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参照用 記事

コレクション改めクラスターの圏

コレクション、対称性、シーケンス、色付け」において、構造(例えば全順序構造)が載った有限集合を「コレクション」と呼びました。データ構造としてのコレクションはそういったものなのでまー妥当だろう、と。しかし、コレクション〈collection〉は他の意味で使われることが多いようです。なので、「コレクション」はやめて「クラスター」に改めます。

クラスターの圏の定義と事例についてこの記事で述べます。最後の節で、今回の定義が以前の定義を包摂することを示します。$`\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
%\newcommand{\pipe}{\mid }
%\newcommand{\ccol}[1]{\boldsymbol{#1} }
%\newcommand{\msf}[1]{\mathsf{#1}}
%\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
\newcommand{\In}{\text{ in } }
\newcommand{\Imp}{ \Rightarrow }
\newcommand{\Iff}{\Leftrightarrow }
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
%\newcommand{\op}{\mathrm{op} }
%\newcommand{\id}{\mathrm{id} }
%\newcommand{\pto}{ \supseteq\!\to }
\newcommand{\u}[1]{\underline{#1}}
\newcommand{\o}[1]{\overline{#1}}
%\newcommand{\cpal}[1]{\mathfrak{#1} }
%\newcommand{\msc}[1]{\mathscr{#1}}
`$

内容:

「コレクション」は既に使われていた

とりえず眺めただけですが、「コレクション〈collection〉」という言葉〈テクニカルターム〉が次の論文達で定義されていました。

  • [Web14-15]
  • Title: Operads as polynomial 2-monads
  • Author: Mark Weber
  • Submitted: 24 Dec 2014 (v1), 17 Nov 2015 (v4)
  • Pages: 54p
  • URL: https://arxiv.org/abs/1412.7599




  • [DH18-20]
  • Title: Dwyer--Kan homotopy theory for cyclic operads
  • Authors: Gabriel C. Drummond-Cole, Philip Hackney
  • Submitted: 17 Sep 2018 (v1), 3 Jun 2020 (v2)
  • Pages: 27p
  • URL: https://arxiv.org/abs/1809.06322




  • [BM14-15]
  • Title: Operadic categories and Duoidal Deligne's conjecture
  • Authors: Michael Batanin, Martin Markl
  • Submitted: 15 Apr 2014 (v1), 14 Jul 2015 (v3)
  • Pages: 54p
  • URL: https://arxiv.org/abs/1404.3886



  • [BM06-11]
  • Title: Generalized operads and their inner cohomomorphisms
  • Authors: D. Borisov, Yu. I. Manin
  • Submitted: 27 Sep 2006 (v1), 7 Jan 2011 (v5)
  • Pages: 71p
  • URL: https://arxiv.org/abs/math/0609748



  • [Lac16-]
  • Title: Operadic categories and their skew monoidal categories of collections
  • Author: Stephen Lack
  • Submitted: 20 Oct 2016
  • Pages: 37p
  • URL: https://arxiv.org/abs/1610.06282

それぞれの論文でコレクションが定義されている場所は:

  1. [Web14-15] p.10, 3.1. Definition
  2. [Che10] p.4, 1.2. Collections
  3. [Gar06-] p.13
  4. [DH18-20] p.5, Definition 2.4.
  5. [Koc09-16] p.131, 5.3 The monoidal category of collections
  6. [Gir21-] p.15, 1. Collections
  7. [BM14-15] p.9
  8. [Bat98] p.5, Definition 1.1.
  9. [BM06-11] p.15, 1.5.1. Definition.
  10. [Web04] p.4, 2.1. Definition. / p.41, 11.1. Definition.
  11. [Lac16-] p.2, 段落内

それぞれ違った定義です(同値になるものがあるかも知れないけど)が、“構造が載った有限集合”という意味ではありません。

クラスターの圏

コレクションは、構造が載った有限集合を意図しています(いました)が、「コレクション、対称性、シーケンス、色付け」では、取り扱いが単純になるように、有限集合に列挙の集合を付けた構造としました。ここでは、有限集合になんらかの構造が載ったモノ(=構造が載った有限集合)という本来の意図に沿ってクラスターを定義します。新しい定義をもとにして(列挙ベースの)以前の定義を導出できるようにします。

個々のクラスターが何であるかを定義するのではなくて、クラスター達の圏を定義して、その圏の対象をクラスター〈cluster〉と呼ぶことにします。クラスターの特性として、同じ基数(台集合の個数)のクラスターの同型類は有限個しかないことがあります。この特性は、考察対象のクラスター全体を対象類とする圏を考えないと定義できません。

