14年近く前の記事「インデックス付き圏のインデックス付き圏」において、インデックス付き圏達が形成する圏が再びインデックス付き圏の構造を持つことを書いています。しかし、インデックス付き圏達のインデックス付き圏へのインデックス付き圏をハッキリと定義することは出来ませんでした。
最近、反ラックス余錐を使うと、インデックス付き圏達のインデックス付き圏へのインデックス付き圏の明瞭な定式化が得られることが分かりました。$`\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
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\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}`$
内容:
インデックス付き圏
インデックス付き圏〈indexed category〉の標準的な定義*1は、次のような反変関手です。
$`\quad F: \cat{I}^\op \to \dimU{\bf Cat}{1} \In {\bf CAT}`$
ここで、$`\cat{I}`$ は小さい圏、$`\dimU{\bf Cat}{1}`$ は、小さい圏達を対象とする2-圏 $`{\bf Cat}`$ の2-射〈自然変換〉を捨てた1-圏です。$`\dimU{\text{-}}{1}`$ については「圏の次元調整」を参照してください。通常、2-圏 $`{\bf Cat}`$ と1-圏 $`\dimU{\bf Cat}{1}`$ をあまり区別しないのですが、ここでは区別することにします。
インデックス付き圏については、過去にかなりの回数言及しています。
- このブログ内での インデックス付き圏 の検索結果
インデックス付き圏とグロタンディーク構成に関する過去記事を2つだけ挙げておくと:
小さい1-圏 $`\cat{I}`$ に、自明な2-射(1-射のあいだの等式)を追加した2-圏を $`\dimU{ \cat{I} }{2}`$ として、以下の $`F`$ のようにインデックス付き圏を定義すると、一般化されたインデックス付き圏の概念になります。
$`\quad F: (\dimU{\cat{I}}{2})^\op \to {\bf Cat} \In {\bf 2CAT}`$
上記のタイプのインデックス付き圏については、次の過去記事に書いています。
実際の例、例えば、「グロタンディーク構成と積分記号 // 事例: 加群に至るファイバー付き圏の系列」で出した階層構造だと、出現する圏が小さいとは限りません。しかし、サイズの問題を避けたいので、ここでは小さい圏で考えます。つまり、単に「インデックス付き圏」と言った場合、冒頭に挙げた定義のように、小さい圏から小さい圏達の1-圏への反変関手とします。2-射によるラックス化/反ラックス化は今は考えません。
ターゲット圏
反変関手としてのインデックス付き圏のターゲット圏〈target category | 余域圏〉は、小さい圏達の1-圏 $`\dimU{\bf Cat}{1}`$ でした。ターゲット圏を $`\dimU{\bf Cat}{1}`$ 以外に変更していいことにします。インデックス付き圏を定義するときに使うターゲット圏を $`\trg{C}`$ と書きます。特別な役割を持つので(カリグラフィー体じゃなくて)スクリプト体で書くことにします。
ターゲット圏 $`\trg{C}`$ は次の条件を満たすとします。
- 忘却関手 $`U:\trg{C} \to \dimU{\bf Cat}{1} \In {\bf CAT}`$ を持つ。
- 局所小圏〈locally small category〉である。
ここでの忘却関手は忠実関手の意味だとします。つまり、圏 $`\trg{C}`$ の対象は圏(小さい圏)とみなせて、そのあいだの射は関手とみなせます。$`\trg{C}`$ の対象は“構造付き圏”〈structured category〉と言っていいでしょう。$`\cat{D}\in |\trg{C}|`$ に対する $`U(\cat{D})`$ は構造付き圏の台圏〈underlying category〉です。ひとつの台圏上に複数の構造が載る可能性があります。
局所小圏とは、ホムセットが小さい集合であることです。次を要求します。
