アーベル圏の定義の一部として、準同型定理が(定理じゃなくて公理として)入っています。とは言っても、アーベル圏を定義する流儀がいくつかあるので、準同型定理とは別な形の公理を要請することもありますけどね。線形代数の延長としてアーベル圏を考えるときは、準同型定理が分かりやすいのではないかと思います。
通常の線形代数のなかでは、ベクトル空間(または加群)の準同型定理は集合と写像を使って述べられます。しかし圏のなかでは、「集合の要素」や「部分集合」という概念は使えませんから、対応する圏論の言葉に翻訳する必要があります。その翻訳をしないと、アーベル圏の定義である準同型定理(公理)が述べられないですから。
最終的に必要な概念は像と余像ですが、先に核と余核を定義します; 等値核(イコライザー)は圏論の概念で、ゼロ対象/ゼロ射の存在は事前に仮定していたので、「核 := ゼロとの等値核」は圏論的な定義となります。余核は単に核の双対なので問題なし。
fとgは共端(域と余域が一致している)として、fとgの等値核を eq(f, g)、余等値核を coeq(f, g) と書くことして、dom, cod を Dom, Cod と大文字始まりにすれば、次が諸々の定義です。
- ker(f) := eq(f, 0)
- coker(f) := coeq(f, 0)
- im(f) := ker(coker(f))
- coim(f) := coker(ker(f))
- Ker(f) := Dom(ker(f))
- Coker(f) := Cod(coker(f))
- Im(f) := Dom(im(f))
- Coim(f) := Cod(im(f))
準同型定理(と呼ばれる命題)の主張は、Coim(f) と Im(f) という2つの対象が同型であることですが、同型の片側である Coim(f)→Im(f) は前もって与えられて、その逆の存在を要請します。Coim(f)→Im(f) の射は偶発的なものではなくて、とある標準的な図式のなかで一意に決まります。その図式は以下のとおりです。
0 -> K -(k)-> A -(f)-> B -(p)-> Q --> 0
| ^
c d
v |
C D
ここで:
- K = Ker(f)
- k = ker(f)
- p = coker(f)
- Q = Coker(f)
- c = coker(k) = coker(ker(f)) = coim(f)
- C = Coker(k) = Coker(ker(f)) = Coim(f)
- d = ker(p) = ker(coker(f)) = im(f)
- D = Ker(p) = Ker(coker(f)) = Im(f)
まず、図式を可換にするような C→B という射が一意に取れます。さらに、C→D を追加して全体を可換にすることができますが、C→D の射も一意です。よって、f:A→B から C→D を一意に作る方法が存在することになります。fがなんであっても、誘導された C→D の射が同型(可逆)であることが準同型定理の主張です。
C→B を使って C→D の一意性を示すところで僕はつっかえて「まー、いいや」と飛ばしたのですが、それに関しては id:oto-oto-oto さんが解説してくれてます。