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参照用 記事

多様体上の関数、微分形式、接ベクトル場などの書き方

なにかについて伝える・語るとき、書き方・言い方を決めておかないと、行き違いや混乱が起きて苦労します。なので、記事タイトルにあるモノ達の「書き方」を決めておきます。

扱うモノは、バンドルのセクション空間から派生するモノ達だけです。つまり、バンドルのセクション空間に対する幾つかの略記法を決めます。決めておきたい理由は、様々なバンドルの様々なセクション空間がとても重要で頻出するからです。

内容:

バンドルの局所セクションの集合

(なめらかな)多様体を M, N などで表します。E, F などは多様体上のファイバーバンドルですが、ベクトルバンドルに限定はしません(ベクトルバンドルを扱うことが圧倒的に多いですが)。記号の乱用で次のような書き方をします。

  • E = (E, |E|, π)

ここで、|E| はバンドルEの底空間を表します。|E| = M と分かっているときは、

  • E = (E, M, π)

と書きます。

EはM上のバンドルで、U⊆M は開集合とします。このとき、U上で定義されたEの局所セクションの集合を次のように書きます。

  • ΓM(U, E)

この集合の定義は:

  • s∈ΓM(U, E) :⇔ sは U→E というなめらかな写像、かつ s;π = idU

s;π に出てくるπは、正確にはUの逆像に制限した π|π-1(U) です。

実は、もし略記を使わないなら、書き方の約束はこれで終わりです。これから出てくる書き方は、ΓM(U, E) に対する略記の仕方を約束してます。

Γに関する省略規則

左辺が右辺の略記であることを、\stackrel{abb}{:=} で表すことにします。abb は abbreviation からです。

  1. Γ(U, E) \stackrel{abb}{:=} Γ|E|(U, E)
  2. ΓM(E) \stackrel{abb}{:=} ΓM(M, E)
  3. Γ(E) \stackrel{abb}{:=} Γ|E|(|E|, E)

Γにとって、バンドルEは必須の情報なので、Eを省略することはありません*1

  1. 下付きの底空間が省略されても、バンドルEから底空間は決まる。
  2. 第一引数の開集合Uが省略された場合は、Uは多様体全体(これも開集合)だと約束する。
  3. 底空間も開集合も省略された場合は、上の2つの規則から補える。

注意すべきは、Γの引数が1つのときは、第二引数のバンドルが明示されている、と考えることです。

Ωの定義と省略規則

Ωkを次のように定義します。ここのEはベクトルバンドルです。

  • ΩkM(U, E) := ΓM(U, E\otimes_Mk(T*M)))

ここで、T*M は、Mの余接ベクトルバンドルで、Λk外積に関するk乗操作です。次のことに注意しましょう。

  • Λ1(T*M) \cong T*M
  • Λ0(T*M) \cong RM

ここで、RM は、Rをファイバーとする自明バンドルです。通常、上の同型はイコールとみなしてしまいます。

さて、Ωに関する省略規則です。

  1. ΩM(U, E) \stackrel{abb}{:=} Ω1M(U, E)
  2. Ωk(U, E) \stackrel{abb}{:=} Ωk|E|(U, E)
  3. ΩkM(U) \stackrel{abb}{:=} ΩkM(U, RM)

Γの場合とは違ってベクトルバンドルEを省略可能です。省略したときは、自明バンドル RM だと解釈します。Ωの引数が1つのときは、第一引数の開集合が明示されている、と考えます。Γとは省略規則が違います。

ただし、これとは異なる省略規則(Γと同じ省略規則)を採用して、

  • ΩkM(E) \stackrel{abb}{:=} ΩkM(M, E)

とすることもあります。僕がこの規則を採用しない理由は、一番よく使う自明バンドル RM のときに省略ができないからです。

次のような省略もできます。

  1. Ω(U, E) \stackrel{abb}{:=} Ω1|E|(U, E)
  2. ΩM(U) \stackrel{abb}{:=} Ω1M(U, RM)
  3. Ωk(U) \stackrel{abb}{:=} ΩkM(U, RM) (Mは事前に了解されている)
  4. Ω(U) \stackrel{abb}{:=} Ω1M(U, RM) (Mは事前に了解されている)

特に Ω(M) は、大域的に定義された1次微分形式の空間になります。

  • Ω(M) \stackrel{abb}{:=} Ω1M(M, RM)

究極の略記として、Mが了解されている前提で:

  • Ω \stackrel{abb}{:=} Ω(M)

ΦとΞ

ΓとΩは、広く合意されよく使われている記号です。それに対して、ΦとΞは僕の個人的な使用です。

  • ΦM(U) := ΓM(U, RM)
  • ΞM(U) := ΓM(U, TM)

Φは通常、Cで表します。{\mathcal A}, \mathcal{F} なども使いますが標準的ではないです。Ξは通常、 \mathcal{X} で表します。{\mathcal A}, \mathcal{F}, \mathcal{X} など、スクリプト体(でいいのか?)を使うのは僕は好きじゃないです*2

Φの省略規則は:

  1. Φ(U) \stackrel{abb}{:=} ΦM(U) (Mは事前に了解されている)
  2. Φ \stackrel{abb}{:=} ΦM(M) (Mは事前に了解されている)

究極の略記を使うと、多様体M上の外微分作用素は d:Φ→Ω と略記で書けます。

Ξの省略規則は:

  1. Ξ(U) \stackrel{abb}{:=} ΞM(U) (Mは事前に了解されている)
  2. Ξ \stackrel{abb}{:=} ΞM(M) (Mは事前に了解されている)

ΦM(U) には、関数の可換環の構造を仮定します。ΞM(U) には、接ベクトル場のリー代数の構造を仮定します。

層としてのセクション空間

ΓM(U, E) のUの部分を無名変数'-'(ハイフン)に置き換えると、対応する層を表します。

  • ΓM(-, E) は、Open(M)opSet という関手(層の条件を満たす)
  • Eがベクトルバンドルのときは、ΓM(-, E) は、Open(M)opModM(-)] という関手(層の条件を満たす)

微分作用素を、層のあいだの射とみなすなら、d:Φ(-)→Ω(-) と書けます。ちゃんと書くなら:

  • d:ΦM(-)→ΩM(-)
  • d:ΓM(-, RM)→ΓM(-, T*M)

無名変数としてのハイフンを僕は多用します。次は、ハイフン使い過ぎの例です。

  • <- | ->:Ω(-)×Ξ(-)→Φ(-)

言いたいことは、どんな開集合Uをとっても、Ω(U)とΞ(U)が双対になっていることです。U上で定義されたスカラー積を τU とすると、Uごとに、

  • τU:Ω(U)×Ξ(U)→Φ(U)

τU の2つの変数をハイフンで書いたのが <- | ->U = τU(-, -) でした。省略とハイフン使い過ぎだわ。

*1:特定のバンドルEしか扱わない状況では、Γ \stackrel{abb}{:=} Γ(E) というローカル・ルールを設けてもいいかもしれません。

*2:好きじゃない理由は、悪筆の僕には、ローマン立体とイタリック体やスクリプト体を手書きで区別して書くのが難しいからです。書体の変化ではなくて、字の形が違うほうが書くのが楽です。