCoqもまた、型システムに基づく証明支援系/プログラミング言語です。
これら現存する最強の型システムでは、“型宇宙”がサポートされています。
特定の言語/ソフトウェアに寄らないで、一般的な宇宙システムに関する議論は「型の宇宙論」と言えます -- ここでは、「型コスモロジー」と呼ぶことにします。型コスモロジーは、型理論の一種ですが、特に宇宙に注目した型理論です。
この記事では、型コスモロジーの意味論的な側面を紹介します。つまり、型宇宙達(たくさんの型宇宙)の表示的意味論〈denotational semantics〉の枠組みをザッと述べます。型宇宙や型銀河(本文参照)の塔〈タワー〉がたくさん出てきます。グロタンディーク宇宙達/型宇宙達/型銀河達の全体の“形状”を記述する有向グラフがユグドラシルです。(北欧神話に登場するユグドラシル〈世界樹〉は、「世界を体現する巨大な木」とのことです。)
様々な宇宙達/銀河達は、何本かの塔に編成されます。主要な塔は6本です。
- グロタンディーク宇宙の塔
- コア銀河の塔
- 族銀河の塔
- 述語銀河の塔
- データ型宇宙の塔
- 命題宇宙の塔
この記事では、グロタンディーク宇宙の塔とコア銀河の塔の2本の塔だけを説明します。2本の塔と、それらを“横に繋ぐ”関係性は、梯子の形をしたユグドラシル(有向グラフ)になります。
6本の塔すべてを含むユグドラシルについては、引き続く記事達で述べるつもりでいます。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mbf}[1]{\mathbf{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
%\newcommand{\twoto}{\Rightarrow}
%\newcommand{\msc}[1]{\mathscr{#1}}
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%\newcommand{\mbb}[1]{\mathbb{#1}}
%\newcommand{\o}[1]{\overline{#1} }
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%\newcommand{\op}{\mathrm{op} }
%\newcommand{\id}{\mathrm{id} }
\newcommand{\In}{\text{ in } }
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
%\newcommand{\Imp}{\Rightarrow }
`$
内容:
シリーズ・ハブ記事:
関連記事(新しい順):
- 集合論・圏論 vs. 型理論
- ZF宇宙、グロタンディーク宇宙、型宇宙
- Propositions-As-Typesを曲解しないで理解するために
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- デカルト・タワーを求めて
文字の色の約束
テクニカルタームの初出または定義のとき、色を付けたテキストで書きます。よく知られた用語は青い文字です。この記事内では定義・説明しない場合もあります(調べれば分かるので)。必要なら、既存の用語の定義をここで繰り返し書くこともあります。
この記事で新しく導入・定義する用語は赤い文字です。既存の用語でも、意味を少し変えて使用する場合は赤い文字で書きます。
マゼンタの文字は、この記事内の後方で定義・説明される概念・用語です。
型コスモロジーの概要
宇宙として、集合論的宇宙と型理論的宇宙が登場します。$`\mbf{V}`$ は、ZFC集合論のフォン・ノイマン宇宙〈von Neumann universe〉です。絶対的な大宇宙として使います。フォン・ノイマン宇宙 $`\mbf{V}`$ のなかの小宇宙としてグロタンディーク宇宙〈Grothendieck universe〉がたくさん登場します。$`\mbf{V}`$ 内に存在するすべてのグロタンディーク宇宙達からなるクラスは $`\mbf{GU}`$ とします。
型宇宙〈type universe〉は、グロタンディーク宇宙をもとにして作った構造です。グロタンディーク宇宙より豊かな構造を持ちます(後でまた述べます。)。
型銀河〈type galaxy〉は、型宇宙の意味論(のモデル)となる圏のことです。三種類の型銀河を考えます。「型銀河」の前に形容詞を付けると(例: コア型銀河)、型が形容詞側にくっついて解釈され(例: コア型・銀河)そうなので、型銀河を単に「銀河」と呼びます。
- コア銀河〈core galaxy〉
- 族銀河〈familial galaxy | galaxy of families〉
- 述語銀河〈predicate galaxy | galaxy of predicates〉
コア銀河は、グロタンディーク宇宙を対象達の集合〈set of objects〉とする集合圏です。単なる圏ではなくて、デカルト閉余デカルト分配圏〈Cartesian closed coCartesian distributive category〉という構造を持ちます。この圏は、足し算/掛け算/指数を持ちます。足し算/掛け算/指数という算術演算から多項式関手を定義できます。多項式関手に対する不動点/余不動点〈fixed point / cofixed point〉の存在もコア銀河の条件とします。
