このブログの更新は Twitterアカウント @m_hiyama で通知されます。
Follow @m_hiyama

メールでのご連絡は hiyama{at}chimaira{dot}org まで。

はじめてのメールはスパムと判定されることがあります。最初は、信頼されているドメインから差し障りのない文面を送っていただけると、スパムと判定されにくいと思います。

参照用 記事

ガーッ! また左と右が。カン拡張

以前、「カン拡張における上下左右: 入門の前に整理すべきこと」というけっこう長い記事を書いたにもかかわらず、 -- にもかかわらずですね、カン拡張の左と右の定義を忘れた。どっちが左でどっちが右か分からなくなった。ハァ(ため息)。

カン拡張の左と右って、「根拠なき選択」なんですよね。左(resp. 右)カン拡張を「左」(resp. 「右」)と呼ぶべき必然性はどこにもないから覚えられないのです。必然性なき選択ですわ。

となると、なんかにコジツケて覚えるしかないです。コジツケ方の話をします。

内容:

左カン拡張と右カン拡張

最初に、「カン拡張における上下左右: 入門の前に整理すべきこと」に載せていた、拡張/持ち上げの状況を表すストリング図を再掲。黒が与えられた圏・関手で、赤が拡張/持ち上げとなる関手・自然変換です。

同じことをペースティング図でも書いておけば:

最近使い始めた、MathJaxで描く貧相なペースティング図なら:

\require{AMScd}
\newcommand{\hyph}{\mbox{-}}%
\newcommand{\cat}[1]{{\mathcal {#1}}}%
\newcommand{\incat}{\:\: \mbox{in}\:}%
\newcommand{\NE}{\nearrow\!\!\!\nearrow} %
\newcommand{\NW}{\nwarrow\!\!\!\nwarrow} %
\newcommand{\SE}{\searrow\!\!\!\searrow} %
\newcommand{\SW}{\swarrow\!\!\!\swarrow} %
%
\begin{CD}
\cat{D} @>{G}>> {}  @=       \cat{E} \\
@A{K}AA        @.{\NW\alpha} @|      \\
\cat{C}@=      {}   @>>{F}>  \cat{E} \\
\end{CD} \\
\:\\
\begin{CD}
\cat{D} @>{G}>> {}  @=       \cat{E} \\
@A{K}AA        @.{\SE\alpha} @|      \\
\cat{C}@=      {}   @>>{F}>  \cat{E} \\
\end{CD} \\
\:\\
\begin{CD}
\cat{E} @=   {}  @>{G}>>      \cat{C} \\
@|              @.{\NE\alpha} @VV{K}V \\
\cat{E} @>{F}>> {}   @=       \cat{D} \\
\end{CD} \\
\:\\
\begin{CD}
\cat{E} @=   {}  @>{G}>>      \cat{C} \\
@|              @.{\SW\alpha} @VV{K}V \\
\cat{E} @>{F}>> {}   @=       \cat{D} \\
\end{CD} \\

以上は、カンとは限らない一般的な拡張/持ち上げの状況です。持ち上げはあまり使わないので、以下では拡張だけ扱います。

関手のあいだの自然変換が存在することを不等号'≦'で略記することにします。

  • F ≦ G :⇔ (FからGに向かう自然変換が在る)

この記法で、Gが、Kに沿ったFの左拡張であることは F ≦ K*G と書けます。ここで、'*'は関手の図式順結合記号です。左拡張Lが、この不等号に関する“最小性”を持つことは次のように書けます。

  • F ≦ K*G ならば、L ≦ G

これは、Lが左拡張のなかでは最小であることを主張しています。Lが左カン拡張である条件がこれです。同様な書き方で、

  • K*G ≦ F ならば、G ≦ R

これは「Rが右拡張のなかで最大である」こと -- 右カン拡張の条件です。

不等号で書いてみると、左拡張を優拡張、右拡張を劣拡張と呼びたくなります。(「順序集合のカン拡張と特徴述語論理」でそう呼んでます。)

  • 優拡張のなかで最小のもの(最小優拡張)が、カン優拡張
  • 劣拡張のなかで最大のもの(最大劣拡張)が、カン劣拡張

とかなら、まだしも覚えやすかったのだけど、実際は何の連想も働かない左と右、どうコジツケましょうか?

随伴の左右と結びつける

随伴の左右と結びつけることにします。随伴に関しては、左右の定義を覚えてます(僕は)。これもコジツケで覚えてるのですが、今日はそのコジツケの話はしないで、ともかくも「随伴の左右は知ってるよ」を前提します*1

Lが、Kに沿ったFの左カン拡張(最小優拡張)であることを次のように書きましょう。

   F ≦ K*G in [C, E]
 -----------------------↓↑
   L ≦ G in [D, E]

この意味は:

  1. 不等号 ≦ は、既に説明したとおりです。
  2. [C, E] と [D, E] は関手圏です。
  3. 右端の ↓↑ は、上から下、下から上の両方向の推論が出来ることです。
  4. つまり、不等号の根拠となる自然変換のあいだに1:1の対応があります。

これをホムセットの同型として書けば:

  • [C, E](F, K*G) \cong [D, E](L, G)

Lが、Kを固定した上でFから決まるとすれば、L = LK(F) と書けます。

  • [C, E](F, K*G) \cong [D, E](LK(F), G)

関手Kによる前結合引き戻しを K*:[D, E]→[C, E] とすると、上のホムセット同型は、次の随伴関係を示唆します。

  • LK -| K*

実際に、LKとK*は随伴で、LKが随伴系の左関手になります。

オオーッ、左と左が一致した! 次のように覚えましょう。

  • 前結合引き戻し関手K*随伴関手が、カン拡張関手である。

同様に、

  • 前結合引き戻し関手K*随伴関手が、カン拡張関手である。

これで覚えられるのかなぁ?

*1:随伴に関しては、「圏論の随伴をちゃんと抑えよう」参照。