$`\text{For }\cat{D}, \cat{E} \in |\trg{C}|\\
\quad \trg{C}(\cat{D}, \cat{E}) \in |{\bf Set}|`$
しかし、$`|\trg{C}|`$ が小さいことは要求していません。
ターゲット圏が $`\trg{C}`$ であるインデックス付き圏達の圏(定義は次節)は次のように書きます。
$`\quad \mrm{IndCat}(\trg{C})`$
特に、$`\trg{C} := \dimU{\bf Cat}{1}`$ と置いた場合は太字で書きます。
$`\quad {\bf IndCat} := \mrm{IndCat}(\dimU{\bf Cat}{1})`$
インデックス付き圏達の圏
インデックス付き圏とは反変関手*2 $`F: \cat{I}^\op \to \trg{C}`$ なので、$`\trg{C}`$ に値を持つ前層です。あるいは、$`\cat{I}`$ を形状の圏〈形状圏〉とする $`\trg{C}`$ 内の反変図式です(「Diag構成: 圏論的構成法の包括的フレームワークとして」参照)。
2つのインデックス付き圏 $`F, G`$ のあいだの準同型射〈homomorphism〉、あるいはインデックス付き関手〈indexed functor〉を定義しましょう。
インデックス付き圏のソース圏〈域圏〉はインデキシング圏〈indexing category〉といいます。「インデックス圏」だと「インデックス付き圏」と紛らわしいので「インデキシング」を使います。インデキシング圏をベース圏〈base category〉とも呼びます。インデックス付き圏を、そのインデキシング圏〈ベース圏〉も添えて $`F = (\cat{I}, F)`$ のようにも書くことにします。ターゲット圏は $`\trg{C}`$ に固定です。
$`(\cat{I}, F), (\cat{J}, G)`$ は2つのインデックス付き圏だとして、インデキシング圏のあいだの関手 $`T : \cat{I} \to \cat{J}`$ があると、次のインデックス付き圏を構成できます。
$`\quad {T^\op}^*(G) = T^\op * G = G \cdot T^\op \; : \cat{I}^\op \to \trg{C} \In {\bf CAT}`$
ここで、中置二項演算子 $`*`$ は図式順の関手の結合、$`\cdot`$ は反図式順*3の関手の結合です。関手の右肩の $`{^\op}`$ は、「状態遷移系としての前層・余前層・プロ関手 // 捻じれ対のテキスト表示と図示」で説明した $`\mrm{Rev}* F * \mrm{Rev}^{-1}`$ です。
$`{T^\op}^*(\hyp)`$ は、$`T^\op`$ のプレ結合による引き戻しです。$`T`$ によるベースの取り替え〈change of base〉とも呼びます。$`T`$ の反対 $`T^\op`$ をプレ結合しているので注意してください*4。
さて、問題の $`(\cat{I}, F), (\cat{J}, G)`$ のあいだの準同型射〈インデックス付き関手〉は、次の2つの構成素を持ちます。
- インデキシング圏のあいだの関手 $`T : \cat{I} \to \cat{J} \In {\bf Cat}`$
- 自然変換 $`\alpha :: F \twoto T^\op * G : \cat{I}^\op \to \trg{C} \In {\bf CAT}`$
次の形に書きます。
$`\quad (T, \alpha) : (\cat{I}, F) \to (\cat{J}, G) \In \mrm{IndCat}(\trg{C})`$
注意すべきは、準同型射〈インデックス付き関手〉の定義と向きの取り決めにバリエーションがあることです。自然変換 $`\alpha`$ を次のように取ることもあります。
$`\quad \alpha :: {T^\op} * G \twoto F : \cat{I}^\op \to \trg{C} \In {\bf CAT}`$
定義が同一だとしても、準同型射〈インデックス付き関手〉の向きを $`F\to G`$ とするか $`G \to F`$ とするかは約束の問題です。どんな約束をしているかを確認する必要があります。
