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参照用 記事

目の付けどころがいいねー、そして、間違ってもいいと思うぞ

土曜日だってのにエントリー起こして。まーだペギオ・ネタを引っ張るんだけど。

今回の蒸し返しのキッカケであった礼儀正しい(礼儀正し過ぎる)青年opechumanさんのダイアリーを眺めてみたら:

檜山さんの最新エントリー(2010/2/4)を読ませてもらい

あ、っと気付いたことがあり、とりあえずはトラバを飛ばさずこっそりここにメモ。

(今回は、読まれる可能性は考えてます(笑))

アハハハ、こういうのは僕の笑いのツボで、しばらくゲラゲラ笑っていた。bonotake, nucさんとのやり取りもすごく面白い。ご本人のつもりはどうであれ、僕を楽しませてくれる人には親しみを抱くのでちょっと反応。

●圏と圏の対象を混同すること

郡司さんが圏と圏の対象を混同しているのは

(それの妥当性は置いといて)意図的です。

圏と圏の対象の混同こそが、圏論’最大の特徴であり

郡司哲学の肝となる部分のはずです。

目の付けどころはすごくいいと思いますよ。一般論としては。

例えば、再帰的領域とか反射的対象という概念があって、とある対象と外の圏がある程度は(場合により極めて正確に)同一視できたりします。計算の話ではしばしば出てくるスノーグローブ現象(バエズの用語; 檜山のお気に入り)です。レイフィケーションとかメタ巡回構造などの言葉も同様な現象・機構を指しています。そういう状況では、圏と圏の対象の意図的な混同もある意味では合理化できます。

一方、対象が圏である圏は全然珍しくないですよね。Catはもちろんそうですが、モノイドの圏とか順序集合の圏だって、圏の圏と考えていいでしょう*1。「圏の圏の圏」とかいくらでも考えることができます。高次圏(higher category, n-category)の事例ですね。弱い高次圏の定義は難しい(定番がない)のですが、強い(strong, strict)高次圏なら比較的簡単に定義できます。∞圏さえも定義できます。高次圏の機構のなかで、圏と圏の対象の意図的な混同を定式化できる可能性もあります(僕にハッキリした目論見があるわけじゃないですけど、おそらく複数の方法があるでしょう)。

これが、「一般論としては」目の付けどころがいいと思う理由。では、郡司さんの圏論という特論の文脈ではどうか? あのね、意図的であってもなんでも、単に間違っているだけだと思いますよ。(bonotakeさんと同じ見解)

それを検証するには、是非に原文を読んでみてください。『量子ファイナンス工学入門』のときもそうだったけど、みんな読まないで批判したり擁護したりするんだよなー。それは止めようよ。「余極限の定義とか性質とか、ペギオ版を修正」「圏論とはいわず、数理論理学の切り口でいってみようか>郡司ペギオ-幸夫さん」で言及しているのは次の論文です。

一般には入手困難でしょうが、大学の図書館などなら閲覧/コピーできるでしょう。書籍扱いらしく、ISBNが付いてます。

  • ISBN4-7917-1044-4

僕が、「圏と圏の対象を混同しているので、激しくワケわからん記述となっている。」と書いたのは、P.135の上段まんなかあたりから始まる説明です。なんで僕が「単に間違っているだけだと思う」かというと、ここらへんは郡司さん独自の論は展開してないんですよ。ご本人も持論を開陳する気はなくて、カン拡張を説明しようとしたのでしょう。マックレーン本とかを参照しながら書いたんじゃないのかな、たぶん。教科書をそっくり引き写せばいいのに、多少はアレンジしようとして、ワケワカンナクなっちゃった、ということかと。

Fが関手のとき、F:A→B と書くのと、F:A|→B と書くのでは意味が違うのだけど、その区別がされてないし、郡司さんは区別する必要を感じなかったのかもしれません。でも、普通に米田の補題とか使っている*2のだから、そういう場面で「圏と圏の対象の意図的な混同」をするとワケワカンナクなりますよ。

独自性を発揮するのはいいことなんだけど、普通の論法を使うべきところでは普通にやらないと、それはオカシイってことになるのよね、やっぱり。

●分からないものは分からない

郡司ペギオ-幸夫さんを読み解こうって人に老婆心で注意すれば; 難解さに負けて「なんだか分からないけどスゴイ」「なんだか分からないからスゴイ」って結論に持っていかないように、ってことだね。仮に郡司理論にまっとうな内容があるとして、「なんだから分からないから」って了解(って言わねーけど)では郡司さんご自身も不幸でしょう。

世の中なんでも理解可能ってわけじゃないから「分からない」ってのが結論ってこともあります。それは「分からない」が当座の結論であって、そこから「けど」も「から」もないんです。単に「分からない」、それでオワリ。(何度もチャレンジするのはいいことだけど、とりあえずはオワリ。)

現時点で僕は、郡司理論(特にその数学風の側面)が分からないのは、デタラメだから分かりようがないと理解しています。しかしこれは、僕が頭悪すぎるとか、ひどい誤解・曲解をしているせいかも知れません。もしそうであることがハッキリすれば、僕は前言を撤回します*3。しかし、現時点ではデタラメだと思うからそう書いているわけね。

opechumanさんに対し、僕は以下のようにコメントしました。

> それなりのレベルのものじゃないと示しがつかない
> トラバするときは、マナーも内容もあるエントリーが基本ですよね。気をつけます。
違う違う、それは甚だしくドウデモイイこと!

そういうハードルを勝手に設けるから、誰も僕の指摘に反応しないようなサビシイ事態になるわけですよ。
間違ったこと言ったら訂正すればいいだけでしょ。所詮インターネット、所詮ブログなんだから。

分かんないことがあっても別にいいでしょ。間違ってもしょうがないじゃない。無知、無理解、間違い、勘違いを修正しながら、正しい(と思われる)方向に進むのだから。分かった気分で済ませたり、「分からないから/けど…」論法を使ったら、そこに留まるか退歩するかでしょ、それは情けない。

*1:集合圏だって、離散圏の圏です。

*2:ホントに使ったかどうかは分からないです。「米田の補題」と書いてあるのは確か。

*3:でも、エントリーを削除したりはしませんよ、大事な記録ですから。