族銀河は、コア銀河に値を持つ族〈family〉を対象とする圏です。族は、依存型理論の主役となります。
述語銀河は、族銀河の部分圏です。コア銀河の終対象/始対象だけを値とする族が述語〈predicate〉で、対象を述語だけに絞った族銀河の部分圏が述語銀河です。述語銀河は、述語論理を(型理論的に)展開する場となります。
グロタンディーク宇宙、コア銀河、族銀河、述語銀河をパランパランに考えるのではなくて、それぞれの種類ごとに直線状の階層構造に配置します。直線状とは、順序数〈ordinal number〉に沿って並べることです。並べた系列は塔〈tower | タワー〉と呼びます。塔は単なる並びではなくて、塔としての条件(後述)があります。
次の4本の塔を考えることになります。
- グロタンディーク宇宙の塔〈tower of Grothendieck universes〉
- コア銀河の塔〈tower of core galaxies〉
- 族銀河の塔〈tower of familial galaxies〉
- 述語銀河の塔〈tower of predicate galaxies〉
これらの塔は、$`2\omega`$ の高さ〈height〉を持ちます($`\omega`$ は最初の無限順序数〈infinite ordinal〉です)。
最初に触れた型宇宙は、データ型達の宇宙と命題達の宇宙に分けるのが普通です。データ型宇宙〈datatype universe〉と命題宇宙〈proposition universe〉は、グロタンディーク宇宙から直接的に作ることもできますが、それぞれ族銀河と述語銀河から構成するほうが簡単です。
データ型宇宙達と命題宇宙達も塔を形成します。
- データ型宇宙の塔〈tower of datatype universes〉
- 命題宇宙の塔〈tower of proposition universes〉
合計6本の塔のノードとして登場する全てのグロタンディーク宇宙/コア銀河/族銀河/述語銀河/データ型宇宙/命題宇宙をインデックスするための順序集合がユグドラシル〈Yggdrasill〉です。
グロタンディーク宇宙
グロタンディーク宇宙は、フォン・ノイマン宇宙 $`\mbf{V}`$ の要素、つまり集合論の集合であって、とある条件を満たすものです。ここでは、グロタンディーク宇宙を単なる集合ではなくて構造だとみなします。グロタンディーク宇宙 $`U`$ は、その構造の構成素〈constituents〉も明示して次のように書きます。
$`\quad U = (\u{U}, \in, \{\hyp, \hyp\}, \mrm{Pow}, \cup)`$
構成素について説明します。
- 台集合〈underlying set〉$`\u{U}`$ : これは、ほんとに単なる集合です。
- 所属関係〈membership relation〉 $`\in`$ : $`(\in) \subseteq \u{U}\times \u{U}`$ という二項関係ですが、通常の“集合間の所属関係”です。$`\mbf{V}`$ の所属関係をそのまま使います。
- 順序無しペア〈unordered pair〉 $`\{\hyp, \hyp\}`$ : $`(a, b)\mapsto \{a, b\}`$ という対応を、$`\{\hyp, \hyp\} : \u{U}\times\u{U}\to \mbf{V}`$ という関数〈写像〉と考えます。
- ベキ集合〈powerset〉 $`\mrm{Pow}`$ : ベキ集合を作る操作を、$`\u{U} \to \mbf{V}`$ という関数〈写像〉と考えます。
- 族の合併〈union of a family〉 $`\cup`$ : $`\u{U}`$ から出る〈departing from $`\u{U}`$〉族(後述)達の集合を $`\msf{Fam}_{\u{U}}`$ として、族の合併を作る操作を、$`\cup : \msf{Fam}_{\u{U}} \to \mbf{V}`$ という関数〈写像〉と考えます。詳しくはすぐ下で説明します。
$`Y`$ が集合達のクラス($`Y`$ 自身は集合でなくてもよい)として、関数 $`F: I \to Y`$ を、$`I`$-インデックス付き$`Y`$-値の族〈$`I`$-idexed $`Y`$-valued family〉と呼びます。$`X\subseteq \mbf{V}`$ をクラス(集合でなくてもよい)として、$`I\in X
`$ である族 $`F:I \to Y`$ は、$`X`$ から出る $`Y`$-値の族〈$`Y`$-valued family departing from $`X`$〉または$`X`$-発 $`Y`$-値の族と呼びます。
$`\u{U}`$-発 $`\u{U}`$-値の族の全体からなる集合が $`\msf{Fam}_{\u{U}}`$ です。$`F\in \msf{Fam}_{\u{U}}`$ とは、適当な $`I\in \u{U}`$ に対する関数 $`F: I \to \u{U}`$ のことです。
