多項式関手圏とは、多項式関手を対象として、そのあいだの自然変換を射とする圏です。関手圏 $`[{\bf Set}, {\bf Set}]`$ の部分圏になります。多項式関手圏のホムセットを具体的に表示する公式がΠΣ公式とΣΠ公式です。この記事ではΠΣ公式について述べます。具体的な表示により、2つの多項式関手のあいだの自然変換がどのくらいあるかを把握できます。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
\newcommand{\lto}{\leftarrow }
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\P}{\mathrm{P}}
\newcommand{\base}[1]{ {{#1}\!\lrcorner} }
\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}`$
内容:
コンテナとファミリー
「コンテナ」と「ファミリー」は同義語です。
コンテナの圏 $`{\bf Cont}`$ については、次の過去記事で手短に説明しています。
ファミリーの圏 $`{\bf Fam}`$ については、次の過去記事を参照してください。
ファミリーのあいだの射の定義を変えた変種として、圏 $`{\bf Fam}_\lto`$ があります。これについては:
コンテナについても同様な変種 $`{\bf Cont}_\lto`$ を定義できます。
呼び方/書き方以外の違いはないので、次が成立します。
$`\quad {\bf Cont} = {\bf Fam} \\
\quad {\bf Cont}_\lto = {\bf Fam}_\lto
`$
コンテナでもファミリーでも同じですが、この記事ではファミリーと呼ぶことにします(特に理由はありません)。
ファミリー $`F:I \to |{\bf Set}|`$ に対して、域 $`I`$ をインデキシング集合〈indexing set | インデックス集合〉またはベース集合〈base set〉と呼びます。コンテナの場合は、インデキシング集合を形状〈シェープ〉の集合と呼びます(が、ここでは使いません)。しばしば、$`F = (I, F)`$ という書き方を使います。
ファミリーのあいだの射は、「Diag構成の変種とその書き方」で約束した書き方で書くことにします。
$`\quad \varphi = (\base{\varphi}, \varphi^\flat) \;: (I, F) \to (J, G) \In {\bf Fam}\\
\quad \psi = (\base{\psi}, \psi^\sharp) \;: (I, F) \to (J, G) \In {\bf Fam}_\lto
`$
より詳しく書けば:
$`\quad \base{\varphi} : I \to J \In {\bf Set}\\
\text{For }i\in I\\
\quad \varphi^\flat_i : F(i) \to G(\base{\varphi}(i)) \In {\bf Set}\\
\:\\
\quad \base{\psi} : I \to J \In {\bf Set}\\
\text{For }i\in I\\
\quad \psi^\sharp_i : G(\base{\psi}(i)) \to F(i) \In {\bf Set}
`$
$`\base{\varphi}, \base{\psi}`$ を射のベースパート〈base part〉、$`\varphi^\flat, \psi^\sharp`$ を射のファイバーパート〈{fiber | fibre} part〉と呼びます。$`\psi^\sharp`$ が逆向きなのに注意してください。人によっては、$`\psi`$ の向きを $`(J, G) \to (I, F)`$ にするかも知れません*1。
ファミリーについても、ベースパート〈インデキシング集合〉を次のように書くことにします。
$`\quad \base{F} := \mrm{dom}(F) \; \in |{\bf Set}|`$
射のベースパートは次のように書けます。
$`\quad \base{\varphi} : \base{F} \to \base{G} \In {\bf Set}`$
ファミリーへの引数渡しは、丸括弧だけでなく、場合により角括弧〈ブラケット〉や下付きも使います。
$`\text{For }i\in I\\
\quad F(i) = F[i] = F_i`$
多項式関手
ファミリーを $`A, B`$ などで表し、ファミリーへの引数渡しはブラケットを使い $`A[i]`$ と書きます。ファミリー $`A`$ により定義される多項式関手〈polynomial functor〉を $`\P_A`$ と書くことにします。$`A`$ に対する多項式関手は次のように定義します。
$`\P_A : {\bf Set} \to {\bf Set}\In {\bf CAT}\\
\text{For }X \in |{\bf Set}|\\
\quad \P_A(X) := \sum_{i \in \base{F}} X^{A[i]} \\
\text{For }f:X \to Y \In {\bf Set}\\
\quad \P_A(f) := \sum_{i \in \base{F}} f^{A[i]}
`$
指数が乗った累乗の形は、ホムセットを表します。
$`\quad X^{A[i]} = {\bf Set}(A[i], X)\\
\quad f^{A[i]} = {\bf Set}(A[i], f)
`$
$`{\bf Set}(A[i], f)`$ の意味は、ホム関手の射パートに $`(\mrm{id}_{A[i]}, f)`$ を代入したものです。ホム関手の計算については、以下の過去記事を参照してください。
