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参照用 記事

マリオス微分幾何とカルタン接続

2019年にマリオス〈Anastasios Mallios〉の抽象微分幾何(以下、マリオス微分幾何)について紹介したことがあります。

その後もたまにマリオス達の論文を眺めることもありました。2,3日前に、バシリウー〈Efstathios Vassiliou〉の次の論文を見返しました(なんとなく)。

主層〈principal sheaf〉に関して僕が誤解していたので、主層とその上のカルタン接続について述べます。\newcommand{\hyp}{\mbox{-}} \newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}\newcommand{\In}{\mbox{ in }}\newcommand{\shf}[1]{\mathcal{#1}}

※注: この記事では、数式は一文字であってもすべてMathJaxで書いてみました。そのため、レンダリングが重いページになっているかも知れません。それと、テキストレイアウトが若干崩れるかも知れません。

内容:

ベクトル層と主層

抽象微分多様体、もうチョット」より:

ベクトルバンドルに相当するベクトル層と同様に、主バンドルに相当する主層〈principal sheaf〉というモノも定義されています。主層の定義は、ベクトル層より複雑です(僕はよく分かってない)。

ベクトル層と主層が、マリオス微分幾何の中心的な話題のようです。

この時点(2019年4月1日)で、主層をよく分かってないです。

抽象微分多様体、さらに:共変微分のアフィン構造」より:

マリオス達が使っている「ベクトル層」「主層」という言葉は、「ベクトルバンドル←→ベクトル層」「主バンドル←→主層」という対応があり便利です。が、この用語法を広げて使うのは無理がありそうです。バンドルから作られる層をバンドル層と呼ぶことにして、

に言い換えます。

これは翌日(2019年4月2日)の記事です。「主バンドル←→主層」という対応があると言ってますが、これは誤解していました。ベクトル層は、ベクトルバンドル由来の層だと思っていいですが、主層は主バンドル由来とは限らないです。

マリオス微分幾何の特徴は、バンドル〈ファイバーバンドル〉に言及せずに直接的に層を使うことです。がしかし、バンドルが全然出てこないわけではありません。バンドルと層の関係性がだいぶ紛らわしいです。過去記事の上記引用のように、バンドルから生成された層は「ナントカ・バンドル層」と呼ぶことにします。逆に、バンドル由来でない層を「ナントカ・バンドル層」とは呼びません。これでハッキリするでしょう -- 主層は主バンドル層ではありません。

問題の主層ですが、これは主バンドルには言及せずに層の言葉だけで定義されています。主バンドル層は典型的な主層だし、具体的な記述や計算では、主バンドル層でないとうまくいきませんが、主層の定義にバンドルは出てきません。

マリオス/バシリウー達の記法では、「空間 X 上の層は、TeXの意味でのカリグラフィー体(\mathcalで指定)*1で書く」というルールです。が、このルールが守り切れてない、というか守ろうとしてもフォント指定を忘れたり間違えたりがけっこう多いです。結果的に、論文が読みにくくなっています。

この記事では、一般的な層(特定の層ではない)はカリグラフィー体で表しますが、特定されている層はボールド体か大文字ギリシャ文字にします。マリオス/バシリウー達は、環付き空間〈ringed space〉の構造層である環の層を固定してないので \mathcal{A} (カリグラフィー体)と書いてますが、ここでは固定するので \bf{A} (ローマン体太字)です(定義は後述)。その他、記法はできるだけ整理して、書き間違いのリスクが少なくなるようにします。

バンドルと層に関する準備

X は(なめらかな)多様体とします。マリオス微分幾何の特徴は、多様体とは限らない位相空間も考えることですが、ここでは、空間を多様体に限定して話を簡単にします。

バンドルは、局所自明性を持つファイバーバンドルのことです。単なる連続写像 p:Y \to X\In {\bf Top} をバンドルと呼ぶことがあります(例えば、ココ参照)が、ここでは、それはバンドルとは言いません。

バンドルを、記号の乱用で E = (E, X, \pi) のように書きます。バンドル E の点 p \in X におけるファイバーは(E_p ではなくて)E_{@p} 〈fibre of E at p〉と書き、典型ファイバーは E_{@*} と書くことにします。バンドルの定義より、局所的に(開集合 U \subseteq X 上で)E|_U \cong U\times E_{@*} です。バンドルの典型ファイバーも明示するときは、E = (E, X, \pi, E_{@*}) と四つ組にします。