圏 $`\cat{C}`$ がクラスターの圏〈category of clusters〉であるとは次のことです。

  • 忠実な関手 $`U: \cat{C} \to {\bf FinSet}`$ を備えている。これは、
    $`\quad U_{X, Y}:\cat{C}(X, Y) \to {\bf FinSet}(U(X), U(Y))`$
    が単射であることを意味する。
  • 任意の有限集合 $`A \in |{\bf FinSet}|`$ に対して、逆像集合 $`U^{-1}(A) \subseteq |\cat{C}|`$ を、$`\cat{C}`$ の同型で分類した商集合は有限集合(空集合でもよい)になる。

忠実な関手 $`U`$ はクラスターの圏の忘却関手〈forgetful functor〉と呼びます。クラスターの圏は単なる圏ではなくて、忘却関手を備えているので、次のように書くべきでしょう。

$`\quad \cat{D} = (\cat{C}, U_\cat{D})`$

しかしたいていは、記号の乱用と省略を使って、次のように書きます。

$`\quad \cat{C} = (\cat{C}, U)`$

また、$`X\in |\cat{C}|`$ に対して、$`U(X) = \u{X}`$ と書きます。

クラスター $`X \in |\cat{C}|`$ は、忘却関手の値として台集合 $`\u{X} \in |{\bf FinSet}|`$ を持ちます。$`\u{X}`$ の基数を $`X`$ の基数だと定義して、$`\mrm{card}(X)`$ または $`\# X`$ と書きます。

$`\quad \mrm{card}(X) := \mrm{card}(U(X))`$

忘却関手 $`U`$ が忠実であることから、$`\cat{C}(X, Y) \subseteq {\bf FinSet}(\u{X}, \u{Y})`$ とみなせます。このことから、

$`\quad \mrm{card}(\cat{C}(X, Y)) \le \mrm{card}(Y)^{\mrm{card}(X)}`$

2つ(2つが同一かも知れない)のクラスターのあいだの射は有限個しかありません。

$`U`$ が関手であることから、次は容易に示せます。

$`\text{For } X, Y \in |\cat{C}|\\
\quad X \cong Y \In \cat{C} \Imp U(X) \cong U(Y) \In {\bf FinSet}
`$

また、次は成立しています。

$`\text{For } A, B \in |{\bf FinSet}|\\
\quad A \cong B \In {\bf FinSet} \Iff \mrm{card}(A) = \mrm{card}(B) \In {\bf N}
`$

これらから、

$`\text{For } X, Y \in |\cat{C}|\\
\quad X \cong Y \In \cat{C} \Imp \mrm{card}(X) = \mrm{card}(Y) \In {\bf N}\\
\quad \mrm{card}(X) \ne \mrm{card}(Y) \In {\bf N} \Imp X \not\cong Y \In \cat{C}
`$

上記のことから、$`\mrm{card}`$ は、クラスターの圏 $`\cat{C}`$ の対象の集合を同型関係で割った商集合に対しても定義できます。以下の図が可換図式になります。

$`\require{AMScd}
\quad \begin{CD}
|\cat{C}| @>{\pi}>> |\cat{C}|/\!\cong \\
@V{\mrm{card}}VV @VV{\o{\mrm{card}}}V\\
{\bf N} @= {\bf N}
\end{CD}\\
\quad \text{commutative in }{\bf SET}
`$

ここで、$`\o{\mrm{card}}`$ は、商集合に“落とした” $`\mrm{card}`$ です。クラスターの圏の二番目の条件から、$`\o{\mrm{card}}`$ の逆像集合 $`(\o{\mrm{card}})^{-1}(n)`$ がすべて有限集合になります。クラスターの圏 $`\cat{C}`$ に対しては、次のような自然数の無限列を定義できます。

$`\quad {\bf N}\ni n \mapsto \mrm{card}( (\o{\mrm{card}})^{-1}(n) ) \in {\bf N}`$

$`{\bf FinSet}/\!\cong`$ と $`{\bf N}`$ を同一視すると、次の可換図式が得られます。

$`\quad \begin{CD}
|\cat{C}| @>{\pi}>> |\cat{C}|/\!\cong \\
@V{U_\mrm{obj}}VV @VV{\o{\mrm{card}}}V\\
|{\bf FinSet}| @>{\pi}>> |{\bf FinSet}|/\!\cong \\
\end{CD}\\
\quad \text{commutative in }{\bf SET}
`$