族の合併を作る関数 $`\cup`$ は、次のように定義します。
$`\text{For }I \in \u{U}`$
$`\text{For }F: I \to \u{U}`$
$`\quad \cup(F) := \bigcup_{i\in I}F(i)`$
$`U`$ がグロタンディーク宇宙である条件(グロタンディーク宇宙の公理)は以下のようです。
- $`\u{U}`$ は、所属関係 $`\in`$ に関して推移的〈transitive〉である。つまり、$`x\in \u{U}, y\in x`$ ならば $`y\in \u{U}`$ となる。
- 関数〈演算〉$`\{\hyp, \hyp\}, \mrm{Pow}, \cup`$ に関して $`\u{U}`$ は閉じている。つまり、これらの関数は以下のように解釈してよい。
- $`\{\hyp, \hyp\} : \u{U}\times \u{U} \to \u{U}`$
- $`\mrm{Pow} : \u{U} \to \u{U}`$
- $`\cup : \msf{Fam}_{\u{U}} \to \u{U}`$
ここまで、$`U`$ と $`\u{U}`$ を区別してきましたが、以下では記号の乱用により、$`\u{U}`$ のことも $`U`$ と書きます。
すべてのグロタンディーク宇宙からなるクラスを $`\mbf{GU}`$ とします。$`\mbf{GU}`$ がどんなクラスになるかは、ZFC集合論(の公理系)からはハッキリしません。が、$`\mbf{GU}`$ が空ではないことは分かります。
まず、あまりにもつまらない例ですが、空集合 $`\emptyset`$ はグロタンディーク宇宙になります。もうひとつ、すべての遺伝的有限集合〈hereditarily finite set〉達からなる集合はグロタンディーク宇宙の構造を持ちます。遺伝的有限集合達のグロタンディーク宇宙は $`\mbf{HrdFin}`$ と書くことにします。$`\emptyset, \mbf{HrdFin} \in \mbf{GU}`$ なので、$`\mbf{GU} \ne \emptyset`$ は言えます。
グロタンディーク宇宙の存在公理と宇宙の塔
ZFC集合論(の公理系)からは、$`\mbf{GU} = \{\emptyset, \mbf{HrdFin} \}`$ なのか、それとももっと大きなクラスなのか決定できないそうです。無限集合を含むグロタンディーク宇宙が存在しないのは困るので、ZFC集合論に次の公理を加えます。
- 任意の集合 $`s\in \mbf{V}`$ に対して、$`s\in U`$ となるグロタンディーク宇宙 $`U`$ が存在する。
nLab項目 Grothendieck universe では、上記の公理を Axiom of Universes と呼んでいます。ここでの Universe は Grothendieck Universe なので、Axiom of Grothendieck Universes のほうが正確ですが、これだと前節で述べた「グロタンディーク宇宙が満たすべき条件である公理」と紛らわしくなってしまいます。
そういう事情で、上記の公理は単に宇宙公理と呼び、AUs と略記します。最後の s は複数形の s です -- この公理からグロタンディーク宇宙をたくさん作れるので。説明的に言いたいときは、AUs をグロタンディーク宇宙の存在公理と呼ぶことにします。
ZFC + AUs からは、$`\mbf{GU}`$ には十分に多くのグロタンディーク宇宙が含まれることが保証できます。ここでは、$`\mbf{GU}`$ 自体より、順序数の始切片〈initial segment〉から $`\mbf{GU}`$ への関数を考えます。
$`\mbf{O} \subset \mbf{V}`$ を、すべての順序数からなるクラスとします。$`\alpha \in \mbf{O}`$ として、$`\alpha`$ までの始切片は次のように定義します。
$`\quad \mbf{O}_{\lt \alpha} := \{\xi \in \mbf{O} \mid \xi \lt \alpha\}`$
特に $`\mbf{O}_{\lt\emptyset} = \emptyset`$ です。集合論の習慣に従い、$`\mbf{O}_{\lt \omega} = \mbf{N}`$ として扱います。この同一視により $`0 = \emptyset, 1 = \{\emptyset \}`$ です。
$`\mbf{O}_{\lt \alpha} \to \mbf{GU}`$ という関数も $`U, V`$ などの文字で表します。しかし、単独のグロタンディーク宇宙と紛らわしいので、引数が入る場所に $`\bullet`$ を付けて $`U_\bullet`$ のように書くことにします。例えば、$`U_\bullet : \mbf{O}_{\lt 2} \to \mbf{GU}`$ なら、2つのグロタンディーク宇宙 $`U_0, U_1`$ を表します。