約束をひとつ決めれば、インデックス付き圏とそのあいだの準同型射〈インデックス付き関手〉は圏を形成します。その圏が $`\mrm{IndCat}(\trg{C})`$ です。$`\mrm{IndCat}(\trg{C})`$ をインデックス付き圏とみなすことも、ファイバー付き圏〈{fibred | fibered} category〉とみなすこともできます。インデックス付き圏達のインデックス付き圏については、冒頭で触れた14年近く前の過去記事があります。
サイズの問題
インデックス付き圏達の圏 $`\mrm{IndCat}(\trg{C})`$ が局所小圏になるかどうかを見てみましょう。インデックス付き圏達の圏のホムセットは次のように書けます。
$`\quad \mrm{IndCat}(\trg{C})( (\cat{I}, F), (\cat{J}, G) ) \cong
\sum_{T \in \dimU{\bf Cat}{1}(\cat{I}, \cat{J}) } [\cat{I}^\op, \trg{C}](F, T^\op * G)
`$
ここで、ブラケットは $`{\bf CAT}`$ のホム圏〈関手圏〉を意味します。$`\dimU{\bf Cat}{1}(\cat{I}, \cat{J})`$ は小さい集合なので、各 $`T`$ に対する集合 $`[\cat{I}^\op, \trg{C}](F, T^\op * G)`$ が小さければ、全体として小さい集合になります。これは、関手圏 $`
[\cat{I}^\op, \trg{C}]`$ が局所小圏かどうか? という問題になります。
「米田埋め込み、米田拡張、そして米田モナド // サイズの問題とフレイド/ストリートの定理」で紹介したフレイド/ストリートの定理によれば($`\trg{C}`$ が局所小を前提として):
- $`[\cat{I}^\op, \trg{C}]`$ が局所小圏 ⇔ $`\trg{C}`$ が小さい圏と圏同値
インデックス付き圏達の圏が局所小圏になるためには、ターゲット圏 $`\trg{C}`$ が局所小圏という条件だけでは不十分で、小さい圏と圏同値(本質的に小さい圏)であることが要求されます。$`\trg{C} := \dimU{\bf Cat}{1}`$ と置いた場合でもこの条件は満たされません。
ターゲット圏 $`\trg{C}`$ を本質的に小さい圏に制限するのはちょっと厳しすぎる条件のように思えます(局所小という条件でも守りにくいのに)。他の工夫でなんとか局所小にするか、局所小にするのは諦めるかですね。サイズの問題は難しいなー。
2階インデックス付き圏
この記事の主題は2階インデックス付き圏〈second-order indexed category〉です。これは、インデックス付き圏達の圏 $`\mrm{IndCat}(\trg{C})`$ をターゲット圏とするインデックス付き圏です。$`\mrm{IndCat}(\mrm{IndCat}(\trg{C}) )`$ の対象が2階インデックス付き圏だと言ってもいいです。
前節で見たように、$`\trg{C}`$ が局所小だと仮定しても、$`\mrm{IndCat}(\trg{C})`$ が局所小圏になることは保証されません。2回目の $`\mrm{IndCat}(\hyp)`$ の適用では、ターゲット圏の条件を緩めることにします。局所小という条件を外しても、ターゲット圏は $`\mrm{IndCat}[\hyp]`$ で作っているので、まったく得体の知れない巨大な圏というわけではありません。
2階インデックス付き圏は、次の構成素からなります。
- 2階インデックス付き圏のインデキシング圏 $`\cat{I} \in |{\bf Cat}|`$
- 反変関手 $`\cat{A} : \cat{I}^\op \to \dimU{\bf Cat}{1} \In {\bf CAT}`$
- $`|\cat{I}| = |\cat{I}|_0`$ でインデックス付けられた反変関手の族
$`(G_i : {\cat{A}_i}^\op \to \trg{C} \In {\bf CAT})_{i \in |\cat{I}|}`$ - $`\mrm{Mor}(\cat{I}) = |\cat{I}|_1`$ でインデックス付けられた自然変換の族