クラスターの圏の例

この節で、クラスターの圏の実例を幾つか挙げます。

クラスターの圏に終対象は要求しませんが、終対象があれば興味深いので、以下では終対象も記述します。

圏 $`\cat{C}`$ に対して、$`\mrm{Aut}_\cat{C}(X)`$ は、対象 $`X`$ の自己同型射の集合に、射の結合〈composition〉により群構造を入れたものを表します。$`\mrm{Aut}_\cat{C}(X)`$ は、群の圏 $`{\bf Grp}`$ の対象です。

$`\text{For }X \in |\cat{C}|\\
\quad \mrm{Aut}_\cat{C}(X) \in |{\bf Grp}|`$

文脈から $`\cat{C}`$ が明らかなら $`\mrm{Aut}(X) = \mrm{Aut}_\cat{C}(X)`$ と省略します。$`\mrm{Aut}(X)`$ も興味深いので記述します。

有限全順序集合の圏

圏 $`{\bf FinTotOrd}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、有限全順序集合
  • 射は、有限全順序集合のあいだの単調写像(順序を保つ写像)
  • 終対象は、単元集合に自明な全順序
  • 忘却関手は、台集合/台写像を対応させる関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は、($`X`$ がなんでも)単位元だけの自明な群
付点有限集合の圏

圏 $`{\bf PtFinSet}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、付点有限集合〈pointed finite set〉、指定された一点を基点〈base point〉と呼ぶ。
  • 射は、基点を保存する写像
  • 終対象は、基点だけからなる単元集合
  • 忘却関手は、台集合/台写像を対応させる関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は、基点を固定する任意の双射、$`\Sigma_{\# X - 1}`$ と同型

$`\Sigma_n`$ は$`n`$次の対称群です。

有限集合の圏

圏 $`{\bf FinSet}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、有限集合
  • 射は、写像
  • 終対象は、単元集合
  • 忘却関手は、恒等関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は、任意の双射、$`\Sigma_{\# X}`$ と同型
極性付き有限集合の圏

圏 $`{\bf PolrFinSet}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、有限集合とその上の極性付け〈polarization〉の組。極性付けは $`\{+, -\}`$ への関数。
  • 射は、極性を保存する写像
  • 終対象は、二元集合に異なる極性を付けたもの
  • 忘却関手は、台集合/台写像を対応させる関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は、同一極性の部分集合内で要素を動かす双射。プラス極性・マイナス極性の要素の数を $`k, l`$ として $`\Sigma_{k}\times \Sigma_{l}`$ と同型
三値符号付き有限集合の圏

圏 $`{\bf TriSignFinSet}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、有限集合とその上の三値符号付け〈{three-valued | trivalent} sign〉の組。三値符号付けは $`\{+, -, 0\}`$ への関数。
  • 射は、三値符号付けを保存する写像
  • 終対象は、三元集合に異なる符号を付けたもの
  • 忘却関手は、台集合/台写像を対応させる関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は、同一符号の部分集合内で要素を動かす双射。プラス・マイナス・ゼロ符号の要素の数を $`k, l, m`$ として $`\Sigma_{k}\times \Sigma_{l}\times \Sigma_{m}`$ と同型
二元集合の圏

圏 $`{\bf TwoElmSet}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、二元集合
  • 射は、二元集合のあいだの写像
  • 終対象は無い
  • 忘却関手は、台集合/台写像を対応させる関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は、単位元(恒等写像)と二元を入れ替える写像からなる二元群
付点二元集合の圏

圏 $`{\bf PtTwoElmSet}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、付点二元集合
  • 射は、付点二元集合のあいだの基点を保つ写像
  • 終対象は無い
  • 忘却関手は、台集合/台写像を対応させる関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は、単位元だけからなる自明な群
単元集合の圏

圏 $`{\bf SingletonSet}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、単元集合
  • 射は、単元集合のあいだの写像
  • すべての対象が終対象
  • 忘却関手は、台集合/台写像を対応させる関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は、単位元だけからなる自明な群
有限単純無向グラフの圏

圏 $`{\bf FinSimpleUndGraph}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、多重辺を許さない(自己ループ辺はあってもよい)無向グラフで、頂点も辺も有限であるもの
  • 射は、グラフの準同型写像
  • 終対象は、単一の頂点と単一の自己ループ辺を持つグラフ
  • 忘却関手は、頂点集合/準同型写像の頂点部分を対応させる関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は複雑、記述は省略