順序数の始切片からの関数 $`U_\bullet : \mbf{O}_{\lt \alpha}\to \mbf{GU}`$ が次の条件を満たすとき、$`U_\bullet`$ をグロタンディーク宇宙の塔〈tower of Grothendieck universes〉と呼びます。
- $`\lambda, \xi \in \mbf{O}_{\lt \alpha}`$ 、$`\lambda \lt \xi`$ ならば、$`U_\lambda \in U_\xi`$ 。
順序数 $`\alpha`$ を、塔 $`U_\bullet`$ の高さ〈height〉と呼びます。高さ $`0`$ の塔 $`\emptyset \to \mbf{GU}`$ も在りますが、これは意味がありません。高さ $`1`$ の塔 $`\{\emptyset\} \to \mbf{GU}`$ は、ひとつのグロタンディーク宇宙と同じことです。
高さが $`2\omega = \omega + \omega`$ であるグロタンディーク宇宙の塔を(超越的に)構成できます。以下のようにします。
まず、集合 $`\omega = \mbf{N}`$ を取り、宇宙公理 AUs により $`\omega \in U_0`$ となるグロタンディーク宇宙 $`U_0`$ を選びます。同様な手順で、無限の系列が作れます。
$`\quad U_0 \in U_1 \in U_2 \in \cdots`$
グロタンディーク宇宙の推移性と $`U_1 \in U_2`$ から $`U_1 \subset U_2`$ が言えます。$`U_0 \in U_1`$ と $`U_1\subset U_2`$ から $`U_0 \in U_2`$ が言えます。同様な議論を繰り返せば、次が言えます。
- $`k \lt l`$ ならば、$`U_k \in U_l`$
これにより、今作った $`U_\bullet : \mbf{O}_{\lt \omega} \to \mbf{GU}`$ は塔になります。これで、高さ $`\omega`$ の塔は作れました。
次に、高さを $`\omega + 1`$ まで伸ばします。これには、新しい関数 $`{U'}_\bullet : \mbf{O}_{\lt \omega + 1} \to \mbf{GU}`$ を作る必要があります。まず、外側のフォン・ノイマン宇宙 $`\mbf{V}`$ 内で、次の集合を作ります。
$`\quad \cup(U_\bullet) = \bigcup_{k \lt \omega} U_k`$
この $`\cup(U_\bullet)`$ がグロタンディーク宇宙になるかどうかは分かりません。実際には、グロタンディーク宇宙にならないようです。しかし、宇宙公理があるので、グロタンディーク宇宙 $`{U'}_\omega`$ を次のように選べます
$`\quad \cup(U_\bullet) \in {U'}_\omega`$
この $`{U'}_\omega`$ を付け加えると、次の関数が定義できます。
$`\quad {U'}_\bullet : \mbf{O}_{\lt \omega + 1} \to \mbf{GU}`$
$`{U'}_\bullet`$ は $`\mbf{O}_{\lt \omega + 1}`$ 上の関数になっていますが、$`\mbf{O}_{\lt \omega}`$ 上では $`U_\bullet`$ とまったく同じです。
$`{U'}_\bullet`$ が塔になっているかどうかを確認します。これは、任意の自然数 $`k`$ に対して $`U_k \in {U'}_\omega`$ かどうかを確認することです。次は言えます。
- $`U_k \in U_{k + 1}`$
- $`U_{k + 1} \subseteq \cup(U_\bullet)`$
- $`U_k \in \cup(U_\bullet)`$ (1, 2 より)
- $`\cup(U_\bullet) \in {U'}_\omega`$ (定義より)
$`{U'}_\omega`$ の推移性から、$`U_k \in {U'}_\omega`$ が言えます。
さらに塔の高さを $`\omega + 2, \omega + 3, \cdots`$ と伸ばしていくのは、宇宙公理を順次適用していくだけです。
以上の手順より、$`\mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 上で定義されたグロタンディーク宇宙の塔が構成できます。
宇宙公理は、グロタンディーク宇宙の存在は保証しますが、その一意性は言ってません。したがって、$`\mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 上の塔はたくさんあるかも知れません。そのなかのひとつの塔を選んで、太字で $`\mbf{U}_\bullet`$ と書きます。太字の $`\mbf{U}_\bullet`$ は、選ばれて特定された高さ $`2\omega`$ の塔で、以下 $`\mbf{U}_\bullet`$ を固定して考えます。$`\omega \in \mbf{U}_0`$ なことに注意してください。
コア銀河とその塔