$`(\varphi_f :: G_j \twoto {\cat{A}_f}^\op * G_i : {\cat{A}_j}^\op \to \trg{C} )_{f:i \to j \In \cat{I}}`$
これらの構成素が、$`\mrm{IndCat}(\cat{C})`$ に値を取るインデックス付き圏(つまり2階インデックス付き圏)を記述することを納得するのはけっこう面倒です。
インデキシング圏 $`\cat{I}`$ の対象を第一インデックス〈first index〉と呼ぶことにします。第一インデックスは、2階インデックス付き圏のインデックスです。第一インデックス $`i \in |\cat{I}|`$ ごとに、行き先のインデックス付き圏のインデキシング圏 $`\cat{A}_i`$ が割り当てられています。$`\cat{A}_i`$ の対象を第二インデックス〈second index〉と呼びましょう。第一インデックスと第二インデックスのペア $`(i, a)`$ は依存ペアになり、その全体は次のようなシグマ型(集合族の直和*5)として書けます。
$`\quad \sum_{i \in |\cat{I}|} |\cat{A}_i|`$
第一インデックスの集合を横方向、第二インデックスの集合を縦方向に描けば、各点 $`i\in |\cat{I}|`$ ごとに縦方向のファイバー $`|\cat{A}_i|`$ が生えた集合論的バンドルになります。ファイバー $`\cat{A}_i`$ が $`i`$ ごとに違うかも知れないので直積集合とは限りませんが、第一第二インデキシング集合の全体像を2次元的なイメージで考えることはできます。
2階インデックス付き圏は、第一インデキシング圏 $`\cat{I}`$ をソース圏〈域圏〉とする反変関手です。第一インデックス $`i\in I`$ に対応する値であるインデックス付き圏は次の形です。
$`\quad G_i : {\cat{A}_i}^\op \to \trg{C} \In {\bf CAT}`$
つまり、反変関手 $`\cat{A}`$ の対象パート
$`\quad |\cat{I}| \ni i \mapsto \cat{A}_i \in |{\bf Cat}|`$
と、反変関手の族
$`\quad |\cat{I}| \ni i \mapsto G_i \in {\bf CAT}({\cat{A}_i}^\op , \trg{C})`$
によって、2階インデックス付き圏の対象パート
$`\quad |\cat{I}^\op| = |\cat{I}| \to |\mrm{IndCat}(\cat{C})| \In {\bf SET}`$
が記述されます。
残るは2階インデックス付き圏の射パートですが、それは次節にします。
2階インデックス付き圏の射パート
$`\cat{I}`$ をインデキシング圏とする2階インデックス付き圏を次のように書きましょう。
$`\quad \Phi : \cat{I}^\op \to \mrm{IndCat}(\trg{C}) \In {\bf CAT}`$
$`\Phi`$ の対象パートは前節で定義しました。
$`\quad \Phi_\mrm{obj} : |\cat{I}^\op| \to |\mrm{IndCat}(\trg{C})| \In {\bf Set}`$
対象パート $`\Phi_\mrm{obj}`$ は $`\cat{A}_\mrm{obj}`$ と反変関手の族 $`G`$ で構成されました。
2階インデックス付き圏 $`\Phi`$ の射パート $`\Phi_\mrm{mor}`$ は、$`\cat{A}_\mrm{mor}`$ と自然変換の族 $`\varphi`$ で構成されます。
第一インデックス $`i, j\in |\cat{I}|`$ に対応するインデックス付き圏は次のように書きます。
$`\quad (\cat{A}_i, G_i), (\cat{A}_j, G_j) \in |\mrm{IndCat}(\trg{C})|`$
すると、第一インデックスのあいだの射 $`f: i\to j \In \cat{I}`$ に対応するインデックス付き圏のあいだの準同型射〈インデックス付き関手〉は次のように書けます。
