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僕の偏見としてのデカルト閉圏

ふと思ったのですが、僕は「デカルト閉圏」に拘り過ぎかも。とある圏Cデカルト閉圏でないと、それを理由に「Cは使いにくい」と僕は言うわけですが、これは偏見です。偏見とは「そう信じているが、その根拠を合理的に説明できない」拘りや思い込みです。

「なぜデカルト閉圏に拘るのか?」と聞かれれば、「ラムダ計算が出来るから」と答えるでしょうが「なぜラムダ計算に拘るのか?」と聞かれると「便利だと思う」とか「けっこう好き」くらいしか思いつきません。

「便利だ/好き」の範囲はデカルト閉圏よりもう少し広くて、モノイド閉圏まで許容です。モノイド閉圏でもラムダ計算は出来ますからね。そして、欲を言えば、デカルト閉圏であり、局所デカルト閉〈locally cartesian closed〉でもあるとさらに使いやすいです。

さて、デカルト閉圏じゃないので使いにくいと思う圏の事例ですが、まず(なめらかな)多様体の圏ManManに境界付き多様体を含めると、具合のいい直積は作れません。境界無しに制限するか、角付き多様体〈manifold with corners〉にまで拡張すれば直積は確保できます -- 直積でモノイド圏になります。が、指数 [M→N] *1がうまく作れない。

なめらかな写像の空間 [M→N] がもし多様体になるとするなら、特殊な例外を除いて無限次元多様体です。無限次元多様体は難しい。有限次元多様体と同様に、「局所的にナントカ空間(なんらかの無限次元ベクトル空間)と同相」という定義はできます。実際に、バナッハ多様体やフレシェ多様体という概念がありますが、難しい。

もちろん、難しいけど頑張る道はあるのですけど、別な方向に進むってテもあります。「局所的にナントカ空間と同相」とは別なアプローチとして、集合または位相空間に含まれる“なめらかな曲線”や“なめらかな曲面”、あるいは空間上の“なめらかな関数”の集まりによって多様体類似構造を定義する方法があります。このアプローチを漠然と総称して“なめらか学”〈smootheology*2〉的なアプローチといいます。

なめらか学的アプローチで定義されるなめらか空間〈smooth space〉には色々な種類があります。色々あり過ぎかも。次の論文が、様々ななめらか学/なめらか空間を比較しています。

なめらか空間の圏(色々あるが)はデカルト閉圏になります。その意味ではハッピーですが、接空間や余接空間、ベクトル場や微分形式の構成が容易かというとそうでもありません。そんなにうまい話は転がってないですね。

もうひとつ「デカルト閉じゃなくてイヤだなー」と思っている圏があります。それは可測空間の圏Measです。確率的議論をするときの基礎となる(はずの)圏なのに、デカルト閉じゃないので、なにかと使いにくい。… と、この話はまた別な機会にします。

*1:内部ホムと指数を区別する人もいますが、僕は特に区別してないです、内部ホム = 指数。内部ホムは、hom(X, Y), [X, Y], [X→Y], YX などと書きます。

*2:'e'が抜けがち。