一般に、グロタンディーク宇宙 $`U`$ から作った集合圏を $`\mbf{Set}_U`$ と書きます。この定義から $`|\mbf{Set}_U| = U`$ です。より正確に言うなら $`|\mbf{Set}_U| = \u{U}`$ です。
前節で導入したグロタンディーク宇宙の塔 $`\mbf{U}_\bullet`$ に関して、次の略記を使います。
$`\quad \mbf{Set}_{\#\xi} := \mbf{Set}_{\mbf{U}_\xi}`$
順序数 $`\xi`$ が自然数のときは $`\mbf{Set}_{\#k}`$ のように書きます。$`\mbf{Set}_{\#0}`$ がデフォルトの集合圏です。
グロタンディーク宇宙の塔 $`\mbf{U}_\bullet`$ を前提として、順序数 $`\xi`$ に対する集合圏 $`\mbf{Set}_{\#\xi}`$ がコア銀河です。
フォン・ノイマン宇宙 $`\mbf{V}`$ を対象達のクラスとする集合圏を $`\mbf{SET}`$ と書くことにします。通常 $`\mbf{SET}`$ は、$`\mbf{Set}_{\#1}`$ の意味で使いますが、この記事では、究極的に大きな集合圏が $`\mbf{SET}`$ です。同様に、究極的に大きな“圏達の2-圏”は $`\mbf{CAT}`$ とします。
$`\xi \in \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ に $`\mbf{Set}_{\#\alpha}`$ を対応させる関数は次のように書けます。
$`\quad \mbf{Set}_{\#\bullet} : \mbf{O}_{\lt 2\omega} \to |\mbf{CAT}|`$
$`\mbf{Set}_{\#\bullet}`$ の作り方から、次が言えます。
- $`\lambda, \xi \in \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 、$`\lambda \lt \xi`$ ならば、$`|\mbf{Set}_{\#\lambda}| \in |\mbf{Set}_{\#\xi}|`$ (所属)
- $`\lambda, \xi \in \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 、$`\lambda \lt \xi`$ ならば、$`|\mbf{Set}_{\#\lambda}| \subset |\mbf{Set}_{\#\xi}|`$ (真部分集合)
- $`\lambda, \xi \in \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 、$`\lambda \lt \xi`$ ならば、$`\mbf{Set}_{\#\lambda} \subset_{\mrm{full}} \mbf{Set}_{\#\xi}`$ 、ここで、$`\subset_\mrm{full}`$ は、真の部分圏でかつ充満部分圏であることを示します。
上の3つの性質を持つことも込めて、関数 $`\mbf{Set}_{\#\bullet} : \mbf{O}_{\lt 2\omega} \to |\mbf{CAT}|`$ をコア銀河の塔と呼びます。
一般概念としての圏の塔
次のような関数を考えます。
$`\quad \cat{C}_\bullet : \mbf{O}_{\lt \alpha} \to |\mbf{CAT}|`$
ここで、$`\mbf{CAT}`$ は、前節で述べたように究極的に大きな“圏達の2-圏”です。$`|\mbf{CAT}|`$ は集合ではない真のクラスですが、$`\mbf{O}_{\lt \alpha}`$ は集合なので、関数 $`\cat{C}_{\bullet}`$ を考えることはギリギリ許されるでしょう。
関数 $`\cat{C}_{\bullet}`$ が以下の条件を満たすとき、圏の塔〈tower of categories〉と呼ぶことにします(「圏の塔」は別な意味で使われることがあるので注意)。
- $`\lambda, \xi \in \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 、$`\lambda \lt \xi`$ ならば、$`|\cat{C}_{\lambda}| \in |\cat{C}_{\xi}|`$ (所属)
- $`\lambda, \xi \in \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 、$`\lambda \lt \xi`$ ならば、$`|\cat{C}_{\lambda}| \subseteq |\cat{C}_{\xi}|`$ (部分集合)
- $`\lambda, \xi \in \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 、$`\lambda \lt \xi`$ ならば、$`\cat{C}_{\lambda} \subseteq_{\mrm{full}} \cat{C}_{\xi}`$ (充満部分圏)
真部分集合と真の部分圏の条件が入ってませんが、1番目の所属の条件から、真部分集合/真の部分圏であることは言えます。