この圏の対象は、対称的関係を持つ有限集合ともみなせます。

極性付き二部有限全順序集合の圏

圏 $`{\bf PolrBipFinTotOrd}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、有限集合とその上の極性付け〈polarization〉、同じ極性の部分集合上の全順序の組
  • 射は、極性と順序を保存する写像
  • 終対象は、二元集合に異なる極性を付けたもの
  • 忘却関手は、台集合/台写像を対応させる関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は、単位元だけからなる自明な群
有限循環順序集合の圏

圏 $`{\bf FinCyc}`$ は次のような圏です。

  • 対象は、循環的順序(名前が「順序」でも順序ではない)を持つ有限集合
  • 射は、循環的順序を保つ写像
  • 終対象は、単元集合に自明な循環的順序無い
  • 忘却関手は、台集合/台写像を対応させる関手
  • $`\mrm{Aut}(X)`$ は、$`{\bf Z}/(\#X){\bf Z}`$ と同型な群

列挙付きクラスターの圏

$`n \in {\bf N}`$ に対して、$`\bar{n} := \{k\in {\bf N}\mid 1 \le k \le n \}`$ とします。

コレクション、対称性、シーケンス、色付け」において、構造が載った有限集合の台集合から $`\bar{n}`$ への双射を「列挙」と呼びました。列挙の逆写像は「シーケンス」でした。が、「シーケンス」も別な意味(例えば、symmetric sequence)で使われるので、次のように変更します。

  • 双射 $`\u{X} \to \bar{n}`$ を番号付けナンバリング | numbering〉と呼ぶ。
  • 双射 $`\bar{n} \to \u{X}`$ を列挙〈enumeration〉と呼ぶ。

コレクション、対称性、シーケンス、色付け」とは、“列挙”の向きが逆です。

さて、$`\cat{C} = (\cat{C}, U)`$ をクラスターの圏として、$`X\in |\cat{C}|`$ とその列挙 $`\varphi: \bar{n} \to \u{X} \In {\bf FinSet}`$ の組 $`(X, \varphi)`$ を列挙付きクラスター〈cluster with enumeration | enumerated cluster〉と呼ぶことにします。

2つの列挙付きクラスター $`(X, \varphi), (Y, \psi)`$ のあいだの準同型写像は、列挙を無視して、単に $`f: X \to Y \In \cat{C}`$ のことだとします。列挙付きクラスターを対象として、そのあいだの準同型写像を射とする圏が構成できます。この圏を $`\cat{C}^\mrm{enum}`$ とします。

列挙付きクラスターから列挙を忘れる忘却関手 $`U : \cat{C}^\mrm{enum} \to \cat{C}`$ がありますが、定義から、忘却関手は充満忠実になります。それは次のことを意味しています。

$`\text{For }(X, \varphi), (Y, \psi) \in |\cat{C}^\mrm{enum}|\\
\quad \cat{C}^\mrm{enum}( (X, \varphi), (Y, \psi) ) = \cat{C}( X, Y )
`$

列挙付きクラスター $`(X, \varphi)`$ に対して、「コレクション、対称性、シーケンス、色付け」で定義した対称性群〈symmetry group〉 $`\mrm{Sym}( (X, \varphi) )`$ を、以下のように定義できます。

群 $`\mrm{Aut}(X)`$ の群元を、列挙 $`\varphi`$ を使って$`n`$次対称群 $`\Sigma_n`$ のなかに写し取ることができます。

$`\quad \mrm{Aut}(X) \ni \alpha \mapsto \varphi^{-1}; \alpha ; \varphi \in \Sigma_n`$

この写像は群の準同型写像で、その像集合 $`\mrm{Img}( \varphi^{-1}; \hyp ; \varphi)`$ は群 $`\Sigma_n`$ の部分群になるので、それを $`\mrm{Sym}(X)`$ と置きます。$`\mrm{Sym}(X)`$ は $`\mrm{Aut}(X)`$ と同型な群になります。ただし、列挙に依存するという意味で規準的〈canonical〉に同型ではありません。

クラスターの列挙と(列挙から決まる)対称性群があれば、「コレクション、対称性、シーケンス、色付け」の議論はできます。今回定義したクラスターの圏 $`\cat{C}`$ があれば、ちょっと細工した $`\cat{C}^\mrm{enum}`$ により列挙や対称性群も得られるわけです。