底空間 X 上の、ファイバーが F である自明バンドル〈直積バンドル〉を F_{/X} = (F_{/X} = X\times F, X, \pi_1, F) と書きます。この記法を使うと、一般のバンドルの局所自明条件は、次のように書けます。Open_p(X) は、点 p を含む開集合の集合です。

  • \forall p\in X.\exists U\in Open_p(X).(\, E|_U \cong (E_{@*})_{/U} \mbox{ as bundle} \,)

バンドル E = (E, X, \pi) のセクション〈大域セクション〉の集合は \Gamma(E) です。開集合 U\subseteq X 上の局所セクションの集合は、若干記号の乱用をして \Gamma_X(U, E) = \Gamma_X(E)(U) = \Gamma(E|_U) と書きます。\Gamma(E)(\hyp) = \Gamma_X(E)(\hyp)X 上の集合の層になります*2

多様体 X 上のすべてのバンドルと(底空間 X を動かさない)バンドル射の全体は圏をなすので、それを {\bf Bdl}[X] と書きます。圏 {\bf Bdl}[X] は、ファイバー積に関してデカルト圏になります。デカルト積(実体はファイバー積)を \times_Xデカルト圏として単位対象兼終対象を {\bf 1}_X と書きます。

僕は今まで、X 上の層(集合の層)の圏を {\bf Set}\hyp{\bf Sh}[X] または {\bf Sh}[X] と書いていましたが、集合の層の圏は {\bf Set}[X] と書きます。同様に、(可換な)環の層は {\bf Rng}[X] です。また、「ナントカの層」の「の」は省いて「ナントカ層」と呼びます。例えば、群層〈sheaf of groups | group sheaf〉の圏は {\bf Grp}[X] となります。このような書き方は、誤解のリスクが若干あります*3が、簡略でいいので採用します。

環層の圏 {\bf Rng}[X] の対象は、集合層の圏 {\bf Set}[X] のなかの環対象〈ring object〉です。群層の圏 {\bf Grp}[X] の対象は、集合層の圏 {\bf Set}[X] のなかの群対象〈group object〉です。X = \{0\} と置いたときは、{\bf Set}[X] \cong {\bf Set},\; {\bf Grp}[X] \cong {\bf Grp} のように、通常の集合圏や群の圏が再現します。

\shf{R}\in |{\bf Rng}[X]| とします。つまり、\shf{R}X 上の環層です。\shf{R} を係数環〈スカラー環〉層とする加群層の圏は \shf{R}\hyp{\bf Mod}[X] と書きます。加群層に結合的・単位的な掛け算が入った代数系の層は多元環層〈algebra sheaf〉と呼び、多元環層の圏は \shf{R}\hyp{\bf Alg}[X] と書きます。また、結合的・単位的な掛け算ではなくて、リー括弧積が入った代数系の層の圏は \shf{R}\hyp{\bf LieAlg}[X] です。これら、係数環層の上の、加群層の圏/多元環層の圏/リー代数層の圏はよく使われます。

体とベクトル空間に関しては、今までの調子で層に拡張はできません。体から環層を作って、ベクトル空間はその環層の上の加群層だとみなしましょう; {\bf K} を基礎体とします。ここでは、{\bf K} = {\bf R}\mbox{ or }{\bf K} = {\bf C} で、一般的な体は考えません。どんな開集合 U\subseteq X にも {\bf K} を対応させる前層は層にはなりません。その前層を層化した層を \bar{\bf K} とします。層 \bar{\bf K}{\bf K}値局所定数関数の層とみなせます。層 \bar{\bf K} には環の構造が入るので、\bar{\bf K}\in |{\bf Rng}[X]| とみなします。そして、\bar{\bf K}\hyp{\bf Mod}[X] の対象をベクトル空間相当物と考えます。

カリグラフィー体ではない太字の {\bf A} は、多様体上の(なめらかな){\bf K}値関数の環層だとします。つまり、{\bf A}\in |\bar{\bf K}\hyp{\bf Rng}[X]|,\; {\bf A} = C^\infty_X です。ここで、\bar{\bf K}\hyp{\bf Rng}[X] は、体から作った環層 \bar{\bf K} を基礎環層とする環層〈相対環層〉の圏です。また、 \Omega^1多様体 X 上の1次微分形式の層だとします。\Omega^1 \in |({\bf A}/\bar{\bf K})\hyp{\bf Mod}[X]| です。ここで、({\bf A}/\bar{\bf K})\hyp{\bf Mod}[X] は、基礎環層 \bar{\bf K} 上の環層 {\bf A} = {\bf A}/\bar{\bf K} 上の加群層の圏です。