圏の塔は、前節のコア銀河の塔を、任意の圏に一般化した概念です。
関数 $`X_\bullet : \mbf{O}_{\lt \alpha} \to |\mbf{SET}|`$ を考えましょう。集合 $`X_\xi`$ を、離散圏と考えれば、 $`X_\bullet : \mbf{O}_{\lt \alpha} \to |\mbf{CAT}|`$ とみなせます。上の3条件は以下のようになります。
- $`\lambda, \xi \in \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 、$`\lambda \lt \xi`$ ならば、$`X_{\lambda} \in X_{\xi}`$ (所属)
- $`\lambda, \xi \in \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 、$`\lambda \lt \xi`$ ならば、$`X_{\lambda} \subseteq X_{\xi}`$ (部分集合)
- $`\lambda, \xi \in \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ 、$`\lambda \lt \xi`$ ならば、$`X_{\lambda} \subseteq_{\mrm{full}} X_{\xi}`$ (充満部分圏、部分集合と同じ)
つまり、圏の塔という概念は、グロタンディーク宇宙の塔もコア銀河の塔も包摂する一般概念です。
ところで、塔の高さが $`\omega`$ ではなくて、$`2\omega = \omega + \omega`$ なのを訝しく思った人もいるでしょう。ほとんどの場合、高さ $`\omega`$ で十分です。それどころか、マックレーン〈Saunders Mac Lane〉をはじめ何人かの人が言っているように、高さ有限の塔でもほぼ間に合います。しかし、宇宙や圏の系列の極限のようなモノを作りたいことがあります。そんなときのために、高さ $`2\omega`$ まで伸ばしておいたのです。
ユグドラシル
今までの話で、塔が2本、$`\mbf{U}_\bullet`$ と $`\mbf{Set}_{\#\bullet}`$ ができました。2本の塔を同時に考えた場合は、インデキシング集合は $`\mbf{O}_{\lt 2\omega} + \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ です。このインデキシング集合には自然に順序が入ります。ただし、全順序ではなくなります。
$`\mbf{O}_{\lt 2\omega} + \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ の要素を表すのに、$`\xi@\mathrm{gr\_univ}`$ または $`\lambda@\mathrm{core\_galax}`$ の形を使います。$`\xi@\mathrm{gr\_univ}`$ は、$`\xi`$ 番目のグロタンディーク宇宙をインデックスする要素です。$`\lambda@\mathrm{core\_galax}`$ は、$`\lambda`$ 番目のコア銀河をインデックスする要素です。
順序集合 $`\mbf{O}_{\lt 2\omega} + \mbf{O}_{\lt 2\omega}`$ を生成するハッセ図〈Hasse diagram〉を、有向グラフとして定義しましょう; $`\xi@\mrm{gr\_univ}`$ から $`(\xi + 1)@\mrm{gr\_univ}`$ への辺を考えます。また、
$`k@\mrm{gr\_univ}`$ から $`\omega@\mrm{gr\_univ}`$ への辺も考えます。$`@\mrm{core\_galax}`$ 側も同様な辺を考えます。これでハッセ図ができ上がります。
ハッセ図の辺以外に、ツインタワーの各階にスカイブリッジを渡しましょう。$`\xi`$ ごとに、$`\xi@\mrm{gr\_univ}`$ から $`\xi@\mrm{gr\_univ}`$ に辺を付け足します。逆向きの $`\xi@\mrm{gr\_univ}`$ から $`\xi@\mrm{gr\_univ}`$ へも辺を付け足します。これらのスカイブリッジ辺には、次のような値割り当て〈value assignment〉を載せます。
- $`\mbf{U}_\xi \mapsto \mbf{Set}_{\#\xi}`$
- $`\mbf{Set}_{\#\xi} \mapsto \mbf{U}_\xi`$
これで、全体として無限の梯子のような有向グラフとなります。各ノードにはグロタンディーク宇宙またはコア銀河が対応し、辺は宇宙/銀河の関係性を示します。これが、宇宙達/銀河達から構成される世界の形状を決めるユグドラシル〈世界樹 | Yggdrasill〉です。
そしてそれから
この記事では2本の塔だけを紹介しました。冒頭で述べたように、全部で6本の塔を建てる予定です。6本の塔達が構成する摩天楼群〈skyscrapers〉については次の機会に述べます。