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参照用 記事

包含付き圏:対象を集合っぽく扱うために

圏の対象は集合とは限らないし、集合と思い込むのは危険です。しかし、圏の対象を集合のように扱えると便利な場面はあります。A、Bが圏Cの対象のとき、集合の包含関係に類似した関係 A⊆B を定義できないでしょうか。

C内に、モノ射 m:A→B があれば、A⊆B のように思えます。しかし、モノ射mは一意的には決まりません。そこで、A, Bに対して一意的にモノ射が確定するような状況を考えます。一意的に決まるモノ射を(それがあれば)jA,B:A→B と書くことにします。そのようなjA,Bを(A,Bを動かして)全部寄せ集めたクラスをJと書きます。

Jの性質を書き下しましょう。がその前に、2つの言葉を準備します; やせた圏(thin category)とは、ホムセットが空集合か単元集合である圏です。ある圏Cの部分圏D広い部分圏(broad subcategory, wide subcategory)とは、|D| = |C| のことです。

さて、Jは、圏Cの部分圏として次の性質を持ちます。

  1. Jに属する射はすべてモノ射である。
  2. Jはやせた部分圏である。
  3. Jは広い部分圏である。

このような部分圏Jを持つ圏Cは、包含付き圏(category with inclusions)と呼び、Jを包含の部分圏(subcategory of inclusions)、Jに含まれる射は包含射または単に包含(inclusion)と呼びます。モノ射の条件を外すこともありますが、ここでは仮定しておきます*1

(C, J)を包含付き圏として、ここであらためて次のように定義します。

  • A⊆B ⇔ Jの射 jA,B:A→B が存在する

Jの性質から、jA,Bが存在するならそれは一意的です。次の性質は容易に示せます(練習問題)。

  1. A⊆A
  2. A⊆B、B⊆C ならば A⊆C
  3. A⊆B、B⊆A ならば AとBは同型

部分圏Jにより、Cはプレ順序構造を持ちます。しかし、「A⊆B、B⊆A ならば A = B」は示せません。同型とホントに同じことは違います。多くの応用では、Cが順序構造になること「A⊆B、B⊆A ならば A = B」も要求します。Jに関する条件で書けば:

  • J(A, B)が空でなく、J(B, A)も空でないなら A = B 。

包含の部分圏Jにこの条件まで仮定することがあります(それが多数派かも*2)。さらに、集合の共通部分や合併と類似の演算を、引き戻し(ファイバー積)、押し出し(ファイバー余積、融合和)により定義できることまで要求することもあります。

包含の条件をきつくして、包含に関してさまざまな演算が出来ることまで前提すると、圏全体がだんだん集合束と似た感じになってくるわけです。

*1:inclusionとはいいながら、実際は射影(projection、エピ射)だったりすることもあるので、モノ射の条件が不都合になることがあります。

*2:比較的にマイナーな概念だと、用語法が安定してないのですよね。