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参照用 記事

接バンドルのホロノーム座標

サルダナシヴィリ〈Gennadi Sardanashvily〉という数理物理学者の教科書を眺めたら、いきなりド頭でホロノーム座標〈the holonomic coordinates〉というものが出てきて、よく分かりませんでした。しばらく考えたら“どんなものか”分かったので書いておきます。


サルダナシヴィリの教科書とは次です。

  • Title: Fibre Bundles, Jet Manifolds and Lagrangian Theory. Lectures for Theoreticians
  • Author: G.Sardanashvily
  • Pages: 158p
  • URL: https://arxiv.org/abs/0908.1886

多様体Mの局所座標〈チャート〉を、部分写像/部分関数〈partial {map | function}〉の形で x:M⊇U→Rn と書きます。部分写像の反図式順結合〈合成〉記号を '\circ'、部分写像の部分逆を (-)-1 と書きます(通常の記法そのまま)。部分写像の部分逆に関しては「快適な微分計算のための圏と微分公式 // 部分逆写像」を参照してください。部分写像 f:X⊇A→Y に対して、dom(f) = X, cod(f) = Y, def(f) = A, img(f) = f(A) です。

x:M⊇→Rn が座標〈局所座標 | チャート〉だとして、xに対するホロノーム座標〈holonomic coordinate〉とは、次の図式を可換にする写像 Hx です(具体的な定義は後述)。

\require{AMScd}
\begin{CD}
TM|_{def(x)}  @>H_x>> {\bf R}^n\times {\bf R}^n \\
@V{\pi}VV             @VV{\pi_1}V \\
def(x)       @>{x}>>  {\bf R}^n \\
\end{CD}

ここで:

  1. TM は、Mの接バンドルの全空間。
  2. TM|def(x) は、底空間Mの開集合 def(x) へのTMの制限、TM|def(x) = π-1(def(x)) 。
  3. π は、バンドルの射影。
  4. π1 は、直積の第一射影。

Hx を第一成分と第二成分に分けた形にします。

  •  \tilde{x} := \pi_1 \circ H_x
  •  \dot{x} := \pi_2 \circ H_x
  •  H_x = \langle \tilde{x}, \dot{x} \rangle

要素 v∈TM|def(x) を取って、可換図式を追いかけると:


\begin{CD}
v         @>H_x>>  H_x(v) = (\tilde{x}(v), \dot{x}(v)) \\
@V{\pi}VV             @VV{\pi_1}V \\
\pi(v)    @>{x}>>  x(\pi(v)) = \tilde{x}(v)
\end{CD}

π(v) = p とすると:

  •  H_x(v) = (x(p), \dot{x}(v))

Hx も x の部分写像として部分可逆なので部分逆写像をとってみると:


\begin{CD}
img(x) \times {\bf R}^n  @>{(H_x)^{-1}}>> TM|_{def(x)} \\
@V{\pi_1}VV                               @VV{\pi}V \\
img(x)                   @>{x^{-1}}> >    def(x) \\
\end{CD}

要素 ((ξ1, ..., ξn), (η1, ..., ηn))∈img(x)×Rn を取って、可換図式を追いかけると:


\begin{CD}
( (\xi^1, \cdots, \xi^n), (\eta^1, \cdots, \eta^n) )  @>{(H_x)^{-1}}>> (H_x)^{-1}( (\xi^1, \cdots, \xi^n), (\eta^1, \cdots, \eta^n) ) \\
@V{\pi_1}VV                               @VV{\pi}V \\
(\xi^1, \cdots, \xi^n)    @>{x^{-1}}> >   x^{-1}(\xi^1, \cdots, \xi^n) \\
\end{CD}

(HX)-1((ξ1, ..., ξn), (η1, ..., ηn)) の具体的な形は次のようになります。


\:\:\:\:   (H_x)^{-1}( (\xi^1, \cdots, \xi^n), (\eta^1, \cdots, \eta^n) ) \\
 = \sum_{i=1}^n \eta^i(\frac{\partial}{\partial x^i}|_{x^{-1}(\xi^1, \cdots, \xi^n)})

ここで:

  1. \frac{\partial}{\partial x^i} は、座標xから導かれる、def(x) 上の局所フレーム場。
  2. (\frac{\partial}{\partial x^i}|_{x^{-1}(\xi^1, \cdots, \xi^n)}) は、局所フレーム場の一点での値。
  3. 一点でのフレームに対して、線形結合を作る。

 H_x = \langle \tilde{x}, \dot{x} \rangle は、 (H_x)^{-1} の逆写像なので、

v = \sum_{i=1}^n \eta^i(\frac{\partial}{\partial x^i}|_{x^{-1}(\xi^1, \cdots, \xi^n)})
であるとき、

  •  \tilde{x}(v) = (\tilde{x}^1(v), \cdots, \tilde{x}^n(v)) = (\xi^1, \cdots, \xi^n)
  •  \dot{x}(v) = (\dot{x}^1(v), \cdots, \dot{x}^n(v)) = (\eta^1, \cdots, \eta^n)

となります。

π(v) = p とすると、 \tilde{x}(v) = x(p) なので、

H_x(v) = ( (x^1(p), \cdots, x^n(p)), (\dot{x}^1(v), \cdots, \dot{x}^n(v)) )

入れ子のタプルをフラットにしたものも、同じHxで表すと:

H_x(v) = ( x^1(p), \cdots, x^n(p), \dot{x}^1(v), \cdots, \dot{x}^n(v) )

Hx:TM|def(x)R2n となりますが、TM|def(x) は TM の開集合なので、Hx はTMの座標〈チャート〉になります。ホロノーム座標 Hx は、実際に接バンドルの全空間の座標なのです。底空間の座標があれば、対応するホロノーム座標が確実に一意的に作れます。

余接バンドルの場合も同様にして、座標xに対応するホロノーム座標 Kx:T*M|def(x)R2n を構成できます。

[追記]
ホロノーム座標を含むより一般的な概念であるバンドル座標について「ホロノーム座標 補遺:バンドル座標」に書きました。
[/追記]