取り急ぎのメモ。この記事で使う概念・記法は「ベクトルバンドル射の逆写像: 記法の整理をかねて」、「微分幾何におけるヤコビ行列の書き方: 因習の擁護」あたりに書いてあります。
すべては「なめらかな世界」で考えます。NとMは多様体で f:N→M は写像とします。x:N⊇U→Rn, y:M⊇V→Rm は局所座標、f(U)⊆V だとします。どうでもいいけど、多様体の名前 N, M と次元 n, m が一致するようにしました(気持ちいい)。
「微分幾何におけるヤコビ行列の書き方: 因習の擁護 // 多様体間の写像のヤコビ行列」で述べたことから、1≦ i ≦n, 1≦ j ≦m に関して は、U上の関数として意味を持ちます。これらn×m個の関数達を行列の形に組んで、それを と書きましょう。つまり、
は、U上で定義された行列値関数〈行列場〉、または関数係数〈関数成分〉の行列です。用語の乱用で単に「行列」とも呼びます。
さて、 という行列は次のよう書けます*1。
は書き間違いではありません。これの意味は の“逆”です。これが表題の奇妙な微分公式。
この微分公式が奇妙に見えるのは、記号の決め方がテキトーだからかも知れません。書き方・見え方は置いといて、意味を説明します。
は、 達を横に並べた一行行列〈関数の横タプル〉です。その成分の定義は:
の一点 p∈U⊆M での値は、hom(Rn, Tf(p)TM) (内部ホム・ベクトル空間)に入ります。v∈Rnに対する値は次のように計算されます。
ドットは、関数/関数値の掛け算です。微分作用と区別するために掛け算記号は書くことにします。行列の掛け算記号も省略せずにドットを使います。
は、ベクトルバンドル hom(RnN, f#TM) のU上のセクションだとみなせます。
ここで、RnN はファイバーがRnの自明なベクトルバンドル、f#TM は接ベクトルバンドルの引き戻しです。
は、 の“逆”と言いましたが、 を次のように解釈します。
は(局所的な)フレームの場ですが、それは内部アイソバンドルのセクションと思えます。このセクションは、点ごとに逆を取れます。それを と書きました(奇妙だけどツジツマはあっていると思う)。
は、U上に引き戻したモノで、U上のセクションになります。
バンドルを少し大きく取り直して、次のように思ってもかまいません。
以上の設定で、行列の掛け算が意味を持つようになり、くだんの奇妙な微分公式が確認できます(勘違いでなければ)。
[追記]続きの話が「偏微分記号の逆数形式: 瓢箪から駒」にあります。たまたま使ってみた偏微分記号の逆数形式は、予想以上に「使えるヤツ」みたいです。[/追記]
*1:[追記] は、fによる引き戻しを意味します。が、この書き方を他でも使うと誤解される危険があるので、 が良いかと思っています。[/追記]