他にも必要なバンドルと層に関する概念はありますが、それは必要になったところで導入することにします。

圏の内部ホムと内部系

層の圏を扱うときに、内部ホムと内部系(内部群、内部環など)を使いますが、明示されずに暗黙に使われていることが多いです。マリオス微分幾何でも、いつのまにか内部ホムから作られた内部オート群が使われていたりします。ここらへんをハッキリさせましょう。

この節は圏論の話なので、カリグラフィー体 \cat{C}, \cat{D} などは(層ではなくて)一般的な圏を表します。

\cat{C}デカルト閉圏であるとき、内部ホム対象〈指数対象〉は [A, B] B^A hom(A, B) などと書きます。が、複数の圏を扱うときに、どこの圏の内部ホムか分からなくなるので  hom_{\cat{C}}(A, B) 、さらに下付きを避けて  hom\_{\cat{C}}(A, B) と書くことにします。内部ホムの定義から次のホムセット同型があります。

  • \mbox{For }A, B, C \in |\cat{C}|,\; \cat{C}(A\times B, C) \cong \cat{C}(A, hom\_\cat{C}(B, C)) \In {\bf Set}

次の素材を使って、\cat{C} を豊饒化圏〈enriching category〉とする豊饒圏〈enriched category〉が作れます(構成の詳細は割愛)。

  • hom\_\cat{C} : |\cat{C}|\times |\cat{C}| \to |\cat{C}| \In {\bf SET}
  • \mbox{For }A, B, C \in |\cat{C}|,\; comp\_\cat{C}_{A, B, C}:home\_\cat{C}(A, B)\times home\_\cat{C}(B, C) \to hom\_\cat{C}(A, C)\In \cat{C}
  • \mbox{For }A \in |\cat{C}|,\; id\_\cat{C}_A:{\bf 1}  \to hom\_\cat{C}(A, A) \In \cat{C}

デカルト閉圏は、自分自身の上に豊饒化された圏となります。例えば、集合圏はそのような圏です。

\cat{D} が 圏 \cat{C} 上の具象圏とします。これは、忠実忘却関手  U:\cat{D} \to \cat{C}\In {\bf CAT} が存在することです。特に、\cat{D} \subseteq \cat{C}\In {\bf CAT} (部分圏)なら、\cat{D}\cat{C} 上の具象圏です。\cat{C}デカルト閉圏なら、次のようにして、 \cat{D}\cat{C}-豊饒圏になります。

  • \mbox{For }A, B \in |\cat{D}|,\; hom\_\cat{D}(A, B) := hom\_\cat{C}(U(A), U(B)) \in |\cat{C}|
  • \mbox{For }A, B, C \in |\cat{D}|,\;  comp\_\cat{D}_{A, B, C} := comp\_\cat{C}_{U(A), U(B), U(C)} : hom\_\cat{D}(A, B)\times hom\_\cat{D}(B, C) \to hom\_\cat{C}(A, C) \In \cat{C}
  • \mbox{For }A \in |\cat{D}|,\; id\_\cat{D}_A := id\_\cat{C}_{U(A)} : {\bf 1} \to hom\_\cat{D}(A, A) \In \cat{C}

\cat{D} のもとのホムセットは、次の同型から回復できます。

  • \mbox{For }A, B \in |\cat{D}|,\; \cat{D}(A, B) \cong \cat{C}({\bf 1}, hom\_\cat{D}(A, B)) \In {\bf Set}

以下、圏 \cat{D}デカルト閉圏 \cat{C} で豊饒化されている状況で考えます。このとき、\cat{D} の対象 A に対して、エンドモノイド〈endo monoid〉 endMon\_\cat{D}(A)\cat{C} 内の(\cat{D} 内ではない!)モノイド対象として定義できます。

エンドモノイド endMon\_\cat{D}(A) は次のようなものです。

  • 台対象〈underlying object〉は end\_\cat{D}(A) := hom\_\cat{D}(A, A)\in |\cat{C}|
  • モノイド演算は comp\_\cat{D}_{A, A, A}:end\_\cat{D}(A)\times end\_\cat{D}(A) \to end\_\cat{D} \In \cat{C}
  • モノイド単位は id\_\cat{D}_A : {\bf 1} \to end\_\cat{D}(A) \In \cat{C}