$`\quad (\cat{A}_f, \varphi_f) : (\cat{A}_j, G_j) \to (\cat{A}_i, G_i) \In \mrm{IndCat}(\trg{C})`$
$`i, j`$ の順序が入れ替わっているのは、$`\Phi`$ が反変関手だからです。インデックス付き圏の準同型射の定義から:
$`\quad \cat{A}_f : \cat{A}_j \to \cat{A}_i \In {\bf Cat} \\
\quad \varphi_f :: G_j \twoto {\cat{A}_f}^\op * G_i : {\cat{A}_j}^\op \to \trg{C} \In {\bf CAT}
`$
これで、$`f:i \to j \In \cat{I}`$ に対してインデックス付き圏の準同型射を割り当てることができました。2階インデックス付き圏 $`\Phi`$ は反変関手なので、$`\Phi_\mrm{mor}`$ が関手性を持つことを示す必要があります。これは(面倒だけど)ルーチンワークなので割愛します。
反ラックス余錐
これで一応、2階インデックス付き圏の定義・記述はできたのですが、もう少しクッキリした描像が欲しい気がします。ペローネ/ソーレンの次の論文に2階インデックス付き圏の別な解釈のヒントがありました。
- [PT21-]
- Title: Kan extensions are partial colimits
- Authors: Paolo Perrone, Walter Tholen
- Submitted: 12 Jan 2021 (v1), 25 Feb 2021 (v2)
- Pages: 78p
- URL: https://arxiv.org/abs/2101.04531
この論文では、Diag構成(「Diag構成: 圏論的構成法の包括的フレームワークとして」参照)をモナドに仕立ているのですが、そのとき反ラックス余錐(ペローネ/ソーレンは "lax cocone" と呼んでますが)を使っています。
反ラックス余錐は、一般的2-圏 $`\cat{K}`$ のなかで定義できます。反ラックス余錐は、1-圏のなかの余錐の2-圏への拡張になっています。余錐は錐の双対概念ですが、錐については、次の過去記事で説明しています。
反ラックス余錐の説明には、「左随伴関係は関数 // 2-圏の概念と記法」の一般的2-圏(双圏)の記法を使います。
まず、次のような三角形を $`\cat{K}`$ のなかで考えます。
$`\quad \xymatrix{
{}
& B \ar[dr]^{g}
& {}
\\
A \ar[ur]^{f} \ar[rr]_{h}
& {}
& C
}\\
\quad \In \cat{K}
`$
この三角形が:
- 厳密可換〈strictly commutative〉だとは、$`f* g = h`$ が成立すること。
- ラックス可換〈lax commutative〉だとは、$`\alpha :: f* g \twoto h`$ となる2-射 $`\alpha`$ が存在すること。
- 反ラックス可換〈oplax commutative〉だとは、$`\beta :: h \twoto f* g`$ となる2-射 $`\beta`$ が存在すること。
この呼び名は、どちらかの方向をラックスと決めたら、もう一方を反ラックス(あるいは余ラックス)と呼ぶだけで、逆の呼び名もありえます。また、ラックスと反ラックスを区別しないこともあります。
反ラックス余錐〈oplax cocone〉は、1-圏内の余錐と類似の概念ですが、余錐の条件が反ラックス可換性になっているものです。余錐の余底面関手を次のようだとします。
$`\quad K : \cat{S} \to \dimU{\cat{K}}{1} \In {\bf CAT}`$
余底面関手は反変でもかまいません。そのときは、$`\cat{S}`$ の代わりに $`\cat{S}^\op`$ とします。
余錐の余頂点を $`Y \in |\cat{K}|`$ として、余底面からの余成分線は次のように書きます。
$`\quad (g_s : K(s) \to Y \In \cat{K})_{s \in |\cat{S}|}`$