多項式関手の表現として、対象〈集合〉も射〈写像〉も代入できる変数 $`y`$ を使って書けば次のようです。
$`\quad \P_A(y) := \sum_{i \in \base{F}} y^{A[i]}`$
$`y`$(米田不定元)については、以下の過去記事を参照してください。
今のところ、$`\P_A`$ は定義してますが、ファミリーのあいだの射 $`\psi`$ に対する $`\P_\psi`$ は定義してないので、$`\P_\hyp`$ は関手ではありません。次のような写像です。
$`\quad \P_\hyp : |{\bf Fam}| \to |[{\bf Set}, {\bf Set}]| \In {\bf SET}`$
しかし、$`\P_A`$ と $`\P_B`$ のあいだの自然変換を考えることはできます。
$`\quad \alpha :: \P_A \twoto \P_B : {\bf Set} \to {\bf Set} \In {\bf CAT}`$
このような自然変換全体の集合は $`[{\bf Set}, {\bf Set}](\P_A, \P_B)`$ と書きますが、長いので次の略記も使います。
$`\quad \mrm{Nat}(\P_A, \P_B) := [{\bf Set}, {\bf Set}](\P_A, \P_B)`$
'Nat' は自然変換〈natural transformation〉の先頭3文字です。
ΠΣ公式
集合 $`\mrm{Nat}(\P_A, \P_B)`$ を、ファミリー $`A, B`$ を使って具体的に表示することを考えます。「ホム関手は極限を保存する」で示した「反変ホム関手は余極限を極限に移す」ことを使います。他に、米田の補題も使います。米田の補題については次の過去記事を参照してください。
$`\mrm{Nat}(\hyp, \hyp)`$ は関手圏 $`[{\bf Set},{\bf Set}]`$ のホムセットの略記です。したがって、$`\mrm{Nat}(\hyp, \hyp)`$ の左側引数の余極限は、極限として外に出せます。
$`\quad \mrm{Nat}(\mrm{colim}_\cat{I}\, D, G) \cong \mrm{lim}_\cat{I}\, \mrm{Nat}(D(\hyp), G) \In {\bf Set}`$
図式のインデキシング圏 $`\cat{I}`$ として、離散圏〈集合〉$`I := \base{A}`$ をとり、図式 $`D`$ は次のように定義します。
$`\text{For }i\in I\\
\quad D(i) := {\bf Set}(A[i], \hyp) = y^{A[i]} \;\in |[{\bf Set},{\bf Set}]|
`$
つまり、$`D(i)`$ はファミリー $`A`$ の$`i`$-成分を指数〈ベキ〉とする係数1の単項式関手です。別な言い方をすると、集合 $`A[i]`$ で余表現される余表現可能余前層が $`D(i)`$ です。
このセッティングで、「反変ホム関手は余極限を極限に移す」ことを書いてみると:
$`\quad \mrm{Nat}(\P_A, \P_B)\\
= \mrm{Nat}(\mrm{colim}_I\, y^{A[\hyp]}, \P_B)\\
\cong \mrm{lim}_I\, \mrm{Nat}(y^{A[\hyp]}, \P_B) \:\In {\bf Set}
`$
離散圏〈集合〉$`I`$ をインデキシング集合とする図式の余極限と極限は、集合族の総和と総積なので、次のように書いても同じです。
$`\quad \mrm{Nat}(\P_A, \P_B)\\
= \mrm{Nat}(\sum_{i \in I} y^{A[i]}, \P_B)\\
\cong \prod_{i \in I} \mrm{Nat}(y^{A[i]}, \P_B) \:\In {\bf Set}
`$
次に、余前層バージョンの米田の補題を使うと、次の同型が得られます。
$`\quad \mrm{Nat}(y^{A[i]}, \P_B) \cong \P_B(A[i]) \In {\bf Set}`$
これをすぐ上の式に“代入”すると:
$`\quad \prod_{i \in I} \mrm{Nat}(y^{A[i]}, \P_B)\\
\cong \prod_{i \in I} \P_B(A[i]) \: \In {\bf Set}
`$
$`J := \base{B}`$ と置いて $`\P_B(A[i])`$ を展開すると:
$`\quad \P_B(A[i]) = \sum_{j\in J} A[i]^{B[j]}`$
これをすぐ上の式に“代入”すると:
$`\quad \prod_{i \in I} \P_B(A[i])\\
\cong \prod_{i \in I}\sum_{j\in J} A[i]^{B[j]} \In {\bf Set}
`$
まとめると、次の同型になります。
$`\quad \mrm{Nat}(\P_A, \P_B)\cong \prod_{i \in I}\sum_{j\in J} A[i]^{B[j]} \In {\bf Set}`$
集合の指数は写像集合〈関数集合 | 関数空間〉のことなので、次のように書いても同じです。
$`\quad \mrm{Nat}(\P_A, \P_B)\cong \prod_{i \in I}\sum_{j\in J} \mrm{Map}(B[j], A[i]) \In {\bf Set}`$
これがΠΣ公式〈ΠΣ formula〉です。多項式関手のあいだの自然変換達は、右辺のように構成される集合の要素達と一対一に対応します。
*1:射の向きは絶対的な概念ではなくて、単に約束で決めるだけです。二択ですが、どちらを選んでも間違いということにはなりません。