これらが、モノイド法則を満たすことは確認が必要ですが、実際に \cat{C} 内のモノイド対象になります。

もし、圏 \cat{D}\cat{C} 内のアーベル群対象(内部アーベル群)で豊饒化されているなら、エンド対象 end\_\cat{D} に足し算があるので、\cat{C} 内にエンド多元環〈endo algebra〉を構成することができます。\cat{D} の対象 A のエンド多元環endAlg\_\cat{D}(A) と書きます。

\cat{C} 内のモノイド対象とモノイド射の圏を Mon(\cat{C})多元環対象と多元環射の圏を Alg(\cat{C}) とすると、次が成立します。

  • \mbox{For }A\in |\cat{D}|,\; endMon\_\cat{D}(A) \in |Mon(\cat{C})|
  • \mbox{For }A\in |\cat{D}|,\; endAlg\_\cat{D}(A) \in |Alg(\cat{C})|

さて、マリオス微分幾何の主層理論で使われるオート群〈auto group〉ですが、これはエンドモノイドの可逆元からなる群です。直感的には分かりやすいのですが、実際に構成するのは自明とは思えません。豊饒化圏 \cat{C}デカルト閉圏なだけでは無理なんじゃないのかな。\cat{C} がトポスなら、論理式で絞り込んで end\_\cat{D}(A) \in |\cat{C}| の部分対象として aut\_\cat{D}(A) \in |\cat{C}| を作れそうです。

  • aut\_\cat{D}(A) := \{f\in end\_\cat{D}(A) \mid IsInvertible(f)\}

集合の内包的記法で部分対象を特定することは、単なるデカルト閉圏では無理です。

マリオス微分幾何では、\cat{C} = {\bf Set}[X] と置くと、\cat{C} が実際にトポスになっているので、その内部でオート群の台対象である aut\_\cat{D}(A) は作れて、群の構造を与えることができます。オート群〈auto group〉は、

  • autGrp\_\cat{D}(A) = (aut\_\cat{D}(A), comp\_\cat{D}_{A, A, A}, id\_\cat{D}_A, inv\_\cat{D}_A)

と書けます。オート群は、\cat{C} 内の群対象になるので:

  • \mbox{For }A\in |\cat{D}|,\; autGrp\_\cat{D}(A) \in |Grp(\cat{C})|

他にも、\cat{C} = {\bf Set}[X] 内で集合圏と同様な操作ができることがけっこう使われます。

群層、群作用層、主層

群層〈group sheaf〉、群作用層〈group action sheaf〉は、それぞれ群、群作用を層で考えたものです。つまり、集合層の圏 {\bf Set}[X] のなかの群対象が群層で、群作用対象が群作用層になります。群対象や群作用対象は、どんなデカルト圏(より一般にモノイド圏)でも定義できます。

いつものとおりの記号の乱用を使えば、群層は \shf{G} = (\shf{G}, m, e, i) と書けます。台対象(群層と同じ記号をオーバーロード\shf{G} は集合層で、群乗法 m 、単位 e 、逆元 i は集合層のあいだの射で、群の法則を満たします。逆元の法則だけ可換図式で書いておくと:

\require{AMScd}
\begin{CD}
\shf{G} @>{\Delta_\shf{G}}>>  \shf{G}\times\shf{G} \\
@|              @VV{\mathrm{id}_\shf{G}\times i}V \\
\shf{G} @<{m}<<   \shf{G}\times\shf{G}
\end{CD}\\
\mbox{commutative }\In {\bf Set}[X]

ここで、\Delta_{\shf{G}}デカルト圏の対角射〈コピー射〉です。

群作用には左群作用〈left group action〉と右群作用〈right group action〉がありますが、ここでは主に右群作用を考えます。右群作用を定義する射を a:\shf{S}\times \shf{G} \to \shf{S} \In {\bf Set}[X] とします。群作用としての結合法則は次の可換図式になります(少しサボって単純化してます)。


\begin{CD}
\shf{S}\times \shf{G}\times \shf{G}  @>{a\times \mathrm{id}_\shf{G}}>> \shf{S}\times \shf{G} \\
@V{\mathrm{id}_\shf{S}\times m}VV                       @VV{a}V \\
\shf{S}\times \shf{G}  @>{a}>>                          \shf{S}
\end{CD} \\
\mbox{commutative }\In {\bf Set}[X]