問題は反ラックス余錐条件です。余底面のニ点と余頂点が作る三角形に対して、反ラックス可換性を要求します。その三角形は次です。
$`\text{For }u :s \to t \In \cat{S}\\
\:\\
\quad \xymatrix{
{}
& K(t) \ar[dr]^{g_t}
& {}
\\
K(s) \ar[ur]^{K(u)} \ar[rr]_{g_s}
& {}
& X
}\\
\quad \In \cat{K}
`$
反ラックス可換性を与える2-射の族を $`(\beta_u)_{u\in \mrm{Mor}(\cat{S})}`$ とすると、三角形の反ラックス可換性は次のように書けます。
$`\text{For }u :s \to t \In \cat{S}\\
\quad \beta_u :: g_s \twoto K(u) * g_t : K(s) \to X \In \cat{K}`$
結局、反ラックス余錐は、次の構成素からなります。
- 余底面関手 $`K : \cat{S} \to \dimU{\cat{K}}{1} \In {\bf CAT}`$
- 余頂点〈0-射〉 $`Y \in |\cat{K}|`$
- 余成分線〈1-射〉の族 $`(g_s : K(s) \to Y \In \cat{K})_{s \in |\cat{S}|}`$
- 反ラックス可換性〈2-射〉の族
$`(\beta_u :: g_s \twoto K(u) * g_t : K(s) \to X \In \cat{K})_{u:s\to t \In \cat{S}}`$
2階インデックス付き圏は反ラックス余錐
$`\mrm{IndCat}(\trg{C})`$ をターゲット圏とする2階インデックス付き圏は、2-圏 $`{\bf CAT}`$ 内の、$`\trg{C}`$ を頂点とする反ラックス余錐となります。それは、前節で定義した反ラックス余錐の構成素を具体化することで分かります。
- 余底面関手(反変) $`\cat{A} : \cat{I}^\op \to \dimU{\bf Cat}{1} \subseteq \dimU{\bf CAT}{1}\In \mathbb{CAT}`$
- 余頂点〈0-射〉 $`\trg{C} \in |{\bf CAT}|`$
- 余成分線〈1-射〉の族 $`(G_i : {\cat{A}_i}^\op \to \trg{C} \In {\bf CAT})_{i \in |\cat{I}|}`$
- 反ラックス可換性〈2-射〉の族
$`(\varphi_f :: \cat{A}_j \twoto {\cat{A}_f}^\op * G_j : {\cat{A}_j}^\op \to \trg{C} \In {\bf CAT})_{f:i\to j \In \cat{A}}`$
反変関手を考えているので $`{^\op}`$ がちょくちょく入ったり、サイズのランク〈レベル〉が上がっていたりしますが、反ラックス余錐の構造であることは間違いありません。
おわりに
2階インデックス付き圏を、$`{\bf CAT}`$ 内の反ラックス余錐と捉えることにより、2階インデックス付き圏達の圏 $`\mrm{IndCat}(\mrm{IndCat}(\trg{C}))`$ の構造を調べやすくなります。インデックス付き圏のあいだの準同型射〈インデックス付き関手〉がひとつの反ラックス可換三角形であることは、分かりやすい描像になっています。
次に調べたいことは、2階インデックス付き圏達の圏におけるグロタンディーク構成の計算法と振る舞いです。2階の場合を調べれば、より高階の〈n階の〉インデックス付き圏/グロタンディーク構成のヒントも得られるでしょう。
*1:何が標準的かは議論があるところです。正確に言えば、「僕が、おそらく標準的だろうと思っている定義」です。
*2:うるさいことを言えば、反変関手を表現する共変関手です。「反対圏と反変関手はややこしい」参照。
*3:反図式順をライプニッツ順とも言うようです。
*4:$`T`$ を $`T:\cat{I}^\op \to \cat{J}^\op`$ と最初から定義しておくテもあります。
*5:ここでは、シグマ型とは“集合族の直和”という理解で十分です。より詳しくは「ファミリーの圏とシグマ関手・パイ関手」参照。