等式的理論としての群/群作用の理論は、集合圏でも集合層の圏でも変わりません。

群層 \shf{G} をひとつ固定して、\shf{G}-右群作用層の圏を \shf{G}\hyp{\bf RAct}[X] とします。圏 \shf{G}\hyp{\bf RAct}[X] の射 f:(\shf{S}, a) \to (\shf{T}, a) は、集合層の射 f:\shf{S} \to \shf{T}\In {\bf Set}[X] であって、次の図式を可換にするものです。


\begin{CD}
\shf{S}\times \shf{G} @>{a}>>     \shf{S} \\
@V{f\times \mathrm{id}_\shf{G}}VV @VV{f}V \\
\shf{T}\times \shf{G} @>{a}>>     \shf{T} 
\end{CD}\\
\mbox{commutative }\In {\bf Set}[X]

さて、\shf{G}-右主層〈right principal sheaf〉とは、\shf{G}-右群作用層で次の条件を満たすものです。


\forall p\in X. \exists U\in Open_p(X).(\\
\quad \exists f:\shf{S}|_U \to \shf{G}|_U \In {\bf Set}[U].(\\
\qquad f: (\shf{S}|_U, a|_U) \stackrel{\cong}{\to} (\shf{G}|_U, m|_U)
   \In (\shf{G}|_U)\hyp{\bf RAct}[U] \\
\quad)\\
)

この条件は、\shf{G} による右群作用が、局所的には(右群作用とみた)群の乗法と同型であると言っています。条件のなかに出てくる f:\shf{S}|_U \to \shf{G}|_U は、ある種の“局所自明化”と言えます。

リー型群層

群層は、群の層的対応物ですが、リー群の層的対応物は何でしょうか? これに対してひとつの定式化を与えたことが、マリオス/バシリウーの主層理論〈theory of principal sheaves〉のポイントだと思います。「リー群はリー代数を持ち、そのリー代数を表現空間とする標準的な群表現(随伴表現)を持つ」ということに着目し、そこだけ抜き出して、リー型の群層〈group sheaf of Lie-type〉を定義しました。これは優れたアイディアだと思います。

リー型群層は、群層とその表現を一緒にしたものです。群層の表現を考えるには、先に述べた内部オート群が必要になります。単なる加群層ではなくてリー代数層の内部オート群です。

環層 {\bf A} \in \bar{\bf K}\hyp{\bf Rng}[X] 上のリー代数層の圏 {\bf A}\hyp{\bf LieAlg}[X] は、通常の環上のリー代数の圏と同様に定義できます。圏 {\bf A}\hyp{\bf LieAlg}[X] は、トポス {\bf Set}[X] への忠実忘却関手を持つので、{\bf Set}[X] 内の群対象として、オート群を持ちます。

  • \mbox{For }\shf{L}\in {\bf A}\hyp{\bf LieAlg}[X],\\ autGrp\_{\bf A}\hyp{\bf LieAlg}[X](\shf{L}) \in |Grp({\bf Set}[X])|

群層 \shf{G} があると、それは圏 Grp({\bf Set}[X]) \cong {\bf Grp}[X] の対象なので、次の群層のあいだの射は意味を持ちます。

  • \rho : \shf{G} \to autGrp\_{\bf A}\hyp{\bf LieAlg}[X](\shf{L}) \In {\bf Grp}[X]

群層 \shf{G} に、リー代数\shf{L} \in |{\bf A}\hyp{\bf LieAlg}[X]| と上記の群層の射 \rho を一緒にした構造 (\shf{G}, \shf{L}, \rho)リー型群層〈group sheaf of Lie-type〉と呼びます。リー型群層のモデルとなった構造は、リー群とそのリー代数、そして随伴表現の三つ組です。

リー/モーレー/カルタン群層

X 上の群層の典型的な例は、群バンドルのセクションの層です。自明な群バンドルを考えると、セクションは群値関数のことです。群がリー群なら、群値関数の微分を考えることができます。一番簡単な群値関数として、f:{\bf R} \to {\bf R}_{\ge 0} を考えてみます。f は、非負実数の乗法群に値を取ります。単なる微分ではなくて対数微分を考えます。

  •  \delta[f] := \frac{d}{dx}[\log\circ f] (対数微分の定義)
  •  \delta[f] = \frac{1}{f}\frac{d}{dx}[f] (これを定義にしてもよい)
  •  \delta[f g] = \delta[f] + \delta[g]

この対数微分を一般化・公理化した微分演算がモーレー/カルタン微分です。モーレー/カルタン微分は、多様体上の“乗法的な量の場”の微分です。乗法的な量の微小な変化を、対数化(線形化)した量で測ります。乗法的な量を線形化した空間としてリー代数が使われます。

(\shf{G}, \shf{L}, \rho) をリー型群層だとして、その上のモーレー/カルタン微分〈Maurer–Cartan differential〉とは次にような微分作用素です。

  •  \delta:\shf{G} \to \shf{L}\otimes \Omega^1 \In {\bf Set}[X]

ここで、リー代数\shf{L} も1次微分形式の層 \Omega^1 も環層 {\bf A} 上の加群層なので、テンソル積は環層 {\bf A} に関して取ります。

作用素 \delta は以下の性質(モーレー/カルタン微分の公理)を持つとします。群の乗法は単に併置で表しています。\tilde{\rho} は、\tilde{\rho}(g)(l \otimes \omega) := \rho(g)(l)\otimes \omega として定義される群層の表現(群層のあいだの射) \tilde{\rho}:\shf{G} \to aut\_{\bf A}\hyp{\bf Mod}[X](\shf{L}\otimes \Omega^1) です。

  •  \delta[s t] = \tilde{\rho}(t^{-1})(\delta[s]) + \delta[t] \mbox{ on } \shf{L}\otimes \Omega^1

これは、対数微分の性質の一般化です。この等式の正確な意味は次のようになります。


\forall U\in Open(X).(\\
\quad \forall s, t\in \shf{G}(U).(\\
\qquad \delta_U[s t] = \tilde{\rho}_U(t^{-1})(\delta_U[s]) + \delta_U[t] \\
\qquad \mbox{ on } \shf{L}(U)\otimes_{ {\bf A}(U)} \Omega^1(U)\\
\quad )\\
)

なお、今は開集合の添字を \delta_U のように右下に付けましたが、右下・右上は他の目的で使うので、僕は {}^U\delta のように左上に付けることが多いです。

リー型群層にモーレー/カルタン微分が備わっていれば、群層の要素(群値関数に相当)を微分することができます。モーレー/カルタン微分を備えたリー型群層をリー/モーレー/カルタン群層〈Lie-Maurer–Cartan group sheaf〉と呼びます。

主共変微分カルタン接続

(\shf{G}, \shf{L}, \rho, \delta) をリー/モーレー/カルタン群層とします。そして、\shf{G}-右主層 \shf{P} = (\shf{P}, a) があるとします。主層の台である集合層 \shf{P} にも微分作用素を考えます。\shf{P} は、局所的には \shf{G} と同じなので、主層の微分は、群層のモーレー/カルタン微分とだいたい同じです。次のような作用素です。

  •  D:\shf{P} \to \shf{L}\otimes \Omega^1 \In {\bf Set}[X]

満たすべき性質もモーレー/カルタン微分と同様です。群層による右作用はドットで表します。

  •  D[p \cdot t] = \tilde{\rho}(t^{-1})(D[p]) + \delta[t] \mbox{ on } \shf{L}\otimes \Omega^1

この性質を満たす作用素を主層 \shf{P} 上の主共変微分〈principal covariant derivative〉と呼ぶことにします。ベクトルバンドル層の共変微分に相当するからです。主層に作用している群層がリー/モーレー/カルタン群層でないと主共変微分を考えることはできません。

主共変微分を備えた、リー/モーレー/カルタン群層上の主層をカルタン接続〈Cartan connection〉と呼びます。ベクトルバンドル層のコジュール接続に相当します。だいたい次の対応があります。

加法的 乗法的
加群 主層
共変微分 主共変微分
ベクトルバンドル 主バンドル層
コジュール接続 カルタン接続

そしてそれから

前節のカルタン接続の定義と、そこに至るまでの各種の定義に、バンドルは出てきていません。しかし、群層、主層、主共変微分などを、バンドルと無関係に考えることは難しいと思います。一般的な枠組みは層の言葉だけで作っておいて、そのなかで主バンドル層やベクトルバンドル層を扱うことになるでしょう。

扱う対象物をバンドル層に限定する場合でも、一般的な枠組みがあると見通しが良くなります。実際にバンドル層を扱うのは次の機会に。そのとき、この記事で述べた記法や定義を使うことになるでしょう。

*1:TeXの意味でのカリグラフィーがほんとにカリグラフィーかは怪しいです。むしろ、\mathscr がカリグラフィーっぽい。

*2:バンドルが構造を持てば、層もそれに応じた構造を持ちます。

*3:例えば、{\bf Bdl}[X] は層の圏ではないですが、見た目は層の圏と同じ記法になっています。